鹿島誕用には別の話(Double Party Night)を書いていたのですが、鹿島誕当日まで旅行してて、誕生日中のUPは間に合わないなと急遽書いた話。
せっかくの記念日だしということで、旅行中にTwitterでフォロワーさんが呟いていた煙草を吸う堀先輩が気になっていたので、勢いにより三時間クオリティで仕上げました。
※二人が社会人で同棲している前提での話になっております。あと、堀先輩喫煙者設定。
軽く性描写を匂わせる表現があるので、R-15で。
初出:2014/10/31 同人誌収録:2016/04/10(一緒に歩く先は。掲載分に多少の修正等あり)
文字数:5231文字
[鹿島Side]
「悪い、鹿島。一本吸って良いか?」
リビングに置いてあるノートパソコンで、持ち帰りの仕事をしていた先輩が、不意にそう言った。
「あ、はい、どうぞー。珍しいですね、仕事煮詰まってるんですか?」
「あー、まぁな」
それ以上は言わずに、先輩が灰皿と煙草、ライターをチェストの引き出しから取り出す。
そして、先輩が一本の煙草を銜え、火をつけたのを確認すると、私はキッチンの換気扇を回した。
先輩が銜えた煙草の先端から、細い煙がゆっくりと空間を彷徨っていく。
キッチンまで微かに漂い始めた香りは、少しコーヒーを淹れた時の香りに似ているような気がする。
そういう銘柄なのか、煙草自体がそういうものなのかは、全く煙草を吸わない私にはよく分からないけども。
勤め始めてから、会社の飲み会で覚えたという煙草だけど、先輩は滅多に吸わない。
数ヶ月に一本くらいの頻度で、ふらっと吸うことがあるくらいだ。
吸う時も今みたいに一言断ってくれるし、煙草を吸っている時の先輩の指や口元に、結構色気を感じたりするので、吸っているところを見るのは嫌いじゃない。
けど、先輩が決まって煙草を吸うタイミングには、ある法則があるのがちょっと私としては引っかかっている。
ちょっとキッチンで片付けをしていた手を休めて、煙草を燻らせている先輩の隣に座り、じっと先輩を見つめる。
「? 何だよ?」
「んー、先輩が煙草吸うタイミングって、大体仕事で何かあった時なのかなぁって。持ち帰りの仕事してる時に偶に吸っているだけですよね? ストレス解消になるんですか?」
「あー…………どうかな。ストレス解消っつーよりは、ストレス解消の代替行為っつー感じだな。苛ついて口寂しいのを煙草で誤魔化すみたいな」
「えー、それって私とのキスとかじゃダメなものなんですか? 口寂しいんだったら、キスすることで解消とか出来ません?」
先輩が煙草を吸った後にキスってしたことないなぁと気付いたから、ちょっと試してくれないかなと、軽い気持ちでそんなことを言ってみたのだけど。
先輩が私を見て溜め息を吐き、まだ半分以上は残っていた煙草を灰皿に押しつけ、火を消した。
いつもだったら、もう少し吸っているのにと思っていたら、そのまま顎を捉えられて、キスされた。
直ぐに舌が割り入れられて、普段とは違う先輩の味が流れ込んでくる。
香りがコーヒーに似ていたから、コーヒーを飲んだ後のキスと似ているのかと思ったら、全然そんなことはなく。
独特の苦みがある味を纏わせた舌は、私の歯列をなぞるように動いた後、頬の内側を辿って、上顎もなぞり、舌の裏側まで入り込んだ。
口の中の隅々まで、煙草の苦みが行き渡り、その味が薄れ始めた頃に、ようやく唇が離れる。
予想していたよりもずっと長く深いキスに、少し呼吸が乱れてしまう。
先輩の指が私の顔をそっと撫でた。
煙草を持っていた指は、まだ香りが残っていたらしく、唇近くに触れた時に、煙草の香りが鼻腔をくすぐった。
「……おまえなぁ、そうやって煽るんじゃねぇよ。このバカ」
「な……んか、言いましたっけ」
自覚がねぇって、これだから性質悪い、と先輩がぼやく。
「そりゃな。おまえとキスしたらストレス解消にはなる。なるけど、キスしたらそれだけで終るかっつったら、そうじゃない。キスしたら、触りたくなるし、触っていたら、セックスしたくなる。……仕事どころじゃなくなるだろ」
「あの、それってつまり……」
「煙草に手を出すのは、時間的に余裕がない時。おまえに手を出すと、仕事の方がヤバいことになる時限定ってことだ。煙草一本なら数分で済むけど、セックスしたら数分じゃ終んねぇだろ」
「…………」
煙草を吸う理由が思いもよらないものだったので、どういう顔をしていいのか分からない。
先輩の目が据わっているのにも、どう反応したものか。
「大体、時間があったとして。下手に苛ついている時におまえ抱いたら、八つ当たりで酷いことしかねないからな。そういうことだ。理解したか?」
「………………よく、分かりました」
多分、私が先輩の煙草を吸っている姿に色気を感じていたのは、先輩が好きだからっていうのは勿論あるんだろうけど、もしかしたら。
欲情を押し殺しているがゆえのものだったのかも知れない。
そう考えてしまうと、顔が一気に火照り始めてしまった。
恥ずかしさに視線を逸らそうとしたら、頬が先輩の両手で固定されてしまい、動かせなくなった。
……ああ、この先輩の目を知ってる。
これは、情欲の焔を灯した『男』の目だ。
ちらりと視線だけを下に動かすと、ルームウェア越しでも先輩が反応しているのが分かる。
「今、言いたいことはもう分かるよな? このままソファでするのと、寝室のベッドに移動するのとどっちがいい? ああ、風呂場でも構わねぇけど」
口元だけに笑みを浮かべた先輩が、潜めた声でそう言ってくるのに、捉えられてしまったことを自覚した。
「…………仕事。途中そうなのに、いいんですか?」
「この状態で続けようってのが無理だ。終わった後に再開するから心配すんな。で、場所どうするよ?」
「……ベッドでお願いします……でも、その」
「うん?」
「…………あんまり酷いことしないで貰えると助かり、ます」
ブラをつけていない胸に、服の上から手を這わされる。
思わず、語尾が小さくなってしまったら、先輩が愉快そうに笑った。
ホント、自覚ねぇのな、おまえと耳元で囁かれ、もう一度キスを交わすと、大分薄くなった煙草の味に紛れて、いつもの先輩の味がした。
[堀Side]
「悪い、鹿島。一本吸って良いか?」
どうにも仕事が進まず、ちょっと休憩を入れて煙草を吸おうと、キッチンで片付けをしていた鹿島に一言断りを入れる。
「あ、はい、どうぞー。珍しいですね、仕事煮詰まってるんですか?」
「あー、まぁな」
あんまり愚痴るのもみっともないので、それだけ返すとソファから立ち上がって、チェストのとこまで行き、引き出しにしまってあった、灰皿、煙草、ライターを取り出した。
社会人になってから煙草を吸うことを覚えたが、煙草が好きかと言われると、そういうわけでもない。
一箱買ったら数ヶ月はもつ、くらいの頻度でしか吸っていないから、喫煙者と言われても違和感があるぐらいの感覚だ。
多分、止めようと思えば止められる類の欲求だが、時折、手を出してしまうのは、短時間でのストレス解消が目的だ。
再びソファに腰掛け、煙草を一本取り出して銜え、軽く吸い込みながら、ライターで火をつける。
鹿島がキッチンの換気扇を回した音が聞こえてきた。
滅多に吸わないとは言え、副流煙等は気になるが、吸う頻度がかなり低いからなのか、鹿島は煙草を止めろとは言わない。
いっそ、止めろと言ってくれたら、それを口実にもっと抱くのになぁ。
煙を吐き出しながら、そんなことを思う。
持ち帰りの仕事なんて、半分は口実だ。
もう半分は、鹿島を抱きたくなってしまうのを敢えて抑えるために、わざわざ自宅まで仕事を持ち帰っていたりする。
平日にセックスするのは仕事に差し支えそうだから、大抵週末に集中しているが、それでも時々は無性にしたくなる。
ただ、したくなる欲求に身を任せてしまうと、互いに仕事を持っている身としてはマズいことも分かるから、仕事したり、煙草を吸ったりすることで気を紛らわせている。
こんな時は、学生時代、セックスを覚え立ての時に欲求に任せて、盛っていた日々が懐かしくなる。
勿論、あのままじゃいられなかったっていうのも、十分分かっちゃいるんだが。
そんな事を考えていたら、鹿島がキッチンから出て、俺の隣に座る。
特に何か言うでもなく、ただ俺の方をじっと見ているだけなので、何か言いたいことでもあるのかと水を向ける。
「? 何だよ?」
「んー、先輩が煙草吸うタイミングって、大体仕事で何かあった時なのかなぁって。持ち帰りの仕事してる時に偶に吸っているだけですよね? ストレス解消になるんですか?」
「あー…………どうかな。ストレス解消っつーよりは、ストレス解消の代替行為っつー感じだな。苛ついて口寂しいのを煙草で誤魔化すみたいな」
煙草を吸う理由が、表向きはどんな時なのかというのを悟られてしまっていたらしい。
実際のところはちょっと違うが、正直気付かれてるとは思わなかった。
気まずさもあって、多少口ごもりながらもそんな風に返したら。
「えー、それって私とのキスとかじゃダメなものなんですか? 口寂しいんだったら、キスすることで解消とか出来ません?」
さらっと、こともなげにそんな台詞を口にする。
……こういうところが鹿島らしい。
こいつ、自分の言葉が持ってる意味分かってねぇよなぁ。
あんまり、キスだけするってやってないんだがな。
キスしたら、触る。触ったら、セックスする。
そこまでが、自分の中ではワンセットだ。
だから、こんな事を言われてしまうと――我慢なんて出来なくなる。
おまえがそんな事言うのが悪いんだからな、と口には出さずに心の中でだけ呟く。
ただ、溜め息という形でそれが表に出てしまったのは仕方ない。
煙草の火を消して、何も言わずにそのまま鹿島に口付ける。
そういや、煙草吸った直後にキスしたのって初めてだな。
当たり前か。
煙草に手を出す理由が理由だもんな。
鹿島の方は苦かったりすんのかな、これ。
せっかくだから、煙草の味が行き渡るように、口の中、隅から隅まで舌を巡らせる。
最初は歯列を辿って、次は頬の内側。
口の中で比較的こいつが弱い上顎を舌で撫でると、震えが伝わった。
でも、まだそこでは解放させずに舌を絡め、舌の裏側の方にも触れて、口の中で触っていない部分がない位にする。
俺にとってはほんのり甘く感じる鹿島の口の中だが、それが大分苦みで塗りつぶされただろう頃に唇を離した。
一瞬、唇同士が短く糸を引いたのを確認して、自分のモノが熱を帯び始めたのが分かる。
目元を染めた鹿島が、閉じた目を開けると微かに潤んでいて、そこでまた煽られる。
何度見ても飽きねぇなぁ、この顔。
可愛くて、それでいて、めちゃくちゃにしてやりたくてたまらない。
指で鹿島の顔を辿ると、唇の辺りで熱っぽい吐息が指に当たる。
「……おまえなぁ、そうやって煽るんじゃねぇよ。このバカ」
「な……んか、言いましたっけ」
「自覚がねぇって、これだから性質悪い」
分かってはいたが、あまりにも予想通りの答えに頭を抱えたくなる。
無自覚の煽りってのが、どんな効果をもたらすのか。
「そりゃな。おまえとキスしたらストレス解消にはなる。なるけど、キスしたらそれだけで終るかっつったら、そうじゃない。キスしたら、触りたくなるし、触っていたら、セックスしたくなる。……仕事どころじゃなくなるだろ」
「あの、それってつまり……」
「煙草に手を出すのは、時間的に余裕がない時。おまえに手を出すと、仕事の方がヤバいことになる時限定ってことだ。煙草一本なら数分で済むけど、セックスしたら数分じゃ終んねぇだろ」
「…………」
今日はもう平日だろうと逃がすつもりはない。
例え、無自覚だろうと煽ってきたこいつが悪い。
表情が固まったままの鹿島は、どう答えていいのか分からないらしく、口をぱくぱくさせるも無言のままだ。
「大体、時間があったとして。下手に苛ついている時におまえ抱いたら、八つ当たりで酷いことしかねないからな。そういうことだ。理解したか?」
「………………よく、分かりました」
それでも、本心までは言いたくなくて、我ながら狡い言葉を告げる。
ただ、こうやって一度言ってしまった以上は、鹿島は今後俺が煙草を吸ったら、色々と意識するだろうし、もしかしたら、あいつからセックスを誘ってくれるかも知れない。
そう考えたら、益々興奮してきた。
顔を益々赤く染めた鹿島が、背けようとした顔は抑え込んで、じっと顔を覗き込む。
鹿島の目が欲望の色を浮かべていて、自分の狙い通りになったことを確信した。
「言いたいことはもう分かるよな? このままソファでするのと、寝室のベッドに移動するのとどっちがいい? ああ、風呂場でも構わねぇけど」
わざと声を潜めて言ってやると、鹿島が困ったような表情をしながらも、より一層熱っぽい視線をこっちに向けてくる。
「…………仕事。途中そうなのに、いいんですか?」
「この状態で続けようってのが無理だ。終わった後に再開するから心配すんな。で、場所どうするよ?」
「……ベッドでお願いします……でも、その」
「うん?」
「…………あんまり酷いことしないで貰えると助かり、ます」
胸を触っていた手を、つい一瞬止めてしまった。
……くそ、可愛いな、こいつ。
多分、今の言葉も言うことで俺にどういう影響を与えるか、なんて考えてないに違いない。
「ホント、自覚ねぇのな、おまえ」
だからこそ、可愛い――とは、後ほどベッドで言ってやることにする。
もう一度キスして、鹿島の口の中がさっきよりも温度が上がっていることに気分を良くしながら、音を立てて、互いの唾液を交換した。
キャプションでも書いてますが、鹿島誕当日まで旅行で、元々予定していた話を仕上げる余裕がなく、でもせっかくの記念日だし!と急遽三時間で書きました。
……今、もう旅行後に書くほどの体力ないなw 勢いと若さよ……。
ただ、これに限った話じゃないですが、勢いで書いた話は基本趣味にがっつり走っているので、執筆時間の割りには本人が気に入っている話の一つです。
さらに別のフォロワーさんがこれ読んで、眼鏡で煙草吸う堀先輩を描いてくれたので舞い上がった。
リアルの煙草はそう好きではないけど、煙草を吸うビジュアルには昔から弱い……。
タグ:月刊少女野崎くん, 堀鹿, pixivUP済, 社会人同棲設定, R-15, 同人誌収録済, 5000~10000文字, 鹿島視点, 堀視点, 2014年