作品
抱いて
黒玄前提救鷹になる前編を閲覧後にどうぞ。
あれ以来。
黒鷹は何も言わないけど、時折救世主の相手をしているようだった。
――君にだけは手出しをさせやしないよ。
俺の身体には傷がつかない。
直ぐに治癒するから。
ただ、あいつだけは例外なのだと。
俺の身体に傷を残すことができるのだと。
――だから……いや、それを差し引いても触れさせたくなんて無い。
何かを押し殺したような声音に何も言えなくなったけど……それでも嫌だと思った。
俺以外に黒鷹が触られているのが。
あいつが黒鷹の熱を知っているという事実は酷く胸を焦がした。
黒鷹が来ない夜、もしかしたらあいつと一緒なのかも知れないと思うだけで悔しかった。
黒鷹が俺をあいつに触れさせたくないと思っているのと同じくらいに、俺だって黒鷹をあいつに触れさせたくなんてないのに。
――君は私の……私だけのものだよ。他の誰にも渡さない。
黒鷹は俺にそう言ってくれる。
だけど、じゃあ黒鷹は?
俺だけのものではないと?
そんなのは嫌だ。
熱が欲しかった。
自分の知らない黒鷹の熱をあいつは知っている。
それがどうしようもなく嫌だった。
***
「元気にしてたかい? 玄冬。三日ぶりだね」
「……っ!!」
扉を開けた途端、玄冬が顔を歪ませて、私の腕の中に飛び込んできた。
ああ、やっぱり寂しい思いをさせてしまっていたかな。
一日くらいならともかく、三日部屋に来なかったなんて、やったこともなかったしね。
……まったく。彼も加減というのを知らないのかね。
――もう……そろそろ辛くなってきたんじゃないのかね……っ
――ふふ、平気。まだ俺若いし。黒鷹サンでしょ? 辛いのは。
――そんな、ことは……!
――身体繋いでるときに、嘘つかないほうがいいよ。バレちゃうから。……中の震え方、違う。
――…………っ!
おかげでさすがに身体が辛くて、伏せるはめになった。
理由が理由なだけに、玄冬には知られたくなくて来れなかったのもあるのだけど。
私の肩に預けた玄冬の頭を撫でていると、不意にびくりと玄冬の身体が緊張を伝えてきた。
「玄冬? どうしたね?」
「……こ……れ」
玄冬が私の耳の直ぐ下の辺りの首筋に触れる。
震えた指に歯噛みする思いだった。
おそらく跡を残したのだろう、彼が。
何時の間にやられたのか。
つい溜息を零してしまうと、その場所に玄冬の爪が立てられた。
「……不愉快、じゃないわけはないね。すまない」
今日は触れさせて貰えないかな、と思った瞬間。
玄冬が顔を上げて、唇を重ねてきた。
「ん……」
この子にしては、珍しく積極的だ。
唇を割って入り込んできた舌が蕩けるような甘さを誘う。
唇同士のキスは特別だ。
――……へぇ、そんなに嫌なんだ。
あれは2回目のセックスの時。
唇を触れあわせようと構えた救世主に、私はどうしても渋い顔を隠せなかったらしい。
――まるで女の子みたいだね。アンタがそんな反応するとは思わなかった。
相当おかしかったのか、笑いはしばらく収まらなかった。
――いいよ、勘弁してあげる。……今はね。
それにほっとしたのを覚えている。
今は、というのが気になるところだったが。
玄冬の唇が離れて、少しずつ消えていく甘い感触が寂しい。
再び私の肩に頭を預けた玄冬をそっと撫でる。
「……黒鷹」
「うん?」
「…………した……い。お前と。
……できれば、いつもとは……その、逆……で」
「逆……? …………あ」
一瞬、逆という意味を図りかねたが、すぐに理解した。
いつものように、私が玄冬を抱くのではなく、玄冬が私を抱きたいのだ、と。
「抱いてくれるのかい?」
「……お前が嫌でなかったら」
「そんなことあるわけないだろうに」
君と触れ合えるのなら。
どんな形でだって構わない。
私の愛しい子。
「……慣れてないから、辛い思いさせるかも知れない」
「大丈夫だよ。他ならぬ君が相手だからね」
傷つけるかも知れないという恐れからだろうか。
少し震えた玄冬の身体を抱きしめて、大丈夫だよ、という意味をこめて額に口付けた。
子どもをあやすように、そっと優しく。
もう何度も繰り返してきたように。
***
「……ん」
躊躇いがちに肌を滑っていく唇。
優しい感触は心地よいけど、どうにもされてる一方というのは落ち着かないものだ。
それでも。
玄冬の触れ方は私の触れ方を辿っているのがわかるのが嬉しい。
私が触れて、感じるやり方をそのまま真似しているというのは、いつもの行為で感じさせられていることの何よりの証拠だから。
「こっちも……触っていいか」
「ん…………っと。それは……使わなくていい」
後ろに触れようとした指を、一旦止めて枕の下に忍ばせた潤滑剤に手を伸ばした玄冬の腕を掴んで止めた。
「でも」
「いいから。唾液で濡らしてくれればいい。
……何だかんだ言いつつ、私も君にあまり使わないからね」
玄冬の負担が大きくなるのはわかっていても、極力使いたくなくて。
つい、いつも舐めてその場所を慣らす。
潤滑剤一つに何を、と自分でも思う。
だけど、玄冬との交わりに別の何かを間にいれたくはないというのが正直なところだ。
逆に救世主相手では、常に潤滑剤は使うのだけど。
もしかしたら、あれで境を作っているつもりかもしれないね、私は。
「わかった。……けど、辛かったら言えよ」
「ああ…………ん……っ」
脚の間に顔が埋められて、その場所にかかる吐息に背筋にぞくりとしたものが走る。
固く反応を示すそれに舌をゆるゆると辿らせてから、玄冬の舌が後ろの方に触れた。
その場所を舌で触れられたのは初めてかもしれない。
唾液を馴染ませるように、ゆっくりと周囲を舐め上げていた舌が中に入り込むのに、つい声を抑えられなくなった。
温かい濡れた感触は予想以上に気持ちよかった。
「っ…………! 玄……冬」
「黒……鷹…………いれ……た……!」
顔を上げてしがみついてくる玄冬の中心に手を伸ばして、優しく擦る。
熱と十分な硬度をもったモノが細かくびくびくと震えるのが可愛くて仕方がない。
「いいよ。おいで」
「……ん」
抱えられた脚から力を抜いて。繋がる場所に宛がわれるモノ。
大丈夫かとでも問いかけるような目にただ微笑って頷いた。
「…………っ…………うあ!」
「ふ……っ…………!?」
ある程度入り込んできたところで玄冬が悲鳴を上げた。
どくんと脈動が大きく感じられたかと思うと、熱の広がる感覚。
……ああ、もたなかったか。
そういえば、そっちは君初めてだったものな。
真っ赤になって荒く息をつく玄冬が、どうしようもなく可愛かった。
「……黒た…………ごめ…………」
「いいよ。仕方ないさ」
髪に手を伸ばして撫でてやると、拗ねた子どものような表情になる。
本当に。
そんなところも可愛くて、どうしようかと思うよ。
君が相手だというだけで、私はこんなにも満たされている。
「少し落ち着いたら、もっと奥に入っておいで。
今ので、滑りやすくなっただろう?」
「ん…………」
玄冬が小さく返事をして、よく深くに入ってくる。
大きく立てた水音がまた快感を引き戻して、気分が高揚する。
根元まで私の中に収めた玄冬は、軽く息をつくと私の頬に手を伸ばしてきて、その手に私も自分の手を重ねる。
「辛い……か?」
「大丈夫だよ。君こそ余裕なさそうだね?」
「……余裕なんて、出来るわけない」
私の肩口に顔を埋めてきたのは顔を見られたくないからだろうか。
時折……私が余裕のないところを君に見せないようにそうするのと同じように。
「どうしたら……いい?
どうしたら、お前を感じさせて……やれる?」
「自分で探りたまえよ。……慌てずともよいから」
「ん……」
玄冬が控えめに抽挿を始める。
動く中で時々弱い部分を擦られて、つい、玄冬の背に回した手に力が入る。
「なん……で」
「……うん?」
「いつも、わかるんだろうって思ってた。俺の……弱い場所。
なんか……わかった気が……する……っ……」
「っつ…………! ん!」
「少し、中の感触が違うんだな。……他と……は……っ」
「……バレて、しまっては……仕方ない……ね……っ……!」
言いながら、その場所を狙って突く様に声がどうしても途切れてしまう。
こんな形でわかってしまうなんてね。
「黒……鷹」
「ん……?」
「悪い……もう……止まらな…………」
「いい……よ……そのまま」
「く……あ…………!」
快感で上げる声は、私が抱くときのそれと変わらない。
求める声も。潤む瞳も。
精神的な高ぶりと、身体が伝えてくる昂ぶり。
私も自分の限界が近いのがわかる。
「玄冬……」
「ん……っ! 黒た……か……黒鷹…………っ!」
「…………っ…………!」
「や……あ…………っ!」
玄冬の叫びが、そのまま腰の疼きになり、深いところで熱を感じた瞬間に
私も解放させた。
染み渡っていく熱がたまらなく気持ちよく愛しかった。
***
「どっちがいいかい? 抱かれるのと抱くのでは」
ベッドに二人で横になりながら、そう訊ねてみる。
どちらでも、私は君と触れていられるのならよいけれども。
「……ん……慣れもある……とは思うけど。いつもの方が……いい」
「そうか」
「でも……時々はまたこういう風にしたい」
「構わないさ、それで」
「お前はどっちが……いい?」
「そうだな……どちらでもいいけど……やっぱり性にあっているのはこっちかね」
「え……うわ……!」
身体を起こして、あっという間に玄冬を組み伏せる。
目を丸くして見上げてくる顔に笑いかけて、額に口付けを落とす。
「ちょ……まさか、お前このままする気じゃ……」
「いけないかい?」
「よく動けるな……!!」
「君が相手なら何度だってしたいさ。
……いつもの方が君だっていいんだろう?」
「……っ!」
耳の縁を軽く甘噛みして、零れた声に微笑ましく思う。
そう、何時だって触れていたいのは君だけなのだから。
それがどんな形であっても、ね。
2005/03/02 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo32。
贖罪と狂気シリーズと称してたものの後編。
黒玄前提救鷹になる前編はこちら。
ホントは当時想定した別パターンルートがあったけど、多分書かないままだと思うので、前後編という形にしちゃいました。
- 2013/09/10 (火) 01:28
- 黒玄前提他カプ