作品
こだわり under.ver
「……暑い」
部屋の窓を開けてはいるが、強い日差しは容赦なく家の中まで降り注いでくる。
加えて今日は風もあまり吹いていない。
この地にしては珍しいほどの暑さだった。
口に出したところで涼しくなるわけもないのだが、黙っていても余計に暑さを感じる一方で。
だから、ついそう呟いてしまったのだけれども。
「……そりゃ暑いだろうな。そんなものを被っていれば」
「…………う」
応じた玄冬は余りにそっけなく。
一瞬、返す言葉に詰まってしまった。
そりゃあね、私自身とてわかっている。
日除けに使うことを考えれば、今被っている帽子が不適切だということぐらいは。
薄手の生地ならまだしも、オールシーズン対応の素材にしてあるこれは真夏には不向き。
寧ろ、日の暖かさを吸い取って逆効果でさえある。
それでも、このタイプの帽子しか持っていないのだし、かと言って帽子を被らずに居るのは正直なところ癪だったりする。
去年まではそんなことを思いもしなかったのだが。
「それを被るのを止めるだけで、少なくとも今よりは涼しくなるんじゃないのか?」
案の定。
私の気も知らないで、玄冬は当然のようにそんな提案を口にする。
「……それは断る」
君の言う事は尤もなんだけどね。
私としても譲れないものはあるんだよ。
「何でだ? そう被っていることに拘るのは」
私の口から言わせるつもりかい。
いや、深い意味も何も考えていないんだろうけどね、君は。
そうあっさり何でもないことのように切り返されると、拘ってしまう自分の方が馬鹿みたいだよ。
どうしようかと考えた挙句、結局理由を言う事にした。
「……君が悪い」
「……あ?」
本当は悪いところなんて何もないんだけど。
八つ当たりなのは十分すぎるほど解っている。
「君が! 何時の間にか大きくなって、私の身長を追い越したりなんかするからだ!」
全く。
誰が成長期も過ぎた息子に背を追い越されようと考えるものか。
二十歳過ぎてから身長が伸びてしまうなんて、フェイントもいいところだ。
少なくとも、今のように帽子を被っている分には私の方が少し背が高いように見える。
「……子どもか、お前は……」
玄冬の声は呆れた様子を隠してない。
「だって、親としては悔しいじゃないか」
何時までも、頭を撫でてやって可愛がれると思っていたのに。
その頭は今では自分よりも高い場所にあるだなんて。
「……『親』としてじゃないだろう。本当は」
ぼそりと零した言葉に、一瞬あっけに取られた。
……ああ、そうか、そうだね。
成長して嬉しいという感情ではなく、追い越されて悔しいという感情。
確かに親としてのものではないのだろうね。
「ああ、そうだね。親としてではないのかも知れないね」
「……ったく。熱射病になっても知らないぞ」
玄冬がそう苦笑を浮かべて言った。
呆れているというよりは、仕方ないヤツだと諦めの入ったような感じで。
「なったら介抱してくれるだろう? 君は」
優しい子だからね。
きっと文句をぶつぶつ言いながらも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる様子が目に浮かぶ。
「……知るか」
口ではそう言いつつ、目許はほんのりと赤く染まっている。
参ったね。そんな反応をするところさえ可愛くてたまらない。
まるで、抱き合う前にキスを交わした時のような顔だ。
まずいな、こんな時間から触れたくなってしまうじゃないか。
「そんな顔するものじゃないよ」
そんな言葉を投げかけながらも、もうそこまで来ている衝動を自覚していた。
「どんな顔だ」
「可愛くて、襲ってしまいたくなるから」
「……っ!l 黒……」
ねぇ、こんな風に。
すばやく身体を引き寄せて口付ける。
一瞬だけ玄冬の身体に力が入ったけど、瞬時にそれは抜けた。
ああ、抵抗の様子も見られないってことはまんざらでもないということか。
「……こんな時間からどういうつもりだ」
唇を離した途端に玄冬がそう言ってきた。
が、耳まで赤くなっている顔で言われたところでね、かえって気分を煽るだけなんだよ。
「愛を確かめ合うのに時間なんて関係あるかね?」
「っ……待て……っ、ここでする気かお前は!」
玄冬のシャツの下に手を忍ばせて、そっと胸肌に指を滑らせると少し焦ったような声が返る。
「いけないかい? 日陰だと床は冷えていて気持ち良いと思うけどね」
まして、この子が掃除をきちんとやってくれているから汚れてるわけでもない。
床の温度で涼みながら抱き合う。最高じゃないか。
「……花白が来たらどうするつもりだ」
「そうしたら、見せ付けてやればいいだけのことだ」
いっそのこと。
そうなったのなら、あのちびっこはもう来なくなるかも知れないね。
それを思うと見られることに抵抗があろうはずもない。
「お前、本気で言っているだろう」
「私は何時だって本気だとも」
「わ…………っ」
玄冬の身体を横抱きにして、日陰のところまで移動し、床に寝かせた。
やはり、蔭った部分の床はひんやりとしていて、心持ち涼しげだ。
「……せめて、窓は閉めろ」
諦めた口調で玄冬がそう呟く。
「窓を閉めたら暑いじゃないか」
「今日は対して風が吹いてない。閉めた所で大差はないだろう。
どうせこれから余計に暑くなるようなことをするんだか……」
そんなことを言い掛けた口が噤まれた。
何を口走ったかを自覚したからだろう。
視線を逸らして所在なさげな表情になる。
「可愛いことを言ってくれる」
「くっ…………」
「いいとも。その可愛さに免じて閉めてあげるよ。
だが、そう言ったからには声を抑えるようなことはしないだろうね?」
「………………う」
一層赤くなった頬に一度キスをすると、窓を閉める為に立ち上がった。
玄冬の希望通りに窓を閉めてから、あの子のところに戻るとなんとも複雑そうな表情で迎えられる。
ああ、なるほどね。早くもズボンの前が窮屈そうにせり上がっている。
「もう、反応してくれているわけだ」
「……っ、お前が色々余計なことを言うからだ!」
玄冬の上に覆い被さって、服の上から中心に触れる。
固くなりかけているそれを軽く擦ると、玄冬の呼吸が乱れた。
まぁ、反応は人のことなんて言えはしない。が。
「色々言っていたのは、寧ろ私よりも君だったと思うけどね」
「え…………あ!」
それは悟られないように、余裕のあるふりで一気に下着ごと玄冬の下衣を引き摺りおろす。
露出されたモノの先端に口付けると身体がびくりと跳ねた。
「……やっ……いきなり口でするのは、よせっ……!」
「嫌なんかじゃ無いくせに。君が可愛い反応をするのが悪い」
「黒た……!」
くびれた部分を唇で緩く締め付けると、私を呼ぼうとした声が詰まる。
そのまま、舌で先端の部分を絡めて吸うと抑えようとして抑え切れなかったであろう、微かな呻きが零れた。
口の中に塩気を含んだ露の味が広がり始める。
「ん…………!」
「……声。抑えてないで聞かせなさい。言っただろう?」
声を上げまいと堪えている様子も、それはそれでそそられるものはあるけれど。
やはり、求めてくれる声に敵う喜びはない。
「……じゃ、お前も……服を脱げ」
「……ん?」
「一人で下だけ脱いでいる状態は……恥ずかしいんだぞ」
「脱いだら、声を上げてくれるかい?」
「……それ、は…………」
見上げた顔は困って視線を泳がせている。
あまり苛めてしまっても可哀相か。
それに肌が直接触れ合った方がずっと気持ちが良いのは確かだ。
それ以上の追求はしないでおくことにした。
「いいよ。君の上も脱がせてあげよう」
「こっちは自分で脱ぐ、だから」
「ダメだよ。……私の楽しみを奪わないでくれ給え」
一言そう言っておいて、自分の服を脱いでいく。
被ったままだった帽子も。
床の上に、纏っていたもの全てを放ると、上半身を起こしていた玄冬の上着に手をかけ、釦を外していった。
少しずつ露になる肌に口付けながら。
声こそ出さないけど、呼吸は確実に荒くなっているのが伝わってくる。
「なぁ……」
お互いに全てを脱ぎ去ったところで、玄冬が問いかける。
「うん?」
「色々言っていた割にはこういう時はあっさり帽子を脱ぐんだな」
「そりゃ、座っていたり、横になっていたりなんていう状態ならわからないからさ。
多少背が君より低いことはね」
「……どうせ、他に誰も……いないし、お互いに本当は
どうかなんて……知って……っ……るの、に」
呟きの後半は擦れる。
私が玄冬の胸の突起を唇で啄ばんだから。
「心境の問題だよ、玄冬」
「っ……子ども、みたいなこと……っ」
「子どもはこんなことはしないね」
「んんっ……!」
唇を重ね、舌を絡め。
口内を隅々まで味わうように深い口付けを交わしつつ、
下の方に手を伸ばして玄冬自身に触れた。
掌は幹に添わせたままに、指先はそっと柔らかい双玉を収めた部分に伸ばす。
熱を持った幹と違って、ひやりとした感触のそれを軽く捏ねると、
合わせた唇から少し苦しそうな喘ぎが漏れる。
呼吸がしずらいかと唇は離して、耳を軽く甘噛みした。
ごく短く上がった悲鳴に、私の方の昂ぶりも追い詰められていくのを思い知らされる。
「……玄冬」
「ん……っ」
「後ろに……触れてあげるから、私の上に乗りなさい」
玄冬が無言で頷くと、床の上に横たわった私の身体の上に
静かに体重を掛け過ぎないように調節しながら乗ってくる。
指を少し自分の唾液で濡らしてから、双丘の先の入り口にあて、優しく周囲をほぐしてから、軽く力を入れた。
沈むようにそこは私の指を飲み込んでいく。
「……く、は…………っ」
指が挿入される感触に玄冬が息を吐く。
随分とそこが熱く感じられるのは気の所為だろうか?
「……玄冬」
「ん?」
「熱は……ないよね?」
「……あ?」
意味を計りかねてだろう、玄冬が訝しげな視線を投げた。
「いつもより、君の中が……熱いから」
「っ…………馬鹿! そんなこ……! ああっ……!」
中で少し出っ張った固めの部分を擦ると、玄冬が艶っぽい嬌声を上げた。
背筋にぞくりとしたものが走っていく。
そんな声を出されたら、私だって我慢出来ない。
「もう……いいね?」
本当はもう少し焦らしたかった。
でもこれ以上は自分の方が耐えられそうに無い。
この子の中に、熱に溶け込んでしまいたくてたまらない。
「……ん」
返事を返した玄冬の身体を支えて、そっと床に倒す。
「少しだけ横向きに……そう、それでいい」
玄冬の片足だけを肩に抱えて、脚を互いに絡めるような体勢にして、玄冬の中に挿し入れた。
「ふ……っ……くあ……! や……黒た…………!」
「…………っ……やっぱり、熱い……っ」
腰を引き寄せて、根元まで玄冬の中に入り込むと
玄冬の身体が痙攣を起こしているかのように小刻みに震える。
深い挿入だし、中で抉る角度がいつも抱く時と少し違うからというのもあるだろうが、予想以上の反応に、私の方もうかつに達してしまわないよう結構な精神力を必要とした。
少し呼吸を落ち着けてから、目をきつく瞑っている玄冬の顔に手を伸ばして、そっと額に掛かる髪をかきあげる。
その動作にうっすらと開く深い海の色の瞳。
熱に浮かされたように潤んだそれは色気を醸し出すにも程がある。
たまらなく好きな……。
「……大丈夫かい?」
「……まえ…………こそ」
「うん……?」
「実は、結構きている……だ……っ! うあ!」
「誰が? 何だって……言うんだね?」
「やっ……! 黒……っ…………! んん!」
言い当てられたのを誤魔化すように、一際大きく反応したその場所に狙いを定めて何度も突く。
突き上げるたびに零れていく嬌声から意識を逸らそうと、溢れそうなほどに雫を溜めた玄冬のモノを軽く握ると内壁が大きく震えた。
逆効果もいいところだ。
抑えきれない。
引き返せないところまで快感が追い詰められていく。
溶け合うための頂きだけを目指して。
纏わりつく熱に意識が絡め取られる。
「……ろ…………た……」
「ん…………っ」
玄冬の声に負けず劣らず、自分の声も擦れていた。
「も……これいじょ…………は……っ」
「ああ、一緒…………に」
限界を訴えた言葉に内心ほっとして、律動を強めた。
「あ……ああっ! ……黒た…………やっ……く!」
「っ……! 玄……冬…………っ」
抱えていた脚を下ろして、正面から強く玄冬を抱きしめて。
お互いの肌の熱さを感じた瞬間に、玄冬の中で情欲を吐き出した。
間髪あけずに、合わせた肌の間にも熱く濡れた感触。
震えも伝わる。
玄冬の中で感じる脈動がまるで熱を吸い取るかのようで。
意識的では勿論無いのだろうけれど、貪欲に求められているような感覚が嬉しかった。
「…………床……」
「……うん?」
「後で掃除……しない、と」
確かに。
軽く回りを見回せば、互いの飛び散った体液で周囲が凄いことになってはいたが。
「些か、情緒に欠ける言葉だね」
この子らしいといえば、らしいけども。
行為を終えた瞬間の第一声がそれというのが、どうにも釈然としない。
何も今言わずともいいだろうに。
「元はと言えば、お前がここでするというから」
「……それを拒まなかったのは誰だい」
私の所為だけ、なんて言わせないよ?
「…………」
「ほら。お互い様じゃないか」
「……そうだな。連帯責任、か。
それなら、お前も勿論掃除はするんだろうな?」
「そうくるのかい。私が掃除が不得手なのは、君よく知ってるじゃないか」
「お前の場合は不得手というより、面倒がってやらないからだ。
不満げに言うな。こういう時くらい動け」
「君一人でやる方がよっぽど効率がいいと思うけどね」
「今日の夕食。まず野菜スープ。それに野菜炒め。野菜ジュースに野菜サラダ。それから……」
「ちょ……待ちなさい!
わかった。わかったから、野菜のフルコースはやめなさい」
「わかればいい」
玄冬が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「……敵わないなぁ」
玄冬には聞こえないように、ごく小声で呟く。
「何か言ったか」
「何でもないよ。
動くのは了承したが、もう少しこうしていていいだろう?
体温をもう少し感じていたいから」
「さっきまで暑いとごねていたくせに」
「気温の暑さと体温の熱さは別物だろう?
君だって、嫌じゃないはずだ」
「……まぁな」
背に優しく回された腕の心地良さに目を閉じた。
惚れた者の負けだと言ったのは誰だったろうな。
……まぁいいさ。
きっと最初の君に心を奪われた時点で私の負けだということにしておいてあげよう。
私の愛しい子。
2005.10.28 up ※元は2004年夏
2004年夏の黒玄オフ会IN関東の時に作った無料配布お土産本から。
リメイク収録。黒鷹視点。
年齢制限無バージョンも有ります。
メールマガジン等で呟いたことがあるような気がしますが、20歳過ぎて
玄冬の身長が黒鷹を追い越したというのはうちの脳内設定です。
- 2008/01/01 (火) 00:06
- 黒玄