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愛情処方箋<月刊少女野崎くん・堀鹿>

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2014/11/30のフリーワンライ(第27回)から『愛情処方箋』。
未来捏造堀鹿夫婦、新婚時代の出張話。
鹿島視点をワンライ時に執筆、堀視点はpixivUP時に追加しました。
pixivではShort Stories 01に収録してあります。

※二人が社会人で同棲した後に結婚という前提での話になっております。

初出:2014/11/30  ※堀視点は2014/12/08

文字数:3428文字 

 

[鹿島Side]

一人のベッドは寂しい。
今日は先輩が泊まりがけの出張でいないから、いつもは二人で眠っているベッドを一人で使っている。
ベッドが広々として気持ち良いなぁ、贅沢だなぁと、ベッドの端から端まで転がり、面白がっていたのはベッドに入ってから精々三分くらい。
それを過ぎると、途端に先輩の体温を感じられないのが切なくなってきた。
同棲時代から、夜は二人で眠るようにしていたから、偶にこうして一人で過ごすとなると、どうにも落ち着かない。
そういえば、結婚してからの、泊まりがけの出張は今回が初めてだ。
その所為もあるのかな、この寂しさは。
それこそ、先輩と付き合う前の一人で眠っていた時間の方がずっと長いはずなのに。
既に先輩の存在が自分の一部になっているのを実感しつつ、左手の薬指に嵌めている結婚指輪を眺めた。
今頃、先輩どうしてるのかなぁ。
ビジネスホテルに泊まるけど、取引先と飲みに行くかも知れないから、ホテルに戻るの遅くなるかも……なんて言ってた。
もう、戻ってる? それともまだ?
枕元に置いてあるスマホで、今の時間を確認してみると、間もなく午前一時になろうとしていた。
夕食の後にも一度電話はしているから、五時間くらい前に声は聞いているんだけど、また声が聞きたい。
不思議なもので、仕事中だとか、用事で外出している時なんかの数時間話せないでいるのなんて、全然気にならないんだけど、こんな時は無性に先輩の声が聞きたくなる。
寝る前にもう一度電話しちゃってもいいかな、これ。
同棲期間もそこそこあったけど、一応新婚なんだし、寝る前の電話の一本くらい許されるんじゃないかな――なんて、思っていたら手元のスマホが着信を知らせた。
発信元は先輩になっている。
何、このタイミング!
一瞬、スマホを取り落としそうになったけど、慌てて電話に出る。

「せ……政ちゃん?」

結婚後に呼び方を『先輩』から『政ちゃん』へと改めたけど、まだ慣れない。
つい、先輩と呼びそうになったところを言い直すと、微かな笑い声が聞こえた。

「おう、まだ起きてたか」
「うん、起きてた。もう、ホテルには戻っているんですか?」
「ああ、ついさっき。これから風呂入って寝るけど、その前におまえが起きていそうなうちに電話しとこうと思って」
「嬉しいなぁ。私も政ちゃんの声聞きたかったから、電話しようかどうしようか迷ってた」

先輩の声で、さっきまでの寂しい気持ちが徐々に薄れていくのが分かった。
何だかんだで、先輩は私が欲しいものを欲しいタイミングでくれるような気がする。

「そうだ、今泊まっているところの駅に、前におまえが言ってた気になるチョコレートショップとやらがあったから、帰る時に土産で何か買っていくわ」
「ひゅー! マジですか! だったら、オランジュショコラを是非!!」

先輩の言葉に一気にテンションが上がる。
単純に気になっていたお店のオランジュショコラが食べられるのも嬉しいけど、前にちらっと話題にしたことを覚えていてくれていたことがもっと嬉しい。
先輩って、結構こういう細かいこと覚えていてくれる人なんだよね。

「オランジュショコラ、な。分かった」
「わーい! 私も夕食、政ちゃんのリクエストに応えたの作りますね! 何がいい?」
「おまえ」

間髪入れずに返された言葉を理解するのに、多分数秒かかっていた。

「……あの、夕食の話です、よ?」
「だから、おまえ。遊。…………自分でも、不思議なもんだと思うけど、仕事中や何かの用事でしばらく声聞けなかったり、触れなかったりするのは、全然何とも思わないけど、こうやって一人になると、自分の一部が欠けたような気分になるんだよ」

今、おまえの声聞けて、少しはそんな気分も落ち着いたけどな、と続ける声に先輩も寂しいのは一緒なんだな、と心が温かくなった気がした。

「それは……私だって一緒ですよ。先輩が居ないと何か足りない気がするんですから」
「だったら。俺がおまえが欲しいって言うのもわかんだろ、奥さん」
「そう、ですね」

少しは寂しさが落ち着いたとはいえ、本当に満たされるのは、多分直接あって、触れ合わない限りは無理だと自分でも分かっている。
まるで、お互いがお互いに対しての薬みたいだ。
寂しいっていう症状をかき消してくれるには、お互いの存在が一番の薬になる。
それ以上に効果のあるものなんて、きっとない。
求められて嬉しいと思ってしまう私も、先輩と一緒。
人のことなんて言えない。
明日の夜はどの下着にしようかな、なんて思いながら先輩との電話を切って、眠るために目を閉じた。

[堀Side]

普段がダブルベッドで寝ているからなのか、ホテルのシングルベッドが狭く感じる。
いや、それよりも違和感を覚えてしまうのは遊が側にいないことだ。
泊まりがけの出張だし、明日には自宅に帰れるが、自分でも驚く位にあいつが居ないということが落ち着かない。
普段、俺が帰宅するよりも早く、遊が帰宅していることが多いから、完全に一人になれる時間は意外に少ない。
こうして、一人で過ごす時間は久し振りだからと楽しむつもりだったのに、どうも気が乗らない。
随分と自分の中で遊の存在が大きくなっていたことに気付く。
あいつの気配が感じられないことがこんなに味気ないものだとは。
そういや、結婚してからだと、泊まりがけの出張は今回が初めてだったな。
つい、左手に嵌めてある結婚指輪に目が行く。
スマホを手にして時間を確認すると、そろそろ午前一時になろうとしていた。
いつもだったら、そろそろ寝るかって時間だ。
まだ、遊は起きているだろうか。
飲みに行く前に一度電話はしたが、今、無性に声が聞きたい。
風呂に入ってからだと遅くなりそうだし、今かけてみるか。
遊に電話してみると数コールで電話に出た。

「せ……政ちゃん?」

ああ、また『先輩』って言いかけたな、こいつ。

「おう、まだ起きてたか」
「うん、起きてた。もう、ホテルには戻っているんですか?」
「ああ、ついさっき。これから風呂入って寝るけど、その前におまえが起きていそうなうちに電話しとこうと思って」
「嬉しいなぁ。私も政ちゃんの声聞きたかったから、電話しようかどうしようか迷ってた」

可愛いことを言ってくれる。
今、遊がどんな表情で言ったかまで目に浮かんで、つい口元が緩んだ。

「そうだ、今泊まっているところの駅に、前におまえが言ってた気になるチョコレートショップとやらがあったから、帰る時に土産で何か買っていくわ」
「ひゅー! マジですか! だったら、オランジュショコラを是非!!」

以前、話題で出た店を話に出すと、遊の声が一気に弾んだものになった。
本当に甘いもの好きだよなぁ。
こんな風にはしゃがれると、こっちとしても嬉しくなる。

「オランジュショコラ、な。分かった」
「わーい! 私も夕食、政ちゃんのリクエストに応えたの作りますね! 何がいい?」
「おまえ」

返事が来るまでに数秒程の間が空いた。

「……あの、夕食の話です、よ?」
「だから、おまえ。遊。…………自分でも、不思議なもんだと思うけど、仕事中や何かの用事でしばらく声聞けなかったり、触れなかったりするのは、全然何とも思わないけど、こうやって一人になると、自分の一部が欠けたような気分になるんだよ。今、おまえの声聞けて、少しはそんな気分も落ち着いたけどな」

よく、伴侶を失った場合の表現に、半身をもがれたような喪失感、なんて小説や劇で見かけたりするとそんなもんかと思っていたが、今なら分かる。
ほんの少し離れただけでこれなら、それも仕方ないだろうと思える。
ようやく、遊と一緒になれた今はまだ想像さえしたくないことだが。

「それは……私だって一緒ですよ。先輩が居ないと何か足りない気がするんですから」
「だったら。俺がおまえが欲しいって言うのもわかんだろ、奥さん」

まだ、油断すると戻ってしまう呼び方と敬語も可愛い。
今は本当に少しの間離れているだけでも、遊が欲しくて堪らない。
そして、それは遊も同じはずだ。

「そう、ですね」

分かってはいたけど、そんな言葉に安堵の息を吐く。
声を聞くだけでも大分落ち着いたが、まだ足りない。
遊の姿を見て、触って、全身で存在を感じたい。
そうでなければ、この飢えはどうしたって満たされない。
名残惜しくも電話を切って、風呂に入り、ベッドに横になる。
つい、腕枕の為にと無意識に伸ばしてしまった左腕に気付いてしまって苦笑するしかない。
明日は、オランジュショコラを食べさせたら、そのまま遊を抱こうと決めた。

 

この結婚後初の出張で二人が少し離ればなれになったパターンを書きたかった話。
そのパターンをエロにふって、テレセクさせたのが2018年発行の『Telephone Line』になります。

 

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