2014/11/22のフリーワンライ(第26回)から『夜を少しだけ、長くして』。
深夜のコンビニお買い物ネタ。
ワンライで書いた中で気に入っている一つ。
pixivではShort Stories 01に収録してあります。
※二人が社会人で同棲している前提での話になっております。
初出:2014/11/22
文字数:2432文字
「先輩。私、ちょっとそこのコンビニまで行ってきますね」
「ああ……って、ちょっと待て。この時間にか!?」
リビングで仕事の資料を読んでいたら、既に出掛ける用意を終えている鹿島がそんなことを言ってきた。
傍らに置いてあったスマホで時間を確認すると、間もなく午前一時になろうとしている。
この辺りは特別に物騒って程でもないが、あんまりこの時間に女一人をすすんで外に出したいと思えるような環境でも無い。
「何だよ、どうしても今じゃなきゃダメなのか?」
「あー、何か新作のスイーツ出てるって記事をネットで読んだら、それが本当に美味しそうで美味しそうで! いてもたってもいられなくなってですね」
こういうところは鹿島も女っぽいよなと、つい思ってしまう一面だ。
こいつは結構甘いものが好きで、やれ、どこの店のプリンが美味いとか、どこのコンビニのスイーツが当たりだとか、意外とチェックを入れている。
「……朝にしても良さそうなもんだと思うがな」
言いつつ、仕事の資料を手早く纏めてテーブルに置くと、立ち上がって、直ぐ近くのハンガーに掛けてあったコートを手にする。
それを見た鹿島がきょとんとした面持ちで首を傾げた。
「あれ? 先輩も行きます?」
そんなにスイーツ好きでしたっけ?と無邪気に返答されて、溜め息が出たのは仕方ないだろう。
俺がスイーツ一つの為に、わざわざこんな時間から外出すると思うのかよ、こいつは。
「バカ、この時間におまえ一人で外に出せるかよ。一緒に行ってやる」
「いいんですか!? わーい、先輩とデート!」
「デートって、たかがコンビニ行くだけだろ」
とはいえ、悪い気分はしない。
外出が近所のコンビニ程度なら、ルームウェアにコートを羽織れば十分だ。
コートにさっさと袖を通して、スマホと財布をコートのポケットに突っ込み、揃って部屋を出た。
***
意外に深夜のコンビニって人がいるもんだな、と入ってみて実感した。
まぁ、需要があるからこんな時間に営業しても成り立っているってのを考えれば当然かも知れない。
普段は全く来ない時間帯に、いつものコンビニに来るってのは、少し新鮮な気分だった。
鹿島は無事にお目当てのスイーツを発見したらしく、俺の分も一緒に何も聞かずにそそくさと買い物かごに入れる。
これはいつものことなので、もう放っておく。
俺は特に甘いものを好みはしないが、鹿島の選ぶものに外れは少ないし、一緒に同じものを食べる、というのを結構こいつが喜ぶのを知っているからだ。
他に何買っていくか、と考えを巡らせたところで、ゴムがそろそろ切れそうだったことに気付く。
明日の日中にでも、ドラッグストアで買うつもりだったが、念の為に今一つ買っておいてもいいかと、ゴムの箱を一つ取って、買い物かごに入れると、鹿島が複雑そうな表情をした。
「? 何だよ」
「それ、今買っていくんですか?」
「そろそろ切れそうだったからな。あった方が無難だろ」
「な、何か二人でいるときにそれを買うとなると……無性に照れるんですが」
「は?」
鹿島が目元を赤らめて言ったのが、正直意外だった。
というのも、こいつはこいつで、たまにこういうゴムが発売されていたと、自分から積極的に買ってくることもあったからだ。
なのに、今買おうとすると照れるってのはどういう了見だ?
「……おまえ、一人でも時々買ってくるじゃねぇか。何を今さら」
「いや、一人で買うのは別にいいんですけど。その、何というか……二人で買うとなると、今からあの二人するんだなー……とか思われません、かね。私、ぱっと見あまり女の子にも見えないし、だから……」
「…………バカじゃねぇの」
「え、ちょっ……先輩!?」
わざと鹿島の手を引いて、レジまでそのまま向かう。
ごく一瞬だけ、店員が意味ありげに投げかけた視線には気付かないふりで、さっさと会計を済ませ、手は離さないままでコンビニを出る。
大人しく、俺についてきた鹿島は帰路でも何も話さず、家に着くまで黙り込んだまま。
家に着いて、玄関の鍵を開け、揃って家の中に入ったところで、鹿島の頭を引き寄せてキスをした。
「……っ!」
全く予想していなかったらしく、キスした瞬間、鹿島が驚きの表情を浮かべて目を見開いた。
じっと、そのまま見てると観念したらしく、目を閉じた。
目を閉じたところで舌を割り入れて、軽く口内を掻き回す。
唇を離すと、さっきコンビニで見たときよりも目元を染めた鹿島が、潤み始めている目を開いた。
「……先輩」
「ホントにバカじゃねぇの、おまえ。仮に店員に、これからセックスするんだって思われたところでそれが何だってんだ? 事実だろ。俺が相手だって思われることが不満か?」
「違……っ、そうじゃなくて!」
そんなの予想がついている。
こいつが気にしているのはそんなことじゃない。
「言っとくけどな。俺がセックスしたいと思ってるのはおまえだけだ。だから、誰にどう思われようとも関係ねぇよ。……おまえがちゃんと『女』だってのは、俺が一番良く知ってるっての」
「せん、ぱ……」
コートの隙間から手を入れて、胸を探るとそのまま中に着ているものの隙間にも簡単に触れられ、指先に肌の感触が伝わった。
ブラも着けてないのが分かって、乳首に触れると鹿島の身体がびくりと反応した。
……これ、服っていうか、中に着てるのパジャマか?
こいつ、上はパジャマのままでコート着やがったな。
若い女がする格好じゃねぇだろ。
「……この不精者」
「だって、ホントに直ぐ行って、さっと帰ってくるつもりだったし」
「っとに。まぁいい。ベッド行くぞ」
「ちょっと、待って下さい! スイーツ食べたいのに! 直ぐ食べたいから今買ってきたのに!!」
「運動した後のカロリー補給でいいだろ、それ。俺はおまえの方がよっぽど食いたい。冷蔵庫に入れる時間くらいはやるから、入れてこい」
今後、バカな事を考えずに済むよう、隅々まで食ってやる。
「……先輩の意地悪」
「何か言ったか」
「気のせいです!」
時間は現在午前二時。
夜はもう少し楽しめそうだった。
二人一緒にいる時、ゴムを買うのに躊躇う鹿島くんとそれを気にしない堀先輩を書くのが楽しかった♡
ただ、自分で書いておいてなんですが、コートの下、パジャマのままなのは不用心だよ、鹿島くん……w
タグ:月刊少女野崎くん, 堀鹿, pixivUP済, R-15, 社会人同棲設定, ワンライ, 500~3000文字, 堀視点, 2014年