作品
A:Pulse
※時間軸は02と03の間です。
昔からあの子は羞恥心が強くて。滅多に自分から誘いをかけない。
だからこそ、その分嬉しくてたまらない。
あの子が積極的になる時が。
***
「ん…………」
私の指に玄冬がそっと舌を這わせている。
甘い声を漏らしながら。
その声が零れる都度に、ざわりと快感が全身に広がっていくのを感じる。
先ほど、つい蓋を閉め損ねていた蕩果の瓶を指で引っ掛けてしまい、中身が少し手に掛かったのだが、それを見た玄冬が舌で舐め取り始めたのが
そもそもの始まりだった。
最初は他意はなかったのかも知れないが、徐々に舌の動きが愛撫する様相に変わり、舌を這わせながら、私を見上げた玄冬の目は情欲に霞んでいて。
玄冬は自分から口に出して行為をねだる事はほとんどしないのだけど、時折、視線や態度で誘ってくれる。
今、私を見る目は正にそういう時の視線だ。
そんな気分なのか思うと嬉しいし、こちらとしても興奮する。
止めずにいたなら、何時までこの子はこうしていてくれるだろう?
だから、私は何もせずにさっきから玄冬の動くままにさせている。
この子が自分で積極的に動いてくれるのは、そうあることではないから。
幾度も肌を重ねてるのだから、もう少し望んでくれてもと思うのだが性格なんだろう。
こちらから望めば大抵応じてはくれるけど、自分で望み、進んで動くことはあまりない。
思えば蕩果のおかげかも知れないね。こんな君を見られるのは。
「……いやらしいな」
這わされる舌。霞んだ瞳。甘さを含んだ弾む呼吸。掠れる声。
他の誰も知らない、いや、想像だって出来はしないだろう。
私だけが知っている玄冬の姿。
身体の奥に疼いてくる衝動はどちらのものだろうね?
「……自分の顔、鏡で見てから言え」
「鏡?」
「お前だっていやらしい顔してる」
指に沿わせていた唇が離れて、私の唇に重ねられる。
微かに感じた甘さは蕩果だろうか?
確かめるようにゆっくりと唇に舌で触れていく。
溶け合うような感触はさらに欲情を深める。
「こんな時に平然とした顔をできるものがいるなら見てみたいね」
「……それは、そうだな」
離れた唇の熱を惜しむように、指先で玄冬の唇に触れる。
濡れた赤い粘膜が生々しい。
「そろそろ、私も君に触れたいんだけどね」
触れられるのも勿論好きだけれど、触れて反応を返す玄冬が見たいから。
「好きにすればいい」
「じゃあ、お言葉に甘えて早速……」
「……っ! いきなりそこか……っ!」
身体の中心で、露を溜めている先端に舌を伸ばそうとしたら、手で口を塞がれた。
「……なんで止めるのかねぇ……」
不満げな響きの声になってしまったのは、仕方ないだろう。
「他の場所からだっていいだろう……っ」
「……されたくないのかね?」
「…………っ!」
「……まぁ、されたくないと言ったところで、私がしたいからするんだけどね」
「う…………あ……っ! 黒……っ」
されたくないわけはないのなんてわかっているのだから。
玄冬の腕を押さえて、腹に付きそうなほどに反りかえっているそれに口付けた。
塩気を含む雫を唇で吸い取って、舌で根元の方から裏筋をなぞれば
同時に自分の方にもその感触が伝わる。
ざらりとした熱が自分の舌だと思うと複雑な気分だが、
身体の奥に響いていく悦楽は、玄冬の感覚なのだと思うとひどく愛しい。
私がそれを与えてやれているのだと。もっと壊れるほどに感じさせたい。
ただ、今はそれだけを望んで。柔らかい先端を口に含んで、自分の口内の熱と絡める。
「く……あ……っ」
途切れ途切れの嬌声と荒くなった呼吸。もっと深く玄冬を咥えこむと玄冬の腰が細かく震えた。
「く……ろ鷹……っ!」
私を呼ぶ声は切なげだった。……そうか、私の感覚も君に伝わってるんだったね。
あの指先から広がった、ざわめくような快感が。じゃあ、早いということもないかな。
「……挿れてもいいかい?」
「……き……くな! ……わかってる……くせ……に」
「言って欲しいから聞くのだよ。……ねぇ? 玄冬」
「……く……」
ますます赤くなった玄冬の顔が可愛い。
「……言わないなら、このまま口だけで達かせようか? 私はそれでも構わないよ」
半分は本心。半分は嘘。私のほうこそ、君の熱を感じることを切望している。
衝動のままに溶けて繋がって。一緒に達するその瞬間を。
…………余裕を持って、この子が達するところを眺めるのも好きだけれども、
やっぱり一緒に達けるあの瞬間ほど、満たされるものはない。
「……………………て……」
耳元でひそりと呟かれた言葉は、ほとんど聞こえなかったけど。……許してあげるよ。
私にもあまり焦らすほどの余裕は残っていないからね。
「腰を少し上げ給え。……力を抜きなさい」
「ん……………………くぅ……っ!やっ……あ!」
足を抱えて、中へと続く熱い空洞を埋めるように、自分自身を宛がい、貫く。
深いところへと誘うように蠢く内部にたまらず、根元まで一気に突き入れる。
玄冬の弱いところを掠めると、背に玄冬の手が回されて、力がこめられた。
強い衝撃は私にも伝わってきて、動けなくなりそうなほどだ。
繋がった箇所だけでなく、触れている肌全てが熱い。溶けてしまいそうなくらいに。
いや、実際触れている部分は溶けてるかのように見えているのが。
幾度試しても、幻覚だというのが信じられない。……だからこそ、二人で堕ちていく。
「……く……ろた……! ……壊れ……る……っ」
「……いいよ?」
「ひ……あっ……や!」
声を抑える余裕もないほどに君は感じていて。
私は言葉が出せないほどに行為に溺れていく。
腰をゆっくり使って焦らすことも出来やしない。
衝動に従って、激しく突き上げた。知ってる弱い場所を狙って。
肉のぶつかる音と繋がった場所で鳴る淫猥な水音。
背を汗が流れていくのがわかる。
そして、突く度に自分の中で何かが生まれていく。
苦しいような、心地よいような、辛いような、耐えがたいほどの悦び。
お互いだけが知る、それぞれが上り詰めていく感覚。……頂きが見え始める。
「玄冬……っ!」
「んっ……! あ……くぅ……っ!! や……黒た……!」
「ふ……!」
一度大きく腰を突き入れて。……深い場所で情熱を開放させた。
僅かな間の後、少しずつ感覚が戻ってきて、ふと下に視線をやると、
やはり吐き出した玄冬の白濁が胸や腹に散っている。
それを指に絡めて舐め取っていくと、まだ繋がったままの箇所が蠢く。
「……やめ……っ……止まらな……くなるか……っ」
「……止める必要が……あるかね?」
「……離れられなく……なるだろうが……っ」
「それを望んでいると言ったら……?」
誰にも邪魔をされずに、ずっと君と離れずにいたいと願ったら?
「…………っ……!」
「……少なくとも。私はまだしたいのだけどね」
たった一度弾けさせただけでは治まらない。
まだ身体が君を欲している。ねぇ、君は? 玄冬。
「……少しだけ……休ませろ」
「このままでいいのならね」
まだ、離れたくはないから。玄冬の答えはなかったけど、
背を引き寄せられて抱きしめられたことが、何よりの肯定の意思。
……伝わる少し速めの鼓動や呼吸、上がっている体温がたまらなく甘い感情を引き出した。
何より溶けるような感触は本当に甘美で……溶けてしまったらいいのにと思いつつそっと目を閉じた。
まだ弾んでいる呼吸の音を耳で拾いながら。
- 2008/01/02 (水) 00:00
- 番外編
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