作品
やさしい夜に囁く言葉
「…………っ……く」
ちゅ……ちゅ……と口付けの繰り返される小さな音と身体の中心に与えられる弱い刺激。
先程から黒鷹が他に何をするでもなく、ずっと俺のモノに口付けを繰り返している。
ひたすらにそれだけ。
気持ちよくない、とは言わない。
だけど、あまりにもどかしい。
幹に手こそ添えられてるけど、擦るわけでもなく本当にただ添えているだけで。
先走りの雫が根元に向かって伝っていく感触に、また疼く。
舐め取ることもしない。
「黒……鷹……」
「そろそろ辛いかい?」
察していないわけはないのに、そんなことをいう。
悔しい気分で頷いて肯定すると、黄金の目が愉快そうな色を湛えて、もう一度先端に口付けを落とすと、一気に半ばまで咥えこまれた。
「…………っ……あ!」
口の中の熱はそれだけでも興奮させるのに、舌は器用にあちこちを刺激する。
くびれた部分を舌先で擦られて、自分でそこが張り詰めていくのがわかる。
まずい。もう、これじゃそんなにもたない。
刺激に落差があったせいか上り詰めるのが早い。
「頼む……っ……口離し……!」
「……刺激が欲しいんじゃなかったのかい?」
「もたな……出してしまう……っから……!」
「それでも、私は構わないが?」
「嫌……だ……一緒が……いい……っ」
笑う気配がして、黒鷹が口を離し、ベッドの上に座った。
「……ここまでおいで。自分で挿れなさい」
「……っ」
一瞬だけ躊躇っても、今更拒もうとも思わない。
黒鷹の上に跨って自分で指を舐めようとしたら、黒鷹に手を抑えられた。
「慣らすのはいいよ、私がやる。
君がそこまでやるのを見てるとそれこそ我慢ができなさそうだから」
「…………ん」
黒鷹が指を舐めて、片方の手で腰を支えてくれながら、もう一方の手で繋がる部分を慣らし始めた。
指が中に入り込んで、円を描くようにそこを広げていく。
時折弱い部分を掠める指先がたまらない。
黄金の目を覗き込むと、情欲の炎を秘めた目がふっと和らいだ。
「もう、大丈夫だね? ……おいで」
耳元で低く囁かれた言葉に、黒鷹自身に手を添えて、さっきまで黒鷹の指が入り込んでいた場所にそれを宛がい、息をついて腰を沈めた。
互いの熱が重なり、溶けて繋がっていく。
「……っ……」
「ん……!」
苦しそうにも見えながら、嬉しくてたまらない、と言いたげな黒鷹の表情。
繋がった時のその表情に気付いたのは、やっぱりこういう風に初めて俺が黒鷹の上に乗るような形で抱き合ったときだった。
ふと思い出したそれに、つい笑う。
「……どうしたんだい」
「……いや、その表情が」
好きだと告げると、顔を一層綻ばせて、くしゃりと髪をかきあげられる。
「煽っているのかね?」
「そんなんじゃな……んんっ!」
激しくなった突き上げに思わず黒鷹の肩に強くしがみ付く。
強く抱かれた腕がただ心地良くて。
悦楽で霞む意識の中で、黒鷹を呼んで……弾けた。
***
「……日付が変わってしまったな」
「うん? 変わったのが……どうかしたのか?」
まだ擦れてしまう声で尋ねて見ると、黒鷹が仕方ないねというように苦笑を浮かべて、唇を軽く重ねてきた。
「きっと忘れてるだろうと思ってたけどね。
日付が変わった途端に言いたかったよ……誕生日おめでとう」
「え? あ……!」
今日は26日。……俺の誕生日。
今度は額にキスを落として、黒鷹が優しく微笑む。
「あんなに小さかったのに、すっかり大きくなってしまって」
「……黒鷹」
「きっと、君のお母さんも喜んでいるだろうさ」
「俺は……」
『玄冬』だ。そんなはずはと言いかけたところを留められる。
「……一人の子どもを生んで育てよう、と思うことがどれほど大変な決意がいるかわかるかい?」
真面目な顔をした黒鷹が俺の頬を両手で掴んで、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「人形を相手にするわけじゃない。
自分と同じく意思のある人間。
一つの生命の責を負う、ということでもあるんだよ。
喜びだけでない。
きっと不安やいらだちだってそこにはある。
……それでも親は生むことを選択する」
「…………」
「君のお母さんは君が生まれてくるのを本当に楽しみにしていた」
「黒……」
「君が『玄冬』だと知ってもなお。
……亡くなるその時まで君を守ろうとしていたよ」
優しく肩を抱かれて、言葉につまる。
そんな話は初めて聞いた。
「だからね。もう少し自分に執着を持ちなさい。
自分が生まれたことで、世界がどう、なんて考えなくたっていいんだよ。
素直に誕生日を受け止めなさい」
「黒鷹」
「少なくとも、君のお母さんや私は君が生まれてきてよかったと思っているんだからね。
おめでとう、玄冬」
「……有り……難う」
――……亡くなるその時まで君を守ろうとしていたよ。
そして、今は。
やっぱり黒鷹に守られている。
きっと一生、こいつには敵わない。
もう一度唇に落とされた口付けと誕生日プレゼントは何がいい?、という囁き。
お前がいい、と返したら、とっくに君のものじゃないかと笑われて。
なら、もう一度と告げたら、嬉しそうに笑ってくれた。
了解、と。
2005/05/17 up
Mさまへの押し付け誕生日祝い品。
誕生日祝いにエロなんだ、というつっこみはこのサイトではしてはいけないw
- 2013/09/10 (火) 01:27
- 黒玄