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貴方のそんな声は知らない&狡獪<月刊少女野崎くん・堀鹿>

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未来捏造堀鹿夫婦+子どもたちによるシリーズもの。基本、健全路線。
弟妹がお泊り回でいなくて、はしゃいでる長男に堀先輩が歌って寝かしつけるエピソード。

足ネタありません。

2015/09/21のワンライで書いたものに追記。

創作キャラが混じることが苦手な方はご注意下さい。
当方の堀鹿夫妻には長男+年子で双子(男女)の子どもたちがいます。

初出:2015/09/21

文字数:2017文字 

 

「お父さん、次はあれ歌って! ほら、きつね出て来るやつ」

「おまえ、さっきこの曲で最後っつったろ、行弘。いい加減寝ろって。普段よりも歌ってるぞ?」

「これでホントに最後! お願い!!」

「……ったく、仕方ねぇなぁ」

 

子どもたちの部屋で寝かしつけている政ちゃんが、ぼやきながらもゆきくんのリクエストに応えて、もう一曲童謡を歌い始めたのが、リビングで洗濯物を畳んでいる私のところまで聞こえてくる。

子どもたちを寝かしつける時には、その時によって絵本を読み聞かせたり、歌を聞かせたりするけど、絵本を読むのはともかく、歌については、政ちゃんの担当になっている。

今日は下の双子が幼稚園のお泊まり会で家にいないから、ゆきくんはここぞとばかりに歌をリクエストしてるのかも知れない。

いつもだったら、三人分のリクエストを順番に歌うところを独り占め出来るって思えば、無理もないかも知れない。

ましてや。

 

「やっぱり、良い声してるなぁ」

 

私のところまで聞こえてくる歌声は、元々の声質が好きだっていうひいき目もあるんだろうけど、子どもたちに向けて歌っている時はいつも以上に柔らかくて優しく響いている。

こんな声で歌って貰えるなら、そりゃリクエストもしたくなるよね。

私も政ちゃんのこの声を聞くのがとても好きだ。

直接、私に向けられている声ではないけど、聞いていると心が温かくなる。

曲が二番に差し掛かって間もなく、少し声のトーンが落ちた。

そのまま、音量が徐々に下がっていく。

これはそろそろかな。

予想通り、小さくなった歌声は、二番を最後まで歌い終わったところで完全に聞こえなくなった。

そして、私の手元にある洗濯物を全部畳み終えたのと同じくらいのタイミングで、政ちゃんがリビングへと戻ってきた。

 

「ゆきくん、寝た?」

「ああ、ようやく。子ども部屋に一人だけっていうのに慣れてないから、興奮してたんだろうな」

「そうだねぇ。それもあるだろうけど、お父さんを独り占め出来るっていうのも大きいんじゃないかなぁ」

 

お風呂の時はお風呂の時で、私にべったりだったし。

弟妹がいない寂しさもあるかも知れないけど、親を独り占め出来る機会ってそんなにない。

政ちゃんが、テーブルに出して置いたのど飴を一つ口に入れると、畳んだ洗濯物を何も言わずに半分持って行ってくれた。

私も残り半分の洗濯物を持って、政ちゃんの後を追いかける。

 

「ふふふー」

「? 何だよ」

「んー、ああいう風に歌ってるの聞くと、やっぱり、良い声してるなぁって思って。あと、私の前で歌うのとちょっと違うよね。あ、良い意味で!」

「言うほど違うか?」

「うん、違う。初めて子どもたちに向けて歌った声を聞いたときは、新鮮な気分になったかな。あ、まだ私の知らない先輩の一面があった、みたいな」

 

自分の子どもに対して、あんな甘い響きを含ませた声で歌うのを聞くのは嬉しいような、ちょっと妬けるような、でも、相手は結局自分たちの子どもだから、やっぱり嬉しいっていう、そんなくすぐったくなる気分だった。

寝室について、二人でそれぞれに、クローゼットとチェストに持っていた洗濯物をしまっていく。

 

「おまえに対して歌ってる時とそんな違うもんかなぁ」

「ちょっと違うよー。寝かしつけるのが目的って言うのもあるかも知れないけど、甘いっていうか、ふわふわした綿菓子みたいな感じ」

「どんなんだよ。余計分かんねぇ」

 

言いながらも、私を見る政ちゃんの顔は少し照れてるみたいだった。

 

「ふふふ、可愛いなぁ。政ちゃん」

「いい歳した男に可愛いはやめろっての。っとに」

 

寝室のクローゼットとチェストに洗濯物をしまい終わったところで、リビングに戻ろうとしたら、政ちゃんに手首を掴まれた。

そして、そのまま手の甲にキスをされる。

 

「……おまえしか知らない甘い声も沢山あると思うけどな、奥さん」

「ん? 私しか知らない甘い声ってな……」

 

言いかけたところで、理解してしまった。

私しか知らない声の意味。

つい、ベッドと政ちゃんの顔を交互に見てしまった私の方に、ニヤリと笑いかける顔の余裕を含ませた表情といったら。

 

「……何で、そっちに持って行っちゃうかなぁ」

「仕方ねぇだろ。子ども一人だと思うと、その一人さえ寝たら存分に楽しめるって思うのが正直な心境だ。で? 俺としてはこのままおまえしか知らない甘い声を聞かせたいのと、俺も俺しか知らないおまえの甘い声を聞きたいとこだけど、おまえはどうなんだ」

「……そう言われたら、私が断れないの分かってていうのって狡いですよね」

「おまえだって、分かってんじゃねぇか」

「ん……っ」

 

手の甲に触れていた唇がそのまま手首へと滑っていく。

そりゃ、止める気にならないし、分かってもいるけど。

 

「ホント、狡いなぁ……先輩」

「そういう旦那と結婚したのおまえだろ。諦めろ」

 

往生際悪く、もう一度だけ狡いと呟いたところで唇を塞がれ、つけっぱなしだったリビングの電気を消しにいくのは諦めた。

 

 

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