作品
雪の降る下で
「……雪が降ってきたな」
ある日の深夜、黒鷹と二人で家から少し離れたところに湧き出ている温泉に浸かりに来て、ほどよい熱さの湯を楽しんでいたら雪が降り始めた。
吹雪くほどではない、が降ってるか降っていないかという程度でもない。
眺めるにはこのくらいがほどいい辺りと言ったところか。
肌についた雪は一瞬で溶けるし、湯で温まっている身体だ。
この程度なら冷えることもない。
俺の言葉に黒鷹も空を見上げて手を上に向かって伸ばす。
「ほう、中々風流だね。でも風邪をひかないように気をつけるんだよ」
「それはお前だろう。……俺は風邪をひかないんだから」
体質的なもので、俺は風邪をひいたことがない。
黒鷹にしても普通の人間よりは頑丈に出来ているから、ということで、やはり滅多に風邪をひかない。
それでも絶対にないとは言い切れないが。
「ふむ、まぁそれは確かにね。
……ああ、そうか。それならもっと温まるようなことをすればいい話だね」
「ちょっと待て。お前何を考えている?」
目の前に回られて、肩を掴まれて。
想像はついてしまうものの、抑制しろと投げかけた視線はあっさりかわされる。
「恐らく君の予想通りだよ。
短いつきあいでもないんだから、わかるだろう?」
「ん……っ!」
深く口付けられて、絡めとられた舌。
湯の中で黒鷹の手が俺の肌を這うごとに、ただでさえ湯で火照っていた身体は別の熱を持ち始める。
白濁している湯の中では、手の動きが見えない。
それを狙っていたのか、黒鷹の手は予想のしないような順で、俺に触れていく。
湯に包まれているというのが普段と違う感覚の所為もあって、張り詰めるのは自分で思っていたよりも早い。
悔しいことに。
「……惜しいな」
「あ?」
唇を離した黒鷹が苦笑しながら呟く。
「これで酒も持ってきていたなら、雪見酒と洒落込んだ後に行為を楽しめたのに」
「それこそのぼせるぞ。
大体、お前酒が入ると長くなるから、俺のほうは結構しんどいんだが」
何度か経験がある。
俺は酒に酔うということがないからか飲んでいたからといって、何が変わるというわけでもないのだが、黒鷹は酒が入ると少し達きにくくなるらしい。
おかげで抱き方がいつもよりくどくなりがちだ。
嫌だというわけでもないが、疲労感が増すのは事実だ。
「……そういう場合は社交辞令でも長く楽しめると言ってくれ給えよ。
情緒というものもないじゃないか」
「そんなもの求めるな。
それに今更俺たちの間に社交辞令の意味があるのか?」
「それはそうなんだけどねぇ……。まぁ、誤魔化されるよりはいいか」
「……っ……」
軽く中心を握られて声が詰まると、黒鷹が愉快そうな表情をする。
「……続けても、いいね?」
「続けるつもりしか無いくせによく言う」
「君こそ異論は無いくせに」
抱きしめられて身体が密着する。
内股に当たる硬い感触。
頬を掌で包まれ、目の前の顔が穏やかに微笑んだ。
「……本当に嫌がるときに抱こうとしたことはないつもりだよ?」
「…………知っている」
もう一度重ねた唇はさっきより熱く……甘く感じた。
***
「…………っ」
足が地に着かないというのは、元来なら酷く不安定で落ち着かないのだけれども、湯の浮力と、黒鷹がしっかりと支えてくれてるのとで、自分で思っていたよりも、悦楽に身を委ねてしまえているのがわかる。
黒鷹に縋り付いている自分の腕が震えているように思うのは、おそらく気のせいではない。
繋がった部分の熱がそのまま湯を通して、浸かっている部分全てに回っている気さえする。
肩は露出しているのに、寒さは感じない。
寧ろ暑い。
冷たさの方が欲しい。
そう思っていると、不意に黒鷹の髪に自分の腕が触れる。
ああ、これは少しひんやりとしていて気持ちいい。
思わず頬も黒鷹の頭に擦り付けるようにしてしまうと、黒鷹が小さく笑った。
「何……だ」
「いや。可愛いなぁと。甘えられてるようで悪くない」
「だって、こうすると冷た……っ……ん!」
先ほどまでよりも強く突き上げられて、反射的に足を黒鷹の身体に絡める。
まずい、相当追い上げられてきてる。
「ちょ…………黒鷹……体勢、変え……ろっ……!
湯が……汚れ……っ」
「見えやしない」
「そういう……問題じゃ…………あっ!」
黒鷹の指が髪を掻き分けて頭皮をなぞる。
指の熱さにどくりと胸が高鳴った。
そんな些細な刺激さえ、昂ぶらせた熱を開放させるきっかけになり。
「……もう堪えていられる余裕はないだろう? ……達きなさい、玄冬」
「…………っあ……く……ろた……っ!」
「…………っ」
湯に包まれたままで開放させるのは、かなり気持ちよくて。
しばらく抱きしめられたままでぼうっとしていた。
ようやく、露出された肩に触れた雪の冷たさに意識がはっきりしてくる。
そういえば、降っていたんだったと今更ながらに気がついた。
黒鷹の肩も触れてみると冷たくなっている。
視線を合わせると黒鷹も俺の肩に触れた。
少し前までは冷たいのが心地良かったのに、逆になりつつあるなと、
伝わる体温にそんなことを思う。
「そろそろ少し冷えてきそうだね。最中はさほど気にならないが」
「……それどころじゃないからな。戻るか、家に」
「ああ、そうしよう。……ふふふ」
「……? 何がおかしい?」
「いや、『それどころじゃない』くらいに感じてくれてるんだなぁと思うと嬉しくて」
「……言ってろ」
「ほう? じゃあ、家に着くまでずっと言い続けようか。
それどころじゃないくらいに感じてくれてる君がとても可愛くてどうしようかと思……」
「やっぱりやめろ」
揚げ足を取られる発言をする俺が悪いのか、揚げ足を取る黒鷹に問題があるのか。
口では中々敵わないとも思うが、そのうち見返してやりたいとも思った。
2006/02/02 up
黒玄メールマガジン(PC版)第20回配信分より。
温泉でのアオカンネタ(直球)
- 2013/09/10 (火) 01:13
- 黒玄