カナンの部屋にあった本から、相手を満足させられていないのでは?と思い悩むセレストと、やはり似たようなことを考えていた主君の図。
初出:2002年か2003年 同人誌収録:2002年か2003年。(Nuturelle ~あるがままの貴方で~)
文字数:6625文字 裏話知りたい場合はこちら。
なんとなく、予想がついてはいた。
ついてはいたが、実際に目の前の現実を確認すると、思わず脱力感がこみあげた。
「ああもうっ。あの方は……あの方は本当にっ!」
呟いてみても、部屋の主はいない。
虚しく自分の声だけが響く。
今日は近衛隊の用事でいつもよりカナン様の所に行くのが、遅くなると言ったのが昨日の事。
「そうか」
そう、何気なくおっしゃったが、ほんの一瞬瞳がキラリと光ったのは、やはり気のせいではなかった。
用事が思っていたよりも幾分早くに終ったために、その足でカナン様のお部屋に来たら、予想通りだったというわけだ。
……なんでカナン様に対する嫌な予想は外れてくれないのだろう。
俺は半ば諦めの境地で部屋の椅子に腰掛け、主の帰りを待とうとした。
が、ふとその時に目に入った本棚。
上から二段目の棚の右端に微かな違和感を覚える。
他の書物と雰囲気のそぐわない黒い背表紙の本。
俺はほぼ毎日のようにここに来ているから、その違和感は確かだろう。
あの本は昨日まではなかったはず。
変に周りから浮いた印象のそれが気になって、何気なくその本を手にとって開いて……次の瞬間、思わずその本を取り落としてしまった。
「な……なっ……カナン様~っ!!」
……その本はいわゆる性の技巧や体位なんかを取り扱った本。
いや、浮ついた内容ではなく、真面目な趣旨の本ではあるのだが、軽いショックを受けた。
いや、カナン様はまだお若いし、こういうモノに興味を持つのは当然なのは、自分の実体験でもわかっているんだが……今のカナン様と俺との関係で、カナン様がこういう本を読んでいらっしゃるということは。
……物足りない思いをさせてしまっているのだろうか。
自分ではなるべくコトの最中は気を配っていたつもりだが、時々抑えられない事もある。
もしかして、カナン様がご自分の希望を言えずにいたのだとしたら?
……それはちょっと情けないのではないだろうか、俺。
落とした本に罪はないので、拾い上げてほこりを払い、テーブルの上に置くが……なんとも複雑な気分だ。
「ふう、今日も無事に帰れたな。僕の抜け出しスキルもレベルが上がって……げ」
ふいに、主君の声が窓の方から、聞こえて思わず振りかえる。
カナン様は今、まさに近くにある木を伝って窓からお部屋の中に入られるところだった。
「……何をなさっていらっしゃるんですか」
「お前こそ、遅くなるんじゃなかったか?」
「はぐらかさんでくださいっ! また、城下にお忍びされていたんですね! まったく、何度申し上げたらわかってくださるんですか! せめて、普通に許可を……」
「許可つきのお忍びなんて、必ず警護の者がつくんだぞ。それだと、一人で出歩けないだろう」
「まがりなりにも王族の身でお一人で外出されるというのが、そもそも問題なんですよ」
「むー」
納得できんといった感じで拗ねてしまわれるこの方に、つい溜め息がでてしまうが、言ったところでカナン様がお忍びを止めてくださることは奇跡に近いだろうと、本当は自分が一番よく分かっている。
そういうことは分かりたくはないのだが。
分かっておきたいのは別の事。
「カナン様」
「ん? どう……あ」
テーブルの上に置いてある本に気付いたらしい。
テーブルに本を置いたところで、カナン様がお戻りになられたので、本棚に片付けなかったからだ。
言葉が続かず、お顔にほんのりと赤みがさす。
お尋ねするにはちょうどいいかもしれない。
「率直に……お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「な、なんだ……?」
多少、怯んだ様子のカナン様にこちらもおのずと引いてしまうが、聞くなら今だ。
「えと……その、あの……よ、よろしくありませんか?」
「……何がだ」
「だ、だからその……わ、私と肌を合わせている時……ですが」
つい、言いよどんで語尾が小さくなり、顔が羞恥でほてってくる。
目もカナン様のほうにはまっすぐ向けられずに逸らすが……ちらりとカナン様のお顔を見ると、真っ赤になっていらっしゃる。
「……セレスト」
「……はい」
「ちょっぷ」
ビシ!と加減も何もないちょっぷを頭にくらう。
正直かなり痛い。
「おっ……前は! 何を真っ昼間から恥ずかしい事を!!」
「いや、それはそうなんですが! ですが……」
カナン様が頭を抱えて、大きく息をつく。
「……セレスト。ちょっとそこに座れ」
テーブル傍の椅子を指差して、おっしゃる。
「あの……」
「いいから。とっとと座れ。話がある」
「は……」
そう言われて、無視するわけにはいかず、傍の椅子に腰掛けた。
カナン様ご自身はお座りにならず、立ったままだ。
「あの……カナン様」
「セレスト。お前がそんなことを聞くのは、その本が原因か?」
テーブルの上の本をちらりと見て、カナン様が呟かれた。
「あ……ええ、まぁ……」
「……だとしたら、お前の言ってる事は杞憂というものだ。そういうわけじゃない」
「ですが……その、ホントにご無理はなさっていませんか? 痛い思いをされていたりとか、手順にご不満がおありとか……」
「お前……結構、はっきり聞くヤツだな」
「も、申し訳ありません」
カナン様は窓際の方に立たれて、俺のほうを見た。
力強い意思を秘めた瞳に不謹慎かもしれないが、胸が高鳴る。
「本当に不満とかじゃない。ただ……」
「た、ただ……?」
「不公平だと思ったんだ」
「……え?」
一瞬、意味が汲み取れず間が抜けたような返事を返してしまう。
「僕は……その、気持ちいいし、お前と触れ合うのはす、好きだが! ……お前にばかり負担をかけさせているような気がして……僕は、お前しか知らないが、お前はそうじゃないだろう」
「カナン様! ……それは」
確かに以前は彼女というのがいたし、経験はあった。
けど、昔の話だ。
今は誓って、カナン様お一人だ。
それをお察しになったのか、首を振って、否定される。
「ああ、違う。責めているんじゃない。確かに悔しくないといえば嘘になるが、過去はどうすることもできないし、そもそも、現在というのは過去の全てのできごとの上に成り立っている。『今のセレスト』を作っている要素の中に、その経験だって入る。僕は今のお前が好きだから、それで責めたりなんてしない」
「カナン様……」
「ただ、経験の差は埋められない。でも、片方にばかり負担をかけるのはやっぱり、パートナーとしては対等ではないだろう。……だから、本などを読めば少しはわかるかと」
ほんの少しだけ、寂しげな表情を浮かべ、俯かれた姿にたまらず、俺は立ちあがって、カナン様を後ろから抱きしめる。
少し、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「セレスト……」
カナン様も俺の回した腕にそっと手を添える。
「カナン様。経験のあるなしが公平、不公平に関わったりするわけではありませんよ」
「だが……」
貴方にわからないでしょう。
俺以外に誰も知らないカナン様。
営みでの貴方の表情や動き、甘い声など、全て俺しか知らない事。
そして、俺が教えたようなもの。
……その事実に眩暈がしそうなほどの幸福を感じているのを。
「お気持ちが嬉しいです。それだけで……十分です。」
「ん」
触れるか触れないかくらいに、軽いキスを耳の後ろに落とす。
それだけで、ピクリと身動ぎされるこの方が可愛らしくて仕方がない。
この方が感じる快楽は全て、俺からお教えしたい。
これが独占欲というものなんだろう。
「……ですが、せっかくですから、本を参考にしてもよいかもしれませんね」
ふと、悪戯心が湧いた。
「え……」
振り向いたカナン様の顎をとらえ、唇を重ねる。
最初はただ、触れ合わせてついばむように。
そして、唇を割って入り、ゆっくりと口の中に舌をさまよわせ、感触を楽しむ。
カナン様は初めはただ、されるがままだったが、口内の粘膜を刺激し始めたあたりで、呼吸が荒くなり、俺の服の裾をつかんでこられた。
唾液がこらえきれず、口の端を伝っていく頃にようやく口付けから開放させた。
「んっ……セレ……スト」
開放したカナン様は少し涙目で。
それがまた、俺の情欲をそそらせる。
俺はカナン様のズボンの前をはだけると、中に手を入れ、さらに下着の間から直接カナン様に触れた。
「っ……あっ!」
もう、既に硬く張り詰めているものをゆっくりと付け根から先端まで擦る。
「や……セレ……スト。こんな時間にっ……!」
「……夕食まではまだお時間があるかと」
この時間は余程のことがない限り、誰かが訪れる事はめったにない。
それを知っているゆえの行為だ。
とは、いえ。
カナン様のお部屋でというのは、俺も多少の背徳感を覚えたが。
「でっ……でもっ……」
「では……止められますか?」
……俺はずるい。
カナン様自身に触れて、刺激を止めないままそんなことをいう。
早くも鈴口から先走りの雫が零れ始めている状態で止められはしないのをわかっているのに。
もっとも、俺の方も身体が反応しているのは一緒なのだけれど。
止めたくないのは自分なのに、答えを相手に促している。
だけど。
「止め……なくていい。このまま……っ……僕がどう動いたらいいか……教えてくれ、セレスト……っ」
カナン様は切なげにそう、応じてくださった。
俺は内心望んでいた言葉に満足感を覚え、返事の代わりに口付けた。
***
「カナン様……」
「ん……っ。……こっ、こういうときに名前は呼ぶなと言った……だろうっ……」
甘い声で抗議されても説得力はない。
その声が聞きたくて、その表情が見たくて、ついお名前を口にする。
背骨にそって、唇を添わせてみたのは初めてだが、思った以上に反応なさる。
お背中は弱いのかもしれない。
「セレ……スト」
「はい?」
「僕は……どうすればよい? お前はどうしたら喜んでくれる?」
可愛いらしい事をおっしゃる。
今でも十分至福の極みなのだが、カナン様の望みでもあるので、俺は試してみたい事を口にした。
「そうですね。いつもは私が動きますから、カナン様が動いてみるというのはいかがですか?」
「僕……が?」
「ええ」
そういうと俺はカナン様の身体を起こして、逆に自分は寝台に横たわった。
「セレスト?」
「私の上に御乗りになって、ご自分で入れてみるんです。……できますか?」
無理に勧めるつもりはないから、問いかけの形にはするが、この方の性格では拒まないだろう。
案の定、少し躊躇った後に、頷かれた。
「わかりました。でも、その前に少し慣らしますね。いきなりではおつらいでしょうから。……こちらに」
「ん」
身体を起こして、カナン様を抱きしめ、少し腰を浮かせた。
枕元に置いておいた、潤滑剤がわりの王族の方々の肌の手入れ用の香油を中指につけ、双丘の方から手を伸ばす。
「力を……抜いてくださいね」
「ん……」
香油の為にさしたる抵抗もなく、指がカナン様の内部に入りこむ。
いつ触れても暖かくて柔らかく、心地がいい。
「あっ……」
「痛くは……ないですか」
「へ、いきだっ……」
中を探るつど、カナン様の身体が微かに跳ねて、熱い吐息を零す。
もう、ある程度、この方のの感じるところはわかるから、そこに指を伸ばして擦って差し上げると内壁が指をくいしめてくる。
「あ……やあっ……」
泣きそうな声でより強く俺にしがみついてこられる。
その反応があまりにお可愛らしくて、すぐにでも貫いてしまいたい衝動に駆られる。
が、それをなんとかこらえて指をカナン様の中から抜いて、耳元にささやく。
「……動けますか」
「うん……」
名残惜しそうに俺の首に回していた手を外し、少し下がって、俺のモノを手にし、ご自身の蕾に宛がう。
この光景はかなり興奮を高める。
そして、カナン様は息を一つつくと……そのまま体重をかけて、俺を奥深く中に飲みこんだ。
「く……んんっ……」
「う……あっ……」
ぞくりと突き抜けた快感に思わず声が漏れる。
上から包まれる感触はまた新鮮な感じがする。
その上……いつもよりも締め付けがきつい。
「……どう、動けばいい?」
「腰を上下に浮かせたり、回すような感じで……やってみてください。……できそうですか?」
「やって……みる」
ぎこちなく、試してみるように少しずつ動かれる。
決して、強い刺激ではないのだが、つたない動きでも一生懸命、自分の為に動いてくださっているということが、少しずつだが、確実に上り詰められていく。
……まいったな。
予想以上にこれは来るものがある。
何しろ、動かれるたび、お互いの繋がっている部分が見える。
視覚的な効果も大きいし、何よりカナン様が俺を思って動いてくださっているというのがひどく興奮を煽る。
「どう……だ? 気持ちいいか……?」
「ええ……いい……です。カナン様は?」
「うん、いつもと違う当たり方が……なんかいい……」
恍惚とした熱っぽい表情に、プツンとなにかが切れた。
「では、こちらからも動きますよ……」
「えっ……今日は……僕が動くのでは……ないのか?」
「この格好は別にどちらが動いても、かまわないのです。変化があってよいでしょう?」
「だっ……だが……」
「……私におまかせを。カナン様……っ」
「えっ……あっ……あうっ!!」
もう、激しく貫きたくて、声を聞きたくて。
下からカナン様を突き上げた。
ゆるやかな刺激だったのが、一気に激しくなったために、内壁がびくびくと震える。
そして、それはよりいっそう、俺を頂きへと向かわせる。
「かっ……カナン……様っ……」
「だめだっ……セレスト……っ、そんなにされたら……っ! も、もうっ……!」
鼻にかかった声で限界を訴えられ、俺は頷いた。
「いいです……よ。俺も……もうっ! くっ……」
「あうっ!」
さらに勢いをつけて、奥まで擦り上げて……一番深いところで達し、続けてカナン様も昂ぶりを開放された。
俺の胸の上や腹に暖かい白濁した液が飛び散る。
カナン様が脱力されて、前のめりになりそうなのを俺が何とか支えて、その時にカナン様も気がついた。
「う……わっ、すっすまん。汚してしまって……」
「いえ、大丈夫です。ただ、このまま抱きしめたら、カナン様も濡れてしまいますから……」
そう言って、手近の拭くものを探そうとしたら、カナン様はかまわずにそのまま俺に抱きついてこられた。
カナン様の髪の香りと精液の少し生臭い香りが混じる。
「カナン様」
「いい、構わないから……少しの間、こうさせてくれ」
「はい……」
カナン様の髪を撫でているとふいにカナン様がお顔を上げられた。
「そういえば、セレスト」
「はい?」
「お前、さっき『俺』とか言わなかったか?」
「言いましたか?」
わからない。
無意識のうちに言ったか?
「ああ。お前は普段『私』ではなく、『俺』なんだろう?」
「……すみません」
「なんで、謝る。寧ろ少し嬉しいくらいだったのに」
「え?」
「だって、お前は……僕たちの本来の立場から考えても、どうしようもないというか、癖になっているのはわかるが、僕とこういう関係になっても、言葉遣いは変わらないだろう」
「ああ……それはまぁ」
「普段、お前が別に僕に対して、本音を出していないとかそういうのではないのは、十分わかっているが、なんとなく、な。……だから、ちょっとだけ、お前が不意に出た言葉が嬉しかったというか……その……」
「カナン様」
少し、照れながらもそうおっしゃるこの方が本当にお可愛らしくて。
そう思った途端、つい反応し……まだ、自分がカナン様の中にいたままなのを思い出した。
カナン様も当然、反応に気付かれたようだ。
「…………セレスト」
「すっ、すみません。……つい、お可愛らしいと思ってしまいまして……」
「……可愛いというなと言ってるだろうが」
だけど、ごく軽く頭を小突いただけだった。
「もう、一度……その……」
「お前というヤツは」
「ダメ、ですか?」
今なら、まだなんとか抑えられるのだが。
「……ダメなわけないだろう。バカものが」
そうやって、キスをねだってきたこの方に遠慮をするのはやめにした。
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