2014/12/7のフリーワンライ(第28回)から『みかん』。
鹿島くんが風邪引いてしまった話。
pixivUP時に鹿島Sideを追加しました。
pixivではShort Stories 01に収録してあります。
※二人が大学生で付き合っている前提での話になっております。
初出:2014/12/07 ※堀視点は2014/12/08
文字数:4216文字
[堀Side]
「ん……先輩?」
「おまえ熱あるな……大丈夫か?」
昨夜、鹿島がちょっと身体がだるいと言って、早めにベッドに入ったから気になっていたが、朝起きるときに隣にいた鹿島の身体が、パジャマ越しでもかなりの熱さを伝えてきてた。
これは微熱って程度の体温じゃない。
「熱? あー……道理で何かしんどいなって思ったんですよね……風邪引いちゃったかなぁ」
「ちょっと待ってろ。今体温計持ってくる。あと、冷却シート」
ベッドから出て、チェストに置いてあった救急セットから体温計と冷却シートを取り出す。
普段使わないから、ケースは軽く埃を被っていたが、こうなると一人暮らしする際に親が持たせてくれたことが有り難い。
ベッドに戻って、体温計を鹿島に渡し、鹿島がそれを脇に入れている間に、シートの包装を破いて鹿島の額に貼った。
「あ、冷たくて気持ち良い」
「おまえ、今日講義あるか?」
「ん……一つだけだし、出席も大丈夫なんで、大人しく今日は寝ときます」
「そうしとけ。あー……俺は」
「知ってます。今日はどうしても出席しないとダメなのありましたよね? 気にしなくても大丈夫ですから。ちょっと調子良くなったら帰りますし」
「アホ。おまえこそ気にせず、このままここで寝てろ。熱上がるぞ」
「や、大丈夫ですって。熱も多分そんなにないですし」
そういったやりとりをしていたら、体温計が検温終了の音を鳴らした。
鹿島がそれを取ろうとするよりも、先に襟元に手を突っ込んで取る。
一瞬、鹿島が慌てたのはこの際気にしない。
体温計が示したのは38.6℃。
やっぱり、微熱どころじゃなかった。
鹿島にも見えるように差し出す。
「この熱で帰らせられるかよ。俺も午後になったら家に帰ってくるから、それまで寝とけ」
「自宅までなら十分も歩けば帰れますし、風邪だったら、先輩にうつしちゃっても困……」
「寝とけ」
つい、ドスのきいた声になってしまったが、流石に鹿島がそれで引き下がった。
小さい声ではい、と応えたのを聞いて、鹿島の頭にぽんと手を乗せる。
「それでいい。何か食いたいものあるか?」
「ん……っと。じゃあ、みかん缶お願いしてもいいですか? あのシロップと一緒に食べたくて」
「みかん缶な、わかった。大学行く前にお粥作っていくから、食えそうだったら、それも食え」
「はぁい」
やはり、熱で怠いのか普段に比べて声に覇気がない。
こういう時に鹿島を一人にさせたくねぇが、今日は俺の方はどうしても外せない講義だし、それを知っている鹿島も俺が講義をサボるのは絶対に望まないだろう。
今日は講義に集中出来なさそうだと思いながら、大学に行く支度を始めた。
***
「ただいま……っと。鹿島、起きてるか?」
一応、玄関を開けた時に声を掛けたが返事はない。
部屋に向かう途中でちらりとキッチンを見たが、結局お粥は手をつけられていない様子だった。
よっぽど、しんどいんだな。
大丈夫かよ、あいつ。
ベッドまで行ってみると、鹿島がまだ寝ていた。
あまり物音を立てないように近寄って、静かに頬に手を当ててみる。
……全然、熱下がってねぇな、これ。
普段は綺麗なピンクの唇が、いつもより赤いし、白い肌もほんのり染まってる。
理由が理由じゃなきゃ、色っぽいと思えたとこなんだろうが、流石にそんな気にもなれない。
冷却シートをちょっと触ってみると生ぬるい。
そろそろ新しいのに変えてもいいだろう、なんて思ってたら鹿島が目を覚ました。
「あ……お帰りなさい」
寝起きの所為もあるだろうが、朝より声が擦れている気がする。
病院連れて行った方がいいのか、これ。
「おう、ただいま。ずっと寝てたのか」
「ん、今先輩が帰って来てて、びっくりしました。もう午後ってことですよね」
「ああ。とりあえず、シート新しいのに変えるぞ。あと、みかん缶買ってきたけど食えるか?」
「食べます」
食欲が多少はありそうなことにほっとする。
キッチンから手頃な器とフォークを持ってきて、みかん缶の中身を全部器に出す。
身体をベッドの上に起こした鹿島に、そのまま渡そうとしかけた時に、ふと思い立った。
「……なぁ。風邪ってうつせば治るって言うよな」
「はい?」
器からみかんを一粒、自分の口の中に運んで、そのまま鹿島に口付ける。
「んっ!?」
一瞬閉じかけた唇を強引に割って、みかんを舌で鹿島の口の中に押し込む。
押し込んだ際に触れた口内がいつもよりも熱い。
「ちょ……っと、先輩。そんなことしたら風邪うつりますよ」
「それでいいんだよ。とっとと俺にうつして、さっさと治せ。おまえがしんどそうにしてるの見るより、自分が調子悪くなった方がまだましだ」
みかん缶のシロップも口に含んで、鹿島に口移しで飲ませようとすると、今度は大人しく唇を半開きにして受け止めた。
唇の端から一筋零れたシロップは、指先で拭って舐めとる。
その様子に唇を離した鹿島が、ちょっと呆れたように吐息をついた。
「……もう。先輩が風邪引いたら、私に看病するなとか言いませんよね?」
「言わねぇよ。……だから早く治せ。ああ、俺が風邪引いた時は桃缶で頼むな」
また、みかんを一粒口の中に放りこんで、口付けて。
みかんの甘酸っぱさと鹿島の口の甘さを感じながら、鹿島の髪を撫でると笑った気配がした。
[鹿島Side]
「ん……先輩?」
「おまえ熱あるな……大丈夫か?」
目を覚ましたら、心配そうな顔をした先輩がこっちを見ていた。
そういえば、顔がやたらに熱く感じるし、身体を起こそうと思っても無性に怠い。
夕べも身体がどうにもしんどかったから、先輩より先に寝たけど、ちょっと悪化してしまってるかも知れない。
困ったなぁ、多分風邪なんだろうけど、こんなの久しぶりだ。
「熱? あー……道理で何かしんどいなって思ったんですよね……風邪引いちゃったかなぁ」
「ちょっと待ってろ。今体温計持ってくる。あと、冷却シート」
先輩がベッドから出て、直ぐ近くのチェストに置いてあったケースを開けて、何か取り出したのが見えた。
先輩が戻ってくると持っていたのは、体温計と冷却シート。
体温計を渡されたから、そのまま脇に入れて計っていると、先輩が私の額に冷却シートを貼ってくれた。
「あ、冷たくて気持ち良い」
「おまえ、今日講義あるか?」
「ん……一つだけだし、出席も大丈夫なんで、大人しく今日は寝ときます」
何だかんだで、出席が危なくなるような講義はないから、一回の休みくらいはどうにでもなる。
流石に、この体調で一つの講義の為に大学まで行く気力はない。
「そうしとけ。あー……俺は」
「知ってます。今日はどうしても出席しないとダメなのありましたよね? 気にしなくても大丈夫ですから。ちょっと調子良くなったら帰りますし」
「アホ。おまえこそ気にせず、このままここで寝てろ。熱上がるぞ」
「や、大丈夫ですって。熱も多分そんなにないですし」
そんな会話を交わしているうちに、脇の体温計が検温終了の音を鳴らした。
取ろうとしたら、襟元から先輩の手が躊躇いなく入って来て体温計を取っていったのにびっくりする。
いや、そりゃ、散々触られてるし、今更なんだけど。
先輩が軽く溜め息を吐くと、私に体温計の温度が見えるように向けてくれた。
38.6℃、かぁ。それじゃ、怠いわけだよね。
「この熱で帰らせられるかよ。俺も午後になったら家に帰ってくるから、それまで寝とけ」
「自宅までなら十分も歩けば帰れますし、風邪だったら、先輩にうつしちゃっても困……」
家に帰って休むくらいなら、どうにかなるんじゃないかと言いかけたけど、先輩が眉を顰めてそれを遮った。
「寝とけ」
「……はい」
思いの外、迫力のあった声に大人しく引き下がった。
それでいて、頭に置いてくれた手は優しい。
心配させちゃってるなぁ。
「それでいい。何か食いたいものあるか?」
「ん……っと。じゃあ、みかん缶お願いしてもいいですか? あのシロップと一緒に食べたくて」
「みかん缶な、わかった。大学行く前にお粥作っていくから、食えそうだったら、それも食え」
「はぁい」
ちょっと一眠りだけしてから食べようかな。
先輩がいないのは寂しいけど、今日の場合は仕方ないし。
先輩が大学に行く用意をしているのを見ながら、早くも眠気が襲い始めていた。
***
額に何かが当たったような感覚に目を開けると、先輩の顔が直ぐ近くにあった。
あれ。もしかして、もう先輩が戻ってくるような時間だった?
「あ……お帰りなさい」
どうにも声が擦れてしまう。
喉にも来ちゃったかなぁ、これは。
「おう、ただいま。ずっと寝てたのか」
「ん、今先輩が帰って来てて、びっくりしました。もう午後ってことですよね」
「ああ。とりあえず、シート新しいのに変えるぞ。あと、みかん缶買ってきたけど食えるか?」
「食べます」
そういえば、先輩が作ってくれたっていうお粥食べ損ねたままだ。
でも、今は甘酸っぱいみかん缶が食べたいし、シロップが飲みたい。
先輩がキッチンから器とフォークを持ってきて、みかん缶の中身を全部器に出した。
食べようと身体を起こしたら、先輩がじっと私の方を見る。
「……なぁ。風邪ってうつせば治るって言うよな」
「はい?」
先輩が器からみかんを一粒、自分の口の中に入れたかと思ったら、そのまま唇が重ねられた。
「んっ!?」
こんな時にキスなんてしたら、風邪うつしちゃいそうなのに。
でも、先輩はそのまま唇を舌で割って、みかんを私の口の中に入れた。
心持ちぬるくなったみかんは意外に食べやすかった。
「ちょ……っと、先輩。そんなことしたら風邪うつりますよ」
「それでいいんだよ。とっとと俺にうつして、さっさと治せ。おまえがしんどそうにしてるの見るより、自分が調子悪くなった方がまだましだ」
そう言うと、先輩が器に口を付けて、シロップを飲み込んだ。
先輩の指が顎に触れたから、ちょっとだけ唇を開いて受け取る。
ほぼ、シロップは飲めたけど、少し飲み損ねて口の端を流れていった分は先輩が指で取った後に舐める。
ああ、もう絶対風邪うつしちゃうパターンだ、これ。
「……もう。先輩が風邪引いたら、私に看病するなとか言いませんよね?」
「言わねぇよ。……だから早く治せ。ああ、俺が風邪引いた時は桃缶で頼むな」
先輩が風邪引いた場合は桃缶なんだ。覚えておこう。
先輩が風邪引いた時には、私も口移しで食べさせようと思いながら、また先輩の唇が触れたのに応じて、口の中でみかんを受け取る。
頭を撫でられたのも、何か気持ち良くて、風邪は早々に治ってしまいそうな気がした。
ワンライのお題が出た直後に、みかん好きのフォロワーさんが反応したから、このお題を選択したw
風邪ネタは定番だけどついやらせたくなる。
みかんの皮を剥いて食べさせるのも有りだと思ったけど、シロップもネタに使えるみかん缶で。
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