作品
鼓動
※時間軸は第08話と第09話の間になります。
不意に夜中。
呼ばれているような気がして目が覚めた。
が、隣で寝ている黒鷹はぐっすりと眠っている。
夢だったかと思って、再び目を閉じたら、腹の中からコポコポと水音のようなものと軽い振動。
「……え?」
身体を起こして、膨らんできている腹に手を当てて。
何かが動いているような感覚に不思議な気分になった。
本当に中にいるんだな。
今起きたんだろうか?
「……ん、玄冬? どうか…したかい?」
黒鷹も目を覚ましたらしく、半分寝ぼけたような呟きが聞こえた。
「動いて……いるんだ。中で」
「え? どれ、どの辺だね?」
「ん……もう少し右下……ああ、ここだ」
身体を起こして、俺の腹に手を這わせてきた黒鷹の手を導いて、振動のあるあたりに置くと黒鷹の顔がほころんだ。
「ああ、本当だ。そうか、こんな風になるのか」
「びっくりした。中でちゃんと生きてるんだな」
「ふふ……宵っ張りだね、君は。
こんな時間に私たちを起こすなんて。
でも元気みたいでお父さんは安心したな」
黒鷹が中にいる子どもに優しく話しかけるのをくすぐったい思いで聞く。
俺に触れる手も優しい。
伝わってくる鼓動は黒鷹のだろうか。
それとも中の子どものものだろうか。
温かい振動に目を閉じると、瞼に柔らかい感覚が落ちた。
「生まれてくるのが待ち遠しいね」
「……ん」
再び二人で横になって。
抱きしめてくれるぬくもりと鼓動が溶けるような心地よさに、いい夢が見られそうな気がした。
2005/08/24 up
一日一黒玄でやった創作者さんに50未満のお題で配布されている
「溺愛10のお題」、No8でした。
初めての胎動ネタ。
- 2008/01/01 (火) 00:21
- 第一部:番外編