花帰葬-束の間の楽園に舞う花は

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little princess

※第二部進んでないので、先行ネタバレになりますが、
それでも構わないと言う方だけお読み下さい。すみません。



「ねぇ、ママ。明日って『父の日』なんでしょう?」

夕食後。
自室で本を読んでいると言って、黒鷹が立ち去った後、桜璃が後片付けを手伝いながら、潜めた声でそう尋ねてきた。

「ああ。そうだな」
「パパ、どうしたら喜んでくれるかなぁ」
「桜璃がすることだったら、何だって喜ぶと思うがな」
「それじゃ、つまんないよぅ」

しかし、実際親なんてそんなものだ。
俺だって、桜璃がしてくれることだったらなんだって嬉しいし、くれるものだって何でもいい。
嬉しいのは何かしてくれようというその気持ちだから。

「せっかくだ。色々考えて見ろ。大丈夫。
本当にパパは何だって喜んでくれるから」
「んー……ママは? ねぇ、ママはどうするの?」
「ふふ、それは明日まで内緒だ」
「ずーるーいー」

拗ねて俺の服を引っ張りながら抗議する桜璃がただ可愛かった。
やれやれ、俺も大概親馬鹿だな。

***

「桜璃、ちょっとい……」
「入っちゃダメ!!」

桜璃の部屋のドアノブに掛けた手は、その言葉でつい動きが止まる。
かちゃんと耳に届いた鍵を掛ける音に、ほんの少しだけ寂しくなった。
ここはかつては玄冬の部屋で、鍵は当時からついている。
が、玄冬は自室に鍵を掛ける習慣が全くないまま今に至るので、こんなことをされると何だか切ない。

「どうしたんだい?」
「今は……ううん、明日までは桜璃の部屋に入っちゃダメ!」
「ほう?」

それで、ピンと来た。
ああ、そうか。もうそんな日だったな。
理由がわかって、寂しさはたちまち消え失せ、何となく口元が緩むのを自覚する。

「そうか、わかったよ。
ママがホットミルクをいれてくれたから、冷めないうちに飲みにおいで」
「ん、直ぐ行くから先に行ってて」
「ああ」

そう促してくれるままに、先に居間に戻り、本を読んでいた玄冬の隣に座って肩を抱き寄せた。
玄冬が本を閉じて、軽く私に寄りかかってくる。

「桜璃は?」
「今来るよ。……君はあの子に何を言ったんだい?」
「うん?」
「明日まで、部屋には入るな、と言われたよ」
「そうか。いや、俺は何も」

そう言いながらも、玄冬の顔が綻んでいる。
私が部屋を追い返された理由……恐らく、明日の父の日についての行動には、十中八九、玄冬が何か噛んでいるはずなのだが。

「……いいけどね」

桜璃が来る前に、と。
微笑んだままの玄冬にそっとキスをした。

***

「ねぇ、ママ。パパのお絵かきの道具を勝手に持っていったら、やっぱり怒られるかなぁ」

桜璃がそんなことを言ってたのは、一通り夕食の片付けが終わった時。
それでなんとなく、何を考えてるのかがわかった気がした。

「いや、大丈夫だろう。
あまり頓着しない性質だし、そもそも道具を置いてる場所はいつも散らかっているから、少し何かが無くなっていた所で3日くらいなら気がつかない。
後でパパを引き寄せておくから、その隙に何か必要なものをとってくるといい」
「うん! 有り難う、ママ」

そうして、ちょっといつもよりも早い時間に、出来たばかりの果実酒を
口実にし、黒鷹を晩酌に誘った。
いつもなら、晩酌は桜璃が寝た後に持ちかけるから怪しまれるかと思ったが、珍しいね、こんな時間にと言いつつ、黒鷹は怪しむ様子がなかった。
一杯目を飲み終わったあたりで、桜璃がおやすみの挨拶に訪れ、無事に目的のものを黒鷹の部屋から持ち出せたらしいとわかった。
きっと力作が仕上がるだろう。
描きあがるのを見るのが、俺も楽しみだ。

***

「っ……今日は、随分と積極的……じゃない、か……っ」
「たまには、な。……嫌なら止すが?」
「そんなわけ、ないだろう……にっ」

熱を帯びて、硬くなっている黒鷹自身に舌を這わせて、息を上がらせた。
俺の髪に絡められた指に少し力が籠められる。
しかし、それも僅かな間ですぐに力は緩められた。
まだ、こっちを思いやれる余裕はあるらしい。
それならもう少し、と指で根元の双玉を収めた部分を緩く撫でる。
不意に零れた甘い擦れた声に、満足感を覚えた矢先、身体を強く引き寄せられて、何が起きたかを知覚する前に、足の間に衝撃が走る。

「……っあ! そんないきな……り……!」

組み伏せて、侵入してきた黒鷹の目には余裕がなかった。

「我慢できるわけないだろうに……!
ああ、でもこれだけ濡れてるなら動いても平気だね?」
「ふ……ん……あっ」

確かに身体の方はほとんど触れられてはいなかったけど、受け入れる準備は出来ていて、痛みはほとんど感じなかった。
そういう部分は男同士で肌を重ねていた頃とは明らかに違う。
前は慣らさない状態で、なんてとてもじゃないけど考えられなかった。

「黒、鷹……!」
「ん……」

縋りついた腕をそのまま受け止めてくれて。
黒鷹の動きが徐々に早くなっていく。

「あ!」
「…………っ!」

繋げた部分がどくりと脈打った瞬間、意識が霞んだ。

***

「やけに積極的だったのは、父の日のサービスになるのかい?」

行為の後、黒鷹が俺の髪を弄びながら尋ねてくる言葉につい笑う。

「いや。そうじゃない。それは別に考えてあるさ。
まぁ、まるっきり考えなかったとは言わないがな」
「……桜璃は何をするつもりなんだい?」
「明日の楽しみに取っておけ。言ったら俺が桜璃に恨まれる」
「はいはい、じゃあそうさせてもらおうか」
「気になるか?」
「そりゃあね。君は知っているんだろう?」
「なんとなく、だけどな」

お絵かきの道具、と言えば流石に想像はつく。

「狡いな。私一人が仲間はずれかい」
「拗ねるな。何もしなかったらしなかったで寂しがる癖に」
「む。そんなことはないぞ!」
「むきになるあたりがどうだか」
「まいったねぇ」

黒鷹が俺の身体を引き寄せて腕の中に抱きすくめられる。
いつまで経っても、こんな風に腕の中に納まってるというのは、昔を思うとくすぐったいような、どこか妙な気分になる。

「だけどね。
私は君と桜璃がいてくれれば、それだけで十分なんだよ、本当に」
「……知っている」

俺だってそうなのだから。
黒鷹と桜璃がいるのなら、望みは他にない。

***

「パパ! おめめつぶってくれる?」
「うん? こうかい?」
「ママ! ママも! ママもこっちきて、おめめつぶって!!」
「え? ママも……なのか?」
「うん!」

てっきり黒鷹だけにいうものだと思っていたから、ちょっと予想外で。
黒鷹の隣に腰掛けて俺も目を閉じた。
手の上に紙らしきものが載せられる。

「はい。二人とももういいよ」
「はいはい、一体何……」
「あ……」

黒鷹の手にも俺の手にも、家族3人を描いた桜璃の力作が載っていた。
わざわざ2枚描いたのか。

「……どうして、ママにも?」
「だって、皆一緒がよかったの。
皆一緒のを描きたかったし、それならママにもあげようって」
「桜璃」

何気なく言ってはいるけれど、そうしようと思ってくれた桜璃があまりにも可愛くて。
思わずそのまま抱き上げて、ぎゅっと抱きしめた。

「…………あのね。一応父の日なんだ。
そろそろ私にも娘を抱かせてはくれないかね」

黒鷹が苦笑いして、そう言うまで。

***

「君も桜璃には甘いよねぇ」
「お前に言われるのは心外だ」

桜璃が寝付くまで、黒鷹と2人で桜璃の両脇に横になって。
3人で他愛もない、だけど幸せな気分になれる話をしていた。
そうして、桜璃が眠りについたのを確認して、揃って静かに桜璃のベッドを抜け出し、自分たちの寝室に戻って。
眠る前に果実酒を酌み交わしながら、不意に黒鷹がそんなことを呟いた。
自分だって、桜璃に対してどんな表情をしているかの自覚があるんだろうか、こいつは。

「で? 君は父の日に何をしてくれるつもりなのかな?」
「少しだけ目を閉じてろ」
「桜璃と一緒だ」
「いいから」
「はいはい」

黒鷹が目を閉じたのを確認して、ベッドの下に隠してあった包みを3つ取り出して、そのうちの1つを黒鷹の手の上に乗せた。

「いいぞ」
「一体何だい。……開けても?」
「ああ」

黒鷹が開けるのを見計らって、俺の方も残り2つの包みを開ける。
取り出されたシャツ。
俺の持っているほうもサイズは違えど同じデザイン。

「これ……君のお手製かい? あ!」
「お揃いだ。桜璃とも俺とも」

俺の持っている服を見て、黒鷹が顔を綻ばせる。

「君、皆で同じものを着るなんて、恥ずかしいから嫌だ、とか言ってたくせに」
「一着くらいなら。その、いいかと……わっ」

前触れもなしに強く抱きしめられて。
抗議の声を上げようとした矢先。

「有り難う」

真摯な響きに言葉が返せなくなった。

***

「おはよう! ママ」
「おはよう。ああ、桜璃。
せっかく着替えたところ悪いが、今日はこっちの服を着てくれるか?」
「うん? いいよ! あれ? これ、ママと同じ服?」
「ふふふ、パパとも同じ服だ! おはよう桜璃! 我が家のお姫様!!」
「きゃ……!」

黒鷹が桜璃を抱き上げて、肩車をする。
その様子につい笑みがこぼれた。

「こら。せめて服を着せてからにしてくれ。
それじゃ、着替えも何もできない」
「おっと、そうだった。すまない。
さ、桜璃。その服を着てみてくれたまえ」

桜璃を肩から下ろして、桜璃のシャツを脱がせて、お揃いにしてる方を着せて、釦をかける。

「ママの父の日のプレゼントってこれ?」
「ああ」
「ママ、作ったんだ……凄い! 
ね、桜璃も頑張ったらこういうの作れる?」
「作ってみたいか?」
「うん!」
「じゃあ、もう少し大きくなったら教えてやるから」

教えてやれるほどの時があればと、願わずにはいられなかった。

***

「桜璃は君に似て手先が器用だからね。
飲み込みも早い子だし、きっと上手に作れるようになるだろうね。
これは先々楽しみだな」

朝食後、桜璃が外に遊びにいったあと、黒鷹が笑いながら、そう言ったけど。

「教えてやれる余裕がなかったら……ごめん、な」
「……玄冬」

満たされた時間に忘れそうになるけど。
ずっと3人でこのまま過ごしていたいと思うけど。
それは叶えられない願いだ。
桜璃に教える前にその時が来てしまったとしたら。

「何時来るかもわからないときのことを今考えるのはよしなさい」
「黒鷹、だけど」
「頼むから。……せめて、今は聞きたくない」

強く抱きすくめてきた腕が微かに震えていて。
それに声も出せず、頷くしか出来なかった。
祈ろう。その時が少しでも訪れる時が遅いことを。
願う資格もないかも知れないが、それでも。
俺も出来る限りの時間、3人で過ごしていたいから。

2005/6/15~23 up
黒玄メールマガジンの特設ページである、一日一黒玄で連載していた分をまとめてリメイク。
up日は多分、これより遅かったはず。
既に救世主とは邂逅してしまっているので、玄冬の方はいつか来る今回の終焉を考えずにはいられない感じ。
本編すすめられるようなら、一部はエピソードに組み込みされます。

  • 2008/01/01 (火) 01:25
  • 第二部:番外編

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    • 第12話:春の祝福を受け、楽園の扉は開く(後編)
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  • 第一部:番外編
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