作品
君のにおい
※第三部進んでないので、先行ネタバレになりますが、
それでも構わないと言う方だけお読み下さい。すみません。
とんとん、と扉を叩く小さな音にベッドに横たわっていた身体を起こす。
随分、夜も更けたというのに。
もう寝ているかと思っていた。
……いや、眠れるわけも無いか。
私が眠れていないのと同じようにあの子も。
「入りなさい。どうしたね?」
声をかけてやると、桜璃が枕を抱えた状態で、部屋に入ってきた。
目が真っ赤だ。
「……眠れないの。パパ、一緒に寝てもいい?」
「勿論だよ。こっちにおいで」
上掛けを剥いで、隣を示すと桜璃がベッドに入り込んで、私の服をぎゅっと掴む。
「ここ、ママの匂いがする」
「……そうだね、ずっとママはここで寝ていたからね」
そうして自分でも気付いた。
もう玄冬はいないのに、つい隣を空けるようにベッドに入り込んでいたことに。
玄冬がいたときと同じように。
「…………ママ……」
声を詰まらせて、身体を寄せてきた桜璃を抱きしめてやる以外に何ができただろう。
ここには君の名残がたくさん残っているというのに。
ねぇ、君はもういない。
2005/08/27 up
一日一黒玄でやった創作者さんに50未満のお題で配布されている
「溺愛10のお題」、No6でした。
- 2013/08/12 (月) 20:05
- 第三部:番外編