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忠誠と誇りとただ一つの情熱を<PERSIOM・クロア×マルグリート>

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昔発行したPERSIOM本から。クロア騎士EDでも出て来たクロア終末絡みの話。

クロアのEDはどれも好きですが、主従カプスキーなので騎士EDが一番好きです。 

騎士としてマルグリートの傍にあることを選択したクロアと女王になりながらもクロアに操を立てて生涯独身を通したマルグリートの切なさが堪らない……。

初出:2002/08/11

文字数:3869文字

 

我が身はペルシオンに忠誠を誓った。 

生涯をかけて、この国の為に尽くして生きると。 

されど、この心は唯一人に捧げた。 

我が君マルグリート様。 

全てを掛けてお守りする、誰より何より大切なお方。 

あの方のお傍にあることこそが、私の存在意義であり、誇りであった。 

若き日に、神前で剣に誓いをたてたあの時から、騎士として仕え、深く結ばれた時より、一人の人間として貴女に接してきた。 

例え、死が訪れようとも、私は貴女を……貴女だけを。 

 

行けますか?  

 

私は……僕は。 

 

再び、貴女のところに行けますか? 

 

*** 

 

「………………でございますから……おそらくは……今夜……」 

「……そうか……もう……」 

 

微かな意識の中で、医師と陛下の話される声が聞こえた。 

全ては聞き取れなかったが、もう自分は長くはないという事だろう。 

そう、とうに解っていたことだった。 

マルグリート様がお亡くなりになってから三年近い。 

これでようやく私もあの方の御許に行くことが出来る。 

あの方を失ってからの三年は、酷く空虚なものだった。 

生きてきた期間より長く感じたことさえある。 

僅かに開けていた目を閉じて、ふと遥かな昔に思いを馳せた。 

初めて、遠巻きにマルグリート様を拝し、騎士を目指したこと。 

初めて、直接お会いすることが出来た時のこと。 

念願の騎士になれ、マルグリート様の前で誓いを立てた時のこと。 

そして初めて……肌を重ねた時のこと。 

まだ、何もかもが昨日の事のように鮮明に思い出せる。 

あの方の笑顔も、声も、仕草も、髪の香りも、肌の感触も、温かさも。 

全て忘れようはずもない。 

あの方が私の全てだったのだから。 

今だって、死ぬことに恐怖を感じていない。 

マルグリート様を失った時を思えば、寧ろほっとさえしていると言ってもいい。 

ペルシオンは良い国だ。 

マルグリート様の跡を継がれた現陛下は、聡明で本当に民を思いやることが出来るお方。 

マルグリート様と同じ血を継いでいらっしゃるだけあって、良く似ておいでだ。 

不敬ながら……息子のようにさえ思ってきた。 

あの方が治める限り、この国は大丈夫だ。 

あんなにお小さかった方が、今ではとても頼もしく感じる。 

…………ああ、こういうのを走馬灯のように、というのだろうか。 

 

マルグリート様。我が君。 

貴女は私がお傍にいくのを許してくださるでしょうか。 

タナトスの剣を携え、王城に戻り選択を迫られた時。 

貴女は心の底では私が王となる選択を望まれていらしたかも知れない。 

けれど、私は王の器などではなく、伴侶として共に国を治めることは、恐れ多くて出来なかった。 

そして、国に必要とされている貴女を攫って自分一人のものにしてしまうことも。 

あの時の私に出来たのは……国を支える貴女を支えること。 

お傍で全力でお守りすることだけだった。 

だけど。それは本当に正しい選択だったのだろうか。 

伴侶になれぬという私を思い、貴女は即位の時に神に生涯独身であることを誓った。 

誓わせたのは私だ。 

……幸せを奪いはしなかっただろうか。 

 

――…………さん。………………クロ…………さ………… 

 

ふと、呼ばれたような気がした。 

優しく温かい、とても懐かしい声に。 

あの方なわけはない。 

ないはずだと思いながらも、他に考えられない。 

私があの方の声を間違うわけがないのだから。 

信じられぬ思いで目を開けた。 

 

「……クロアさん」 

 

初めて直接お会いした時の少女のお姿と呼び方で。 

……マルグリート様が枕元にいらした。 

 

「……マ……ルグリート……様…………?」 

「はい。……ようやくお会い出来ましたね」 

 

あの頃と変わらぬ微笑みは確かにマルグリート様だ。 

だが……。 

 

「私は、夢を……見ているのでしょうか…………?」 

 

この方が、このお姿で。ここにいるはずはないのに。 

夢なのか、それとも神が最期に起こして下さった奇跡なのか。 

この三年の間、ずっとお会いしたくてたまらなかった方が目前にいる。 

 

「どうでしょう。夢かも知れませんし……現実かも知れません」 

 

マルグリート様が私の手を掴んでご自分の頬に持っていかれる。 

温かくて柔らかな……懐かしい肌の感触が伝わってきた。 

 

「…………! お会い……お会いしたかったです……!」 

 

たまらず身を起こし、マルグリート様を抱きしめた。 

全身で心地よく、温かい感触を感じ、いつの間にか自分もあの頃の少年の姿になっていたのに気付く。 

夢だろうと幻だろうと構わない。 

マルグリート様が今目の前にいてくださる。 

それだけで十分だった。 

 

「私もです。……ずっと、ずっとお会いしたかった」 

 

そう言われるだけで、泣けてしまいそうなほどに切ない感情が胸を焦がす。 

少し高めの落ち着いた響き。 

この声をどれほど聞きたかったか。 

 

「置いていってしまって……ごめんなさい。やっと……迎えに来ることが出来ました」 

「マルグリート様……」 

 

――置いていってしまうことになって……ごめんなさい、ね……。 

 

マルグリート様がお亡くなりになる直前。 

親族に混じってお傍にいることを許され、僅かな時間だけ二人になれた時に、やはりこの方はそう言った。 

か細い弱った声で。 

 

――……いえ、私が先に逝ったのであれば、やはり貴女を悲しませたでしょう。 

……これで、よかったのかも知れません。 

私は貴女の傍に最期までいられますから。 

 

本当にそう思った。 

失った後の引き裂かれそうな心の痛みも、あの方にこんな思いをさせなくて良かったと思った。 

だけど。 

この方も胸を痛めながら逝かれたのだろう。 

僕を置いて、一人旅立っていくということに。 

 

「私と一緒に……来てくださいますか?」 

 

マルグリート様のお顔は少し強張っていて、遠い日の騎士の誓いの場での表情を思い出させられた。 

……どうか、そんな表情をなさらないでください。 

 

「貴女の行く所なら何処へなりと。……もう二度と離れはしません」 

 

そう、枷はもう何もない。 

国も立場も身分も。 

唯二人のみで在れるなら、何を考えることがあるだろう? 

顔を綻ばせたマルグリート様に自分も自然と笑みが零れる。 

 

「離さないで下さい。……クロアさん……私はあ…………」 

 

話を続けようとしたのを遮り、こちらから話し始めた。 

 

「……僕から言わせて下さい。何十年と言いたくても言えなかった言葉を今……言いたいんです。 

マルグリート様。愛して、います。貴女だけを何よりも」 

 

この一言が。これだけのことがずっと言えなかった。 

公ではあくまで主君と仕える騎士。 

私的な場でも口に出すのは気に咎めてしまって、言うことは出来なかった。 

……だけど本当に長い間、言いたくてたまらなかった言葉だった。 

 

「……私も愛してます……! 貴方だけです!」 

 

より一層きつく回された腕に応える様に、強く抱きしめた。 

ずっとこうしたかった。 

遠慮も気兼ねもなく、口付けを交わして、抱きしめ、交わり……。 

幸せな意識の中に溶け込むように、マルグリート様以外の全てが霞んでいった……。 

 

*** 

 

なるべく音を立てないように気遣いながら、一人の男がクロアの寝室に静かに踏み込む。 

先代マルグリート女王の跡を継いだ、現国王だった。 

彼にとってクロアは先代から仕えていた臣下の一人ではあったが、一人の人間として、幼い頃からの尊敬の対象でも有り、色々と導いてくれたいわば師匠のような存在でもあった。 

唯の主従というに留まらない騎士の様子が気がかりで、密かに見に訪れたのだった。 

状態を確認しようと騎士の枕元に近づいた時に……静か過ぎるその場から、もう彼がこの世の住人ではなくなってしまったのを悟ってしまった。 

クロアが息を引き取る瞬間、傍にいられなかったのを王が悔やみかけたその時。 

枕元に癖のない長い桃色の一筋の髪の毛を見つけた。 

敬愛していた先代のマルグリート女王と同じ色の髪。 

信じられないことではある。 

だけど理屈でなく、王は信じた。 

 

「……叔母上。お迎えにいらしたんですね」 

 

決して、公にすることは出来なかったが、彼がただ一人女王の大切な伴侶であったことを、本当は誰もが密かに知っていた。 

王の記憶にも鮮明な優しい微笑みで迎えたのだろう。 

安らいだ表情からは苦しみは窺えなかった。 

 

「お邪魔をせずに良かったかも知れませんね。貴方に長年の礼を言いそびれたことは残念ですが」 

 

王はまだ体温の残るクロアの左手を取って、薬指にその髪の毛を巻きつけ、手を胸の上で組ませた。 

 

「……ゆっくりとお休み下さい。貴方がたが永久の安らぎに包まれんことを……」 

 

どうか、今度こそ誰の目も気にせずに。 

心の底からの祈りを籠めて呟き、部屋から退出した。 

丁度その日が、先代マルグリート女王の命日であったことを、王は僅かの後に知る。 

そして、王の計らいで騎士は先代女王の隣に埋葬され共に眠ることとなった。 

現世では公の伴侶となれずとも、生涯を閉じた後の伴侶であれば、神もお許し下さるだろうとの王の言葉に反対するものはいなかった。 

 

*** 

 

空がとても高く、良く晴れた日。 

ペルシオンの歴史はまた一ページ繰られた。 

真実はいつしか伝説に姿を変えて、後の世に繋がっていく。 

本人達がいなくなっても、血は繋がり、約束は繋がり。 

消えない絆の中でそれぞれが自分達の物語を綴る。 

誰もが持つ情熱。世界は続いていく。 

何かを何処かに残しながら。 

 

 

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