> Novel > Novel<エリオスライジングヒーローズ> > 雪が溶ける温度<エリオスライジングヒーローズ・ブラキス>

雪が溶ける温度<エリオスライジングヒーローズ・ブラキス>

いいね送信フォーム (0)

2020/12/26に開催されたブラキス版ワンドロ&ワンライ第3回でのお題『雪が溶ける温度』を使って書いた話です。

初出:2020/12/26 ※ブラッド視点は2022/09/11

文字数:3197文字

 

[Keith's Side]

「あー……寒……。このまま朝まで降りそうだな」

パトロール終了後、タワーまで戻ってきたが、パトロールの途中から降り始めた雪は早くも地面を薄らと覆い始めている。
空を見上げても雪が止みそうな気配はねぇし、久し振りに少し積もるかもしれねぇ。
こりゃ、今日は外に飲みに行くのはやめて、部屋ん中で大人しく飲むかとウエストセクターの研修チーム部屋に帰ろうとしたら、後ろから誰かがオレの肩を掴んで髪を払った。

「もう少し髪についた雪を振り落としてからタワーに入ったらどうだ。髪が雪で濡れてぐしゃぐしゃになっている」
「げ、ブラッド。あー……どうせこのくらいなら暖まってりゃ溶けてそのうち乾くと思ってさ。部屋戻りゃシャワーだって浴びるし。お前もパトロールの帰りか」

振り向いたら、眉を顰めたブラッドと視線が合う。
面倒なタイミングで面倒なヤツと会っちまった。
だらしないことすんなって小言スイッチが入りそうだと思ったら、案の定だ。

「横着するな。それでは乾くまでの間に体を冷やすことになるぞ。ほら、首がもう冷え始めている」
「えっ、お前指温かい! 何で? 今、外から戻ったとこだよな?」

首筋に触れたブラッドの指は、思いの外温度が高い。
いくら、【HELIOS】の制服を着ている時のコイツが常にグローブはめてるって言っても、手の全体を覆ってるわけじゃなく、指先は出てるってのに。
つい、ブラッドの指に冷えた自分の手を重ねると、ブラッドの眉間の皺が益々深くなる。

「首、手首、足首を冷やさないようにしておけば、存外冷えにくいものだ。逆に言えば、そこを冷やしてしまえばあっという間に体全体が冷える。雪の予報が出ている日ぐらいは面倒がらずに対策しろ。寝坊してチェックする時間がなく、雪の予報に気付かなかったのかもしれんが」
「…………お前、見てきたかのように言うなよ」

地味に図星なもんだから、それ以上言い返せない。
よく見りゃ、ブラッドはしっかりマフラーをしていたし、傘でも差していたのか髪や体もほとんど濡れていない。
なるほど、対策バッチリって結果がこれか。

「ただでさえ、お前は煙草の量が増えてから体が冷えやすくなっているんだ。もう少し自分の体を労れ。これを貸してやる。今日のパトロールについての報告書を提出する時に返してくれればいい」

ブラッドがオレの首から手を離したかと思うと、自分が巻いていたマフラーを解いて、オレの首に回した。
ブラッドの体温を少し移したそれは心地良い温かさで、肌触りもよかったし、嗅ぎ慣れたブラッドの匂いもして、悪い気分はしなかったが、ここは既にタワーの中だ。
一階こそ外気が入って来て多少冷えるとはいえ、他の階に移動しちまえば暖房が効いているから、マフラーはいらねぇってのに。

「って、いいって。もう部屋に戻るだけなんだし」
「その部屋に戻るまでの間、温めておくだけでも違う。いいからしてろ。あと、先に言っておくが、報告書の提出が明日でいいとか考えるなよ。夕食とシャワーを済ませた後でいいから今日のうちに必ず出せ」
「うげ……わかったよ」

釘を刺すことも忘れない。
さては、報告書を提出させたくてマフラーを貸したのか、これは。
下手に言い返すと他のことまで言われかねないから、大人しく引き下がっておく。

「わかればいい。さっさと部屋に戻ってシャワーを浴びろ」
「へいへいっと」

ブラッドとわかれて、ウエストセクターの研修チーム部屋に戻ったところでマフラーを解くと、思いの外マフラーが湿っていた。
うなじ辺りに巻かれていた部分は特にだ。
まさかと思って襟足に手を回して触ってみると、そこもまだ濡れていた。
オレが思っていたよりも、髪は乾かなかったらしい。

「あー……こりゃ先にシャワーだな」

マフラーがなかったら、首筋がぐしょ濡れになってただろう。
それこそ、シャワーを浴びた直後みたいに。
ブラッドは多分それを避けるためにマフラーを貸してくれたらしいことに気付いた。
…………夕食作るついでに、ブラッドのとこになんか差し入れも作って持っていくか。
洗って返すのがいいんだろうが、どうせ洗濯するのはジャックだし、報告書も出せと言われてるし、マフラーの礼はそれで返すことにして、シャワールームへと向かった。

[Brad's Side]

朝の天気予報通り、パトロール中に降り始めた雪は大分勢いを増している。
この様子からすると今夜は止まないかもしれない。
タワーの下から見上げる雪景色は美しいが、明日の朝は雪かきの必要が出て来るだろう。
それを踏まえると今日のうちに片付けられる仕事は片付けておくべきだな。
タワーに入る手前で、全身の雪を振り払う。
夕食は自室で仕事しながら、何か軽くつまもうかと考えていたら、やはりパトロール帰りらしきキースが視界に入った。
髪に雪が薄ら積もっていて、襟足がぐっしょりと濡れているのが離れた位置からでもわかる。
思わず、近寄ってキースの足を止め、その髪を払って残っていた雪を振り落とした。

「もう少し髪についた雪を振り落としてから部屋に入ったらどうだ。髪が雪で濡れてぐしゃぐしゃになっている」
「げ、ブラッド。あー……どうせこのくらいなら暖まってりゃ溶けてそのうち乾くと思ってさ。部屋戻りゃシャワーだって浴びるし。お前もパトロールの帰りか」

面倒がってそのままにしていたのはキースらしいが、髪と首筋を濡らしたままでは体も冷えるし、見た目の面からいっても看過出来ない。
まるでシャワーを浴びた直後のような濡れ方なのだから。

「横着するな。それでは乾くまでの間に体を冷やすことになるぞ。ほら、首がもう冷え始めている」

キースの首に手を伸ばすと、目を丸くしたキースがその手に自分の手を重ねて来る。
首筋もひんやりとしていたが、キースの手はもっと冷えていた。

「えっ、お前指温かい! 何で? 今、外から戻ったとこだよな?」
「首、手首、足首を冷やさないようにしておけば、存外冷えにくいものだ。逆に言えば、そこを冷やしてしまえばあっという間に体全体が冷える。雪の予報が出ている日ぐらいは面倒がらずに対策しろ。寝坊してチェックする時間がなく、雪の予報に気付かなかったのかもしれんが」
「…………お前、見てきたかのように言うなよ」

キースはそういうが、見てなくても想像くらい容易くつく。
大体、共に過ごした日の翌朝、俺より先にキースが起きていたことなどほとんどない。
図星だったのか、キースの視線が気まずそうに逸らされた。

「ただでさえ、お前は煙草の量が増えてから体が冷えやすくなっているんだ。もう少し自分の体を労れ。これを貸してやる。今日のパトロールについての報告書を提出する時に返してくれればいい」

自分のマフラーを解いて、それをそのままキースの首に巻いた。
これで首筋はこれ以上濡らさずに済むだろうし、体が冷えるのも抑制出来るだろう。
何より――妙に艶っぽく映る姿を人前に晒さずに済む。

「って、いいって。もう部屋に戻るだけなんだし」
「その部屋に戻るまでの間、温めておくだけでも違う。いいからしてろ。あと、先に言っておくが、報告書の提出が明日でいいとか考えるなよ。夕食とシャワーを済ませた後でいいから今日のうちに必ず出せ」
「うげ……わかったよ」

言っておかなければ、キースは報告書の提出を遅らせるぐらいはする。
マフラーを返すという理由も作っておけば、報告書も今日のうちに提出してくれるだろう。
渋々といった様子だが、了承したのだから。

「わかればいい。さっさと部屋に戻ってシャワーを浴びろ」
「へいへいっと」

ひらひらと俺の方に向かって手を振ったキースを見送って、俺も自室へと向かう。
あれなら、後ほどサウスの研修チーム部屋に報告書を届けに来るだろう。
ちゃんと報告書を届けに来たなら、最近入手した良い日本酒を一杯振る舞うくらいはしてもいい。
キースが来るまでの間に、出来るだけ仕事を終わらせておこうと決めた。

 

お題は『雪の溶ける温度』を選択して書きました。
(というか、今ここに書いて気付いたけど雪だと解ける、の方ですね。お題に忠実にする意味でこのままにしときますが)
オチが中々良い感じのが思いつかず、これ以上の時間オーバー避けたいなってタイミングでとりあえずのオチにしてしまっていたので、今回手を加えました。
手を加える前のオチは
『――なお、ブラッドが寒さの対策というよりは、オレの濡れた髪で首筋を濡らさねぇよう、マフラーを貸してくれたことに気付いたのは数分後。
さらに報告書を提出した際、他のメンバーがいなかったサウスセクターの研修チーム部屋で、もう少し体を温めてやると手を出されたのは一時間ほど後の話だった。』
なのですが、今なら他のメンバーがいなくても、研修チーム部屋でブラッドが手を出すことはないな、と思うw
なお、キスブラだとキースは状況次第で手を出す……www

 

タグ:エリオスRブラキスpixivUP済pictBLandUP済3000~5000文字キース視点ブラッド視点2020年ワンライ