作品
溶ける
黒鷹と肌を重ねるようになった最初の頃は、ただ無我夢中だったことしか覚えていない。
与えられる快楽に対処ができずに、ただ、黒鷹のなすがままにされて、その背に縋った。
繋がる瞬間の痛みでさえ甘く、そのまま全身で黒鷹に溶けてしまうかと本当にそう思った。
「……こら。何を思い出しているんだね?」
こつんと軽く額を小突かれて、不意に我に返った。
目の前にある顔が少し拗ねたように苦笑している。
「いや、なんでも……くっ……ちょ……黒……!」
「なんでもって顔じゃなかったよ? 今のは。
こんなときに集中しないなんて、一体何を考えていたんだい?」
「……ん……っ!」
いきり立ってるモノをそっと握られて、ゆっくりと濡れた指で擦られる。それだけでもたまらないのに、深く繋がったところをえぐられて、快感に身体が震えたのがわかる。
「ほら。言いなさい。何を考えていたのか」
口調は優しいのに、抽挿は徐々に強く、激しくなっていく。
その様子にまた思う。
最初に抱き合ってから、もう数え切れないほどにこうして触れ合っているのに、いつまでたっても、黒鷹に翻弄されっぱなしだ。
どうして、俺がこんなにも全身の隅々まで鋭敏になるほどに快楽に流されてるのに、黒鷹は余裕があるのだろう。
「たいし……た……っことじゃ……ない……! ……あぁっ!!」
「私以外のことを考えていたら、傷つくだろう?」
「そんなわけ……あるかっ……この……馬鹿……っ!」
この状況で黒鷹以外の何かを考えられるというほうが凄い。
そう思って言葉を返したら、一瞬、黒鷹は大きく目を見開いて……そのまますごく嬉しそうな顔になった。
「そんなことを言ってくれるから……君は……っ……!」
「うわ……ああっ……!!」
足を抱えられて、より繋がりが深くなる。
黒鷹の手は俺のモノから離れてはいたけど、腹で擦られるような格好になって、背筋を射精感が駆けあがる。
「黒……鷹……っ。…………も……っ」
「……っ……構わない……っ。私も…………!」
びくりと中で黒鷹が容量を増したと思った瞬間に、感覚が上り詰めて……達した。
「……っつ……!」
ついで、低くうめく黒鷹の声とざわりと中に染み渡る熱さ。
衝動的に唇をねだったら、黒鷹は体重を預けないようにして、応じてくれた。
繋がった箇所に負けず劣らず、触れた唇が熱いと、意識のどこかでそんなことを思った。
***
「……そうか、そういうことを考えていたのか」
髪を撫でられながら、低く含み笑いをされて、やっぱり言わなければよかったと後悔した。
結局、言わないとそのまま行為を続けられそうな勢いに、身体がもたないと思って白状したら、こうだ。
絶対笑われそうな気がしたから、嫌だったんだが。
だけど、少しの間の後に黒鷹は不意に笑いを収めて、俺の頭を引き寄せて、自分の胸に押しつけた。
まだ高い体温と少し早めの鼓動が伝わってくる。
「黒鷹?」
「私にそんなに余裕があると思うのかい」
「え……」
「痛い思いをさせていないか、不快な思いをさせていないか……そう、最初は思うのに、結局最後にはただ、触れていたい、繋がっていたいとそういうことに夢中になっている。
気遣っている余裕なんて、どこにもないんだよ」
「そう……なのか?」
「私は君が思うほど、できた人間じゃない」
「……別にできた人間って思ってるわけじゃないが」
思わず、そんな本音が口をついて出る。
頭上で黒鷹が笑う気配がした。
「ひどいなぁ、玄冬。
そういうときは言葉の流れというのを読みとりたまえよ」
「お前の言葉をいちいち考えてたらキリがない」
「ああ、そうかも知れないね。
……そうだな、本当に溶けてしまえたらよかったのにね」
「え?」
ふと落ちた真面目な声の響きに顔を上げようとしたら、黒鷹にさらに強く頭を抱かれて顔を見ることはできなかった。
静かに髪に口付けされた感触はわかったが、その後のごく低い呟きは何て言ったのかわからなかった。
「黒鷹、今なんて……」
「…………いいんだよ、聞こえなくて。私の独り言だから」
***
……溶けて一緒になってしまってたら、君の運命も哀しみも分けてあげられただろうか。
私の愛しい子よ。
2004/06/03 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo93。
この溶けるというのをさらに突き詰めて、溶けて別の存在になってしまったら、的な流れになったのがRhapsodic Episodeシリーズです。
どうやら、まともに一人称でエロ書いたのはこれが初だった模様。
- 2013/10/07 (月) 01:58
- 黒玄