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変化の切欠は一体何か<月刊少女野崎くん・堀鹿・R-18>

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堀先輩お誕生日おめでとう話。
ガーターベルトと誕生日と結婚の切欠について、みたいな話です。
(これだけ書くと訳分からない)

※二人が社会人で同棲している前提での話&既に結婚済みのざちよ夫婦+ちび(名前付き)が出ます。

初出:2014/11/28 同人誌収録:2016/04/10(一緒に歩く先は。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:23205文字 

 

[堀Side]

休日のショッピングセンターは流石に人出が多い。
どうしたって平日には来られない層が押し寄せていれば、そうなるのも無理はない。
理由を頭では分かっていても、この人の多さには溜め息が出る。
自分たちも、その中の一人であることは、この際棚に上げておく。
ネットで買い物することもままあるが、仕事の状況等によっては平日荷物が受け取れる時間には帰れず、結局休日に荷物を受け取るようにしたり、直接買い物しに行ったりすることになる。
また、鹿島の方がショッピングが趣味というだけあって、ネットでアレコレ買い揃えたりするよりは、こうやって直接ショッピングセンターに来たりする方がずっと好きらしい。
俺としても、これってデートですよねと、浮かれながら出かける準備をする鹿島を見るのも可愛く思うし、いい女を連れて歩いているという優越感も得られるので、人混みに辟易しつつも、こうして出かけること自体は結構楽しんでいた。

「先輩、他に寄りたいお店あります?」
「あー、俺は欲しいCDあんだよな。ネットでいつも買ってるとこだと品切れだったから、在庫あるようならこっちで買いたい。おまえは?」
「私はちょっと新しい下着が欲しいので、ランジェリーショップに寄ろうかと。なら、時間決めてフードコート辺りで待ち合わせにします?」
「そうするか」

鹿島の服やアクセサリーを見立てるのは好きなんだが、流石に下着売り場までは入れない。
待ち合わせの時間を提案しようとしたその時、ふと、下着から連想してある事に気がついた。
こいつがガーターベルト身につけてるのって、一度も見たことねぇ。
俺が足好きだと知っているから、ここ数年の鹿島のボトムには、結構俺の趣味が反映されている。
あまり肌の見えないくらいの濃さの黒タイツとか、足の線が綺麗に出るタイトスカートとか。
今日の格好にしたって、膝丈より少し長めのタイトスカートだ。
シンプルな黒のタイトスカートは、レース地が上に重なり、膝辺りからは透けたレースで足が見えるようになっていて、すらっとした足をより引き立てるデザインになっている。
時折、鹿島の足に投げかけられる男の視線に、これは俺だけの足だ、見て存分に羨め、とひっそり思ったりしていたことはさておき。
その鹿島がガーターベルトを着用したことがない、ってのは正直意外だ。
もしかして、素で気付いてないのか?
そう考え始めると、もう是が非でも着せたくなってきた。
この足にガーターベルトが似合わないわけがない。
さらに、その姿の鹿島を攻め立て、その際に見せてくれるだろう顔を想像したら……これはやらないでおく理由はない。

「えっと、選ぶのにちょっと時間かかるかも知れないんで、一時間くらい待ち合わせに見て貰ってもいいで……」
「鹿島」
「はい?」

鹿島の言葉を遮って、希望を述べてみる。

「下着を買うなら、リクエストがある」
「リクエスト? 何色のがいいとか、そういうのですか? 別に構いませんけど……何です?」
「ガーターベルト、買ってきてくれ」
「………………は?」

しばし、二人の間に沈黙が降りる。
ややあって、呆れたような口調の鹿島は、思ってもなかったことを口にした。

「あの……先輩、意外に腰幅がっちりしてるから、ガーターベルト合うのがあるかどうか。いや、自分で買うのが恥ずかしいのはわかりますけど」

何故そうなる。
こいつの頭のネジって、二、三本は抜けてるよなと思うのはこういう時だ。
高校時代に、鹿島が活躍出来るような『王子様』が出てくる演劇の台本を書いて貰うことと引換えに、野崎のマンガのアシスタントをやっていた、というのを鹿島はもう知っている。
知っているはずなのだが、どうも、一度インプットしてしまった情報が抜けきらないらしく、未だに俺にヒロイン願望が残ってる、と思っている節が何処かにあるようだ。

「待て。いつ、俺が身につけるって言ったよ。おまえだ。おまえが俺に見せる為に、買ってきて身につけろって話」
「……え、は、ええっ!?」

何だ、その驚き。
予想していた反応と違うなと思っていたら、続いた言葉も正直意外なものだった。

「お断りします」
「即答かよ。……理由は? 俺としてはどうしても見てみたいんだが」
「……やっぱり好きなんですか、ガーターベルト」
「多分、あれを嫌いだって言う男の方が少ねぇよ」

俺が足好きなことを差し引いても、そう思う。
あんな扇情的な格好だ。
そそられる男は多いだろう。

「そうなんですね。まぁ、先輩が足好きなのは知ってますし、もしかしたら見てみたいのかなぁと思ったりもしましたけど」
「そこまで分かっているなら、何でダメなんだ?」
「……ちょっといいですか」
「ん?」

鹿島が溜め息を吐くと、俺の手を引いて、人気の少ない階段まで連れて行く。
そういや、往来で堂々とする話でもなかったか。
最近、こいつと一緒にいると気が抜けすぎているかも知れない。
階段で人がいないのを確認すると、鹿島が俺の手を離して向き合った。
ほんのり、目元が赤くなっている。

「あのですね。あんながっつり勝負下着ですって主張してるようなアイテムは買うのがそもそも恥ずかしいんですよ! 私、胸ないからバランスも悪いし。その、私みたいに色気ないのが、ガーターベルトなんか買うのかって思われそうで」
「考えすぎだ。大体、俺は胸の方は気にしてないっていつも言ってるだろ。こんな極上の足持ってて何言ってんだ」
「外でそういう触り方しないで下さいよ、もう!」

人がいないのをいいことに、タイトスカート越しに太股を軽く撫でると、直ぐさま鹿島の手に止められた。

「そういうって何だ。普通に触っただけじゃねぇか」
「先輩の普通は普通じゃないです。……とにかく、そういうわけですから」
「なら、もうちょっとで俺の誕生日だから、今年の誕生日プレゼントはガーターベルトにしろ」
「……はぁ!?」

鹿島の声が裏返ったが、それには構わず言葉を続ける。

「ああ、語弊がある言い方だったな。今年の誕生日プレゼントは、ガーターベルトを着たおまえがいい」
「訳分からないです! それ、先輩に直接あげるものじゃないでしょう!?」
「いや、ガーターベルト自体は俺に直接じゃないだろうが、おまえは俺が直接食うんだから、問題ねぇだろ」

実際、誕生日なんて理由があったのが幸いだ。
これなら、鹿島が渋ったところで誕生日の希望を聞いてくれないのかと突きつけられる。
こんな部分は、自分でも意地が悪いなと思ってはいるが、そういう形で頼み込めば、鹿島は拒みきれないだろうというのを、俺は分かっていた。

「いや、でも、何か……何か違いませんか!?」
「違わねぇよ」
「そう……かなぁ」

よし。これはもう一押しでいける。

「何だよ、せっかく誕生日プレゼントの希望を出してるのにダメなのか? おまえ、いつもプレゼント選ぶのに結構迷うとか言ってただろう」
「や、そうなんですけど……でも」
「鹿島」

鹿島の目をじっと見ながら、そこで黙る。
それで、鹿島がちょっと怯んで困り顔になった。
こいつのこういう顔も悪くねぇよなぁと思いながらも、それは表には出さずに、ただ鹿島を見つめる。
そうして、時間にして一、二分経っただろうか。
鹿島が溜め息を吐いて――折れた。

「分かりました。ガーターベルトですね。……買ってきます。何色がいいとかありますか?」
「おまえに似合いそうなら何でも良いが……そうだな。黒がいいな。ガーターストッキングも黒のにしとけ」
「……了解しました。もう、仕方ないなぁ。先輩は本当に足フェチなんだから」

鹿島はまだ呆れ顔だったが、俺は内心、勝利の美酒に酔いたい勢いだった。

***

目的のCDは難なく見つかり、早々に待ち合わせ場所にしたフードコートに来てはみたものの、場にいるのはほぼ家族連れやカップル。
勿論、こっちにも鹿島がいるが、あいつが買い物中は一人で待つことになる。
この混み具合で、一人フードコートのテーブルを占拠してしまうのに、少しばかり居心地の悪さを感じた。
早く戻ってきて欲しいところだが、ガーターベルトのリクエストをしたのはこっちな以上、うかつに催促するのも気が咎める。
出来るだけゆっくりとコーヒーを飲みながら、先程購入したCDのジャケットに目を通していると、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれ? 先輩?」
「しぇんぱー!」
「ん?」

声のした方を振り返ると、野崎と佐倉、それに二人の間に出来た子どもが佐倉に手を引かれて、俺の方に向かってきた。

「やっぱり、堀先輩だ! お久しぶりです」
「お、野崎に佐倉じゃねぇか。おまえらも来てたんだな。って、おい、子ども……倫太郞っつったっけ? 大きくなったな! もう歩けるのか」

確か、この後輩夫婦の子どもに前に会ったのは、ようやくはいはいをし始めた頃だったか。
あれから数ヶ月しか経ってないのに、もう手を引かれながらも歩いているし、それに――。

「今、舌っ足らずに俺を呼んだのはこいつか?」
「ああ。もう最近、嫁さんや俺の言葉をガンガン吸収して、真似してしゃべりますからね」
「言葉だけじゃなくて、行動も結構見てるよね。うかつな発言や行動が出来なくなってきてますよー」
「凄ぇ、こどもの成長って早いんだな」

あまり人見知りをしないらしい倫太郞は、俺にも無邪気に笑いかけた。
笑うと結構佐倉に似てるなと、つい柔らかそうなほっぺを突いてみる。
子どもの小っちゃな手が俺の指を掴んで、はしゃぐ。

「もう目が離せなくなっちゃって困ります」
「そうだな。つい先日あったことなんですが。こいつが仕事部屋のベビーゲートをついに自力で突破してしまい、完成間近の原稿に墨汁がばしゃーっと……」
「げっ、マジか」

光景を想像するだけで寒気がした。
完成間近の段階で原稿をダメにされるのは、ダメージが大きい。

「そう、もうあれは血の気が引きましたよ。あとちょっとで担当さん来るって段階だったし」
「被害にあったのがほぼ一ページで、残してあった線画のコピーもあったのが幸いしました。コマごとに切り抜き、ペン入れしてる最中に切り抜いた方に先に背景描いて貰ったり……あの時は本当にどうなるかと」
「本当に担当さんのチャイムが鳴った瞬間だったよね、原稿貼り合わせられたのって」
「「それが、ここ最近一番の修羅場でした」」
「……大変だったな、そりゃ」

最後は二人揃ってハモった言葉に、苦笑いだ。
とはいえ、そんなことを口にしながらも、野崎も佐倉も子どもに向ける目はどこまでも優しい。
幸せなんだな、というのが見ていても分かる。
親しい相手のそんな様子は、こっちとしても心が和んだ。

「そういえば、今日、鹿島くんは? 一緒じゃないんですか?」
「ああ、あいつなら今下着を見に行ってる。流石にああいう場所には一緒に入れないしな」
「なるほど、それでここで待ち合わせですか」
「まぁな。おまえらもここに座らないか? 鹿島が戻ってくるまで、一人で待っているのもちょっと居心地悪かったとこだから、いてくれると有り難いんだが」
「いいんですか? それならお邪魔します」
「じゃましまー」

使っていたのが四人がけのテーブルだったから、人数としても丁度良い。
俺の右隣の席を一つ空ける形で、向かい側の席に二人が座り、子どもは野崎が抱いた。
そして、座るや否や、佐倉に対して促す。

「ちぃも鹿島のところに行ってきたらどうだ? 倫太郞は俺がここで見てるから」

ちぃ、とは佐倉の愛称だ。
こいつらが付き合いだして、間もなくくらいから野崎は佐倉のことをそう呼んでいる。
佐倉の顔がぱあっと明るくなった。

「いいの? じゃ、ちょっと私も行って来ます! いい子にして、パパと待っててね、倫太郞」
「ママ、いってあったーい」
「ああ」

佐倉が俺に向かって軽く会釈すると、小走りでその場を立ち去った。

「何だ、佐倉が行きたそうにしてたってわかったのか?」
「まぁ、何となく。こいつ生まれてから、あまり一人で外出させてやれなかったし、鹿島が店に行ってるって聞いた瞬間に、ちょっと表情変わったんで」
「へぇ……流石、夫婦三年目。幸せそうで何よりだ」

思えば、高校時代は端から見ている方が、何故佐倉の直向きな好意に気付かないのか、と言いたくなるぐらいだった朴念仁が変われば変わるものだ。
軽い冷やかしにも、涼しい顔で抱いている子どもの頭を撫でる。

「まぁ、おかげさまで。……そういえば先輩」
「ん?」
「何でまだ結婚しないんですか、先輩たち。もう同棲し始めて三年くらい経ってますよね」
「……何だよ、いきなり直球だな」

初っ端からそういう話を切り出されるとは思わなかったから、少し驚いた。

「一応、女性陣の耳に入らないだろう配慮をしたつもりです。女の買い物って長いですからね。まだ当分帰ってこないでしょう」
「あー……まぁな」

ましてや、鹿島の買い物は俺のリクエストだしなとは言わずにおく。
言ったが最後、こいつの懐からネタ帳が出てくるのが分かっている。

「先輩のことだから、結婚を考えてないってことはないですよね」
「ああ」

それはない。
いずれ結婚したいとは思っているし、その相手は鹿島以外には考えられないし、考えたこともない。
問題はタイミングだ。

「余計なお世話だと思いつつ、あえて言います。何が先輩を躊躇わせているんですか?」
「……おまえさ、鹿島の家庭環境とか佐倉から聞いてたりするか?」
「それとなく、程度ですが」
「じゃあ、何となく想像つくだろ。俺はあいつに不自由させたくねぇんだよ」

付き合い始めて知ったが、鹿島の実家はそこそこ裕福な家庭だった。
嫌みにならない品の良い立ち振る舞いは、育ちもあったんだなと納得した一方で、一緒になるなら、それなりに生活に余裕が出てからだと考えさせられた。
今はそれぞれ働いているから、金銭的な部分では多少余裕もあるが、結婚して子どもが出来たら、鹿島はしばらく働き方に制限も出るし、何よりも俺が――そうなった場合は鹿島に家にいて貰いたい。
それには、もうちょっと結婚前に貯金を増やしておきたいところだ。

「先輩は慎重なんですね」
「慎重にもなるよ。社会人としちゃ、まだまだ駆け出しだしな。おまえは高校の時から、マンガで生計立てられているし、大学卒業と同時に結婚したから、そう言うんだろうけども。俺はもう少し、自分の中にゆとりが出来てからにしたいんだよ」

金銭的な意味だけでなく、気持ちの上でもだ。
鹿島の隣に堂々と気後れすることなく立てる男でありたい。

「先輩だって、そんな躊躇うほどの給料じゃないでしょうに。ちぃが言ってましたよ。鹿島が先輩のこといっつも惚気てるって。会社でも出世株の一人みたいだし、真面目に仕事してる姿が格好いいんだーって」
「げ。あいつ、そんなこと言ってんのかよ」

女同士のおしゃべりってやつは油断出来ねぇな。
俺のいないところで何言ってるんだか。

「鹿島は高校時代から、割とそんな感じだったように思いますけどね。……家庭持ったら、持ったなりの責任感で意外とどうにかなるもんですよ」

子どもも出来たら、なおさらです。と野崎が、いつの間にか眠りに落ちかけている子どもを抱き直しながら言う。

「先輩だって、想像したら楽しくなりませんか? 鹿島に瓜二つの子どもとか」
「楽しくなる一方で、凄ぇ心配にもなるな。考えてもみろよ。あいつと同じ顔した子どもなんて産まれてみたら、まず、産まれた瞬間に可愛さのあまり、病院で注目集めるだろ? で、幼稚園でも多分、日々誰と遊ぶかの争奪戦になりそうだ。幼稚園のガキなんて、早々空気読めなさそうだし。小学校でも、バレンタインとかのイベントごとあった日にはとんでもないことになりそうだろうって予想もつくな。鹿島、過去に最高でチョコレート幾つ貰ったことあるか知ってるか? 三桁だぞ。一クラスに精々三十数人って中でそれだぜ? 凄ぇよな、あいつ。で、中学……」
「……先輩。こっちから話を振った上に、水を差すようで申し訳ありませんが、まだ、出来てもいない子どもでそれは考えすぎです」

話の腰を折られて、ちょっと一人で突っ走りすぎたかとは思うが……実際、そうなりそうな未来しか見えない。

「そうか? 鹿島見てたら想像つくだろ?」
「……いや、まぁ。実際に子どもが出来ただろう日には、先輩が鹿島相手どころじゃない親バカっぷりを発揮しそうなのだけは良く分かりました」

呆れた口調の野崎が、何となくそうなりそうな気はしてましたが、とぼそりと呟いたのは聞き逃さなかった。
……まぁ、実際、鹿島と同じような顔した子どもが出来たら、男でも女でも可愛くて仕方ないだろうなと思う。
俺に似たとしても、それはそれで血の繋がりを感じて嬉しいだろうし。

「何だよ、おまえだって自分の子は可愛いんだろうが。さっきの原稿ダメにされたって話した時だって、修羅場だって言いながら、本気で困ってた様子には見えなかったぞ」
「そりゃ、原稿をダメにされたこと自体は漫画家として焦りはしましたが、親としては成長したなと嬉しくなりもしましたからね。これから、どんどん動いていくだろうし、しばらく目は離せないのも確かですが。……先輩」
「ん?」
「子ども持つなら、少しでも若い方が体力的に楽ですよ。数人持ちたいならなおさらです。あ、うちの子にそろそろ幼馴染みが欲しいとか、人の家庭の話がネタになるからとか、決してそういうことから言っているわけではなくてですね」
「片手にネタ帳持ちながらそれを言っても説得力ねぇぞ」

こんなところは相変わらずの創作脳な辺りが野崎だ。
けど、まぁ、野崎が言うことも一理あるよなぁ。
実際に子ども産むのは鹿島だし、体力的な部分を考えたら、少しでも若い方がいいっていうのも確かだ。
出来れば、二人か三人は欲しいし。
直ぐに子どもが出来るとも限らないことを考えたら、案外時間は限られていることに、今更ながらに気がついた。
…………子ども、なぁ。
目の前の野崎が抱いている子どもを見ながら、何となく色々考えさせられた。

[鹿島Side]

ランジェリーショップで、自分の好みかつ先輩のリクエストにも沿ったものをかごに入れてはみたけど、どうにも踏ん切りがつかない。
いや、多分これを買ったら先輩は絶対喜ぶんだろうなとは思うけど……思うけど!
それとは別の部分で、羞恥心が邪魔をする。
別にお店の人が直接どうこう言うこともないんだろうけども……でもなぁ。
ああ、レジまでの数十歩の距離が妙に遠く感じる。

「あっ、いたいた。鹿島くーん」

そんな時、私を呼ぶ親しい友人の声が聞こえた。
反射的に声がした方を振り向くと、やっぱり其処にいたのは予想通りの相手だった。

「千代ちゃん!? 久しぶり! 来てたんだ。今日、倫太郞くんはどうしたの?」
「うん、今、野崎くんが見てくれてるよ。フードコートで堀先輩と会って、ここに鹿島くんが来てるっていうから、私も来ちゃった」

なるほど。先輩と会ったのかぁ。
……まさか、先輩、ガーターベルト買うとか言ってない……よね。
ああ、やっぱりこれ買うの恥ずかしいなぁ。
かごの中を見て、つい溜め息を吐いてしまう。

「ど、どうしたの?」

千代ちゃんが私の様子を訝しんだのか、そう尋ねてくる。
つい、千代ちゃんの胸に目がいく自分が、どうにも切ない。

「千代ちゃん……千代ちゃん、Bカップはあるよね」
「え? あ、うん、まぁ……それがどうかしたの?」
「知ってる? ガーターベルトも一緒にセットで揃えて買おうとしたら、ブラのサイズってBカップ以上じゃないとガーターベルトと揃うのが中々なかったりするんだよね」

かごの中から、ガーターベルトを取り出しながら、千代ちゃんにぼやく。

「あ、そうなの? ガーターベルトって買ったことなかったから、知らなかった。何か、買うのちょっと恥ずかしくって。私あんまり色気ないし」

友人の言葉に頷くしかない。
やっぱり、普通の感覚だとちょっとガーターベルトを買うのって恥ずかしい気がする。

「ああ、やっぱり恥ずかしいよね。でも、千代ちゃんだと、可愛いデザインで似合うのあると思うよ。私はさ……そもそもそれ以前の問題って言うか」
「えっと……ガーターベルトって堀先輩の希望……何だよね?」
「じゃなきゃ買わないよ! 私だって恥ずかしいもん。大体さ……サイズの合うブラで揃えられないってことは、AAカップの貧乳には、色気のあるガーターベルトなんか着るなって言われてる気がして」

本当にあと少し胸に栄養がいってて欲しかった。
先輩は胸のサイズ、全然気にしないとは言ってくれてるけど。
身長に行った分の栄養が胸に行ってたら、今頃大分違ったんじゃないかと思ってしまう。

「考えすぎだよ! あ、そうだ。パッドとか入れてどうにかして、Bカップのブラを買って揃えちゃうのは?」
「……それやるとどうなるか、見てみる?」

さっき、試着した時のむなしさをもう一度体験するのも切ないけど、見たら千代ちゃんも納得するだろうし。
試着室に入って、さっきも一度つけたガーターベルトとセットになったブラをまた着けてみる。
そして、着けたところで試着室の直ぐ傍にいた千代ちゃんを呼んで、試着室の中に入れた。
私の姿を見て、千代ちゃんが絶句したのに、ああ、やっぱりと思う。
……うん、流石にAAカップがBカップのブラ着けると、パッドでフォローするにも限界あるんだよね。
胸の上部が、哀しいほどにすかすかなのをみて、千代ちゃんが言いにくそうに口を開いた。

「…………何て言うか、その、ごめん」
「ううん。いいの。……ああ、もう、せめてもうちょっと胸があって欲しかった。ホント可愛くない体型で嫌になる」

つい、そのまま試着室の床にしゃがみこんで、落ち込む。
こんな風に愚痴ったって、千代ちゃんだって困るだろうに。
でも、顔を上げられないでいたら、千代ちゃんもしゃがみこんで私の頭を撫でてくれた。

「……鹿島くんは可愛いよ。好きな人の為に戸惑うのは、先輩から見ても可愛いと思うよ?」
「…………千代ちゃん……!」

慰められて、涙腺が緩みそうになった。
つい、勢いで千代ちゃんに抱き付いてしまう。

「ちょっ……鹿島くん、服、服!」
「あ、ごめんね、つい」

うっかり、上半身がブラだけの状態になっていたのを忘れてた。
離れたら、千代ちゃんが私が着ていたブラウスを肩からかけてくれる。
そして、もう一度ぎゅっと抱き締めてくれた。
こういうところ、千代ちゃんがもう『お母さん』なんだなぁって感じる。
こう、温かくて優しい母性を実感するというか。
私より、千代ちゃんの方がずっと可愛い。

「うーん……あ、そうだ! ブラ買わなくてもこういうのはどう?」
「ん? 何」

千代ちゃんが、私の耳に口を近づけて潜めた声で提案してきた。
その内容を聞いてみて……びっくりする。

「……えええ!?」
「でも、ありじゃない? どうせ、外には着ていかないよね、それ?」
「そりゃそうだけど……でも」
「多分、喜ぶんじゃない? 堀先輩。そもそも、鹿島くんが何着ても、堀先輩は喜ぶ人だと思うんだけど?」

それは、私も心当たりはあるけども。
でも、喜ぶ……かなぁ。
ちょっと自信はないながらも、千代ちゃんの提案はありかなぁと思ったので、そのまま受け入れてみることにした。

[堀Side]

「鹿島ー。風呂上がったぞー」
「はーい、じゃ、私入って来ますねー」
「あ、風呂上がりはちゃんと、今日買った下着着けて出て来いよ」

風呂上がり、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら鹿島に念を押しておくと、風呂場に行きかけていた鹿島の足がぴたりと止まった。

「……どうしても、今日したいんですか」
「当たり前だ。俺がどんだけ楽しみにしてると思ってるよ、おまえ」

夕方に買い物から帰って以降、夜に見られるであろう鹿島のガーターベルトを、ずっと期待しながら一日を過ごしていた俺と違って、鹿島の方はあまり乗り気ではないらしく困った顔だ。
こういう表情はあまりしないなと思いつつも、相変わらずのイケメン顔は困り顔でもハマる。

「先輩。今日、何曜日かわかってますよね?」
「日曜日」
「明日は週始めで月曜日だっていうのは」
「わかってないわけないだろう。が、一週間の活力にしたい。次の週末までなんて待てるかよ。大体、来週末なんて下手すりゃ、おまえ生理とぶつかんだろうが」
「人の周期、そこまで把握してくれてなくてもいいです! 今日したら、それこそ誕生日プレゼントとか全然関係ないじゃないですか」

そこに触れられると少々耳が痛い。
が、俺としてはどうしても今日ガーターベルトの鹿島を楽しみたい。

「……遊」

遊に近づき、軽く頭を自分の方に引き寄せると、わざと耳元でトーンを落として、下の名前を囁く。
俺のこの声にこいつが弱いと知っているから。

「俺はもの凄くガーターベルト姿のおまえを見たいし、抱きたい。……どうしてもダメか?」

つ、と頭を引き寄せた指で軽く反対側の耳の縁を辿る。
俺の言葉とその仕草で遊の顔が赤く染まった。

「っ、もう! 耳元でその声でそんなこと言うの反則! あー……ちゃんと着けてきますってば。一時間くらいで出るので寝室で待っていて下さい」
「おう、楽しみにしてるぞ」

遊から離れる前に、口元近くの耳に軽くキスする。

「お願い……あんまり期待しないで」

遊が溜め息交じりに呟いたが、まぁ、期待するなと言う方が無理だろう。

***

寝室のベッドに座って、本を読みながら遊を待っていると、部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
直ぐにドアが開いたが、ちょっと開いたところで止まり、遊の顔だけが俺の様子を窺うようにちらりと覗く。
本をサイドテーブルに置いて、手招きするも遊は来ない。

「ん? どうしたよ」
「あの、先輩」
「何だ?」
「……笑わないで下さいね」

そう言ってから、寝室に入ってきた遊は確かにガーターベルトを身に着けていた。
リクエスト通りにガーターストッキングも黒。
ショーツもガーターベルトと同じデザインで揃えられている。
が、胸はといえば。
遊は両手を交差させて胸を覆っていて、ブラをつけていなかった。

「おまえ、ブラどうしたよ」
「その、ガーターベルトと全部揃えようと思うと、ブラのサイズが私の胸だと合うのがなくてですね。そしたら、千代ちゃんが……」
「佐倉?」
「えっと、どうせ外に着ていかないような下着なんだから、ブラなくてもいいし、こうやって手で隠せばいいだろうって。最終的には脱がされるんだしって」

……流石はあの創作脳の妻やってるだけあるじゃねぇか、佐倉。
ナイスアイディア、グッジョブだ。
今度、野崎のとこに行くときには礼も兼ねて、いい土産を持っていくことにしよう。

「なるほどな。……遊、手はそのままでここまで来い」
「ん」

言われた通りに、遊は胸に置いた手はそのままにして、ベッドの側まで来たところで、くるりと遊の身体を半回転させる。
ショーツの方はTバックになっていて、腰から尻、足にかけての身体の線と下着が魅力的な光景を醸し出していた。
さっき、正面側ではガーターベルトにあった青い花の刺繍と同じような刺繍が、Tバックの僅かな生地の上に乗って、鮮やかに咲いている。
Tバックって、後ろ側がこう少しの生地だけで尻が隠れないのがエロいよなぁ。
ガーターストッキングを留めている、このベルトから垂らされたひもがまたたまんねぇ。
今日はブラも着けてないから、背中も綺麗に空いているのがまた余計に興奮させられる。
ひもごと、遊の尻に触りながら軽く何カ所かにキスすると、また前を向かせた。
ベッドに腰掛けさせようとしたところで、手が塞がっているからか、遊が軽くよろめいたところを腕を伸ばして支えた後に、軽く倒してベッドに横にさせる。

「その、手はいつまでこのままにしたら?」
「俺がいいって言うまで」
「ん……」

唇を重ねて、舌を口内に入れ、遊の舌と絡ませる。
互いのざらついた舌の感触は馴染んで久しいが、飽きはしない。

「んっ……」

こんな風に昼間とは全然違う色っぽい声は、何度聞いても気分を昂ぶらせてくれる。
さて、どう楽しむとするかな。
せっかくだから、ガーターベルトはそのまま着けさせておくとして、問題は足だ。
ストッキングを着けたままもいいが、素足も触りたい。
何しろ、こいつの足は形だけでなく、触り心地も極上ときてる。
だったら、両方楽しめるように、ストッキングは片方だけ脱がせるとするか。
唇を離して、軽く耳を噛む。
ほんのりと香るシャンプーの匂いが心地良い。
いつもなら、すぐ胸に伸ばす手は腹に置いて、ガーターベルトごと撫でてみる。
丁寧な刺繍を施されたレースも生地も、触り心地が良い。
顔を上げて、鹿島の全身を見下ろすと白い肌に黒いセットの下着は見事なコントラストで、見栄えがしていた。
素直に胸に置かれたままの手も可愛い。

「せ……んぱい」
「やっぱり凄ぇ、似合ってる。もっと、早くガーターベルトに気付いてリクエストすりゃ良かったわ」
「んっ」

臍に舌を這わせながら、遊の右足に触る。
右足を折り曲げて、爪先から太股まではストッキング越しの感触を楽しみ、足の付け根近くの素足が出た部分は、吊り下げているベルトの下にも指をくぐらせて楽しむ。
きわどい場所のぎりぎりまでは触りながらも、中心部分にはまだ触らない。
少しの間、そうやって右足の感触を楽しんでから、顔を上げ、遊の左足を肩に乗せた。
ガーターベルトから吊り下げている部分を外し、ストッキングを足首までするすると下げていく。

「脱がすんですか?」
「こっちだけな。そしたら、それぞれ違う感触楽しめるだろ」

足首からもストッキングを抜き取り、完全に素足になった左足の膝にキスする。
そのまま、内股にも唇を滑らせて、また足の付け根近くまで触れる。
さっきよりも、少し濡れたのか甘ったるい匂いを放ち始めた中心には気付かないふりで、付け根近くの肌を軽く吸い上げる。

「んっ!」

びくりと、鹿島の身体が震えたのが伝わる。
が、そのまま続けて足の付け根だけでなく、色んな部分に唇、舌、指、掌を使って触っていく。
滑らかな白い肌が興奮で、少しずつほんのりピンクを纏う。
遊が弱い胸にも、足の間にも触れていないのにだ。
……大分、足で感じてくれるようになったよなぁ、こいつ。
ん? もしかして。
昼間、ショッピングセンターで遊の太股を軽く撫でたとき、反応したのは感じたりするからなのか?

「あ……ああっ!」

一度、左足を下ろして、再び、右足の露出されている部分を軽く指先だけで撫でると、鹿島の喉が鳴った。
掌でも触れてみると、歯を食いしばったのも伝わった。

「最初の頃に比べて、足感じるようになったよな。凄ぇ嬉しい」
「も……先輩の所為、じゃないですか……っ」
「なぁ。もしかして、昼間太股触ったとき、人がいないのに直ぐ止めたのは感じるからか?」
「……っ!!」

問いかけに対して、遊の足が震えた。
図星、か。
ホント可愛いな、こいつ。
ちゅ、と音を立てて手で触れていたところに唇で触れると、今度は耐えきれなかったのか、嬌声が響いた。

「なるほどな。ショーツだけ脱がせるぞ。ここ、大分濡れてるし」
「言わなくても、いい、です……っ」

下着越しの秘所を指で軽く撫でた後、其処を覆っていたショーツを脱がせる。
ついでに、自分が着たままだったルームパンツや下着も脱いだ。
ガーターベルトは残して、ショーツを剥ぎ取った状態も中々そそられる。
濡れた場所に唇を触れさせて、そっとひだを舌でなぞった。

「ん、あ、やっ、あ!」

なぞるそばから、膣口から蜜が溢れてくるのがわかる。
指で軽く其処を広げて、膣口にも舌を挿れると引き攣ったような悲鳴が上がった。
クリトリスにも指を伸ばして、軽く擦ると遊が足で俺の身体を軽く締め付けてきた。

「何だ」
「先輩……手っ……いつまで、こうしてればいい……んですか」

律儀に胸に置かれたままの手。
こういうところが可愛すぎるよなぁ。こいつ。
素直に言われたままなんだもんなぁ。
こっちとしても、弄りがいがあるが。

「外したいか?」
「……先輩に触られたい」
「おまえ、胸弱いもんな」
「っ……」

潤んだ青い目が切なさそうに揺れる。
ま、そろそろ勘弁してやるか。

「いいぜ、外しても。右と左、どっち触られたい? それとも――」

其処で、言葉を区切って遊の目を見ると、一瞬だけ逸らしかけた目を俺に向け、声が微かに震えつつもちゃんと言ってのけた。

「……どっち、も」
「良い答えだ」
「うあっ、あっ、んんん!!」

おねだりの仕方も上手くなったもんだ。
より弱い左側の胸は乳首を口に含んで、右側の胸は掌で乳首を包んで、軽く押しつぶすようにしながら円を描くように撫でた。
ずっと、遊の手で覆っていた胸は体温がいつもより高い。
そのせいなのか、焦らしたからなのか、胸の反応が過敏になってるように思えた。
右手を下に伸ばして、指先だけで遊の性器を探る。
十分に濡れた其処に、もう指を挿れても問題なさそうだと判断して、中指を忍び込ませた。
水音と共に、指が温かな粘膜に包まれていく。
クリトリスの裏側を指の腹で擦ってやると、断続的な悲鳴が上がって、より中が濡れていく。
やっぱり、弱い場所一気に責めると反応凄ぇな。
遊の反応に、こっちも興奮度合いが引き上げられていく。

「お願……先輩。一番奥、触って……突いて、下さ……っ」
「指でこのまま触ればいいか?」

突いて、という単語が出た時点で違うだろうと察しはしたが、あえて、指の方で問いかける。
遊は一瞬だけ、戸惑いの表情を見せたものの、先程自由になったばかりの手を俺の方に伸ばして――張り詰めてるモノに触れてきた。
遊の細くて滑らかな指が根元から先端へと滑って、カリのあたりを握った。

「こっち……」

甘えを含んだ声に負けたのは俺だった。
遊の中から指を抜いて、遊の唇を吸う。
柔らかい唇の感触を楽しみながら、枕の下に忍ばせてあるゴムを一つ取って、唇を離す。

「つけましょう、か」
「……頼むわ」

ゴムを渡すと、遊が包装を破り中身を取り出す。
遊が身体を起こして、俺のモノにゴムを被せようとしたが、その前に一度先端にキスしてきた。

「っ」

柔らかい唇の感触に堪えきれず、うっかり零れてしまった声に気付いてなければいいが、一瞬ちらっと俺を見上げてきたことからして気付いてるな、これ。
誤魔化すように、遊の髪を撫でると目元が笑ったのが見えた。
遊の手が俺のモノを片手で掴みながら、もう一方の手でゴムを着ける。
遊が再び、ベッドに仰向けになったところで、そっと遊の腹に触れる。

「横になって貰って良いか? こう、右側を下に向けるような感じで」
「ん……ああ、アレですか。先輩……ホントに足触りたいんですね」

遊が俺の言ったように身体の右側を下に向けたところで、遊の左足を抱えて持ち上げる。
開かれた足の間にこっちも足を広げた状態で身体を入れ、膣口に先端をめり込ませた。
亀頭部分がしっかり入ったところで、抱えた足を引き寄せるようにしながら、遊の中に挿れていく。

「ん、あ……!」
「っ」

松葉崩しって言われてる体位は、こうやって足を触りながら楽しめるから結構好きだ。
一番奥まで突き入れると、抱えた足にキスしながら、軽く突いていく。
時々は、俺の足の間にあるストッキングを履いたままの足も触りながら。
ガーターストッキング、網タイツでも感触違って面白かったかもなと、ちらっと思ったりもしつつ、素足とストッキングを履いた足をそれぞれ楽しむ。
本当に良い足してるよなぁ、こいつ。
触り心地といい、見た目といい、最高だ
抱えた足が軽く汗ばんでいるのに、興奮しているのが分かる。
顔も切なさそうな目をしながら、俺が向けた視線からは逸らさない。

「せ、んぱ……ああっ!」

軽く中を掻き回すように動くと、呼応して遊の内部がざわりと俺に纏わり付いた。
ゴム越しでも気持ち良いけど、これが直接だったらどんなにかと考え……昼間のことを思い出す。

――ただいま、先輩。野崎、久しぶり! わー、倫太郞くんだ! こんなおっきくなってたんだ!

買い物から戻った遊と佐倉が戻った時に、ちょうど眠ってた子どもも目を覚ましてて、母親の佐倉に腕を伸ばして抱き付いた。
子どもを優しく抱き上げる佐倉の顔もすっかり母親してんな、なんて見てたら、遊の唇が確かに『いいなぁ』と動いたのだ。
言葉にはならなかったし、俺との会話でも特に触れたりもしなかったが、それだけに印象に残った。
……やっぱり、こいつもそろそろ欲しかったりすんのかな、子ども。

――先輩だって、想像したら楽しくなりませんか? 鹿島に瓜二つの子どもとか。

楽しくなるに決まっている。
別に瓜二つの子どもじゃなくたって、遊と俺との間に出来たら、どんな子だって可愛いだろう。
足を支えていたうちの一方の手で、太股を滑らせ、腰へと流し、そのまま柔らかい腹を触る。
さっきから、俺が突き上げていて、この手が触れている奥にある子宮を意識しながら撫でると、遊の声がよけいに甘さを帯びた。

――子ども持つなら、少しでも若い方が体力的に楽ですよ。数人持ちたいならなおさらです。

腹を括る頃合いなのかも知れないな。いい加減。
快感に支配されつつある思考で、腰の動きを強くしながら、身体を繋げている場所を見る。
うっかり、そのまま挿れてしまったこともあるとはいえ、基本的にセックスの時には、こうしてゴムを着けている。
微かな壁で隔てられた先の感触はそれなりに知ってはいるが、中に出したことは流石にない。
当たり前だ。
今、こうして抱き合っているのはコミュニケーションの一つではあるけど、子どもを作ろうとしての行動じゃない。
肌を触れ合わせて、快感を貪るのは、お互いの存在を強く感じたいからだ。
セックスは元来生殖行動なんだし、直接中に出したいという欲望があるのは当然だろう。
けど、その先に控えている責任や、重圧に耐える自信はなかった。
――ほんの少し前までは。

「遊……っ」
「せ……ん、ぱっ……あ! ああ!!」

抱えた足が強ばって、遊が達したのを感じた瞬間、俺も衝動に逆らわずにゴムの中に吐き出す。
快楽の頂点が下り坂を辿り、落ち着きを取り戻すと抱えていた足を下ろした。
力が抜けて、ぐったりしている遊の頭を撫でると、閉じていた目が開く。
綺麗な青い目が優しい笑みを湛えている。

「先輩……」
「気持ち、良かったか?」
「ん……先輩は?」
「俺もめちゃくちゃ良かった」

くすぐったそうに笑う遊の頭をかき乱す。
責任だとか、重圧だとか、大変そうなことも、そうでないことも、全部二人で分け合っていけばいいんだよな。
今までにも何度も考えはしたけれど、こいつと一緒になりたい、二人の子どもが欲しいと、今までで一番強く感じた。

***

流石に、明日が月曜日だからか、行為が済んだ後の遊は然程しないうちに眠りについた。
俺の腕の中で眠ってる遊は、あどけない無防備な表情をしている。
無防備なんだが、ちゃんと表情が整って様になっているあたりが凄い。
こんな顔もいいよなぁ、こいつ。
このタイミングだと、遊の眠りが深いことを知っているから、遠慮無しに顔をじっくり眺める。
今だって、毎日眺めてはいるけど、これ、結婚して子どもが出来たら、もしかしたら同じ顔が並んでこうやって眠るところが見られるかも知れないのか。
……やべぇ。想像したら顔がにやけるのが抑え切れない。
野崎たちのところみてると、子ども育てるの大変なんだろうとは思うが、それ以上に充実した生活してそうだしなぁ。
――いいよな、そろそろ踏み切っても。
いつ、ちゃんとこいつにプロポーズしようか、なんて考えながら俺も襲い始めた眠気に逆らわずに目を閉じた。

[鹿島Side]

「鹿島ー。風呂上がったぞー」

お風呂から上がった先輩が、私に声を掛けてきたのでリビングで読んでいた雑誌を閉じる。

「はーい、じゃ、私入って来ますねー」
「あ、風呂上がりはちゃんと、今日買った下着着けて出て来いよ」

お風呂場に行こうとしたところで、そんなことを言われてしまい、つい足を止めて先輩の方を振り返ってしまった。

「……どうしても、今日したいんですか」
「当たり前だ。俺がどんだけ楽しみにしてると思ってるよ、おまえ」
「先輩。今日、何曜日かわかってますよね?」
「日曜日」
「明日は週始めで月曜日だっていうのは」

セックスするとどうしても翌日に倦怠感が残ってしまうから、正直週の頭とか、半ばとかにするのは出来れば避けたい。
それは先輩だって基本的に同じはずだ。
すること自体が嫌だって訳では勿論ないんだけれども……昨夜だってしてたんだけどなぁ。

「わかってないわけないだろう。が、一週間の活力にしたい。次の週末までなんて待てるかよ。大体、来週末なんて下手すりゃ、おまえ生理とぶつかんだろうが」
「人の周期、そこまで把握してくれてなくてもいいです!」

活力と来ましたか。
来週だったら……何て、ひっそり思っていたのは見抜かれていたみたいだ。
そりゃ、一緒に住んでるんだし、することしてるんだから、周期もいい加減把握されているのは分かってるけど。

「今日したら、それこそ誕生日プレゼントとか全然関係ないじゃないですか」

気になるのはそこだ。
ただでさえ、直接先輩にあげるプレゼントじゃないのに、これで今日ガーターベルトを身につけてするのなら、本当に誕生日どうこうなんて関係なくなってしまう。

「……遊」

先輩が下の名前で呼んでくれるのは嬉しいけど――嫌な予感がする。
私に近づいてきた先輩が、私の頭を引き寄せるようにしながら、こんな風に耳元で低く囁くときは、大抵求めてくるときだ。

「俺はもの凄くガーターベルト姿のおまえを見たいし、抱きたい。……どうしてもダメか?」

抱きたいという言葉に、一瞬昨夜のベッドの上での先輩を思い出す。
さらに、そのタイミングで先輩が、囁きを落としている耳とは逆の方の耳にそっと触れてくる。
行為の最中に触れるようなやり方は、例にもれず、昨日もされた。
……先輩は狡い。
この台詞も声も作為的なものだって、私だって分かっている。
分かっているのに――ダメかと語尾に切なさを含ませた声に、自分が落ちてしまったのを自覚した。
勝手に顔が熱くなる。

「っ、もう! 耳元でその声でそんなこと言うの反則! あー……ちゃんと着けてきますってば。一時間くらいで出るので寝室で待っていて下さい」
「おう、楽しみにしてるぞ」
「お願い……あんまり期待しないで」

先輩が耳に軽くキスして私から離れても、耳にキスした時の唇の感触と音が残っているような感覚に、溜め息を吐くしか出来なかった。

***

お風呂から上がって、言われた通りに下着のセットを身に着ける。
一通り着けて、簡単に確認するも――胸の辺りに何もないのがどうにも落ち着かない。

――別に、無理してブラまで買わなくていいと思うよ? 胸は手で隠しておけばいいんじゃない?
――えええ!?

昼間、千代ちゃんに提案されたのがこれだ。
休みの日は家でノーブラのこともあるし、寝るときも基本はノーブラだから、そこを先輩に予想外に襲われてってパターンでブラを着けてないのは何度もあるけど、意外に下は履いているのにブラは着けてないって状態のままで、先輩の前に出たことはなかった。
とっくに全身色々と見られてるんだけど、この格好はこの格好でどうにも気恥ずかしい。

――どうせ、外には着ていかないよね、それ?

そりゃ、対先輩用の下着だし、外に着ていくつもりはない。
普段は実用重視のを着てるんだし。

――そもそも、鹿島くんが何着ても、堀先輩は喜ぶ人だと思うんだけど?

特に、今回は目的が足だしね! 
……まぁ、これは割といつものことだけど。 
先輩がまず見たいのってガーターベルトだろうし、胸のサイズ気にしないっていうのも、それこそ何十回って聞いているけど……でも、それらとは別のところで恥ずかしいんだよね。
いっそ、先輩が先に寝ていてくれないかなぁと思うけど、こういう時の先輩は絶対に寝ない。
ちらっと時計で時間を確認すると、先輩に言ってあった一時間がまもなく経とうとしている。
結局躊躇いつつも、寝室に向かった。
ドアをある程度開けたところで、一旦止めて先輩の様子を窺いに顔だけ出す。
ああ、やっぱり寝てないなぁ。
上半身はもう何も着てないし。
先輩が読んでいた本をサイドテーブルに置いて、指先でくいっと自分の方に来い、と合図を送って来たけど……あああ。

「ん? どうしたよ」
「あの、先輩」
「何だ?」
「……笑わないで下さいね」

諦めて、手を胸に交差する形で置いて、寝室に入った。
流石に先輩はすぐに私がブラを着けていないことに気付く。

「おまえ、ブラどうしたよ」
「その、ガーターベルトと全部揃えようと思うと、ブラのサイズが私の胸だと合うのがなくてですね。そしたら、千代ちゃんが……」
「佐倉?」
「えっと、どうせ外に着ていかないような下着なんだから、ブラなくてもいいし、こうやって手で隠せばいいだろうって。最終的には脱がされるんだしって」

千代ちゃんの提案には違いないけど、我ながら言い訳っぽい。

「なるほどな。……遊、手はそのままでここまで来い」
「ん」

先輩の指示通りに、手はそのままで、ベッドの側まで行くと、くるっと身体を半回転させられた。
背中や腰に視線を感じたかと思うと。お尻をガーターベルトのひもごと触りながら、そっと数カ所にキスされた。
その後、また半回転させられて、先輩と向き合う。
ベッドに座れと促されて、腰を下ろしたけど、手が塞がっているからちょっとぐらついてしまった。
直ぐに先輩の腕が私を支えて、ちゃんとベッドに座れたけど、その直後に押し倒されて、結局ベッドに横になった。

「その、手はいつまでこのままにしたら?」
「俺がいいって言うまで」
「ん……」

先輩が私の頬に触れながら、唇を合わせてきた。
先輩の舌が入って来て、私の舌と絡んでいく。
先輩の舌が私のよりも少し熱くて、もう興奮し始めてくれてるんだと、嬉しい。

「んっ……」

先輩の唇が離れると、さっきお風呂に入る前に耳にキスされた時と同じ部分が軽く噛まれた。
そして、先輩の手が私のお腹の方に伸びて、ガーターベルトと一緒に触っていく。
温かい手の感触が気持ち良い。
一頻り触っていくと、先輩が一度身体を軽く起こした。
全体をじっと見られているのが分かる。
そんなに嬉しそうな顔で見られたら、私としてはもう何も言えない。

「せ……んぱい」
「やっぱり凄ぇ、似合ってる。もっと、早くガーターベルトに気付いてリクエストすりゃ良かったわ」
「んっ」

先輩の顔が下の方に降りていって、お臍に舌が触れた感触が伝わった。
そのまま、右足の方から触られていく。
足の先からゆっくりと甲、踵、踝、臑、膨ら脛……と上の方までストッキングごと足を撫でていく。
本当に足好きだなぁ、先輩。
私だって、触られるのはそれなりに気持ち良い。
特に、今みたいに膝から上の辺りと来たら――明らかに前よりも感じる部分だ。
足の付け根近くの肌が出ている部分に触られると、つい呼吸が弾みそうになる。
ストッキングを留めているベルトの下にも指は滑っていって、肌を触っていく。
一通り、右足をそうやって触ったかと思うと、今度は私の左足が先輩の肩に乗せられた。
そして、ほとんど触らないうちに、ガーターベルトから吊り下げているひもからストッキングを外して、ストッキングは脱がせていく。

「脱がすんですか?」
「こっちだけな。そしたら、それぞれ違う感触楽しめるだろ」

やっぱり、触る分には素足の感触が好きみたいだ。
いつも触っているのに、それとは別らしい。

――見て楽しむのと、触って楽しむのってまた違うんだよなぁ。

前に先輩がそんなことを言っていた。
先輩が足が好きなことは十分知ってるとはいえ、その先輩の拘りに対しての理解は未だに出来ないでいる。
先輩が喜んでくれるなら、それでいいかな、とは思うけどね。
ストッキングが完全に脱がされたところで、素足になった左足の膝に唇が落とされた。
その唇が内股の方を辿っていって、足の付け根近くにまで行く。
唇が触れた部分から広がっていく快感に身を委ねていると、先輩がきわどい部分の肌を吸い上げた。

「んっ!」

身体の奥が熱くなって、先輩の唇が触れているすぐ側、身体の中心が濡れたのが自分でも分かった。
そのまま先輩が、左足をあちこち丹念に口と手を使って触っていく。
足が震えてしまいそうになるのを、抑え込もうとするけど、多分無駄な抵抗なんだろうなぁ、これ。
足って、本来こんなに感じる場所じゃなかったはずなんだけど。

「あ……ああっ!」

つい、声を上げてしまうと、先輩が私の左足を肩から下ろした。
その瞬間、不意打ちで右側の肌が出ている部分を触られて、身体が反応した。
内側をす……と掌で撫でていく感覚にまた声を上げてしまいそうになり、慌ててかみ殺す。
でも、当然のように先輩にはそんなのがバレバレだった。

「最初の頃に比べて、足感じるようになったよな。凄ぇ嬉しい」
「も……先輩の所為、じゃないですか……っ」
「なぁ。もしかして、昼間太股触ったとき、人がいないのに直ぐ止めたのは感じるからか?」
「……っ!!」

だから、誰の所為だと思っているんですか、とそれこそ喉元まで出かかった。
足だけじゃない。身体中、全ての場所。
先輩が触ることで反応してしまうのは、先輩が私の身体をそういう風にしたからだ。
本当に責任取って欲しい。
あんな昼間のみたいにさりげなく触られるだけでも、感じさせられるようにされてしまっている。

「んんんっ!」

まして、こんな風に音を立てながらきわどい部分にキスなんてされたら、もう自分じゃどうしようもない。
大分、下着が濡れてしまっているのが分かる。

「なるほどな。ショーツだけ脱がせるぞ。ここ、大分濡れてるし」
「言わなくても、いい、です……っ」

自覚していたところに、さらに言われてしまったら余計恥ずかしい。
下着越しに触れた先輩の指の感触がもどかしい。
この指に直接触られたい。
下着が脱がされて、指が其処に触れるかと思ったら――触れたのは唇だった。
唇の柔らかさに続いて、舌のざらついた感触にもう我慢がきかなかった。

「ん、あ、やっ、あ!」

さらに指で其処を広げられて、中にまで舌が入って来る。
舌で軽く抽挿されて、声が抑えきれない。
一番敏感な部分にも触られて、絶妙な力加減で擦られる。
使えない手の代わりに、足で先輩の身体を締め付けてやめてと訴えた。

「何だ」
「先輩……手っ……いつまで、こうしてればいい……んですか」

いい加減、手を使って先輩に触りたいし、胸も触られたい。
下半身ばっかり触られているのも、いくら気持ち良くても切ない。

「外したいか?」
「……先輩に触られたい」
「おまえ、胸弱いもんな」
「っ……」

そうだと自覚させたのも誰の所為ですか!
先輩に触られるようになるまで、どこが弱いとも、感じるとも大して分からなかったのに。

「いいぜ、外しても。右と左、どっち触られたい? それとも――」

ちゃんと自分で言えよ、と言わんばかりだ。
先輩にじっと見つめられて、少し怯むも希望を述べる。
希望は躊躇わずに口にした方が、先輩は喜ぶ。

「……どっち、も」
「良い答えだ」
「うあっ、あっ、んんん!!」

手を外した瞬間、先輩の口と手が、私の両胸に触れて一気に快感が全身を巡った。
その快感が収まらないままに、大事な部分まで先輩が指で触れてきたから、一層快感が強くなる。
指が中に挿れられたのも、煽っていく一方だ。
敏感な部分を外側と内側から二本の指で責められて、自分の声だと思いたくないものが寝室に響く。

「お願……先輩。一番奥、触って……突いて、下さ……っ」
「指でこのまま触ればいいか?」

絶対、分かってて言っている。
先輩の目元が意地悪く笑っているもの。
だったら、こっちだって、と少し身体を起こして、先輩の中心に手を伸ばす。
幾度となく私の中を埋めたモノを、付け根から先の方へと触って、掌で先の方を包んだ。

「こっち……」

先輩を見ながら言うと、ほんの一瞬だけ先輩の目に動揺の色が走った。
私の中から先輩の指が抜けていって、唇を重ねられる。
ごそりと頭の下から音がして、先輩がゴムを取り出したのが伝わった。
唇が離れたところで、問いかけた。

「つけましょう、か」
「……頼むわ」

先輩がゴムを私に手渡して来たから、そのまま包装を破って中身を取り出した。
身体を起こして、少し身をかがめる。
目の前にあるモノにゴムを被せる前に、軽く先の方にキスしてみる。

「っ」

口にはしないけど、声を上げてしまった先輩が可愛い。
私の頭を撫でてくれたのも照れてるからなんだろうな。
唇に触れた微かな塩味を舐め取りながら、毛を巻き込まないように気をつけつつ、ゴムを着けていく。
そういえば、最初の頃毛を巻き込んで着けちゃって、痛がらせたことあったっけ。
ゴムを着け終わって、また体勢を元に戻すと、先輩が私のお腹に触ってきた。

「横になって貰って良いか? こう、右側を下に向けるような感じで」
「ん……ああ、アレですか。先輩……ホントに足触りたいんですね」

身体を傾けるとお腹から、先輩の手が離れていった。
そして、その手が私の左足を抱え上げて、先輩のゴムを着けたものが軽く入り口に埋まる。
……結婚して、子ども作るってなったら、こういう風にゴム着けたりしないでセックスするんだよね。
先輩が抱えた足を引き寄せるようにすると、挿入が深くなっていく。

「ん、あ……!」
「っ」

全部中に入ると、先輩が私の足にキスしながら動き出した。
繋がった場所からもたらされる、それまでより強い悦楽。
それに身を委ねながら、そういえばこれって元々は子ども作る行動なんだよなぁなんて思う。

――その時が来たら、ちゃんと言いたいから、今言うな。……言わせろよ。

先輩は手順踏んでいきたいって言ってくれてたし、ちゃんと言いたいとも言っているから、そのうちこの人と結婚することになるだろうって分かっている。
『その時』っていうのを急かせるつもりもないけど、千代ちゃんと野崎のところに倫太郞くんが産まれてから、子ども欲しいなって思うことが増えた。
多分、先輩は私に似た子どもが欲しいって言いそうだけど、私は先輩に似た子どもが欲しい。
先輩との絆を一層強く感じられそうな――。

「せ、んぱ……ああっ!」

不意に、先輩が中を掻き回すように動き始めて、思考を快感が塗り潰していく。
先輩を求めたい。私を求められたい。
まだ、恥ずかしいと思うことだって一杯あるけど、そういうのも全部引っくるめて、やっぱり先輩じゃなきゃダメだって思う。
先輩の手が私の足から滑り落ちて、お腹の方に触れてくる。
何だろう、今日はやけにお腹を触られている気がする。
……先輩ももしかして意識してたりするのかな。
私が千代ちゃんたちのとこの子ども見て、先輩との子どもが欲しいなって思ったりするのと同じように、先輩も私との子どもが欲しいって、思ってくれていたりするんだろうか。
このセックスは子ども作るためのじゃなくて、恋人同士ならではのコミュニケーションだけど、先輩となら――それで終わらないセックスをいつかしたい。
激しくなりつつある動きに合わせると、先輩の呼吸も乱れ始めた。
見上げた顔は苦しそうだけど、一方で凄く嬉しそうにも見える。
こんな時の先輩の顔がとても好きだけど、それを言ったらどんな反応をするだろうか。

「遊……っ」
「せ……ん、ぱっ……あ! ああ!!」

お腹の奥が熱く疼いて、背筋を快感が突き抜けていく。
その後直ぐに、先輩も私の中で達したのを感じた。
……ゴムがなければ、どんな感覚なんだろう、これ。
ゆっくり快感が収まっていくと同時に、眠気も襲いかかってくる。
そういえば、いつもならもう熟睡してる時間だった。
意識が霞み始めたところで、先輩の手が私の頭を撫でてきたのが伝わる。
目を開けると、汗塗れで笑っている先輩の顔が間近にあった。

「先輩……」
「気持ち、良かったか?」
「ん……先輩は?」
「俺もめちゃくちゃ良かった」

そんな言葉が凄く嬉しい。
先輩が照れ隠しで、私の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜるのが、可愛かった。

***

「あ、あれ……? 先輩?」

いつもの月曜日なら、私より遅くに起きることが多い先輩は、目を覚ましたら既に寝室にいなかった。
ガウンだけ纏って、リビングにいくと、既に先輩は出掛ける寸前といった様子でコートに袖を通していたところだった。

「おう、おはよう」
「おはようございます。もう行くんですか? いつもより早いですね」
「ああ、今日早朝会議あるから」
「……そんなのあったのに、昨日したんですか!?」

呆れてついそんな言葉を口にしたけど、次の先輩の言葉でもっと呆れることになる。

「昨日はガーターベルトのことで頭一杯になってて、さっきインスタントメッセージ来るまで、会議のこと忘れてたんだよ」
「社会人として最低ですね」
「うるせぇ。遅刻するわけじゃねぇし、最低言われるほどのことじゃねぇよ」

流石に朝飯食っていく時間ねぇけど、と先輩が玄関に向かったので、私もそのまま見送ろうと後をついていく。

「行ってらっしゃい。帰りはいつもと同じくらいですか?」
「ああ。……鹿島」
「はい?」

返事をした途端、頭を引き寄せられて唇が重ねられた。
直ぐに唇は離れたけど、呆然としたままの私に先輩がにやりと笑う。

「朝飯代わりにこんだけ貰っていくわ。行ってくる」

それだけ言うと、私の返事も待たずにさっさと玄関を開けて出て行った。
しばらく、先輩が出て行った玄関の扉を見てしまっていたことに気付くまで、何分くらい経っていただろうか。

「…………っ先輩のバカー!」

相手に聞こえないと分かっていながらも言わずには居られなかった。
普段、行ってきますのキスなんてしたことないくせに、もう!!
とりあえず、今日は先輩が嫌がってもお帰りなさいのキスを絶対に仕掛けてやろうと決めて、私も会社に行く準備を始めた。

 

堀誕生日用話で結婚の決意についてのアレコレ。
これまたタイトルは他に思いつかなかったのか、な感じのアレですが、話としては堀鹿にハマりたての頃から書きたかったものだったので、気に入ってる話の一つ。
ガーターベルトやお腹を意識して触りまくる堀先輩、のざちよ夫婦が書いてて楽しかった。
のざちよ、堀鹿、若瀬尾だと、のざちよが一番結婚早そうだなと常々思ってます。

 

タグ:月刊少女野崎くん堀鹿のざちよR-18pixivUP済同人誌収録済社会人同棲設定誕生日ネタ手ブラ20000~25000文字鹿島視点堀視点2014年