2020/12/12に開催されたブラキス版ワンドロ&ワンライ第1回でのお題『正装』を使って書いた話です。
初出:2020/12/12 ※ブラッド視点は2020/12/14
文字数:4319文字
[Keith's Side]
ヒーロー、特に最上位の階級になるメジャーヒーローともなれば、【HELIOS】内の会合だけでなく、ニューミリオンの有力者たちと顔合わせする機会は多くなる。
普段ならせっかくの休みだってのに、昼にお偉方との会食の予定なんか入っちまった。
その予定のせいで夕べあんまり飲めなかったことを思うと、少し恨めしい気分になる。
こういうとき、【HELIOS】の制服だったら気も楽なんだが、ヒーローが制服だと余計な圧力を感じるだの何だの、先方から文句を言われることもあるらしく、たまに服装が指定されている時もある。
今日もそのパターンで、今回はディレクターズスーツを着用するように、なんてお達しが来てた。
スーツ自体、窮屈な感じがするからあんま好きじゃねぇんだけどなぁ。
「あー……めんどくさ……」
ネクタイを締めながら、そんな言葉が口をついて出たところで、ブラッドが小さく溜め息を吐いた。
「そうやって、お前がいつも面倒がるから、手伝いも兼ねて迎えに来ているんだろう。ほら、カフスボタンはこれを使え」
「へいへい……っと」
ブラッドがケースごと差し出してきたのは、オレが元々持ってるカフスボタンじゃない。
多分、ヤツの私物の一つだ。朧気だが見覚えがある。
まぁ、今日の服装に似合うからってことで貸してくれたんだろうから、大人しく受け取ったそれを身に付けた。
こんな時のコーディネイトは毎回ブラッドに任せてる。
特にフォーマルな場となると、ブラッドが見立ててくれた方がまず間違いねぇからだ。
とっくに自分自身の身支度はバッチリ終わらせているブラッドは、さすがのイケメンっぷりでいつまでも眺めていたいくらいだが、オレはといえばどうにも落ち着かねぇ。
それこそ、ヒーローになるまでフォーマルな場なんてもんとは無縁で過ごして来たから、何度経験しても場から浮いているような感覚が拭えねぇんだよな。
「キース。ポケットチーフはどこにしまいこんだ?」
「んー……前使った時にジャックに洗濯頼んで……戻ってきたのは覚えてるけど、あれ、どこやったっけな」
「貴様……私物の管理くらいまともにやれ。仕方ない。こっちも貸してやる」
予備として持っていたのか、それともこうなる可能性を予想していたのか、ブラッドは自分の荷物の中からポケットチーフを取りだして畳み、オレのジャケットの胸ポケットに差し込む。
数歩分オレから離れて、全身を確認したブラッドが満足そうに頷いた。
「よし。こんなところか」
「サンキュ」
自分でも鏡で確認してみるが、悪くない――と思う。
やっぱり、こういうのはブラッドに任せて正解だよな。
でも、ちょっとだけ首が窮屈な感じがするから、一番上のボタンだけこっそり外しとくかと指を伸ばしたら、その前にブラッドが気付いてオレの手を掴む。
「シャツのボタンは一つも外すな。だらしない印象になる。サイズ自体はちゃんと合っているんだし、首が苦しくはないはずだぞ」
「いや、そうだけどさ……どうしても首元緩めたくなっちまうんだよな」
普段から【HELIOS】の制服もキッチリ着ているブラッドと違って、オレは制服のシャツもボタンを外し、ネクタイも少し緩めているのもあって、こう首をしっかり覆っている状態っていうのが、どうにも落ち着かねぇし、好きにもなれねぇ。
部屋着や私服でも、首を覆うタートルネックをよく好んで着ているブラッドには、多分理解出来ねぇ感覚なんだろうけど。
「……ならば、数時間だけでも緩められないようにしてやるとしよう」
「は? それどういう意味……って、ブラッ……!」
ネクタイをすばやく解かれ、襟元のボタンをいくつか外されたと思ったら、ブラッドの頭の位置が下がり、首にブラッドの唇が触れて、肌を吸われた感覚に思わず背筋がびくりとする。
ブラッドが離れた途端に横目で鏡を確認すると、案の定、首にしっかりとキスマークがついていた。
「シャツで隠れるギリギリの場所だ。一つでもボタンを外せば見える。これで迂闊に首元を緩めたりは出来んだろう」
「お……っ前、やり方やらしいぞ!?」
「過去の経験上、お前に口で注意しただけでは大した効力がないのはわかってる。ならば、問答無用で実力行使にでた方が早い。準備も終わったし、そろそろ会場に向かうぞ」
「うぐ……」
口での注意に効き目が薄いというのは、そこそこ自覚があるだけに言い返せない。
オレのシャツのボタンをかけていき、ネクタイも元通りに締めたところで、ブラッドがシャツの上からキスマークがついたあたりをトントンと指先で叩く。
「会食が終わるまでに首元を緩めずに過ごせたら、他の場所にもつけてやろう。勿論、見えない場所にな」
涼しげな顔でそんなことを言ってのけるあたりが。
「ホント、お前って暴君だよな……」
別の意味で会食中は落ち着かないことになりそうだ。
ぼやいたオレに何とでも言えと返すブラッドは、やっぱり表情一つ変えていない。
コイツにゃ勝てねぇなぁ……と思いながら、さっさと歩き出したブラッドに続いて部屋を出た。
[Brad's Side]
朝、少しだけ仕事を片付けたところで、一度研修チーム部屋に戻り、着替えた。
今日は昼にニューミリオンの有力者との会食の予定が入っており、それには【HELIOS】の制服ではなく、ディレクターズスーツを着用しなければならなかったからだ。
今回会食に参加するのは、研修チームに所属するメジャーヒーロー四人。
ジェイやヴィクターは問題なく、時間に間に合うように到着するだろうが、キースは放っておけば気の抜けた格好で時間ギリギリの到着になりかねない。
ちゃんと身なりを整えれば見栄えもするのに、本人がそれを面倒がるものだから、ならばとこの手のことがある時には俺がキースの服を見立て、そのまま会場に一緒に向かうことにしている。
自分の身支度を一通り済ませたところで、自分では使わなかった小物を適当に選び、バッグに収める。
メジャーヒーローともなれば、フォーマルな場に出る機会はそれなりに多い。
キースも当然それはわかっていて、自分でも揃えてはいるのだが、だらしないところがあって、小物類をどこにしまいこんだかを自分で把握していないことがあるから、念の為に貸し出せるように用意しておく方が、ヤツのものを探し出すより時間の無駄がない。
ウエストセクターの研修チーム部屋を訪れると、ちょうどキースがディレクターズスーツをクローゼットから出しているところだった。
「お、来た来た。なぁ、シャツやスーツはこの辺で問題ねぇよな?」
「ああ。それでいい。ネクタイを確認するぞ。そうだな……今日はこれを合わせろ」
「はいよ」
キースの所有しているネクタイの中から選んだ、シルバーグレーのものを渡す。
キースが着替えている間に、ヤツがしまいこんでいるカフスボタンを確認した。
確か、今日の装いに合わせるのにちょうどいいと思っていたものがあるべき場所にない。
さては、またどこか適当な場所にでも置いたか。
ならばと、持ってきたバッグの中からケースに入ったままのカフスボタンを取り出す。
プラチナの土台にパールが埋め込まれたそれは主張しすぎず、だが、品の良い華やかさを演出してくれる。
そんなタイミングで、キースがぼやいたのが聞こえた。
「あー……めんどくさ……」
「そうやって、お前がいつも面倒がるから、手伝いも兼ねて迎えに来ているんだろう。ほら、カフスボタンはこれを使え」
「へいへい……っと」
面倒さのうち、半分程度はこちらで引き受けているつもりなのだがな。
後は胸ポケットに差し込むポケットチーフをと探すが、これがどういうわけか一枚も見当たらない。
確か二、三枚は持っていたはずなんだが。
「キース。ポケットチーフはどこにしまいこんだ?」
「んー……前使った時にジャックに洗濯頼んで……戻ってきたのは覚えてるけど、あれ、どこやったっけな」
「貴様……私物の管理くらいまともにやれ。仕方ない。こっちも貸してやる」
こっちも持ってきておいて正解だった。
白のポケットチーフを取り出し、形を整えてからキースのスーツの胸ポケットに差し込む。
キースから少し離れ、一通り確認して――仕上がりに満足した。
「よし。こんなところか」
「サンキュ」
やはり、身なりを整えると違う。
キースが普段はあまり身の回りのことに手をかけないこともあるのだろうが、それを差し引いても良く似合っている。
もう少し普段から身なりに気を配ればいいのにと思ったところで、そっとシャツのボタンを外そうとしていたのが目に入り、反射的に手を伸ばす。
「シャツのボタンは一つも外すな。だらしない印象になる。サイズ自体はちゃんと合っているんだし、首が苦しくはないはずだぞ」
「いや、そうだけどさ……どうしても首元緩めたくなっちまうんだよな」
キースは首を覆うようなデザインが苦手なのか、部屋着や私服は勿論のこと、【HELIOS】の制服に至るまで、首元を緩めていた。
いつもならそれで構わないが、フォーマルな場で同じようにされると、せっかくの正装がだらしなくなるだけでなく、面倒な方面からクレームが入る可能性がある。
だったら、強制的にそう出来ないようにしてしまうのが一番だ。
「……ならば、数時間だけでも緩められないようにしてやるとしよう」
「は? それどういう意味……って、ブラッ……!」
キースのネクタイをすばやく解き、襟元のボタンをいくつか外して、あらわれた肌に口付け、強めに吸う。
身動いだキースには構わず、痕が残ったことを確認してから離れた。
「シャツで隠れるギリギリの場所だ。一つでもボタンを外せば見える。これで迂闊に首元を緩めたりは出来んだろう」
ヒーローはサブスタンスの投与により、常人より回復能力は高いが、これなら少なくとも会食の最中に消えるようなことにはならない。
「お……っ前、やり方やらしいぞ!?」
「過去の経験上、お前に口で注意しただけでは大した効力がないのはわかってる。ならば、問答無用で実力行使にでた方が早い。準備も終わったし、そろそろ会場に向かうぞ」
「うぐ……」
絶句しているキースのシャツのボタンを元通りにかけ、ネクタイも改めて結んだ。
痕をつけた場所を指でノックし、複雑そうな表情を浮かべていたキースに告げる。
「会食が終わるまでに首元を緩めずに過ごせたら、他の場所にもつけてやろう。勿論、見えない場所にな」
暗に会食が終わった後の予定を含ませると、微かにキースの頬に赤みがさす。
相変わらずわかりやすい男だ。
「ホント、お前って暴君だよな……」
「何とでも言え。行くぞ」
この様子なら、うっかりボタンを外しそうになっても、外せない理由を思い出すだろう。
今はこれだけ身なりを整えている男が、数時間後には俺一人に対してだけ、あられもない姿を晒すだろうことを心の中で楽しみにしながら、歩き始めた。
お題が『正装』『負けられない戦い』だったので、『正装』を選択して書きました。
割と書いている傾向からバレバレでしょうが、推しが着飾るところ大好きです!
(エリオスだけでもキスブラワンドロライのスーツ、カジノと来てのこれだもんな)
そんなわけで、ブラキス初挑戦でした。
左右の違いで行動は変わっても、二人の精神的な立ち位置にはあまり差がないという解釈なので(特にこの二人は)(勿論私個人の解釈です)書きやすさはキスブラとあまり変わらなかった。(知ってた)
いい加減原稿もあるので、こっちはまた余裕が出来たときに参加出来ればなと思います。
タグ:エリオスR, ブラキス, pixivUP済, pictBLandUP済, 3000~5000文字, キース視点, ブラッド視点, 2020年, ワンライ