2003年の夏コミで発行した無料配布本から一部抜粋して、サイトのWeb拍手に使っていたもの。
擬似親子やら、擬似兄弟やらに昔から弱いのがよく分かる話(笑)
フィーメにとって、マーティスが親であり恋人であり絶対の人っていうアレがもう!
マーティスがフィーメに三つ編み教えて、自分とお揃いにさせているんだろうなぁと妄想。
初出:2003/08/17
文字数:1669文字
「ご主人様、起きていらっしゃいますか?」
「はい。起きていますよ、フィーメさん。お入りなさい」
部屋の中には、既に着替えは済ませた状態のマーティスがにこやかに立っていた。
ただ、髪だけは結わずに、起きた直後のまま。
癖のないブロンドの長い髪が、窓から入り込む朝日に照らされ輝いている。
「おはようございます。ご主人様」
「おはようございます。フィーメさん。じゃあ、今日もよろしく頼みますよ」
「はい、失礼いたします」
マーティスの髪を結うのは、フィーメの朝一番の仕事だった。
彼はどんなに早く目が覚めたとしても、自分で髪を結う事はしない。
フィーメが結ってくれるのを待っている。
他のメイドたちも決して結わない。
フィーメにしかやらせない仕事だ。
その日もいつものように、マーティスが鏡台の前に座ったところを、フィーメが髪を梳き、結い始めたところまではいつもと一緒だったのだが。
「……なんかつまらないですねぇ」
「はい?」
ふと、養父が呟いた言葉にフィーメの手が止まる。
言葉の意味がわからず、首を傾げると、マーティスは苦笑いを浮かべた。
「私の髪はいつも結ってくれるのに、フィーメさんは自分の髪は結ってからここに来てしまうから、私が結うことはなくなってしまったんですよ。それって寂しくありませんか?」
かつて、幼いフィーメに三つ編みのやり方を教えたのは、他ならぬマーティスだ。
フィーメが幼少の頃に、ずっと髪を結っていたのも彼。
マーティスとフィーメの髪を結っている赤いリボンにしても、元は一つのものを切り分けたものなのだ。
同じ赤いリボンと揃いの三つ編みは、そのまま自分たちの特別な絆を表しているのだと、マーティスはそうフィーメに告げてある。
素直な養女は以来ずっと髪を伸ばし、三つ編みにして赤いリボンで結わえていた。
それはマーティスのメイドの中でたった一人、赤子の頃から育てられた娘にとっては密かに嬉しく、また誇らしくも思っていることだったが、他のメイドたちの手前、普段はその喜びを表に出すことはしていない。
いや、メイドたちの前だけでなく、養父であるマーティスに対しても、だ。
「それは……私は今はもう自分で結えますし、ご主人様の手を煩わせるわけには……」
だから、フィーメの返した言葉はそんな風になったのだけれども。
「そうなんですけどねぇ……うん、決めました。フィーメさん」
「はい? えっ……あ!」
マーティスがフィーメの赤いリボンで結わえた髪の束を手にすると、勢い良くリボンを解き、軽く手櫛で彼女の三つ編みを緩めてしまう。
空色の髪が靡いて、甘い香りが辺りに微かに漂った。
つい、呆気にとられてマーティスの結いかけの髪を手放してしまったフィーメに、マーティスは優しく微笑む。
「今日は、貴方が私の髪を結ってくれた後に、私も貴方の髪を結って差し上げましょう。
うん、それがいい、決めました」
「あっ、あのっ……自分で出来ますからっ」
フィーメの遠慮した言葉に、マーティスはあからさまに拗ねた表情になった。
面白くない、と言わんばかりの視線に、フィーメがたじろぐ。
「……そうですか。フィーメさんはただ髪を結ってあげたいという、お父さんの細やかなお願いも聞いては下さらないんですね。ああ、いい子に育ってくれたのはいいんですが、いい子になりすぎてしまいましたかね。たかが三つ編み一つ結わせてもくれないほど、お父さんに遠慮してしまうなんて……」
「あ、いえ……あの…………そういうわけでは……」
「……結わせて下さいますね?」
いいえと言わせるつもりはないのだろう。
フィーメの出方を確信しているような笑みを前に、フィーメは溜め息と共に白旗を上げた。
「……ご主人様はずるいです」
「はい、知ってます」
「だけど、それでも私は大好きです」
「はい、それも知ってます。私も貴方が大好きですよ。……愛しい私の養い子」
そう言うとマーティスはフィーメの髪を一束とって、その束に軽く口付けた。
タグ:アリスソフト, DALK外伝, マーティス×フィーメ, 500~3000文字, 同人誌収録済, pixivUP済