作品
眩暈がするほど愛してる
※第二部進んでないので、先行ネタバレになりますが、
それでも構わないと言う方だけお読み下さい。すみません。
「パパ、何時くらいに帰ってくるの?」
「うん? 夕方には帰ってくるよ」
「早く帰ってきてね」
可愛い。
我が娘ながら、このちょっと寂しそうな表情で、服の裾を掴みながら呟かれると、思わず出かけたりなんかしないよと言いそうになる。
実際は頼まれた買い物があるからそうもいかないが。
そして、ふと気づく。
そういえば玄冬は「早く帰ってきて」という類の言葉は口にしない。
昔から。
「気をつけて」となら、つい先ほども言われたけど。
もしかして。
それさえ我が儘だと思ってしまっているのだろうか。
玄冬ならありえる。
急かせてしまうように思って、気が咎めてしまうのかもしれない。
意識もしてないのかも知れないけれど。
だから、玄冬を手招きして言ってみる。
「君は?」
「うん?」
「『早く帰ってきて』とは言ってくれないのかい?」
「それ……は」
「それともあれかい?
『亭主、元気で留守がいい』とかいうのだったら、私としてはちょっと寂しいが」
「違……っ!そうじゃない。……その」
「……言ってくれるね?」
困ったように視線を伏せた玄冬が、そっと耳元で囁いた。
「早く帰って来い。
その、食前酒用に新しい果実酒も開けて待ってるか……うわっ」
顔を少し赤らめて、躊躇うようにいう様子に堪えられるわけがない。
どうしようもないほど可愛い。
抱きしめずにいられるはずもない。
「あー! ずるい! 桜璃もだっこー!」
「はいはい。不公平は良くなかったね。桜璃もおいで」
桜璃も抱き上げて、二人の温もりに眩暈がしそうになるほどの幸福感。
たまらなく、どうしようもないほどに君たちを愛してるよ。
2005/08/30 up
一日一黒玄でやった創作者さんに50未満のお題で配布されている
「溺愛10のお題」、No10でした。
- 2013/08/12 (月) 21:33
- 第二部:番外編