作品
眠れぬ夜
「……待ちくたびれたよ」
「先に寝てろと俺は言ったぞ。多分、話が長くなるとも言った」
つい先程まで、泊まりに来ていた花白と、ずっと俺の部屋で話をしていた。
前にあいつが泊まって、同じベッドで寝た時に知ったことだが、花白はあまり寝相が良くない。
正直、蹴られたり、ベッドの隅に追いやられるのもしんどい。
なので、花白が泊まった時は、あいつが寝入った頃を見計らって、黒鷹のベッドに潜り込むことにしている。
今日もそのつもりで黒鷹に話は通しておいたが、花白との話は予想以上に弾んだから結構な時間が経ってしまっていた。
どうにも、普段話す相手がほとんど黒鷹ばかりだというのもあるんだろうが、自分でも驚くほど話に夢中になり、気付いたら空は明るくなりかけていた。
そんな時間だから、当然黒鷹は寝てるものだと思っていたのに、黒鷹の横に滑り込んだ途端に、温かい腕に引き寄せられて。
体温の高さに眠っていなかったのを悟った。
少しは寝ていたのかも知れないが、体温も口調も今起きた、というものではなかったし、黒鷹のことだから多分起きて待っていてくれてたんだろう。
「そんなにちびっことの話は弾んだのかね」
「黒鷹」
「……面白くないな」
ずっと目を閉ざしていたままだった黒鷹の目が開く。
笑っていない黄金の目に嫌な予感がした。
「あの子どもに使った分の時間くらいは、私に付き合って貰えるね?」
「な、ちょ……くろ……っ…………ん……!」
体勢を変えられ、上にのしかかられた。
そして、間髪入れずに重ねられた唇。
割って深く絡めてきた舌は、これから何をするつもりなのかが明らかだ。
外されていく胸元の釦。
全てを外す前にその手を掴んだ。
「本気、なのか? 向こうの部屋では花白が寝ているんだぞ!?」
「本気だよ」
熱を秘めた目が俺を射抜く。
有無を言わせない勢いに、ごくりと喉が鳴る。
……俺はこんな時の黒鷹に勝てた試しがない。
「気になるなら、声を上げないよう堪えるといい。……私は気にならないが」
「っ!」
「もっとも、流石にちびっこも話し疲れて深い眠りに落ちているんじゃないかと思うがね」
相変わらず、口元にだけしか浮かべていない笑みに、降参するより他なかった。
***
「……っ…………あ!」
私の背に回された玄冬の指は、繋がる瞬間に力が篭められた。
背に走った痛みが更に気分を高揚させる。
人を傷つけることを極端に嫌うこの子が、気を回す余裕のないほど感じている証。
私だけが知っている玄冬の癖。
声を抑えようとしてからか、食い込む爪にかかる力はいつもより強い。
全身で縋ってくれるのがたまらない。
私は玄冬の肌に抱いた跡を残せないけど、その分私にはたくさん残してくれている。
「動く、よ」
「ん……!」
身体を寄せて、出来るだけ多くの場所で玄冬と触れ合う。
色々な体位を試して来たけど、この子は肌を密着させる抱き方を特に好む。
浅い部分で激しく動くよりも、深く貫いて奥で小刻みに動くのが好きなことも。
そう、何もかも。
玄冬のことなら知っている。
生まれた時から見て、この手で育てて来た。
あんな子どもになど負けはしない。
「黒……鷹」
唇をねだられ、誘われるままに重ねる。
その瞬間。
息を飲んだ音が確かに耳に届いた。
出処は部屋の扉の外。
……なるほど、起きたのか。
まぁいい、好都合だ。
そこで確かめるといいさ。
「……どう、した……?」
止まった動きにいぶかしんだのか、玄冬がそう尋ねてくる。
が、何だかんだ言っても、身体を重ねてしまえば、たやすく余裕を無くす玄冬は、まだ部屋の外の気配には気付いていないらしい。
一瞬だけ言うか、言わずにおくかを迷ったが、言わないことにした。
「何でもないよ。ただ、今日は君の中がいつもより熱いな、と思ってね。
……興奮してるかい?」
「……カ、言うな……っああ!」
誤魔化しも兼ねて、弱い部分を突き上げると悲鳴が上がる。
「や……めっ……そこ、はっ!」
「いいだろう?」
聞こえているだろう。この甘い声が。
「黒……た……っ。んん……っ!」
「……声。もう少し抑えないと、あの子どもに聞こえるよ?」
起きてしまったらどうするんだい?と耳元に囁いたら、玄冬の指にまた力が入った。
ああ、ホントに可愛いね、君は。
「黒鷹……黒……っ……!」
私だけに向けられた、熱を秘めた掠れた声が心地良い。
「玄冬……っ」
私の……私だけの。
渡してなるものか。
「…………っ! あああっ!!」
お前の入る余地なぞ何処にもないよ、救世主の子ども。
この子は私のものだ。
一層強く身体を抱いて、耳元で名前を囁いて。
繋げた部分を溶かそうとするかのような内部の蠢きに堪えきれずに、ほぼ同時に玄冬と達した。
悦楽に霞んだ眼差しに向けて微笑むと、玄冬も微笑み返す。
この顔も私しか知らない。
知らせるつもりもない。
愛しさを篭めて、口付けを交わす。
いつの間にか、部屋の外の気配は完全に消えていた。
***
「おい、黒鷹」
行為の後、少しだけ二人でウトウトするつもりだったが、結局目を覚ましたのは昼に近いくらいの時間。
玄冬は軽く湯を浴びて、部屋に着替えに戻っていたが、着替えもしないうちに私の部屋に再び戻ってきた。
「うん? どうしたね?」
「どうも、朝のうちに花白が帰ったらしい。
これ以上バカトリの顔見たくないから帰る、とメモがあった」
「ほう」
そうだろうな。
お子様には刺激もキツかっただろうしね。
「……お前、何かやったのか?」
「何でそうなるんだい」
信用がないなと一瞬悲しくなったが、まぁあながち間違いでもないか。
……思い知っただろう、ちびっこ。
この子は私のものだよ。
まだ怪訝そうな顔をしている玄冬に笑いかけると、それ以上は何も言わなかった。
2005/09/18発行
個人誌『Vocalise』より。
いちゃいちゃを花白に見られているの図。
- 2013/11/03 (日) 12:22
- 黒玄