作品
愛のままに、我侭に
「…………っ……まで、そう……してる……っ?」
「さぁ?」
「く……うっ……!」
零れる玄冬の声が切なげで。
その響きに心地よさを覚える。
意地が悪いと自覚しながら。
ただ、口付けだけをひたすらに、身体の隅々まで落としつづける。
指は一切使わずに。
舌さえ這わさずに。
唇だけで触れていく。
焦らす刺激に堪え難いからだろう。
玄冬の腕が反射的に私を抑えようと動いたけど、快感のためか碌に力の入ってなかった腕を押さえつけるのは容易かった。
だから、まだ続ける。
その身体が強い刺激を求めて震えているのも気付かぬふりで。
「……っ……あ!」
雫を零し始めた玄冬自身の先端に、唇を掠めさせる。
でも、望んでいるだろう刺激は与えない。
すぐに唇を他の場所へと移動させると、玄冬の腰が小刻みに震えて蠢く。そろそろ辛いだろうね?
「……く……ろ……っ……!」
「どうしたね? 物足りないかい?」
「く……」
わざとからかうような口調でそう返すと、玄冬が悔しそうに口を噤む。
悪いけど。まだ止めてあげる気にはならないんだよ。もっともっと。
物足りなさに悶えているといい。
そう、これは罰なのだから。
きっと君はその自覚もないのだろうけども。ねぇ? 玄冬。
「ふ……っ……く……」
声を抑えようとしているのは、きっとせめてもの意地のつもりだろう。
さて、どこまで持つのかね?
崩れて求める瞬間の想像をしながら、さらに口付けを落としていく。
耳にも、首筋にも、鎖骨にも、胸元にも、腹にも、腰骨にも、内股にも、膝にも。
知ってる弱いところに全て。
ただし、一番望んでいるだろう場所には掠めるだけにして。
「ひ……あ……っ!」
玄冬の中へと続く入り口に唇を添わせると、ついに耐えきれなくなったのか抑えていたはずの声が甲高く上がる。
……もう、そろそろ限界かな。
「く……あっ…………! たの……む……から……っ……そうじゃ、なく……て」
案の定。口の端に載せたのは限界を訴える言葉。
「ん? どうしたいんだい?」
ちゃんと言ってくれないとね。
どうして欲しい? 玄冬。
「足りな……から……っ……もっと……っ……強く……!」
「……やっと言ったね」
「ひっ……!」
それまでわざと避けていたそれを咥えこんだ。
弱い裏筋を舌で撫でてやると口の中で玄冬がびくびくと震え出す。
ああ、そんなに待っていたのか。
求めていたのか。この刺激を。
くびれた部分に軽く歯を当てると短い悲鳴が聞こえて。
続いて口の中に満ちる苦味のある粘液。
絡んでくるそれを何とか余さずに飲み干すと、玄冬をうつぶせにして、後ろの方に指を忍ばせる。
「あ…………く……!?」
慌てた視線がこちらを見返す。
私はまだ達してないのだから。
「……まだ……イケるね?」
これで済むなんて、思ってやしないだろう?
「……っ……少し……っ休ませ……!」
「できない」
「ふ……っ……」
一度達したせいもあるだろうが、玄冬の中は予想よりは私を受け入れる体勢ができていて。
だから、軽くほぐすと指を抜いて、一気に私自身を突き入れた。
深い深いところまで。
「……っ…………! く……ろ……っ」
私を呼ぶ声には返事はせずに。
ただ背中を抱いて、肩口に口付ける。
僅かな間だけつく所有の証。
まるでそれに執着するかのように、何度も何度も繰り返して。
「……お前……どうした……」
いぶかしむ声に気取られたかなと思いつつ、何も気付かぬかのように言葉を返す。
「……何のことだい?」
「少し……おかし……っ!」
「気のせいだろう」
「……ちが……う……絶対……ちが……!!」
余計なことは言わせないように。
とうの昔に知り尽くした玄冬の弱いところを突き上げる。
「黒……鷹……っ……黒……た……! ああっ……く……!」
そう。ただ私だけを求めていなさい。他の何者でもなく。私だけを。
君の望むものをあげるから。熱を開放する、その悦楽の瞬間を。
「……! っ……」
玄冬の中が大きく震えて、私を締めつける。それにはさすがに堪えることができず、強く腰を引き寄せて、私も玄冬の奥深くで白濁を迸らせた。
支えた身体ががくりと崩れる。
「……玄冬……?」
呼びかけた名前に返事は返ってこない。
玄冬は意識を飛ばしてしまっていた。
「……やりすぎてしまったか」
自分も力が抜けているのを理解しつつ、それでもなんとか玄冬の身体を支えて、名残を惜しみつつ、玄冬の中から抜けて、そっと仰向けに横たえてやる。
汗で額にはりついた髪を解いてやって、静かに撫でた。
……すまないね。
八つ当たりなのはわかっていたのだけど。
「我ながら……大人気なかったとは思うんだけどね」
聞こえていないからこそ、そっと呟く。胸の内の告白を。
「本当はね、君を誰にも触れさせたくないのだと言ったら、君はどうするね?」
桜色の髪と眼をした救世主の少年。花白。
この世でただ一人、玄冬を殺せる子ども。
どういうつもりで近づいているのかと、いつ殺すつもりだろうと最初は思っていた。
だけど、殺意は見られない。
それどころか好意を真っ直ぐにぶつけてくる。
そこに安心しつつも、心が揺れた。
この子を奪われてしまうような気がして。
「内緒話をされたくらいで、こうも腹立たしいとはね。
……自分でも意外だよ」
昼間、あの子が玄冬に耳打ちして、何やら言葉を呟いたのを思い出す。
内容は聞いても教えてくれなかったことが、堪えていたらしい。
「やはり、あの子どもと私は気が合いそうにないね」
閉ざされた玄冬の瞼に口付けを落とす。
あの子どもが玄冬に他意なく触れることさえ本当は嫌なのだ。
この子にこうして触れるのは私だけでよいと。
「子離れできないというのかね、これも」
髪にも、鼻にも、頬にも、唇にも、とにかく顔じゅうに。
愛情を込めて。所有の意味も含めて。
「私は君の鳥だから。……ね」
させておくれ。口付けを。何度でも、君の全てに。
2004/07/13 up
裏仕様の黒玄祭出展作。黒鷹視点。
同時提出の「二人でお茶を」と文章の長さが倍以上違いますが、 かかった時間は大差ありません。(実話)
萌えフレーズ100題、No85KISSの別ヴァージョンになります。
- 2008/01/01 (火) 00:21
- 黒玄