作品
05:Instinct
溶けたい。交じり合いたい。
触れて、繋がるだけではもう足りない。
同一であってしまいたい。
愛しい私の子。
君の全てを私のものに、いや、私の全てでありたい。
***
管理者の塔は私の力が特に強く働く場所。
本気で力を出した時には、例え片翼の白梟でもたやすく踏み込めないようになっている。
だから、迷わずそこに飛んだ。
誰にも邪魔をされない場所で抱き合いたかったから。
余すところ無く触れ合いたかったから。
溶けてしまいたかったから。
塔の私の部屋に辿り着くや、否や。
腕の中の玄冬に口付ける。
深く舌を絡めて、歯を合わせ、唇と舌が溶けるような感触の中で互いの熱を味わう。
「ふぁ……っ……は…………!」
背筋に流れる愉悦の快感。
服を着てるのがもどかしく、身に纏っているものを次々と取り去るが、シャツまで来た段階でついに釦を引き千切るようにして脱いだ。
私のも玄冬のも。
首筋から胸元に指を滑らせ、胸の突起に舌を這わせると玄冬だけでなく、私の身体にも漣のような震えがくる。
共有する甘い感触。
そのまま、指を腹部に進めて下衣に潜らせようとすると、玄冬の身体が一瞬硬直した。
「……玄冬?」
「……悪い。お前の指、汚す」
言葉と心で同時に告げられた言葉。
指を中に入れると、生温い滑った質感。
明らかに一度達した跡。
朱が上って、困った顔をした玄冬が目を背ける。
「……さっき、だ」
口付けを交わした瞬間。
溶けるあの感触にギリギリの状態だった身体が早くも反応してしまった。と。
なるほど、あの時。
背筋を這って行った快感の正体はこれなんだね。
「嬉しいね」
そんな些細な行為にさえ、達するほどに感じてくれるなんて。
ああ、そうか。何かが見える。
私がいない間に自分で慰めていたのか。満足のできないまま。
私でなければならないのだと、切なく焦がれてくれていたか。
「やめ……っ……見る……な」
「落ちつきなさい。大丈夫、君だけじゃない……ほら」
「え……あ…………!」
あれは明け方。
昂ぶる熱が収まらず、ろくに眠れもしなくて。
湯を浴びたけれど熱は去ってはくれなくて。
私も自分を慰めたけれど、やっぱり満足なんてできやしなかった。
益々昂ぶっていく情欲にまかせると、君を無理矢理にでも犯してしまいそうだったから。
無理矢理なんて意味がないのに、ね。
欲望に負けそうで怖かったよ。
だから、そのまま顔を見ずに家を飛び出した。
特にあてもなく。
熱が冷めて、落ち着いたら戻るつもりで。
「そうだった……のか」
ほっとしたような声の響きに私も笑う。
もっと早く触れていればよかった。
求めていたものは同じだったのだから。
濡れた指でまだ硬いままの玄冬に触れる。
弱いところを刺激して、自分にもそのまま返る刺激に、息が上がりそうになる。
中心が酷く熱を持ってるように感じるのは二人分だからだろうか?
「は……っ……あ…………!」
また汚してしまうだろうから、下も脱がせるよ?
一緒だろうけどな。もうさらに汚れたところで。
違いないね。でも……どうせなら直接触れ合いたいだろう?
ああ。何も遮るものがない状態で触れていたい。
そうして、お互い一糸纏わぬ姿で肌を重ねる。
本当にね、この溶けて沈んでいくようなこれは幻覚なんだろうかね。
今日は薬も飲んでいないのにな。
でも、感じてる。溶け合うようなあれを感じるだろう?
ああ、わかる。黒鷹が。
濡れた下肢を清めようと……どうせまた濡らすのをわかりつつも、ただ、感じる声が聞きたくて。
心に響く声を聞きたくて。
裏筋に唇と舌を滑らせる。
跳ねかえる悦楽に自分もどこまで持つのかと思いながら。
「……っあ! 黒……鷹……っ!」
腹に残っていた白濁を指にとって、そのままそれで後ろの蕾に触れる。
内なる熱へと続く入り口。
まだ触れていなかったそこはとうに柔らかくこなれていて、指を難なく飲みこんだ。
それこそ溶けて沈むように。
「ふ…………!」
「……すごい、ね……。もう、こんなにしてるのか……」
「……まえ……だ……て」
「うん?」
そんなに先端に雫を貯めて。
掠れた声で俺を呼んで。
熱の篭った目で見て。
凄く感じてるくせに……!
余裕なんてないくせに!
「感じてないなんて……言ってない……じゃないか……!」
「ああっ!!」
「……く……!」
玄冬の内側を緩くひっかいたら、自分の方にも腰が砕けてしまいそうな刺激が来る。
もう、ダメだ。これ以上は耐えられない。
「俺も……だ……。だから……っ」
繋がっていたいから。熱を感じたいから。
入ってきてくれ、俺の中に……!
請われる感情は私と同じ事を望む。
指を抜いて、代わりに自分自身を宛がおうとしたとき、玄冬が身体を起こした。
「え……?」
「……俺が……」
上になるから。自分で挿れるから。
「……いいよ。おいで」
仰向けになった私の上に乗って、玄冬がゆっくり腰を落としてくる。
ああ、少しずつ熱に呑み込まれていくのは、なんて気持ちいいんだろうね。
わかるよ。君が自分の中に私を取り込んでいくのも。
じわりと肉壁が広がって私を受け入れていく、その様子が。
たまらなく劣情を催させる。
「う……あ…………!」
「…………は……っ」
玄冬が根元まで私を呑み込んで。
徐々に蕩けそうになる熱を味わう中で、そっと頬に優しく手が触れてくる。
……好き。
ことりと胸に落ちる響き。短いけど、密度の高い愛情の言葉。
「その……顔が」
俺の熱に溶けこんでくるその瞬間の顔が。愛しくてたまらない。
苦しそうなのに、嬉しそうで。その顔が……大好きだ。
「嬉しいからだ……決まってるだろう?」
もう、わかるだろうに。君と繋がる喜び。熱を共有して、
一緒に高みを目指して、本能のままに開放させて。
全部さらけだせる相手と愛し合えて嬉しくないわけはないのだから。
「……動ける……かね」
「少し……は……」
控えめに腰を上下させ始めると、下肢全体に快楽の波紋が広がっていく。
動きはどこかぎこちなさが残るけど、だからこその焦らされる感じに酔う。
だけど、しばらくして物足りない刺激に、玄冬が問いかけるような目で私を見る。
いいよ。どうしたいか、されたいかなんてわかっているから。
「……代わろうか」
こくりと頷くのを確認してから、身体を起こして、代わりに玄冬の身体を支え、床に倒す。
組み伏せる体勢になって、足を抱えた。
繋がった箇所はさっきから細かく痙攣している。
……多少激しく動いても、受けとめられるね?
「……え……っ…………あっ……!! やぁっ……黒鷹……っ!」
ただ、本能的な衝動にまかせて、激しく強く玄冬を貫く。
案の定、玄冬はそれを痛みではなく、鮮烈な快感で受けとめて。
叫びで、私を求める。
そして私も。玄冬を求める。
ひたすらお互いだけを。
背に回された玄冬の手と腰に回された足に、一層力が入る。
「く……ろ鷹……っ……く……ろっ……!」
「……ふ……っいる……よ。私は……ここに……っ」
「……んんっ……も……まず……うああっ!!」
「つ……! 玄冬…………っ」
射精の快感に身を委ねつつ、意識のどこかで玄冬の内壁が震えたのを感じた。
悦楽の頂点が去って、呼吸と鼓動が少しずつだけど落ちついてくる。
繋がった箇所を見ると、やはり以前のように繋ぎ目がないように見えた。
このままだったら。繋がったままだったら。
いずれ溶けてしまえるだろうか?
「溶けたら……いいのにな」
「ああ」
ソファーの上に掛かっていたシーツを取ろうと僅かに身体を引くと、玄冬がびくりと怯えたように腕を掴んできた。
……ああ、大丈夫だよ。離れるわけじゃない。
「このままだとさすがに冷えてしまうからね」
肌を合わせている部分は熱を感じていても、他の部分が。
シーツを取って、身体にかけるとほっとした表情になった玄冬が可愛かった。
「この状態で眠れるかね? 足は? 辛くないかい」
「……ん……多分」
なるべく体重をかけないようにと思ったが、肌にできるだけ触れていたくて、結局はそのまま玄冬に体重を預けるような形になる。
……ああ、でも。大丈夫なようだね。
溶けて沈むような感覚にあまり重さを感じてないようだから。
髪を撫でてやりながら、本当はとっくにわかっていることを尋ねて見た。
「……いいのかい?」
「実際に溶けてしまっても……ってことか?」
「そう。離れられなくなるかも知れないよ。何があっても」
「どうせ、そんなつもりないだろう……お前も俺も」
「ふふ……そうだね。今更だ」
「お前こそ……それでいいのか?」
「……わかっているだろうに。君だって見えているんだろう」
もう全てが。
心の繋がったあの夜から、私たちの間に秘め事はないのだから。
「わかっていても……」
「うん?」
「……言葉にして聞くと、もっと安心するよな……」
「そうだね」
「お前と溶けてしまいたいということを……俺は望んでもいいんだな」
「……君の望みは私の望みだよ。玄冬」
――眠って目覚めたら。溶けて繋がってるだろうか。私と君は。俺とお前は。
――……たった一つの存在になれるだろうか。
- 2013/09/09 (月) 20:25
- 本編
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