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薔薇の誘い<月刊少女野崎くん・堀鹿>

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某方の書いていた話を、僭越ながらアドバイスしつつ、当方でリライトしたものです。
元が他の方によるもの&短時間クオリティにつき、自サイトとプライベッターのみで公開。
(リライト及び公開についてはご本人の許可済です)

寸止めにつき、年齢制限は無し。
本来は堀先輩視点で書かれてた話でしたが、流れ上、鹿島くん視点の方が向いていると思ったので、鹿島くん視点に変更しました。

初出:2014/10/22

文字数:1693文字

 

それに目を留めたのは偶然だった。
中庭の茂みの奥に一輪だけ佇んで咲いていた紅の薔薇の花。
風が強く吹いた拍子にそれがちらっと視界に入って、物珍しさにそれに近寄ってみたのだ。
お姫様たちに見せたら喜んでくれるかな、なんて軽い気持ちで摘み上げて。
こんなに薔薇の花って甘い香りだったっけ?と、疑問に思った時にはもう遅かった。
香りに情欲を引き出されたかのように、身体が芯から火照り出して、足が震え出し、立っているのがキツくなる。
心なしか、呼吸も少し苦しい。
せめて、その時点で薔薇を放り出せば良かったのだろうけど、どうしてだかそんな気にもなれず、薔薇を手にしたまま、なるべく人目のつかないところを通って、保健室まで辿り着いた。
途中で数人の人とすれ違ってしまったけど、上手く誤魔化せただろうか。
幸い、保健の先生も他の生徒もいなかったのをいいことに、さっさとベッドに潜り込ませて貰い、ベッドサイドのカーテンを閉めた。
ニットカーディガンを脱いで、ネクタイを解くも、まだ身体が熱い。
結局、シャツブラウスのボタンも襟元から数個外した。
身体中が汗塗れで気持ち悪いのに、それを拭う気力もない。
ああ、学園の王子様が形無しだ。
目の前では相変わらず、手折られてもなお生き生きとした薔薇の花が甘い香りを放っている。
十中八九、薔薇の所為でこんな事になっているのだと分かっているのに、自分の側から離せない。
仰向けに寝転んで、保健室の白い天井を見つめながら、ぼんやりしつつある思考の中、どことなく聞き覚えのある荒っぽい足音が近づいて来た。
まさか、この足音は……なんて思ったところで保健室の扉が開かれたのが分かる。

「鹿島? いるのか?」
「せ……んぱい?」

よせばいいのに、条件反射のように返事をしてしまう。
こんなところを先輩に、『王子様』を求めている堀先輩に見せちゃいけないと思うのに――。
私の声を聞いて、先輩が位置を確認したらしく、すぐ側のカーテンが躊躇う様子もなく開けられた。 

「あ……っは……堀ちゃん、せんぱ、い」

途切れ途切れになってしまう言葉。
何とか心配させまいと笑おうとしたけど、失敗したらしい。
険しい顔をした先輩の目が、全く笑っていなかった。

「部活サボってこんなとこで何してんだ、てめぇは……」 

地を這うような不機嫌な声だというのに、その声で余計に身体の奥に焔が生まれる。

「ちょっ、と……事情が、あり、まして」

何とか、ベッドから上半身を起こし、傍らに置いてあった薔薇を先輩に差し出す。

「先輩……」
「それ……は」
「綺麗、でしょう……?」

差し出した薔薇を受け取った先輩に、動揺の色が走ったのが見て取れる。

「その花の香り……やたら、甘く、ないです、か」
「かし、ま」

先輩も薔薇の香りに取り込まれたのか、呼吸が乱れ始め、ベッドに腰掛けた。
やっぱりさっきの私と同じように、薔薇を手元から離せないらしく、じっと見つめている。

「何なん、だ……これ」
「私にもよく……その薔薇を摘んで、香りを……嗅いだら、こんな……」

ベッドに置かれた先輩の手に、指を絡めてみても解かれない。
逆に、先輩も私の指に、自分の指を絡めてきた。
先輩の指が随分と熱く感じる。
この指に――色んなところを触られてしまいたい。
そんな欲望が身体の奥からわき上がってくる。 

「何で、こんな訳分からないもの……拾ってくるんだよ、おまえ」
「何なんで、しょうね。……先輩。」
「ん?」

先輩の表情には、ベッドサイドのカーテンを開けたときの険しさは既にない。
そこにあるのは、私とおそらくは似たり寄ったりの、欲望を秘めた目。
これは、もう抗えない。

「こういうのを……媚薬って言うんですか、ね」
「……知るかよ」

先輩が薔薇を床に放り投げ、空いた手で私の肩に触れ、ベッドに押し倒す。
互いに視線を逸らすことが出来ないまま、二人分の乱れた呼吸が保健室に響く。 

「動けば、解消、すんのかよ、これ……」
「どう、なんでしょう」
「…………試す、か」
「です、ね」

二人揃って、そんな同意をして。
どこかで床に放り出されたはずの薔薇の香りを感じながら、熱を解放するための行為に没頭し始めた。

 

 

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