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追憶に揺れる焔<戦国ランス・風×林(リバ要素有)・R-15>

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以前、アリスソフト2次創作Linksで開催していた、嘘予告祭に投稿したものです。

限りなくマイナー路線と思われる風×林(リバ要素有)。

初出:2007/10/17

文字数:8759文字

 

「失礼、義風殿。次の城攻めについて少々伺いたい旨が……。おや、これは出直した方がよさそうですな」 

夜も大分更けた頃。 織田城内の義風の部屋に透琳が訪れた時、室内には先客で鈴女の姿があった。 
酒とつまみを前に和気藹々と談笑していた様子だったので、邪魔をしたかと透琳は軽く会釈をするに留め、部屋に踏み込みかけた足を引く。
が、彼が立ち去ろうとしたところで、義風が声を掛けた。  

「いえいえ軽く酌み交わしつつ雑談していただけですから、大丈夫ですよ~。貴方もよければ一緒に飲みませんか~? 酒も結構残っていますし、杯もほらここに」 
「……どなたか他に来られる予定なのでは?」  

酒が入っている杯は二つ。義風と鈴女の分と思われるもの以外に、全く使った様子のない杯が一つ、酒瓶の傍に置いてあった。
つまみ用の取り皿と箸もやはり三人分揃えてあった為、透琳が気掛かりに思って訊ねると義風が軽く首を振って答える。 

「ん~、最初はきく殿も一緒に飲む予定でつまみも一通り作ってくれたんですけどね~」
「いざ三人で飲もうとした時、ランスに屋敷に来いと呼ばれたんでござる。多分、今夜はもうこっちには来られないでござるよ」 

きくが来られない理由は考えるまでもなかった。深夜に差し掛かるような時間に女を呼び寄せるというのは、少なくともランスが相手の場合、何が目的かなんて明確だ。
見れば、酒もつまみもまだ十分な量が残っている。急ぎの用でもないし、義風に聞こうとしていた話なら、明朝、武術鍛錬のついでに訊ねても差し支えない。それなら酒やつまみを無下に余らせることもあるまいと、透琳は義風の左隣に腰を下ろした。 

「なるほど。では、お邪魔いたす」 
「ういうい」 
「はいはい~。皿と箸も置いておきますよ~」 
「かたじけない」 
「ささ、ぐいっといくでござるよ」  

鈴女が空いていた杯を透琳に差し出し、彼がそれを受け取ると続いて義風が酒を注いだ。
二人に軽く目配せしてから透琳が酒を呷ると、少し辛口の酒が品の良い香りと共に喉を滑り落ちていく。予想していた以上に己の好みに合った酒に、透琳が僅かに口元を綻ばせた。  

「む……美味い。これは尾張の酒ですかな?」
「信長様が好んでいた銘柄の酒でござるよ。ランスは甘口の酒を好むので、信長様が居なくなってからは蔵の酒があまり減らないと3Gがぼやいていたのを鈴女が貰って来たでござる」 

そう、誇らしげに鈴女が言えば。 

「で、彼女が酒瓶抱えて喜色満面で歩いてるところにばったり会いまして~。その量を独り占めするのは、いくらなんでも勿体無いんじゃないかと」
「なら、一緒に飲もうという事になったんでござる。そいでもって、飲むからにはやっぱりつまみも欲しいと、二人で厨房に行ったところ、きく殿がいたんでござるよ」
「酒盛りに混ぜるから、つまみ作ってくださいと頼んだんですよね~。結局、飲む前に彼女はいなくなってしまったんですが~」 

義風がそれに続ける形で、二人が飲むに至った流れを透琳に教えた。 

「そういう事でしたか。うむ、つまみも美味くて酒が益々進みますな。流石はきく殿。料理の達人の噂に違わぬ腕前だ」
「美味いだけではなく、作り方も手早くて。それはもう見事でしたよ~」
「三十分待てと言われて待ってみたら、何種類もつまみが出てきてびっくりしたでござる。あれはもう神業の域でござるよ」 

酒が好みの味でつまみも美味いとくれば、飲むペースは自然と速くなる。透琳が幾つかのつまみに手をつけた時点で、杯は空になっていた。手酌で二杯目を注ごうとした所を、義風が気付いて酌をする。 

「ふふふ~。あなたが好みそうな酒じゃないかと思ってました~」
「お見通しか」 
「まぁ、いい加減付き合いも長いですしね~。そりゃ見当もつくってものでしょう~」 
「ん? 二人は知り合って結構長いでござるか?」  

元々はどちらも武田軍に所属していた事を思えば、多少付き合いが長くなるのは当然だろうが、返って来た言葉は鈴女の予想以上だった。 

「かれこれ三十年経ちましたな」 
「あれ、もうそんなになりますか。……お互い歳を取るわけですね~」 
「わお。そりゃ、長いでござるな!」 
「……私が武田に仕える事になったのは、義風殿の口利きがきっかけでした。当時はまだ元服もしておらず、右も左も解らぬ私に色々教えてくれたのも義風殿で」 

過去に想いを馳せているからか、透琳の表情が柔らかくなる。
今はもう多少の年齢差は気にならなくなるような世代になったが、二人が出会った頃は十二歳の少年と二十歳の青年で、埋められない経験の差というものがどうしても存在していた。
透琳は歳相応の子ども達よりは大人びいていたが、当時は八つ年上の義風の背を追うばかりだったような覚えがある。多少でも義風と同等の位置に立てたと思えたのは透琳が二十代に差し掛かり、武田家中で軍師としての地位を揺るがぬ位置まで築き上げてからだったかも知れない。
義風も穏やかな笑みで杯を口に運びつつ、呟いた。 

「いやはや、何とも懐かしいというか……。まだ武田が、貝、信濃周辺に数多とあった小国の一つに過ぎなかった頃でしたね~。当時の透琳は、同世代の子に比べると大人っぽくて賢かったのですが、それでいて妙に擦れたところのない、素直な可愛らしい子どもでしたよ~」 
「ほほー」 
「……ただの世間を知らぬ若造だっただけです。様々な事を覚えなければと必死だった」 
「ふふふ、色々教えましたよね~。あなたは飲み込みが良いから楽でした~。軍での立ち振る舞いとか、酒の飲み方とか、色事のいろはとか」 

義風はさりげなく言っただけだったが、鈴女がそれにぴくりと反応した。 

「色事も!? ……むむむ、透琳殿の色事の師匠が義風という事は……まさか義風だけじゃなく、透琳殿のちんちんもおかしいでござるか!?」
「……………………一体何の話ですかな」  

くのいちとはいえど、一応はうら若き女性であるはずの鈴女の口から出た、あまりにも直接的な単語に透琳は危うく酒を吹き出すところだった。
が、義風と鈴女の間で何かあったのだろうと瞬時に察し、義風に鈴女の言葉の意味を説明しろと言わんばかりに睨み付ける。睨まれた義風は顔に一瞬だけ苦笑いを浮かべたが、直ぐにいつも通りの飄々とした笑みに戻した。 

「おっと、口が滑りましたね~。後が怖いのでやめておきましょう~。まぁ、色々当時教え込んだのは確かですが、透琳は普通ですよという事で~」
「そんな誤魔化すような言い方されたら、余計気になるでござるー! こんな顔して透琳殿もやるでござるか!? どんな事を教え込まれたんでござる?」 

こんな顔とはどんな顔なのか。
興味深々といった様子で目を輝かせる鈴女に、透琳はどうしたものかと相手に気付かれないよう溜息を吐き、義風はただ笑って杯を置いた。 

「鈴女」 
「ん?」 
「じゃ~んけん」 
「ぽんでござ……って、しまったでござる!」  

おもむろに差し出された義風の手と言葉。つい、反射的にじゃんけんに乗ってしまった鈴女は、例によって義風にあっさりと負けた。
チョキの形にした指を嬉しそうに開閉させる義風とは対照的に、鈴女はパーの形のままに開いた手を床につけ、がくりと項垂れる。  

「ふふふ、この先が聞きたければ私にじゃんけんで勝ってからって事で~。勿論、透琳に問い質すのも無しですよ~」
「ずるいでござるよー! 義風のケチー!!」  

そんなやりとりに透琳は密かに安堵する。色事の話そのものは苦手なわけではないが、自分に関わる話となれば別問題だ。
義風は透琳について知っている事が良くも悪くも有り過ぎるので、何を言われるか解ったものではないし、何よりどういう顔をしたらいいものかも解らない。
それぞれが相手に対して持ち得る情報はお互い様ではあるはずだが、色事関連についてはどうにも分が悪いと透琳は自覚している。 

(付き合いが長いというのも考えものかも知れぬな) 

とはいえ、今更付き合いを止める気も全くないのだが。それは恐らく義風も同じだろう。
一度は武田が陥落した際に袂を別ったとはいえ、基盤にある思いはお互い変わったわけではない。  

JAPANを統一し、戦乱の世を終結させ、この地に平和を。  

再び同じ軍に所属し、共に戦場を駆けるようになった今、恐らくはどちらかの命尽きる日まで、顔を付き合わせる事になるだろうと予想がつく。 

――義風。透琳を次の出陣の時までに仕込んでおけ。 

不意に透琳の脳裏に蘇った、当時の武田宗主の言葉。もう、顔もはっきりとは覚えていないが、低くよく通った威厳のある声だけは今も忘れることはない。 
武田は他国に比べて女性武将が少ない国だったが、昔はもっと少なかった。男性は戦いの場へ赴き、女性は留守を預かり家を守るというのが、武田家中で基本概念としてあり、如何な理由であろうと戦う事の出来ない女性を戦場につれていくのはよしとせず、衆道の習慣が残っていた。
軍に入ったばかりの若者が先達に性の手解きをされる事はごく普通にあったし、かといって、性嗜好が同性一辺倒になることもまれで、戦場では同性との行為に耽りつつも、一旦戦場を離れると妻や恋人等女性との行為をというのが一般的だった。
義風や透琳も例外ではなかった。例外ではなかったが――。  

「透琳、透琳。起きてますか~?」
「……っ!?」  

ぺちんと額を叩かれた感触に透琳が我に返ると、義風が透琳の顔を覗き込んでいた。鈴女も訝しげに透琳に視線を投げかけている。
どうやら少しの間、過去の思考にはまりこんでしまっていたらしいと気付いて透琳が苦笑を零した。  

「いや、失礼。つい考え事をしていたようで」
「昔のことでも考えていたでござるか? ……むー、やっぱり気になるでござるなぁ」 
「ははははは。人の過去を詮索するのは無粋というものですよ、鈴女~」  

再び、場が賑わい始めたその時。 
ポーンと低く、日付の変更を知らせる鐘が部屋に鳴り響いた。織田城では昼の十二時と夜の十二時の日に二回、時間の目安として鐘が鳴るようにしてある。特に消灯時間と定められているわけではないが、この夜の十二時の鐘を合図に就寝するものも少なからずいた。 

「む……もうこんな時間でしたか」
「おっと、鈴女はそろそろ行くでござるよ。ランスの屋敷周辺の見張りをかなみ殿と交代してくるでござる」 
「そうですか。お疲れ様~」 
「お疲れ様です」 
「まだ二人は飲むでござるか? それともお開きにするでござるか?」  

透琳はちらりと酒の残量を確認し、次いで義風の表情を窺う。義風が頷いたのを確認してから、鈴女に向き直った。 

「もう少し飲んでいく事にします」 
「だそうです~。というわけで後片付けはお気になさらず~」 
「ういういー。後は任せたでござる。また皆で飲もうでござるよ。じゃ、お休みでござるー。ににんにん」  

それでも、行くついでに自分で使った杯と取り皿、箸ぐらいは先に片付けておこうと思ったらしく、鈴女はそれらを素早く重ねると止める間も無く、自分の頭上に乗せて、物音一つ立てずに去っていった。 

「ふ……ふふっ……」 

彼女の気配が付近から完全に無くなってから、不意に義風が笑い始めた。どうやら、鈴女が居なくなるまでは笑うのを堪えていたらしい。 

「ふふふ……何を思い出してました~? さっきは完全に心此処に在らずといった感じでしたよ~」 
「元はあなたが妙な話題を持ち出されるからです」  

可笑しくてたまらないといった具合に笑い続ける義風と違い、透琳の方は軽く溜息を吐き、少々むっとした顔で杯に残っていた酒を一気に飲み干した。 

「私の所為ですかね~。あれって」
「きっかけはあなたにあったのではありませんかな。彼女におかしいと言わせた理由が」  

不機嫌な表情のまま、透琳が再び酒を杯に注ごうと瓶に手を伸ばした所で、義風が瓶を取り上げる。
その動作に益々眉を顰めた透琳の顔を義風は愉快そうに覗き込んだ。  

「おや。もしかして嫉妬でもされてますか~?」 
「いえ、それは全く」 
「こういう時は冗談でもしていると返してくれた方が嬉しいですけどね~。せっかくなんですから、のって下さいよ~。無駄に真面目なんですから~」 
「……………………」  

本気か演技かは解らないが、義風が寂しげにそう呟きながら透琳の杯に酌をした。ついでに自分の分の杯にも酒を追加し一口含む。 

「まぁ……妙な流れになった原因には確かに心当たりがありますが。鈴女と私が何度じゃんけんしても、彼女は私相手には勝てないって話はした事ありましたよね?」 
「ええ」  

義風が織田軍に与するようになった当初、鈴女の方が少し距離を置いていたのを透琳は疑問に思っていた。
JAPANの忍びは流派問わずに結構交流があるので、割と皆が顔見知りになるのだという話を聞いた事があったからだ。
軍師の立場から考えると、そういった事が戦いの上で影響しないかどうかが気掛かりだったので、理由を訊ねたら、単にライバルだからだろうと教えてくれた。
事実、距離を置いていたのは最初だけで、やはり忍びは忍び同士で通じる所はあるらしく、今は二人で酌み交わす事もあるというのは今夜の流れでも明白なので、心配するような事ではなかったのだが。 

「で、勝てないのは男心を知らないからだと彼女に言ったら、先日、男子寮に忍び込み、武者修行と称して男達を昇天させようとしてたんですよ。男心を知る為にという理由で」
「それは……また極端な事を」  

透琳は内心、じゃんけんに男心がどうのなど持ち出したからそんな暴挙に出たのだろうと思いはしたが、口は挟まずに先を促す。 

「男心というのは、そんなものではないと止めたのですが納得出来ない様子だったので、それならまずは私の男心を掴んでご覧なさいと色々やらせてみたんですよ。で、私の方が全く反応しなかったので~」
「……結構。もう解りました」  

半ば呆れた様に透琳が会話を切り上げた。
義風は常人では考えられない位に、性欲の制御が出来るというのを透琳は知っている。抑える事も昂ぶる事も自由自在なら、普通の人と同じ様に本能の任せるままにというのも可能らしい。
実は本能と切り離された全く別の器官だと言われても納得してしまいそうだ。忍びの中でも特異な域だろうと、かつて本人が誇らしげに語っていた事がある。 

――色事は忍びの務めですからね~。切り替えが素早く出来るのは何かと好都合でしょう~。 

透琳は少しだけ鈴女に同情する。おかしいと思っても無理は無い。透琳とて知った最初はおかしいと思った。義風の感覚が反則なのだ。制御の仕方次第では、どれだけ彼女がくのいちの技を駆使しようと暖簾に腕押しとなる。
とは言っても、それが義風の手管の一つなのだし、透琳が口を挟むことでもない。同じ忍び相手に、義風が自分の手の内を明かすような事もしないだろう。透琳が知ったのだって、偶然に偶然を重ねた結果でそれがなければ知らないままだった可能性がある。
結局、鈴女がくのいちとして自信喪失する事さえなければいいかと、透琳は自分の中で結論づけてしまった。  

「ああ、鈴女殿といえば……ランス殿の屋敷周辺の見張りに行くと言われたが、あなたはやらなくてよいのですか?」 

義風も透琳同様、織田陣営に加わる形になってからしばらく経つが、彼の口から見張りについての話は聞いた覚えが無い。
忍者としての役割という訳ではないのだろうかという透琳の疑問は、次の瞬間にあっさりと解けた。  

「ん~? ああ、あれは女忍者だけの任務ですから~。ランス殿曰く、男に見張られてたら勃つものも勃たんし、3Pも持ちかけられないような男の見張りなんぞいらん!……だそうで~」 
「ランス殿らしいですな」 
「ですね~。その分、戦場で働けっていうことでしょう~。その方が私としても都合がいいですし~。こういう事も出来ますから」 
「ん?」  

不意に手にしていた杯を義風に取り上げられたかと思えば、そのまま、肩を押され、床に倒され。あっという間に透琳は義風を見上げる格好となった。 
透琳の肩を押した手はそのまま襟元から入り込んで、指先が鎖骨に沿って撫でるように触れる。動きが意図するところを察しても、透琳は義風を止めなかった。 
義風にも透琳にもそれぞれ妻はあるのだが、戦場ではない場所でも二人が行為に及ぶ事は何度もあった。
気紛れと呼ぶには首を傾げ、恋慕と称すかと言えばそれも違う。ただ微温湯に揺蕩うような心地良さを時折求める、そんな関係だった。
歳を重ねるにつれて、身体を重ねる機会は少なくなっていったが、若い時はそこそこ頻繁だったと言ってもいい。
不思議と波長が合ったのか、目の前の相手と戦場以外でも肌を合わせる事に嫌悪や反感を抱いたことはなかった。
だから、今も。透琳は穏やかな目をして、義風を見上げるだけ。 

「……酔いが回られたか」 
「ん~、懐かしい事を色々思い出していたら、久しぶりに触りたくなりましてね~。あなたはどうですか~?」 

一見、普段と変わらずに見えるのに指先から伝わる熱は既に高い。  

――『お館様』に命じられたという形ではありますが、私は嫌ではありませんよ~。あなたはどうですか~? 

三十年近く前に同じ相手が発した言葉が、透琳の意識の中で重なる。
当時の武田宗主は殊に男色を嗜み、透琳の初陣の際に自分の相手が出来るようにと、既に寵愛していた小姓の一人だった義風に色事を仕込むように命じた。
抱かれるだけではなく、抱く方も知っていた方が色々と解りやすいという義風の意見で、一ヶ月程は夜毎に教え込まれた。抱く方も抱かれる方も、様々な性技と共に。
そうして、一通り覚えた後も――二人は何とはなしに交わり続けた。その折々で役割を入れ替えつつ。 

「どちらをご希望ですかな」 

誘いをかけた方の希望に沿うのも既に暗黙の了解だ。
身体の状態に多少左右される事はあっても、基本的にはどちらだろうと構わないから。 

「今日は挿れたい気分ですね~、どちらかと言えば」 
「……いいでしょう。酒が入っているので少々反応が鈍るのが構わなければ、ですが」  

それでも、疑問に思った日々もあった。 
義風は性欲の制御が自由自在に出来る相手だから、無理をさせているのではないのかと。
色事を覚えた頃の透琳は若さゆえに溺れかけ――恐れた。相手を傷つける事を。そして、自分が拒まれる事を。
が、疑問に対して得られた答えは透琳を安堵させた。無理をするような相手と私事で交わりたいと思えるほど、酔狂ではありませんね、と。
少し困ったように笑いながら返されて、引き返せなくなった。ある意味では完全に溺れてしまったのかも知れない。 

「構いませんよ~。お互いがっつくような歳でもありませんし、ダメそうなら、途中で止めてしまってもいいじゃないですか~」 
「それもそうですな。……解きますぞ」 
「はいはい~」  

義風が少し腰を浮かせると、透琳が手を伸ばして、義風の羽織紐、次いで袴紐の結び目を解いた。解かれると義風が身を起こして、手早く羽織と袴を脱ぎ、透琳と同じように着流しの状態となる。
義風は透琳の方の着物の裾を素早く割って、脚の間に身体を割り込ませ、再び、透琳の身体に覆いかぶさる様な形になる。肘で身体を支えつつ、義風はすっと透琳の顔の右側にある傷跡に沿って指を滑らせた。 

「酒は幾ら飲んでも顔色一つ変えない癖に、行為の時はここがほんのり紅く染まるんですよね~。あなたは」
「………………」  

指の後は唇が其処を這う。些細な刺激でしかないはずだが、焦らす様にゆっくりと上から下へと辿られて、透琳の身体が竦む。
声こそ漏らさなかったが、呼吸が軽く乱れ始め、一層強くなった酒の匂いに義風が笑う気配が伝わった。 

「部屋の灯りを……落としませんか」 

普段なら、そんな生娘のような事などまず考えない。だけど、今夜に限っては出会った当初の事を思い出していたのが拙かった。 
この男と仮に戦場で刃を交えたとしても、簡単に負ける気はしないが、一戦を交える場が閨となると……敵わないという思いが何処かに在る。 
そんな思いがいつにも増して強く出てしまうのは、追憶に耽ってしまった事と、気付けば随分久方振りとなった行為の所為かも知れない。
前に肌を合わせたのはいつだったのか。直ぐには記憶から辿れないほどに前なのは確かだ。
らしくない動揺を悟られたくない一心で透琳は相手に請うてみる。
せめて、見えなければ。見られなければ。少しは――。  

「……う~ん、お断りします」  

しかし、義風はあっさりとそれを拒否した。  

「『氷将』と謳われるあなたの眼に焔が灯るその瞬間を、久々に間近で見たいもので」 
「………………人が悪い」 
「ご存知だと思っていましたが? 今更何を」  

魂胆はお見通しだとばかりに笑いを含んだ声。  

(やはり、分が悪い、な)  

足掻きは足掻きで終わってしまった。 
既に焔の灯った眼に間近で射抜かれ、透琳は観念して身体の力を抜いた――。 

***

無敗神話の系譜~第一話:風が運んだ始まりの詩に続……く可能性は激低です。

 

せっかく投稿板があるのに、アリスブルー及びBL要素主題のSSがなかったのでつい手を出したのでした。
元来は武田軍の成り立ちに絡む話で、若かりし頃の風林火山がメインになる長編の冒頭だったのですが、 最初っから最後まで通して書く余裕が中々なさそうなので、嘘予告祭に出してしまった次第。
いつか、どうにかしたいと思っているのですが、私の書く二次創作の中でも飛び抜けて需要が皆無そうなのが何とも\(^o^)/
風林風は長編も含めて、ひっそり書きかけ状態のものがいくつか手元にあるので、頃合いみてポイピク&避難所に放り込んで行きたいところです。

 

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