堀鹿合宿で各自がお題を出したのをシャッフルして、引いた内容にそって30分で書くという流れで書いた話です。
堀先輩の存在自体が鹿島くんにとって『特別』だから、改めて特別なことは(無理には)しなくていい、みたいに鹿島くんは思うんじゃないかなーと勝手に考えてます。
初出:2018/04/30
文字数:1253文字
「鹿島、おまえ行ってみたい場所とかあるか?」
つい先日、鹿島とその、まぁいわゆる男女の仲として付き合うことになり、それならデートの一つでもしてみるかと試しにそんなことを尋ねてみたが。
「えー、特に行ってみたい場所って思いつかないので、それなら先輩が行きたい場所に行ってみたいですねー、私は」
「……そう言いそうな気もしてたけどよ。おまえ、食べ歩きとか好きだろ。何か食ってみたいものとかあるんじゃねぇの」
「んー、割りと食べたいものがあれば、千代ちゃんとか結月と一緒に行ったりしてますからねぇ。大体、先輩あんまりクレープとかパフェとかの類は食べたがらないじゃないですか」
「おまえ、結構甘い物好きだったんだっけ。確かにその辺はあんまり食いたいとは思わねぇけどよ」
無理に付き合って食ってみるってのもこいつは望まなさそうだしな。
けど、それならどこに行くかってのは結構悩みどころだ。
雑誌でデートスポットの特集とか読んで、何か探して見た方がいいんだろうかと思ったところで鹿島が俺の背中をぽんぽんと叩いてきた。
「何だよ」
「あのですね、先輩。何も無理に考える必要ないですよ? 私は先輩と一緒にいられればそれで嬉しいですし、それこそどこかに出掛けるとかじゃなくて、先輩の部屋で映画みるとか、演劇観に行くとかそういうのでいいんです」
「けど、それじゃ今までとあんまり変わらねぇだろ」
鹿島と付き合うようになる前にも、演技や舞台の研究という形で一緒に演劇を観に行ったり、部屋で映画や舞台のDVDを観たりしている。
だから、今言った内容ならこれまでと変わらねぇし、改まってデートって雰囲気にもなりにくいだろう。
「別に急に変わらなくてもいいじゃないですか。そりゃ、今までみたいな先輩、後輩の間柄とはちょっと違いますけど」
「『ちょっと』の違いじゃねぇだろ」
「いや、それは一旦置いといて。私は先輩が先輩だから今も昔も好きなんですし、無理に変わって、恋人同士だからどこに行くって考えて欲しいわけじゃないんですよ」
置いといてってのはどうかとツッコみたくなったが、鹿島の表情は至って真剣だったから、茶化す気分にもなれなかった。
「鹿島」
「どこかに改めて出掛けたくなったときに行けばいいじゃないですか。何も今すぐ予定を立てたりしなくたっていいんですよ。いつかそういう気分になった時で十分です」
「……おまえはそれでいいのか?」
「それがいいんです」
鹿島が相変わらずのイケメン面でそう言い切る。
……俺が変に考えすぎてたってことか。
けど、鹿島の言葉でちょっと気が楽になったというか、肩の力が抜けた気はした。
そうだな、無理にどうこうって考えなくても、自然に任せるままでいいか。
「そうか。だったら、とりあえず知り合いの伝手でミュージカルのチケット貰ったから、今度の日曜日それに行くか」
「はい! 喜んで!! って、これ結構人気ある公演のですよね!? 楽しみです」
そうして、特別今までと変わらないように見えて、何か変わるかも知れない。
そんな未来の約束を一つ取り付けたのだった。