作品
12:Happiness
「んっ……く……」
「っ……辛い、かい?」
ただ、もう全身で感じたくて。
家に帰るや否や、二人で寝台に傾れこんだ。
無我夢中で愛し合うことに没頭して。
それでも、久々の行為に身体がついていかずに、半ばまで挿入しかけたところで、玄冬が苦痛の声を漏らす。
「へ……きだ……っ」
「無理……するんじゃないよ……?」
私の方でさえ、正直少し締め付けがきつくて痛いほどだ。
この子の方が感じてる苦痛は大きいだろう。
「いい……っ。……お前がっ……欲し……からっ」
「……それは私も一緒だよ」
「ん……っ……は……!」
口付けを深く交わして、舌を引き出し、優しく舐る。
音を立てて。
僅かに繋がった個所の力が抜けたところで、もっと深いところに突き入れた。
根元まで余す場所のないように。玄冬の熱を出来る限り、感じられるように。
「……ろ……鷹……っ!」
熱っぽく、君が私の名前を呼ぶ。
どれほどそれが聞きたかっただろう。
「玄冬」
私が君の名を呼ぶ声もまた、熱を孕む。
互いの名前を呼んで、呼ばれて。
たまらなく、幸せだと思う。
本当にもうダメかと思っていた。
「動く……よ?」
「んっ……はっ……ああっ! 黒た……!」
律動を始めると、堪えずに欲情のままに上がる甘い声が耳に届く。
そう、今はひたすらその声が聞きたい。
抑えたりなんかしない、君の感じる声を……!
「終わり…………たく……っな……っ」
「うん?」
「ずっと……っ……このまま……繋がっていた……っあっ!」
「何度だって……抱く……よ……っ」
「黒……鷹……っ! 黒鷹……!」
「玄……冬っ……っつ……!」
切ない声での願いを聞きたいけど、身体はお互いに限界が近い。
久しぶりだから、無理もないなと、頭のどこかで思った瞬間に腰に深くくるものを感じて、突きを激しくした。
「ひぁっ……やっ……黒……っ!! ああっ!!」
「……ろ……とっ……!」
玄冬の内壁が戦慄いたと思った矢先、もう堪えられなかった。
玄冬の中に熱を吐精して。
身体が震えてるのを自覚する中で玄冬の熱が放出されたのもわかった。
吐き出してもまだ興奮は冷めない。
そっと、玄冬の頬に手を当てて尋ねた。
「……まだ、平気かい?」
「ああ……」
お互いにつく息は荒くて、鼓動は高鳴ったままだったけど。
休もうという気にもなれず。
動けなくなる限界まで抱き合った。
蕩果を使ったときのような一体感こそないけど、それぞれの体温が、肌の感触が何より愛しくて。
我を忘れてひたすらに睦みあった。
***
「……お前、少しは考えろ」
「すまないね。……つい、嬉しくて」
かつて『玄冬』だったときには、口付けの跡は残らなかったが、そうでなくなった今。
玄冬の身体にはあちこちに私が降らせた所有の証が散っている。
ここまで来ると愛撫の跡というには些か激しすぎるだろう。
他に誰が見るものでもないけれども。
実際、玄冬にしたって、言葉は諫めていても、顔は笑っている。
嬉しいのはお互いさまだろう。
「黒鷹」
「ん?」
「どうして戻れたんだろうな」
「そうだね……本当にもうダメかも知れないと思ったよ」
「知ってる。……ずっと俺にはお前の声が聞こえていた」
「え……?」
「話しかけても、お前には聞こえなかったんだろうけどな。
……俺にはお前の声は聞こえてた」
玄冬が私の髪を指に絡める。
「お前が世界が壊れてしまえばいいと思ったことや……自分に価値がないと思ったことも」
「……玄冬」
微かに辛そうな顔をしたかと思うと、そっと頭を抱き寄せられた。
「二度と思うなよ。自分に価値がないだなんて」
「昔は……私が言っていたような気がするがね。その言葉は」
まだ『玄冬』だったときに。
この子は『自分は生きていない方がいい』と何度私の前で言って嘆かせたことか。
「もう思わない。思う理由もなくなったからな」
「それは、私だって同じことだよ」
君とこのまま、過ごしていけるのなら。
もう他に願わない。
……今度こそ。
「……そういえば、気になっていたんだが」
「うん?」
「お前、もう『鳥』としての力はないんだよな?」
「ああ、ないよ。君に『玄冬』としての力がないのと同じようにね」
「だったら……」
「うん?」
「このまま……一緒に歳を重ねていけるのか?」
「……多分ね」
もう、普通の人間と変わらないから。お互いに。
「……そうか」
「……離さないよ。もう。絶対に」
「離れる気もないがな」
二人でそう言いあって笑った。
ああ、もう何故溶け合えたのか、また離れたのか。
今一緒にいられるなら、どうでもいいことのような気がするよ。
でも、一つわかったのはね。
「別々の人間だから。……これほど愛しいと思うんだろうね」
「俺も……そう思う」
一つの存在でなく、違う存在だから。
求め合う。触れて愛しいと思う。
ずっと、一緒にいたいと願う。
求められて、喜びを感じる。
「玄冬」
「ん?」
「愛してるよ……私の大事な愛しい子」
「知ってる」
「君は? 言ってくれないのかい?」
「知ってるだろう? ……どうせ」
一時心が繋がっていたんだから、という声が聞こえた気はしたけど。
「それでも、言葉が聞きたい」
「贅沢だな」
「人は贅沢に出来ているんだよ」
それでも、玄冬は微笑ってくれて。
そっと望むことばを呟いてくれた。
もう、今までのように長い時を生きたり、繰り返し輪廻の輪の中で生まれたりはしないだろうけど。
限られた時間を共に生きよう。
それこそが、至上の幸福なのだと。
私達はもう知っているのだから。
- 2013/09/14 (土) 01:25
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