微妙に両片想いな感じで、ちゃんとした告白はしてないんだけど、周囲には関係を内緒にして身体の関係を持っている高校生堀鹿のシリーズ。
某PINKのエロパロ板で見かけた、以下の心躍るシチュエーションに妄想が捗り、勢いで書き上げて投下、翌日加筆修正してpixivにUPした話です。
皆が帰った舞台の上でコトに及ぶ堀鹿ください
はじめは今日も最高の王子様だったぜと誉めながら
最終的には脚の間を舐めながら演劇用のいい声で言葉責めしたり
鹿島くんは堀ちゃんのそういう声に弱そう
そして堀ちゃんの言うことならなんでも従順に聞きそうだから誰もいない客席に向かって自分で股開かせたい
初出:2014/10/09
文字数:13919文字
[堀Side]
「せんぱーい! どうです!? 今日の私、かなり良かったですよね!」
舞台が終った後、部員たちに向かって撤収作業を指示し始めた俺の元に、まだ、舞台の興奮冷めやらぬといった様子の鹿島が駆け寄ってくる。
「おう、今回も最高だったぜ! 流石は我が演劇部自慢の王子様だ。終盤の殺し文句なんか、舞台袖で聞いていて、マジで震えが来たぞ」
事実、今日の鹿島の好演っぷりと来たら、過去に演じてきた中でも三本の指に入ると言って良い。
口にした終盤の殺し文句のシーンなんかは、場内が水を打ったように静まり返った。
ややあって、感極まって泣き出す観客を客席のあちらこちらで見受けられ、俺としても、心底演出した内容に達成感を得られた。
こういうのがあるから、舞台は止められない。
「ほんとですか!? 部長にそう言って貰えるのが一番嬉しいなぁ、私。……で。そんな感動をさせた、可愛い後輩には、勿論『ご褒美』頂けるんですよね」
ほんの一瞬。
鹿島の顔が『王子様』から『女』のものへと変化する。
そして、それに応じた俺も恐らく。
『演劇部部長』から、一人の『男』のものに変わっただろう。
だが、何食わぬふりをして、いつものようなやりとりをする。
「ちょっと褒めるとこれかよ! 誰が可愛い後輩だ!?」
げしっと容赦なく足蹴りを食らわせ、鹿島を床に張っ倒す。
周囲からの『部長、落ち着いてー!』と上がり始めた声は聞き流した。
これもいつもの事だ。
「痛い痛い、先輩! せっかくの衣装ボロボロになりますって!」
「どうせ、この演目は今日で最後だ。多少汚れたって、別の演目で使う時にリメイクするから気にすんな」
「うっわ、部長自ら備品を粗末に扱うとか、酷くないですか」
「うるせぇよ。ほら、とっとと片付けるぞ。帰りが遅くなっちまう」
「はーい、わかりましたっと」
立ち上がり、その場を去ろうとした鹿島の胸元のタイスカーフだけ掴んで、鹿島の耳元で他人には聞こえないよう、素早く囁いた。
「服は着替えんなよ。適当に理由付けて、脱がないようにしろ」
「……仰せのままに」
ほんの少しだけ芝居がかった口調に、緩みかけた口元は引き締め、再び部員たちに指示を出していく。
この後にある『ご褒美』を内心楽しみにしながら、目の前の作業に没頭しだした。
***
「ホントにこのソファ、今日中に直しちゃうんですか、部長?」
「ああ、損傷が広がる前に対処した方がいいだろ。別に今日は他に用事もないし、他の備品の状態もチェックしたいから、ついでに直しといてやるよ」
「いいんですか、すみません」
先程の舞台で利用したソファの一部が破れかけていた、という部員からの報告に、俺はそう答えた。
計画通り、だ。
ソファは舞台の最中にはまだ破れてなどいなかった。
さっき、人の目を盗んで俺が破いたものだ。
今日中に直すと言えば、ソファは舞台の上に置いたままになる。
どうせ、後々汚すことになるはずのソファだ。
修理する必要があった、となれば、汚した部分の布を剥いで修理することも、特に不自然にはならない。
修理するソファを除いて、どんどん舞台上の道具等が撤去されていく。
部員も、塾や用事のある者から、少しずつその場を離れ、減っていった。
そうして、一時間と少しが過ぎた頃――。
「じゃ、お疲れ様でした、部長! 鍵よろしくお願いします」
「おう、気をつけて帰れよ、また明日な」
部員、最後の一人が帰っていった。
静かになった場内と、外の様子を窺い、この場に他に人が入れないよう、鍵をかける。
「鹿島。いるんだろう」
「いますよー、勿論」
ひょっこりと、カーテンの裏から先程の舞台で演じた王子の衣装に身を包んだままの鹿島が現れる。
「流石ですねー。ソファの修理とか、場に残るのに違和感のない、理由作りの上手いことといったら」
「おまえだって、お姫様方とやらをしれっとあしらっていただろうが。
聞こえてたぞ」
――ごめんね、お姫様。
舞台の打ち上げをしてくれようとする、その心はとても嬉しいけど、今日は流石の私も少し疲れてしまってね。
明日以降でも許して貰えるかな?
明日は必ず、貴女の真心に沿えるだろうから。ね?
そういう台詞が嫌みにならず通る『学園の王子様』は、見事に女子生徒たちをあしらい、いつの間にか帰ったように見せかけ、この場に留まっていたのだ。
いつもなら、眩しいほどの存在感は鮮やかに消し去って。
そんな鹿島が見せる『王子様』ではない一面。
今からはそれを二人きりで楽しむ時間だ。
「まぁ、私たち演劇部ですし。このくらい演じるのはお手の物、ですよね」
「ああ」
鹿島が優雅な足取りで舞台にあるソファに向かい、腰掛けた。
「で? 脱ぎますか? それとも、脱がせてくれますか?」
男の指とは違う、しなやかな細い指が胸元のタイスカーフに掛けられる。
俺もソファに近寄り、鹿島の指に自分の指を重ねた。
「俺が脱がせる」
そうして、すっかり『女』の顔になった鹿島にキスをする。
自分の下半身に熱が集まっていくのを感じながら、たった二人だけの舞台の幕が上がった。
***
上半身は着崩され、胸元がはだけた王子の衣装。
下半身には何もつけていない状態になった鹿島が、恨みがましい視線を足の間で動く俺に向けている。
下半身のものを全て脱がせた後、俺が足しか触っていないからだ。
足のつま先から甲、臑から膝、柔らかな太股と足だけならまんべんなく触ったり、キスしたり、舐めたり、時に囓ったりと繰り返しているのに、甘ったるい匂いと愛液を零し始めた足の間には全く触らずにいる。
そして、鹿島にも自分で触って良いとは言っていない。
刺激がもどかしくなってきたのか、時折、足が細かく震えてる。
分かっているけど、まだ触らない。
ギリギリまで焦らして、泣きそうになる寸前の鹿島の顔が、もの凄く好きだからだ。
いつもは涼やかな凜とした顔が、情欲に塗れて、俺を求めてくる様は何度見ても気分が良い。
「せ……んぱ……」
そろそろか、と見上げた顔は予想通り。
この顔がいいんだよなぁ、こいつ。
色々見てきた表情の中でも一際好きな顔だ。
「其処。触って欲しいか?」
指で示した場所が返事をするかのようにひくりと震える。
「あ……たり前じゃない、ですか」
「なら、誘ってみろよ。舞台でおまえが観客を魅了するように。俺が其処に触りたくてたまらなくなるように、俺を誘え」
「……先輩を誘う方がハードル高いなぁ」
足だけあれば十分な人が相手なんですから、とぼやく鹿島に苦笑いだ。
まぁ、確かに足を触っていれば、かなり満たされる部分があるのは否定しないが、鹿島の中の熱を知ってしまっている今は、足だけではやはり足りない。
貫いて、擦り上げて、可愛い声で啼かせて、俺以外には誰も知らない欲情した顔を見た上で、自分も熱を吐き出さなければ、本当の意味で満たされることはない。
「……目、逸らさないで。見てて下さいね」
「ああ」
「ふっ……」
鹿島が自分の左手を使って、秘唇を広げる。
ほぼ見えていなかった、尿道口や膣口が露わになったところを、右手の方がその周囲のひだをなぞるように動き出す。
蜜が綺麗な指先に絡んだところで、中指の先端だけを膣口に入れた。
「ん……」
そのまま、指の第一関節くらいまでのわずかな長さで、其処を行き来させる。
「指。奥まで入れねぇの? おまえ好きなの、もうちょっと深いとこだろ?」
「自分じゃ……あまり」
「ん?」
「その、先輩の指だと……気持ち良い、けど。自分じゃ、変にっ……加減、しちゃうみたい、で」
「……比較出来てるってことは、自分の指も奥まで入れたことはあるんだな」
ほぼ間違いなく、俺の指を想像しながら。
「っ!」
中指をくわえ込んだままの場所がびくっと収縮したのが見えた。
……やべぇ。
今の流れで一気に興奮度合いが上がった。
思ったよりもたなかった自分に情けなさも感じながら、鹿島の指を中から引き出して、蜜に濡れた指を舐める。
「せ、んぱ……」
「足。自分の両手で広げて押さえとけ。触ってやるから」
「ん……」
鹿島が大人しく俺の指示にしたがって、自分で足を抱えた。
数時間前まで人が居た客席に向かって、今は足を広げ、大事な部分を無防備に曝け出している。
それを思うと益々興奮した。
観客の誰も居ない、二人きりの舞台でこんな振る舞いをする鹿島を、一体何処の誰が想像出来るだろうか。
濡れたひだに唇を沿わせ、そっと広げた膣口の中に尖らせた舌先を入れる。
快楽を主張しているクリトリスも一緒に指先で可愛がると、鋭い叫びが聞こえた。
こんな声も、舞台の鹿島に魅了された人々は誰一人知らない。
俺一人に向けられた女の声。
「指……っ……お願……」
羞恥からか、擦れぎみに小さく請われた声には素直に応じてやる。
鹿島の望み通りに舌を抜いて、代わりに指を其処に挿れる。
一番奥、突き当たった部分を軽く撫でてから、クリトリスの裏側辺りにある、少し固くなっている質感の部分までを指の腹を使って、強めに擦り上げる。
「あ、や、せんぱっ……強……」
「俺の指だと気持ち良いって言ったよな。……こういうのはどうだ?」
「っつ! あ、んんっ!!」
もう一本、中に挿れる指を増やし、指を折り曲げて固くなっている場所を集中的に刺激する。
広げている足ががくがくと揺れて、中から溢れた蜜が挿れている指を伝い、手首まで滴り落ちてきた。
身体を起こして、改めて鹿島を見ると、全身が小刻みに震えている。
「……指でイッたのかよ」
「っ!!」
いつの間にか涙で濡れていた青い目が、さらなる誘いをかけているようにしか見えない。
「可愛いな、おまえ。悪い、流石にもう我慢出来なくなった。挿れるぞ」
「ちょ……待って、せんぱ……私、まだイッたま……」
制止を懇願する声は聞こえたが、こっちの身体が止まれない。
鹿島の熱が欲しい。
自分のモノにゴムを素早く付けて、間髪入れずに鹿島の中に入り込んだ。
「やあああ!」
中程まで入った段階で、鹿島が場内に響く程の大声を上げた。
場所が場所だけに、一瞬身体が強ばってしまう。
万が一、人が来たらヤバいどころじゃないってのに。
「……っ、おい、鹿島。声っ……」
「だ……って、まだ、イッてるのに、先輩が、挿れる、か……んんっ!」
「ちょっと、口塞ぐぞ。苦しかったら、手で叩いて合図しろ」
「んっ、んーっ……んんん!!」
鹿島の口を片手で塞ぎながら、軽く腰を動かし、弱いと分かっている胸を攻める。
王子の衣装を着る場合でも、さらしはいらない位に薄い胸だが、感度はかなり良いし、触り心地も中々だ。
綺麗な色をした乳輪と乳首に舌を這わせ、時折は強く吸い上げると、その都度、鹿島の膣内が締まる。
口を口で塞げたら、塞いでる手も使えるのにと思うが、残念ながら俺たちの身長差では、身体を繋いだ状態でそれをするのは難しい。
が、鹿島の胸元にちょうど俺の顔が当たるから、胸を口で可愛がるのは容易に出来る。
それだけは嬉しい点と言えた。
下から顔を見上げると、鹿島と目が合う。
ああ、やっぱりいいなぁ、こいつの顔。
舞台で王子様を演じている姿も様になるが、こんな潤んだ目で求めるようにみてくる顔といったら最高じゃねぇか。
思わず見惚れてると、肩の辺りを叩かれた。
しまった、強く口押さえすぎてたか。
慌てて、手を退けると鹿島が軽く咳き込んだ。
「悪い。苦しかったか」
「苦しくは……なかったですけど、手の力強すぎです。あと、その、挿れてる時に胸あまり弄られると……刺激あり過ぎて。もう少し、加減して下さい」
「……むちゃくちゃ言いやがる」
果たして、何処の男が抱いている女がより感じるだろう事が分かっているのに、加減出来るっていうんだか。
ちょっとばかり腹立たしくなったので、少し意地の悪いことをしてやろう。
「ん……ああっ」
鹿島の足を抱えて、少し深めの抽挿を繰り返す。
中がより蕩けだした頃を見計らって、ある言葉を低く囁いた。
「『私が生きているのは貴方の為』」
「せんぱ……それっ」
今、俺が口にしたのは、つい数時間前に鹿島が舞台の終盤で言った台詞だ。
当然、直ぐに鹿島はそれに気付いて慌てた声を出す。
「『貴方の……全てを私に下さるのなら』」
「や……めて、言わな……っ」
「『他には何も……望み、ません』」
「せん、ぱ……」
恐らく、先程の舞台での台詞と重ねてしまっただろう鹿島が、それ以上は言うなと言わんばかりに背と肩に爪を立てる。
が、生憎とこっちはシャツを着たままなので、大したダメージはない。
最後に残った理性で、鹿島の顔を真っ直ぐ見て、残りの台詞を告げた。
「『貴方だけ、が、欲しいの、です……っ』」
「っ! あ……ああーっ!!」
「く……っ」
鹿島の中を擦り上げながら言った台詞の最後は、締め付けもよりきつくなり、流石に呼吸が乱れてしまった。
おそらく、イッたのは二人ほぼ同時だっただろう。
ゴム越しでも伝わる鹿島の熱さと震えがたまらなく気持ち良かった。
なぁ、鹿島。
いつか、『王子様』ではないおまえが。
こうして、『女』の面を見せてくれる、おまえだけが欲しいと言ったなら。
おまえは一体どうする?
***
「うわ、大分遅くなっちゃいましたね」
「ああ。しかし、おまえ手先結構器用だな。ソファの修理は正直助かった」
「どういたしまして。……まぁ、ソファ汚したのは私もですし」
行為が終った後、二人一緒に猛スピードでソファを修理し、片付け、
ようやく学校を出た頃には夕食にも遅いぐらいの時間になってしまっていた。
一応、ソファを修理するという名目で残っていたので、鍵を返すときも特に怪しまれたりはしなかったが、流石に遅すぎると残っていた教師に眉を顰められた。
「それにしても、部長が部の備品を使ってこんなことしてるなんて、
絶対、誰も信じないでしょうね」
「日頃の行いが良いからな。何かあればサボろうとする誰かさんと違って」
「何か悪人顔になってます、先輩。もう……やらなくなる演目だからいいものの、まだやる演目で衣装使ってとか、台詞使ってとかだったら、
その後、私まともに演技出来なくなりますよ」
「アホ、だから終る演目の時に狙ってやってんだろ。舞台上でおまえが『王子様』でいられなくなったら、困るからな」
「あ、何となくそんな気はしてたけど、やっぱりそれ踏まえてやってたんですか」
うちの部長は狡賢い変態だなー、とぼやく鹿島に、その変態に順応してるおまえは何だよと言ってやる。
「えーと……似たもの同士? いや、同じ穴のムジナ?」
「わかってんじゃねぇか」
そう、あえて言うなら、他の誰にも秘密な演目のたった一人の共演者。
その舞台の全ては、お互いの為だけに存在している。
他の誰にも役を譲る気はないし、また他の誰とも共演する気はない。
これは俺たち二人だけの楽しみだ。
「さて。運動もしたし、この時間だし、腹減ったな。何か食って帰るか」
「そう言ってくれるってことは、先輩の奢りだと思っていいんですね?」
「調子にのんな……と言いたいところだが、今日の舞台の出来は本当に良かったからな。特別に奢ってやる。ラーメンでいいな?」
「マジですか! 言ってみるもんですねー。寧ろラーメンがいいです。今、すっごく食べたい気分で」
「気が合うな、俺もだ。とんこつラーメンの美味いとこ連れてってやる」
「わーい♪ 替え玉も頼んじゃおーっと。あ、あとお茶とデザートも頼んで――」
「だから、調子にのんなっつってんだろ!」
図々しいことを言いだした上に、俺の頭を無遠慮に撫でて来たやつの脇腹に、一発肘鉄を食らわせておく。
一応、外だから加減はしておいた。
鹿島もそれは分かっていたらしく、嬉しそうな笑みは崩さないままだ。
「先輩」
「あ?」
「また『ご褒美』下さいね」
「――おまえが最高の演技を見せてくれたら、な」
今はまだ、こんな秘密の共演者という関係で良い。
『学園の王子様』が王子様ではなくなる、その瞬間まで。
[鹿島Side]
「せんぱーい! どうです!? 今日の私、かなり良かったですよね!」
今日の舞台はハッキリ言って演じきったという自信があったので、先輩にお褒めの言葉を貰うべく、終ってから直ぐさま、先輩の元を訪れた。
そして、期待通りの嬉しい言葉を先輩はくれる。
「おう、今回も最高だったぜ! 流石は我が演劇部自慢の王子様だ。終盤の殺し文句なんか、舞台袖で聞いていて、マジで震えが来たぞ」
「ほんとですか!?」
中学三年の時に、ここ浪漫学園の文化祭で先輩の演技を見かけて以来、
先輩と一緒に演劇をやりたくて、誰よりも先輩に褒めて貰いたくて、こうして舞台に立っている私にとって、先輩の褒め言葉以上に価値のあるものはない。
否、この人以外からの褒め言葉は私にしてみれば、正直なところ価値なんてないに等しい。
勿論、表立ってそんなことを口にしたりなんてしないけれども。
その相手の心を震わせることが出来たなんて、こんなに嬉しいことはない。
何しろあの台詞は、目の前のこの人を密かに想いながら演じたのだ。
――私が生きているのは貴方の為。
――貴方の全てを私に下さるのなら。
――他には何も望みません。
――貴方だけが欲しいのです。
「部長にそう言って貰えるのが一番嬉しいなぁ、私。……で。そんな感動をさせた、可愛い後輩には、勿論『ご褒美』頂けるんですよね」
ごくさりげなく。
先輩と私の間だけに通じる、秘密のキーワードを言葉の中に織り込む。
キーワードを口にした瞬間だけ、先輩の目が『男』のものになったのは見逃さなかった。
「ちょっと褒めるとこれかよ! 誰が可愛い後輩だ!?」
そのまま、勢い良く足蹴りが飛んでくる。
きっと、これで周りはいつものことだと認識してくれるだろう。
何一つ怪しむこともなく。
「痛い痛い、先輩! せっかくの衣装ボロボロになりますって!」
「どうせ、この演目は今日で最後だ。多少汚れたって、別の演目で使う時にリメイクするから気にすんな」
「うっわ、部長自ら備品を粗末に扱うとか、酷くないですか」
「うるせぇよ。ほら、とっとと片付けるぞ。帰りが遅くなっちまう」
「はーい、わかりましたっと」
立ち上がりかけたところで、先輩が私の胸元のタイスカーフを掴んで、耳元でそっと囁いた。
「服は着替えんなよ。適当に理由付けて、脱がないようにしろ」
「……仰せのままに」
ああ、やっぱりちゃんと通じてた。
それだけ確認出来れば十分。
先輩が直ぐに撤退作業に戻ったように、私もそれに倣う。
さて、お姫様たちにはきちんと退場して頂かなくては。
誰にも邪魔なんてさせない。
先輩と私の本番はまだ終っていない。
二人きりの舞台は、間もなく開演時間を迎えようとしていたのだった。
***
いつものことではあるのだけれど、舞台が無事に終ったお祝いと称して、お姫様方は私を打ち上げに誘ってくる。
普通に考えれば、当たり前なんだけど、
先輩との『ご褒美』の時間に代えられるようなものではない。
だから、私はこうやって誤魔化すのだ。
――ごめんね、お姫様。
舞台の打ち上げをしてくれようとする、その心はとても嬉しいけど、今日は流石の私も少し疲れてしまってね。
明日以降でも許して貰えるかな?
明日は必ず、貴女の真心に沿えるだろうから。ね?
次の約束さえしておけば、お姫様方は追求しないでいてくれる。
後は他の部員に見つからないよう、人気がなくなるまで隠れていればいい。
どうしたって、王子の衣装を身につけたままだと、人に見つかりやすいのだ。
早々にサボって帰ったと思われてしまっても、この際構わない。
普段が普段なので、あまり怪しまれずにいるのだろうし。
カーテンの内側に潜んでいたら、先輩と他の大道具を担当している部員との会話が聞こえた。
――ホントにこのソファ、今日中に直しちゃうんですか、部長?
――ああ、損傷が広がる前に対処した方がいいだろ。別に今日は他に用事もないし、他の備品の状態もチェックしたいから、ついでに直しといてやるよ。
――いいんですか、すみません。
ごく自然に行われたかのようなやり取り。
でも、実際にはそれが作為的なもので成り立っていることは、先輩と私だけが知っている。
舞台の最中にはソファが何ともなかったことくらい、他ならぬ使っていた私が良く知っている。
直す必要が生じたのは、間違いなく先輩の所為だ。
なのに、そんな様子はおくびにも出さない。
それこそが、先輩が演技に優れた役者だったことの片鱗を示していた。
気配を押し殺して、人が少しずつ去って行くのを待つ。
人が少なくなるのに比例して、徐々にその場が静かになり始める。
そうやって、どのくらいたっただろうか。
――じゃ、お疲れ様でした、部長! 鍵よろしくお願いします。
――おう、気をつけて帰れよ、また明日な。
恐らくは、部員の最後の一人だっただろう相手の足音と声が消えた。
聞こえてくるのはたった一人の足音。
きっと、周囲の状態を確認しているのだろう。
空間に鍵のかかる音が小さく響いた、次の瞬間。
「鹿島。いるんだろう」
先輩が私を呼んだ。
「いますよー、勿論」
カーテンの裏から出て、先輩の隣に並ぶ。
早くも期待で胸が高鳴っていくのを自覚する。
「流石ですねー。ソファの修理とか、場に残るのに違和感のない、理由作りの上手いことといったら」
「おまえだって、お姫様方とやらをしれっとあしらっていただろうが。
聞こえてたぞ」
撤収作業をちゃんとしながらも聞いていたらしい。
気にかけてくれていたのかと、内心嬉しくなる。
「まぁ、私たち演劇部ですし。このくらい演じるのはお手の物、ですよね」
「ああ」
他の道具が全て撤去された舞台上にあるのは、たった一つのソファ。
これから演じる私たちの演目に欠かせない、その道具に向かって歩き、腰掛ける。
「で? 脱ぎますか? それとも、脱がせてくれますか?」
胸元のタイスカーフに指を伸ばしてそう尋ねると、先輩も私の元に来て、軽く覆い被さるような形になり、私の指とタイスカーフに触れる。
「俺が脱がせる」
重ねられた唇に、どこかで開幕のベルが鳴り響いたのを聞いたような気がした。
***
三度の飯より足が好き――かどうかまでは分からないが、そこまでとは言わずとも、相当足というパーツが好きなのが堀先輩だ。
演劇部の合宿でも、本当に足しか見てないから、それが誰の足かまで分からない、と言うほどの足への偏愛っぷりは凄まじい。
その点、私の足は一応『鹿島の足』と認識はしてくれて、お気に入りの部類には、入っているみたいだけど。
それはともかく。
足への執着たるや、いくら先輩が好きな私でもうんざりするほどだ。
今日もそう。
寛げた胸元には少し触れてはくれたけど、後はひたすら足を触っている。
全て脱がされた下半身が、どうにも落ち着かない。
恐らく、性感帯としてはやや鈍い部類の足だけど、それでも先輩にずっと触られていたら反応はする。
が、太股までは来る手や唇はその先には進まずに、また膝やら臑やらに戻る。
触れて欲しいのは足の間なのに。
かといって、何も言われてないのに、自分から触るのも躊躇われて、もどかしさにおかしくなりそうだ。
「せ……んぱ……」
ついに根負けして、先輩を呼ぶ。
私を見上げてくる顔は意地の悪い笑みを浮かべていた。
絶対、分かっていてやっている。
「其処。触って欲しいか?」
先輩の指が私の足の間を指し示す。
「あ……たり前じゃない、ですか」
「なら、誘ってみろよ。舞台でおまえが観客を魅了するように。俺が其処に触りたくてたまらなくなるように、俺を誘え」
「……先輩を誘う方がハードル高いなぁ。足だけあれば十分な人が相手なんですから」
観客百人を魅了させるより、堀先輩一人を虜にする方がずっと難しい。
半端な演じ方では捕らわれてなどくれない人だ。
「……目、逸らさないで。見てて下さいね」
「ああ」
「ふっ……」
先輩とこんな風になるまでは、自分でもじっくりと触ったことのなかった場所。
其処を自分の指で割り開いて、先輩によく見えるように曝け出した。
先輩の視線がそこに注がれるのを自覚しながら、ゆっくりと触る。
先輩しか知らない場所。
ごく手前の方だけ馴染ませようと、浅く指を中に入れる。
「ん……」
軽く動かして、じわりと広がる快感に身を委ねていると、先輩から疑問の声が上がった。
「指。奥まで入れねぇの? おまえ好きなの、もうちょっと深いとこだろ?」
「自分じゃ……あまり」
「ん?」
「その、先輩の指だと……気持ち良い、けど。自分じゃ、変にっ……加減、しちゃうみたい、で」
自分の指で、先輩の指の動きをなぞってみたことはある。
けど、力加減とか触れ方が全然違うのか、
どうも冷めてしまって、上手く出来なかった。
「……比較出来てるってことは、自分の指も奥まで入れたことはあるんだな」
「っ!」
思わず、身体が硬直する。
ああ、確かにこんなんじゃそうだと言っているも同然だった。
でも、そんな反応が功を奏したのか、先輩が中に挿れていた私の指を取って、絡みついていた蜜を舐めた。
舐め取る赤い舌も、指先にかかる吐息も熱い。
どうやら、誘惑が成功したらしい。
「せ、んぱ……」
「足。自分の両手で広げて押さえとけ。触ってやるから」
「ん……」
両方の手を膝裏に置いて、足を広げ、先輩に向かって曝け出した。
広げた場所に近寄った先輩の顔が直視出来なくて、奥の方に視線を向かわせると、少し前には人で埋まっていた客席が目に入る。
背筋が震えた。
舞台が終って、沢山の拍手を貰ったのと同じ場所で、先輩とセックスしているというのを、改めて認識してしまう。
あの時は凜々しい王子として、人々の目に映っていただろう私は、いまや――。
「…………!」
大事な場所を先輩にキスさせて、舌を入れさせて、触れさせている。
そんな淫らな王子なんて、世界の何処にもいやしない。
ここにいるのはただの女だ。
身体の奥が疼いたのを満たして欲しくて。
「指……っ……お願……」
懇願してしまうだけのただの女。
だって、この飢えは先輩でしか満たされない。
舌が抜かれて、先輩の指が奥まで入り込んでくる。
それだけで、もう溶けそうなくらいに気持ち良かった。
中が強めに擦られて、さっきよりも濡れていくのが自分でも分かる。
「あ、や、せんぱっ……強……」
「俺の指だと気持ち良いって言ったよな。……こういうのはどうだ?」
「っつ! あ、んんっ!!」
指がもう一本増えた、と認識した瞬間、あまりに強い快感が駆け巡って、視界が白く染まった。
意識の何処かで水音を聞いた気がする。
再び、視界に先輩が映った時には、随分と嬉しそうな顔をしてた。
「……指でイッたのかよ」
「っ!!」
自分で触れていた時には緩やかだった快感は、先輩の指だけで一気に上り詰めてしまっていた。
その落差に自分の顔が熱くなっていくのが分かる。
「可愛いな、おまえ。悪い、流石にもう我慢出来なくなった。挿れるぞ」
「ちょ……待って、せんぱ……私、まだイッたま……」
足を押えていた手を前に回して、止めようとしたけど、先輩は止まらない。
こんな状態で挿れられたら、と思った時には遅かった。
「やあああ!」
繋がりかけた場所から、強烈な快感が襲う。
ここが何処かなんて、十分理解しているのに声が抑えられなかった。
「……っ、おい、鹿島。声っ……」
「だ……って、まだ、イッてるのに、先輩が、挿れる、か……んんっ!」
「ちょっと、口塞ぐぞ。苦しかったら、手で叩いて合図しろ」
「んっ、んーっ……んんん!!」
先輩が私の口を手で覆って塞ぐ。
声を上げないように、そうしたはずなのに、先輩は私に刺激を与えるのをやめようとはしない。
寧ろ、私が弱い胸まで攻め立ててきた。
何て矛盾しているんだろう。
追い詰めないで、と思う一方で繋がった場所と胸からの快感に、求められているのだと歓喜してしまう。
苦しいのに気持ち良い。
胸を強く吸われると、続けざまに先輩が微かに呻くのにも煽られる。
この人も私で感じてくれているのだ。
そんな風に思いながら、先輩を見るとふと目が合った。
情欲の焔を灯した『男』の目。
幾度か身体を重ねる度に見てきた、この目が結構好きだと気付いたのは最近だ。
きっと、演じてない素の先輩を映し出しているからだろう。
とんとん、と先輩の肩を叩いて、口元の手を離して貰う。
一時の激しさは去ったし、最後まで口を覆われているのも嫌だ。
先輩が慌てたように手を離すと、流れ込んできた空気に軽く咽せた。
「悪い。苦しかったか」
「苦しくは……なかったですけど、手の力強すぎです。あと、その、挿れてる時に胸あまり弄られると……刺激あり過ぎて。もう少し、加減して下さい」
「……むちゃくちゃ言いやがる」
むちゃくちゃなのはどっちですか、とこっちが言いたい。
散々攻め立ててくれた所為で、身体の下にあるソファがどうなっているかは、あまり想像したくないことになっていそうだ。
きっと随分汚してしまっている。
だというのに。
「ん……ああっ」
足を抱えられて、さっきよりも深く強く先輩が動き始める。
ああ、そうか。
この演目の終演に向けてのクライマックスだ。
終りたくない、という思いも何処かにあるけど、そうはいかない。
上げた幕はちゃんと下ろさなくては。
再び、昂ぶりだした快感に身を任せていると、唐突にとんでもない言葉が流れてきた。
「『私が生きているのは貴方の為』」
「せんぱ……それっ」
先輩が口にした言葉に胸の奥が震えた。
それは、つい先程。
私が演じていた舞台で、終盤に殺し文句として書かれた台詞。
どうして、それを、よりにもよって今。
「『貴方の……全てを私に下さるのなら』」
「や……めて、言わな……っ」
そんな身体の奥深くまで染みこむような、あの舞台で演じる時の声で。
「『他には何も……望み、ません』」
「せん、ぱ……」
如何にもそれが真実だと言わんばかりに語りかけてくるのだろう。
何て意地の悪い人。
縋っていた先輩の背中と肩に、遠慮なく爪を立てるも、シャツを着たままの先輩にはきっと効果なんてない。
そうして、最後の言葉が真っ直ぐに容赦なく私を貫いた。
「『貴方だけ、が、欲しいの、です……っ』」
「っ! あ……ああーっ!!」
「く……っ」
分かって、いるのに。
あの言葉はあくまで劇中の台詞。
私に向けられたものではないのだと分かっているのに。
甘い快感が一気にはじけ飛んだ。
微かに先輩が歯を食いしばる音を聞きながら、これが真実ならこのまま死んでもいいくらいの幸せなのにと思う。
ねぇ、先輩。
私はあなたの為に『王子様』を演じているのだと。
他の誰の賞賛も私には意味のない言葉。
先輩だけに『鹿島遊』を求めて欲しいと願ったなら。
あなたは私を軽蔑するのでしょうか?
***
「うわ、大分遅くなっちゃいましたね」
「ああ。しかし、おまえ手先結構器用だな。ソファの修理は正直助かった」
「どういたしまして。……まぁ、ソファ汚したのは私もですし」
コトが済んで、二人で汚れたソファの修理をし、情事の名残も先輩が破いていたところも全く分からない状態にして、片付けた。
流石に、先輩が鍵を返しに行ったときには、遅いと怒られたらしい。
そりゃ、そうだ。
もう学校には、生徒は勿論、先生方もほとんど残っていないくらいだったし。
今、こうして帰宅途中の道でも、学校の人は見かけない。
だからこそ、私たちもこんな会話をしている。
仮にちらっと聞かれたところで、具体的な単語は出していないから、何のことかさっぱり分からないだろうし。
「それにしても、部長が部の備品を使ってこんなことしてるなんて、
絶対、誰も信じないでしょうね」
「日頃の行いが良いからな。何かあればサボろうとする誰かさんと違って」
だって、サボろうとしたら先輩が迎えに来てくれるじゃないですか、とは言わない。
言わなくても、あと数ヶ月でそんなやりとりも終ってしまう。
先輩は卒業してしまうのだから。
だったら、わざわざそのやりとりを短くするようなことは言わなくていい。
「何か悪人顔になってます、先輩。もう……やらなくなる演目だからいいものの、まだやる演目で衣装使ってとか、台詞使ってとかだったら、
その後、私まともに演技出来なくなりますよ」
「アホ、だから終る演目の時に狙ってやってんだろ。舞台上でおまえが『王子様』でいられなくなったら、困るからな」
「あ、何となくそんな気はしてたけど、やっぱりそれ踏まえてやってたんですか。うちの部長は狡賢い変態だなー」
あれは、この人が私を『王子様』から、僅かな一時、解き放ってくれる儀式、と思ってしまうのはうぬぼれなんだろうか。
「その変態に順応してるおまえは何だよ」
「えーと……似たもの同士? いや、同じ穴のムジナ?」
「わかってんじゃねぇか」
私たちが似ているとかいうと、似てはいない。
共犯者、いや、舞台になぞらえて共演者と言った方がしっくりくるかな。
二人以外には誰も知らない秘密の演目。
誰かに見つかってしまったら、全てが終ってしまう関係。
私はまだ終らせたくはない。
きっと先輩もそう思ってくれているはず。
先輩が卒業してしまったなら、どうなってしまうか、分からないけど。
「さて。運動もしたし、この時間だし、腹減ったな。何か食って帰るか」
「そう言ってくれるってことは、先輩の奢りだと思っていいんですね?」
「調子にのんな……と言いたいところだが、今日の舞台の出来は本当に良かったからな。特別に奢ってやる。ラーメンでいいな?」
「マジですか! 言ってみるもんですねー。寧ろラーメンがいいです。今、すっごく食べたい気分で」
今はこんな会話が出来ることに幸せを感じる。
似てはいないんだけど、気は合うんだよね。
これが共演者でいられる理由だとも思う。
「気が合うな、俺もだ。とんこつラーメンの美味いとこ連れてってやる」
「わーい♪ 替え玉も頼んじゃおーっと。あ、あとお茶とデザートも頼んで――」
「だから、調子にのんなっつってんだろ!」
嬉しくて思わず、先輩の頭を撫で撫でしてしまったのはご愛敬。
いつもの突っ込みが脇腹に入りつつも、学園の外だからか、さしたるダメージはない。
先輩は周囲に人がいなくて、本当に私と二人きりの時は結構優しい。
だから、私はこんなことを言ってしまう。
「先輩」
「あ?」
「また『ご褒美』下さいね」
「――おまえが最高の演技を見せてくれたら、な」
今はまだ、ほんの少し特別な秘密の共演者で構わないから。
いつか、先輩が王子様ではない私を見てくれますように。
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