作品
女の子のヒミツ
「こう……でいいの?」
「ああ、あまりキツく引っ張らないように……そう、それでいい」
桜璃と俺は黒鷹の居ない隙にちょっとした編み物をしていた。
去年の冬に桜璃にケープを編んでやったら、今年は自分でも作ってみたいと言い出したのだ。
それも編んだら黒鷹にプレゼントしたいのだと付け加えて。
あいつが聞いたらさぞや喜ぶだろうが、編み上がるまでは内緒にすることにし、黒鷹の居ない時に少しずつ教えている。
我が娘ながら中々筋がいい。
「大分、進んだな。凄いぞ、桜璃」
「えへへー」
「その調子なら、余裕を持って出来……」
「ママ?」
遠くで羽音が聞こえる。
これは黒鷹の羽ばたきの音だ。
「桜璃、そろそろパパが戻ってくる。それを……」
「あ、はーい! お片付け、お片付け」
いそいそと二人で編みかけのケープや編み針を慎重に箱の中に収め、棚に仕舞いこむ。
ちょうど、そのタイミングで玄関の扉が開いた。
「ああ、お帰り黒鷹」
「お帰り、パパ!」
「ただいま。二人して何をやってたんだい」
特に料理したり、本を読んだりという形跡がなかったから、単純に気になったんだろう。
飛びついた桜璃を抱き上げながら、黒鷹がそう尋ねたが、桜璃はニコニコしながら、それについては答えない。
「女の子同士の内緒! ねー、ママ」
「そうだな。パパには内緒のことだ。女の子だけのヒミツだからな」
「む。何だいそれは! 白状したまえ。
一人のけものなんて寂しいじゃないか!」
黒鷹は拗ねるような口調で言ったが、それには笑って誤魔化した。
どうせ、数ヶ月先には大喜びすることになるんだ。
もう少しの間は母娘のヒミツを持たせておいてくれ。
2006/04/26 up
原型は日々黒玄という黒玄メールマガジン特設ページ設置分のメモから。
話広げてる最中で放置してました。
- 2013/09/14 (土) 13:24
- 第二部:番外編
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