作品
強姦
「……う……く……っ」
「ふうん……強情だね。ここまでされて涙一つ零さないなんて」
「……っ!」
気に入らないと言わんばかりに、一層腰の動きを強められて、また、貫かれてる場所に痛みが走る。
もうどれくらい経っただろうか。
唐突に桜色の髪と眼をしたこの男に、無理やり身体を繋げられてから。
目が覚めたときには手首と足首に鎖がつけられていて、自分じゃろくに動けもしなかったところにこいつが来た。
「恨むんなら、黒鷹サンを恨むんだね。
……あの人がそうしていいって言ったんだから」
それだけ告げると、服を破かれ、肌を嬲られ、碌に慣らしもしないうちに貫かれた。
最初は抵抗もしたが、言葉の意味を考えるにつれて、どうでもよくなっていき、今はただ人形のようになすがままにされている。
それがまた気に入らないんだろうな、と意識の片隅で、まるで他人事のように思いながら。
身体に走る痛みと苦しさ、既に数度吐き出された精液の匂い。
強引に貫かれたことで、裂けてできた傷から流れる微かな血の匂いが妙に生々しい。
「喚いてみなよ」
「……っ」
反応していない俺のモノをきつく掴まれて、痛みに叫びそうになるのを必死で抑えた。
「罵ってみればいいじゃん。
なんで、自分だけこんな目に遭わされなきゃならないって」
「ぐ……!」
深いところを遠慮なしに揺さぶられて、圧迫感に息が詰まる。
「……なんで、そんな殉教者のような顔してる!?
悪いのは君じゃないのに!!」
「……んな、大層な……もの、じゃな……っ!」
ただ自分が後ろめたいだけだ。
思い出してしまったから。
覚えているから。
俺が生まれる限り、俺を殺し続けてくれ、と。
遠い遠い昔に告げた黒鷹への言葉。
どれほど、残酷な願いをしたか知っている。
酷い約束をさせたこともわかっている。
それでも他に選べなかった。
黒鷹以外に頼める相手もいなかった。
「……酷いね、君」
「……!」
傷ついたような呟きに次いで、中に熱が解き放たれる。
嫌悪感に呻きそうになるのを歯を食いしばって堪えた。
……ああ、本当に酷いと思う。
すぐに死ぬからどうでもいい。
そんなことを思っている一方で、黒鷹以外の熱が身体の中にあるのが気持ち悪いと思っている。
内部から楔が抜かれる感触に小さく安堵の吐息をついた。
「さすがに飽きちゃったな」
さっきまで、繋がっていた時の激しさはどこへ行ったのか、妙に冷静な口調と声でその男がそう言い、傍らに置いていた剣を手にした。
「もう、いいや。悪いね。死んでよ。この世界の為に」
「ああ」
「抵抗、しないんだ?」
「するつもりも……ない」
「…………本当に酷いね、君は」
「俺もそう思う」
「何か、最後に言うコトは? 恨み言でも、罵る言葉でも。
一言一句違わずあいつに伝えてやるよ? そのくらいはね」
「恨み言なんかない……感謝している」
約束を違えないでいてくれることに。
何度生まれてきても愛して育ててくれることに。
親不孝もいいところなのに。
微かに残る記憶を辿って見ても、死ぬ瞬間にあいつが傍にいたことはない。
さすがに辛いからだろう。
死ぬ瞬間を見るのも、最期の瞬間に俺がお前を見るだろうことも。
長いつきあいだ。見当はつく。
すまない。それでも俺は選べない。
「……こんなことされても『感謝している』なんだ?」
「本当に辛い思いをしてるのは、俺じゃないからな。
それをわかっていて約束させた俺が恨み言を言われても、仕方がないくらいだ」
想像もつかないほどの長い時間。
同じようなことの繰り返し。
感謝の言葉なんて、いらない。とお前はいうだろうけど。
「それでも……また頼む、と。それだけだ」
「いいよ。ま、どうせ聞こえてるんだろうけどね」
「ああ。…………有り難う」
返事がないのは知っていても。
二人に向けてそう言って、目を閉じる。
その瞬間に微かに耳に届いた羽ばたきの音にまた心の中で詫びた。
***
「来たんだ。終わったよ、もう」
「知っているさ」
救世主の顔は見ずに、真っ直ぐ玄冬の方に向かった。
汚れた身体を拭いて清めてやってから、マントだけ羽織らせてやって、そっと抱きかかえ額に口付けた。
本当にね、そんな穏やかな顔をして逝かないで欲しいといつも思うのだけど。
欲しいのは感謝の言葉ではないのに。
……辛かっただろうに。
私は優しくしか触れたことがなかったのだから。
「今更キスなんてするんだ?
生きてる間にしてやればよかったのに」
「しているとも。それこそ数え切れないほどにね。
口付けてない箇所などどこにもないよ」
「あ、そ。やっぱり初めてじゃなかったってわけだ。
そんな顔するくらいなら、可愛がって育てなきゃいいのに。
かえって可哀想じゃないの?」
「……それができるのなら、やっているさ」
出来るわけなんてない。
君に会いたいから、また会えると思うから長い時を過ごせるのに。
可愛くて愛しい、私のたった一人の息子。
幾度繰り返しても、君が死ぬ瞬間を直接見届けることも出来ないくせに。
君の声が聞きたいから、笑う顔が見たいから、愛しいから、また約束を守ってしまう。
お互いに残酷なことをしているのかも知れないとは思う。
それでも、私たちにはお互いしかいない。
「どうせ、聞こえてたんでしょ? 最期の言葉」
「ああ」
「……覚えてるのかな。『また』なんて。
言ってなかったんでしょ?」
苦笑するしかなかった。
せめて、時が訪れるまでは何も知らなければいいと思うのに、同じことを繰り返すせいだろうか。
思い出すのは。
最期の瞬間に傍にいてやれない、私の弱さや狡さも知っているのだろうかね、君は。
「じゃあ、俺は役目終わったから行くよ。もう会うこともないよね」
「ああ」
「……そんなに大事?」
「うん?」
「約束」
「そうだね。……玄冬との約束だから」
――お前にしか頼めないんだ。
他ならない君の頼みだから。
願いだから。
そうでなければ、とうの昔に放棄している。
「わからないな。酷い約束だと思うけど」
「君にわかってもらおうとは思わないよ」
「そりゃ、ごもっとも。………………だね」
「何か、言ったかね?」
「いや。いい。じゃあね」
「ああ」
足音が徐々に遠のいて、聞こえなくなって。
二人きりになったところで、髪をそっと撫でて、もう一度口付ける。
今度は唇に。
「また会おう。玄冬。…………ゆっくりとおやすみ。私の子」
***
「ホント……似たもの親子……」
玄冬を犯していたとき、ずっと時々声を漏らすだけで、まともな反応を返さなかった玄冬に一度だけ、激しい怒りを込めた目で睨み付けられた。
「酷い親だね。君がこんな風になってるのに、助けにも来ないで。
守護の鳥が笑わせる。……最低」
そう言った瞬間、虚ろだった目に力が篭った。
「お前に、俺たちの何がわかる」
血が繋がってないくせにそっくり。
人を巻き込んでおいて、お互い以外は拒絶してるとこなんか。
優しいようでいて、他者には冷たい。
本当はお互い以外のことなんて考えてない。
そして、自分よりも相手のことを考えてしまう。
本当に不器用だ。
「……傍にいてやらないの? 最期なのに」
「最期だからさ。
私が傍にいるとあの子はきっと無理やりにでも笑おうとするから。
いっそ、呪ってでもくれたらいいと思うがね。
そんなとこを見たくはないんだよ」
自分が見たくないというよりも、玄冬に最期に余計な気遣いをさせたくないから傍にいることはしないんだと。
……気付いてるのかな、あの人は自分で。
「ま、俺にはどうでもいいけどね」
溶け始めた雪を踏んで、また訪れの兆しを見せ始めた春を思う。
「せめて、束の間。……君が安らかに眠れるように」
いつか遠い未来。
再び会うのだろう、黒い親子たち。
今だけは彼らに安らぎが訪れるように密かに願いながら、帰路についた。
白い鳥が待つあの地へと。
2004/08/21 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo8。
タイトルで想像つくでしょうが、ダーク路線。
この当時、そんなに書いてなかった救世主にちょっと違和感w
- 2013/09/22 (日) 01:48
- 黒玄前提他カプ
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