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喫茶パラレル<月刊少女野崎くん・堀鹿>

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『シチュお題でお話書くったー』で出て来たネタです。

『喫茶店員と常連客の設定で片想いの相手に猛アタックする堀鹿の、漫画または小説を書きます』という内容でした。
私には珍しく三人称で。pixivではShort Stories 01に収録してあります。

初出:2014/10/25

文字数:1893文字

 

カラン、と古びたドアベルの音が鳴る。
喫茶店の店主が新規客の期待をしながら顔を向けると、そこにいたのは、端正な顔立ちをした長身の女性。
この店に毎日のように訪れる、いつもの常連客だった。
相手を確認した途端、店主の営業スマイルはたちまち消え失せ、不機嫌さが露わとなる。

「……何だ、またおまえか。よく、毎日飽きずに来るな」
「どうもー。今日も来ちゃいました。今日のオススメ紅茶は何ですか?」
「アールグレイ」
「じゃ、それとBLTサンドください。あとマスターも一つ」
「バカなこと言ってんじゃねぇよ。ちょっと待ってろ。紅茶とサンドイッチは一緒でいいな?」
「はーい」

軽く応じて、女性は店主のほぼ真っ正面にあるカウンターに腰掛ける。
紅茶用の湯を沸かし、サンドイッチ用の具を用意しながら、店主がちらりと女性を窺った。

(今日も相変わらずのイケメンだなぁ、こいつ)

単純な問題としては、閑古鳥が鳴きっぱなしの喫茶店に来てくれる客というのは有り難い。
さらに言うなら、この常連客の顔立ちは店主の好みそのもの。
連日の訪れはひっそりと彼の目の保養になっている。
が、それはそれとして。
店主はこの常連客に対して、あまり有り難く思っていない面があった。

「お待たせ」
「わーい! いただきまーす。で、マスター」
「うん?」
「いつ、結婚しましょうか」

食事をしながら、まるで、天気の話でもするかのような軽い口調。
店主がこの常連客に辟易しているのはこういうところだった。
毎日のようにこうして喫茶店を訪れては、プロポーズの言葉をいとも簡単に口にする。
付き合うどころか、互いの本名さえ知らないのに、だ。
本気には聞こえないし、本気だとしたら正気の沙汰ではない。

「また、それかよ。バカの一つ覚えみたいだな」
「だって、マスター、私が何度好きですって言ったって靡いてくれないじゃないですか。だったら、ダイレクトにプロポーズした方がいいかなって」
「訳わかんねぇよ。何がどうしてそうなった」
「一目惚れなんです、マスターに」

だから、何度も好きだって言ったじゃないですか!と食事の手は休めずに言う常連客に、店主が軽く溜め息を吐く。

「随分軽い一目惚れだな。だとしてもプロポーズまで一気飛びかよ。本気じゃねぇだろ、それ」
「何言ってるんですか、私はいつだって本気ですよ!? じゃなきゃ、毎日こうして足を運んだりしませんよ! なのに、マスターが……」
「バカ、危な……っ」
「うわっ……やっちゃった」

立ち上がった勢いで、常連客がティーカップをカウンターテーブルから落とし、自分の腿の上に転がした後、床に落ちてカップが無残に割れた。
カップからまだ少し残っていた紅茶がこぼれ落ちて、彼女の着ている白のパンツスーツを汚した。

「火傷や怪我してねぇか!? 直ぐに冷やして……」
「紅茶冷めてたし、カップも当たってないから、それは大丈夫です! あー……でも、これ染みになるなぁ。気に入ってたのに。すみません、仕事の制服バッグに入ってるから、下だけでも着替えちゃいます。お手洗いお借りしますね!」
「ああ、こっちは片付けるから気にするな」

彼女がお手洗いに入ったのを確認して、急いで箒と塵取りを持ち出し、手早く割れたティーカップを回収し、床にも少し零れた紅茶はぞうきんで拭く。
他の客がいなかったのは幸いだった。
その場を元の状態に戻し、改めて紅茶を淹れておこうとお湯を沸かし始めたその時。

「すみません、ご面倒おかけしまして」
「あー、今、紅茶だけ淹れ直すから気にす……」

言いかけた店主の言葉は、お手洗いから出てきた女性を見て、いや、正確には女性の足を見て止まった。
濃紺のタイトスカートからすらりと伸びた、無駄な肉のついていない綺麗なラインの足。
傷やホクロもない真っ新の白い肌が、店主の目を惹き付ける。

(……こんな足してたのかよ、こいつ)

思えば、店に訪れるときの常連客は常にパンツスタイル。
彼女が喫茶店に通うようになって、一年程。
こうしてスカート姿になったのを見たのは、初めてだった。
どの位の時間、そうして見ていたのか。
流石に訝しんだ彼女が首をかしげる。

「マスター? どうしたんですか?」
「…………名前」
「はい?」
「まだ、名前も聞いてなかったよな。一年ぐらい、こうして毎日顔付き合わせている割には。プロポーズされるような間柄でそれもおかしな話だろ」

ニヤリと口の端を上げて笑った店主に、常連客は花が咲いたような笑顔を見せる。

「俺は堀政行。おまえは?」
「鹿島遊って言います」

恋なんて、意外にこんな風に始まるのかも知れない。
そう思いながら、店主は新しいティーカップに二杯目の紅茶を淹れ、彼女に手渡した。

 

 

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