作品
02:Excitement
「先ほど舐めた程度の量を考えると……一口含めばしばらく効果は続くだろうかね?」
「多分な」
黒鷹と二人、寝室に移動し、ベッドに腰掛けながらそんな会話を交わす。
平静を装いつつも、内心では胸がひどく高鳴っていた。
さっきは、薬を一舐めしただけだったのに、手を触れ合っただけで蕩けそうな感触が伝わった。
あんな些細なことだったのに。
それなら、あの溶け合うような感覚を長く持続させたのなら。
その状態で抱き合って、交わったならどうなってしまうのか。
どうにも想像がつかなかった。
が、怖いと思う反面、期待もしている自分がいる。
いつもの行為とどう違ってくるのかが、気になって仕方がない。
「じゃあ、試してみようか。口移しで構わないね?」
「ああ」
そう返すと、黒鷹が蕩果の入った小瓶を開けて、直接口をつけ、中身を口に含む。
そのまま、顔を引き寄せられて、口移しで俺も蕩果を貰い受けた。
流しこまれた液体に微かな甘さを感じた次の瞬間。
触れてる唇の柔らかな感触は、先程のように溶け合うような感触に変わる。
じわりと甘い疼きが、瞬く間に触れ合う唇から全身に広がっていく。
重ねているのは、あくまで唇だけ。
まだ、深くは口付けていない。
なのに、この気持ち良さは……まるで、直接性器に触れられているような感じだ。
そう意識してしまうと、身体の中心にいとも容易く熱が篭る。
黒鷹も微かに熱っぽい吐息を零し、さらに舌を絡めてきた。
口の中まで溶け合い、一体化してしまったような快感。
絡めた舌はさらに深い悦楽を引き出す。
もっと触れられたい。もっと触れたい。
口だけではなく、触れられる場所の全てで。
黒鷹の熱を求めて、身体が震え出してきた。
口付けだけで、こんなに反応するなんて……ならば、この先は。
「……まずいね」
名残を惜しむように、それでも唇を離した黒鷹が苦笑する。
離れてしまった熱に思うのは物足りなさ。
多分、それは俺だけの感覚ではないのだろう、とは解っていたけども。
「加減なんて、出来なくなりそうだよ」
擦れた響きに、興奮してるのは自分だけではないことに安堵した。
「……しなくてもいい。試すんだろう?」
狡い言い方だ、と自分でも思う。
蕩果の効果を試したいのは自分も一緒なのに。
「そうだね。……覚悟はできてるだろうね?」
「ああ」
既に興奮は後戻りできないところまで昂ぶっていた。
まだ直接は触れられていないはずのモノが張り詰めてしまっているのが解る。
窮屈さにさっさと下衣を緩め、そのまま服を脱いでいく。
いつもなら、黒鷹が服を脱がせてくれるのを待つけど、その時間さえもどかしかったから。
黒鷹もそれに何も言わずに、自分の服を脱いだ。
そうして、お互いに何も纏うものがなくなって、全身で抱き合って……思わず声を上げる。
「く……うあ……っ……ああ!」
「……っつ……! ……れ……は!」
肌を触れ合わせた場所に熱が広がり、一気にそれは身体中に巡っていく。
重なってきた黒鷹の身体が沈んで、溶けゆくような感覚。
普段なら感じる黒鷹の体重による圧力がない。
触れている場所の全てが繋がってしまったかのようだ。
実際には溶けているわけではなく、肌が触れ合っているだけのはずだと認識はしている。
身体をまだ繋げてはいない。
だが、幻覚には到底思えないような強い快感は、過去に二人で交わしてきた交わりの数々を引きずり出してくる。
黒鷹の指の微妙な力加減での触れ方、唇の温かな柔らかさ、ざらりとした感触の生温い舌。
そして、味も匂いも形もすっかり覚えてしまっている黒鷹自身が、俺の中に入る瞬間の甘さも含めた微かな痛みや、律動の衝撃、高みに追い詰められ達する瞬間の悦楽。
そんな記憶や身体に刻み込まれてきたものたちが、意識の表層を支配する。
「……ろ……鷹……っ!」
怖い。
一気に襲った深過ぎる快感の中に全部飲み込まれてしまいそうで。
何もかもが快楽の前にわからなくなってしまいそうだ。
なのに、飲み込まれることこそを期待し、焦れて勝手に腰が動いてしまっている自分もいる。
お互いに張り詰めた状態で触れているモノは、僅かに擦れただけでも達せてしまえそうだ。
だけど、達するならやはり繋がりたい。
自分の内に迎え入れて、余すところ無く感じつくしてしまいたい。
「玄……冬……。いい、かい? その……とてもじゃ……ないが……」
「……いい……っ……だから……っ……早く……!」
明確な言葉にならなくても、何を指してるかは明らかだ。
この感覚が黒鷹にもあるものだとしたら、やはり余裕なんてあるはずがない。
前戯などもう要らないくらいの昂ぶりは、より強い快感だけを欲している。
だから、黒鷹が入りこもうと脚を広げられても抵抗はせずに、受け入れる体勢を取った。
だが、黒鷹の楔が打ちこまれて……本当に悲鳴をあげた。
「ひっ……や……ああっ!! な……っ! これ……っ!! ああっ!」
身体が痙攣する。
繋がった箇所から、強い快感の熱に灼かれていく。
いや、其処だけでない。
性器が先端の方から熱に飲み込まれていく感触がある。
黒鷹の手が触れてもいないのに、だ。
いや、違う。
互いの感覚が本当に共有してるのだとしたら、これはまさか。
「……っ……そう、なのか……」
「……黒……鷹?」
「君は、いつもこんな……感じで。……私を受けいれて……くれてるのか」
「や……っ」
何かを堪えるような黒鷹の声のどこかに、悦びの感情が潜んだように聞こえる。
「中を……広げて、滑りこんでくる熱を……」
「よせ……っ……!」
口にするな、と訴える視線は流される。
視線と声だけが黒鷹と俺をわけている。
「貫く私を……受けとめてくれる、のか」
「やめ……ろ……!」
言葉にされて、繋がりをより強く意識してたまらなくなった。
俺の感覚が黒鷹に、黒鷹の感覚が俺にある。
背に縋った手に力を籠めたら、そのまま自分の背にも痛みが走る。
黒鷹の背にいくつも傷が残っているわけだ。
こんな風に爪を立てたら、どうしたって痛い。
なのに。
その伝わる感覚で、与えてる痛みの程度がわかったというのに、緩めることはできなかった。
離れた瞬間に壊れてしまいそうで。
「口にしても、しなくても。もう……っ、一緒だろう?」
「ふ……あっ……!」
ただ、衝動のままに始まる律動。
そして、それを受けとめて腰が蠢く自分。
「ダ……メ……だっ! ……! うあ……! 黒……っ……!」
「玄冬……っ……玄冬……!」
前と後ろ、いや全身で瞬く間に追い上げられて。
考え込む間もなく、それは訪れる。
「ひぁ……っ! あっ……!」
「……くっ……あ……っ……!」
熱を吐き出して、吐き出されて。
なのに、覆い被さってくる黒鷹の体温にまた身体が震える。
恐ろしいほどの深い愉悦。
動ける状態だったなら、きっとまだ求めてしまっていたに違いない。
でも、お互いにこの強い快感に骨抜きにされて、もう動けやしなかった。
行為自体はごく短い時間だったはずだが、感覚的には、まるで数時間続けざまに抱き合ったあとのように。
黒鷹も俺も、言葉を言えたのは薬の効果が切れて、しばらく経ってからだった。
「……大丈夫かい?」
「ダメかも……知れない」
こんな悦楽を知ってしまったら。
きっとまた試さずにはいられない。
繰り返したらどうにかなってしまいそうだと思う一方で、より深く求めたいと思っているから。
……黒鷹以外に試せもしない。
「……私もダメかも知れないよ」
落とされた口付けはひどく優しくて。
黒鷹の背に腕を回し、そっと撫でる。
今は感覚を共有していないはずなのに、言葉にならなかったその続きが、聞こえたような気がした。
――後戻りはできない。知らなかった前には戻れない。
例え、ダメになってしまうのかも知れなくても。
- 2013/10/24 (木) 05:42
- 本編(リメイク)
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