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終演と新たな幕開けに<月刊少女野崎くん・堀鹿・R-18>

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57号ショックでこれだと一気に浮かんで書いた『それは秘めたる演目の』の後日談。

読まずとも差し支えはない話だと思います。

初出:2014/11/15

文字数:15782文字

 

[鹿島Side]

 

それは演じるのがいつもみたいな舞台ではなかっただけ、のはずだった。

他校生に告白された御子柴が、体良くその告白を断るために、ほんの少しだけ彼女のフリをして、その子に会ってくれと。

他ならぬ親友の頼みだしと、気軽に二つ返事で引き受けた。

そう、あくまでも、彼女のフリ。

一時的な彼女役でしかないのに、それを知った先輩は教室で瞬時に激昂した。

曲がりなりにも人前で、堂々と胸ぐらを掴んでくるような真似をしてきたのにもびっくりしたけど、それよりも驚いたのは。

――真面目にやれ、と口では言っていた先輩の目が、行為の最中に覗かせる、情欲の焔を灯した『男』の目を露わにしていたことだった。

 

***

 

「っ……せ、んぱ……」

「パッド一つでどうにかしようとか、バカじゃねぇの。そんな上っ面だけの演技なんて、誰が教えたよ」

「うっ、あ、んっ!!」

 

私が胸が弱いことを先輩は知っているから、結構弄ってはくれるけど、今日は特に執拗に責める。

普段なら、キスマークも歯形もほとんどつけたりなんてしないのに、既に胸のあちらこちらに散らばっていた。

私の肌を舐めた後に強く吸って、と同じ場所に繰り返し、跡がそれなりに残ったのを確認したら、今度は少しずれた場所でまた繰り返す。

流石に、シャツブラウスのボタン一つ外したくらいでは見えないけれど、二つ以上とか絶対に人前では外せない。

体育の授業で着替えるのにも困りそう。

まだ、暑さも残っているような季節だっていうのに。

だけど、一方でこんなに跡を残してくれているのを、嬉しく思ってしまう自分もいる。

こんな風に所有の証みたいなのを、先輩は今まで主張してくれたことなんてなかったから。

部活終了後、ある程度の予想はしていたけど、私が帰り支度をしていたところに先輩が呼び止めた。

 

――鹿島。おまえはちょっと残れ。……話がある。

 

何をするために残るのか、なんて想像は出来ていたけど、それを他の部員もいる前で堂々と言ってきたのは予想外だった。

『秘密の演目』を演じる時は誰にも知らせない。

二人きりの演目は、他の人に知られてしまったらその瞬間に終わってしまうから。

それがお互いの中で、いつの間にか出来ていた暗黙のルールだった。

二人だけが舞台に上がる、そんな秘密の共演者。

なのに、そんなルールなんてなかったかのように、先輩が振る舞ったのに戸惑った。

今までなら、二人きりで残るような素振りさえ全く見せなかったというのに。

他の部員が全員帰宅したところで、大道具を保管している狭い倉庫に揃って移動し、今に至る。

エアコンのない倉庫は、少し埃っぽい上に蒸し暑くて、二人揃って汗だくだ。

時折、私に覆い被さっている先輩のシャツがはだけた部分から、私の胸やお腹に先輩の汗が滴り落ちてきているし、普段は劇の大道具として使っているベッドも、シーツが汗でぐしゃぐしゃに濡れている。

それでも、もしも誰かが来た場合を考えて、シャツとスカート、ソックスは身に付けていた。

先輩もシャツははだけさせて、スラックスからはモノが露出されている状態だけど、やっぱりそれ以上は脱いでいない。

服も中途半端に着てるし、こうしていて汗臭くないかな、と気になる私を余所に、先輩は一心不乱に獲物を貪るかのように動きを止めない。

まるで獣のようだ。

 

「んっ……う、あ」

 

胸を弄りながらも、時々、スカートの中に入る先輩の手は、見えなくても器用に動いて、気持ち良い場所を的確に探り当てていく。

短パンと下着だけ取り去った状態の其処は、先輩からもそんなに見えていないはずだけど、触り方が絶妙で触れられている場所がどんどん濡れていってしまうのが分かる。

 

「大分濡れてきたな。感じるか?」

「聞かな……くても、分かるじゃな……んん!」

 

指がぐちゃ、と音を立てて、一本中に滑り込んだのが伝わった。

貪るように迫って来る癖に、指の動きは優しいなんて詐欺にも程がある。

入り口をそっと掻き回すように動きながら、口で胸の一番敏感な部分を吸われて、歯を食いしばった。

部室や倉庫の電気はつけていないし、鍵も掛けてあるけど、あまり音や声を立てると誰かに見つからないとも限らない。

そうやって、私がどうにか我慢しようとしている様子が、先輩からしたら楽しいのか、意地の悪い笑みを浮かべたのが見える。

もう一方の突起も吸われると、中から指が抜かれた。

そして、先輩の顔が下がって、スカートの中へと入っていく。

それが意味するところなんて、深く考えるまでもない。

 

「ちょっ、先輩! 待って下さい、私、凄く汗かい……」

「だから、何だってんだ?」

「や、ああっ!!」

 

ざらついた舌の感触を、一番敏感な部分に感じてどうしても声が上がってしまう。

 

「口、自分で塞いでろ。外に聞こえんだろ」

「そ……なこと、言っ……たっ……ふっ」

 

外に聞こえる、という恐怖に慌てて自分の両手で口を塞ぐ。

やめて欲しい反面、やめて欲しくない自分もいて、結局は先輩のなすがままにさせてしまう。

気持ち良さに簡単に負けてしまう自分が怖い。

躊躇いなく、私の大事な場所に指と舌で触れる、先輩がもたらしてくれる快感が、大きすぎて逆らえない。

何より、普段はそんな素振りをほとんど見せないのに、こんな時の先輩が私を強く求めてくれるというのが、嬉しくもある。

この人がどうしようもない位に愛しくて堪らない。

 

「今のおまえ、どっからどう見ても『女』だな」

「ん、んん……?」

「最中の蕩けるような顔なんて、鏡で見せたいくらい最高だ」

「な……ん」

 

思わず、口から手を離して反論しようとしたら、苦笑を浮かべながら呟いた先輩の次の言葉が衝撃だった。

 

「……だから、俺以外の誰にも。おまえの『女』の部分なんて、ちょっとの間の演技だろうと晒したくねぇよ、鹿島」

「んんん!」

 

敏感な部分を押し潰すように捏ねられて、お腹の奥深いところに甘い悦楽が広がる。

もしかして、嫉妬してくれていたのだろうか。

『王子様』などではない、『女』である『鹿島遊』を他人には渡さないと、そう解釈してしまってもいいんだろうか。

どうしよう。

そうだとしたら、嬉しくてたまらなくなりそうなんだけど。

 

「……そろそろ、挿れても大丈夫そうだな」

 

先輩が身体を起こして、私に覆い被さった。

指と舌が触れていた場所に、熱く固いモノが当たる。

けど、普段と何処か違和感があって……先端が私の中に沈み込んだ瞬間にその正体に気がついた。

 

「ちょっと待って下さい、ゴム……っ」

「外に、出すっ……!」

「ん、あっ、やああ!」

 

ゴムの着いていない、そのままの先輩が私の中へと踏み込んで来た。

その刹那、背を駆け抜けたのは、背徳感よりも強い快感。

直接、先輩が私の奥まで触れていると考えると、自分でも怖いぐらいの悦楽が襲ってきた。

 

「…………っ」

 

奥まで辿り着いたところで、先輩が呻き声を上げる。

切なさそうな顔に色気を感じて、どきりとした。

こんな顔を私が先輩にさせている。

そう思うとたまらなくなった。

先輩の微かな動きでも、繋がった場所から来る気持ち良さに息が乱れていく。

先輩が私のスカートを少したくし上げて、繋がっている場所が見えた。

照明の光を反射して、少し光っているのがどうにもいやらしい。

それに心が揺れたのを察知したのか、先輩が私の顔を見て、ニヤリと笑ったかと思うと、一番敏感な部分に触れて擦り始めた。

どうしても声が抑えられなくて、自分でも耳を塞ぎたくなるような喘ぎ声になってしまう。

さらに胸まで先輩の手が伸びて、指先で軽く弾かれる。

私も声を上げてしまったけど、先輩の呻き声もちょっとだけ聞こえた。

ああ、感じてくれている。

そのことが凄く嬉しい。

 

「んっ……」

 

足を抱えられて、ぐるっと足の間に円を描くように内側を掻き回された。

時々、疼く場所を擦って行くのが堪らない。

 

「先輩……っ、そ、こ……っ」

「こう、か?」

「ふあっ!」

 

こちらは漠然と言ったのに、先輩は感じる場所を的確に捉えていた。

感じた場所を集中的に責められて、足まで震え始める。

先輩の手が太股の裏側をそっと撫でていくのがまた気持ち良く、身体の奥がさっきより潤んできているのが自分でも分かった。

何で、先輩ってこんなに人のツボを押さえた動きするんだろう。

 

「……鹿島っ」

「は、い……?」

 

そろそろ激しい動きになりそうかな、と思ったところで、先輩が切羽詰まったような表情をした。

 

「中。…………ダメ、か?」

「……っ!」

 

流石に驚きで、固まってしまう。

中って、中で出したいってことだよね。

ずっとゴムを使ってきたのに、こういうことを言い出すってことは、先輩は今もの凄く気持ち良くなってくれてるんだろう、と思う。

私だって凄く気持ち良い。

直接触れることが、こんなに違う感覚なんて思ってもなかった。

特に女性側は分かりにくいって話だったのに、いつもよりもずっと感じてしまっている。

本当はいい、なんて言っちゃダメだって分かっている。

自分の身体を守れるのは自分だけだと、いつか授業で聞いた言葉が頭を過ぎる。

一時の感情に流されちゃダメだって思う、けど。

 

「…………いい、です、よ」

 

周期的には危ない時期にはかかっていないはずだし、万が一何かあったとしても――相手が先輩だから、きっと私は後悔しない。

拒みたくなかった。

今、凄く先輩が欲しい。

全部受け止めたい。

 

「おい」

「大丈夫、だと思います、か……ら」

「……っ!」

 

先輩の腰に足を絡めて、先を促す。

先輩の息を飲む音が聞こえ――律動が始まった。

繋がった場所から、そのまま背骨を伝うように快感が通り抜けていく。

 

「せん、ぱ……先輩……っ!!」

「……かし、ま…………!」

「あ、んっ、ふあ、ああ!」

 

先輩の腕が、キツく私を抱き締める。

足の間から来る強い衝撃に、私も先輩のシャツの隙間から、背中に腕を回した。

ごつごつと奥に当たる感覚が、いつもより強いのに痛みはない。

ただ、ひたすらに気持ち良さが支配していく。

汗に塗れた背中に指が滑ってしまったのを、離れてしまわないようにしっかりと掴まる。

爪を立ててしまっているかも知れないけど、力を緩めることがもう出来なかった。

お腹の中が熱い。

不意に、世界から音が途切れ、空白が訪れる。

 

「…………くっ!!」

「んん! あ、せん、ぱ……っ!!」

 

身体中に広がった気持ち良さの後に、先輩の声が聞こえた。

出された瞬間はよく分からなかったけど、深い部分で何かが染みこんで溶けていくような気がした。

きっと、これが先輩の吐き出した熱。

少しずつ快感が収束し、自分の指に凄く力が入っていたことを知覚して力を抜いた。

でも、先輩から離れたくなくて、手はそのまま背中に置いておく。

 

「……鹿島」

 

先輩が腕を緩めて身体を起こし、そっと私の目元に触れる。

何だろう、こんな優しい目をした先輩、初めて見るかも知れない。

 

「おまえが好きだ」

 

……今、先輩なんて。

耳を疑った。

顔が好きでも、足が好きでもなく、おまえがって。

夢じゃないだろうか。

目で問いかけると、破顔した先輩と目が合う。

夢じゃ、ない。

どうしよう、嬉しくて泣けてくる。

ずっと、この人が好きだった。

中学生の時に観た文化祭での舞台から、先輩が心の中に居ない日なんてなかった。

可愛い後輩だと思って貰えたら、一番近くに居られたら。

演劇部で『王子様』をしている私ではない、素の私を。

……私の存在ごと求めて貰えたらってずっと思ってた。

 

「私も好きです。先輩が好き……!」

 

泣いてしまって、言葉が詰まってしまったけど、先輩はちゃんと聞いててくれたみたいだ。

唇にされたキスも、今までで一番優しかった。

 

***

 

「行けそうか?」

「……大丈夫です、今なら」

「よし」

 

周囲に人が居ないのを確認してから、先輩と二人で学校の塀の直ぐ側に大きな木があるところを目指して移動する。

随分遅くなってしまったから、先生とかに見つかってしまうと面倒なことになる。

大体、私たちの格好ときたら、夜の暗がりだからまだ誤魔化しがきくだろうけど、明るいところでじっくり見られたら、ちょっとマズい。

シャワーも浴びてないし、出来る限り人とは会いたくない状況だ。

先生と顔を合わすわけにもいかないから、先輩は部室の鍵を返し損ねたことにすると、こうしてひっそり学校から脱出しているというわけ。

幸い、見つからずに木の下まで来られて、二人で息をつく。

ここまで来たら、校舎側からは影になって見えないだろうし、塀をよじ登るのも木を使えばどうにかなるから、大丈夫だ。

まずは、先輩が木によじ登って、塀の外に人が居ないことを確認する。

手を伸ばされて、私が持っていた先輩のカバンと、自分のカバンを纏めて渡すと、先輩がそれを塀の外に放り投げた。

放物線を描いた二つのカバンは、直ぐに塀の向こうの地面に落ちたのが、音で分かる。

 

「先に行くぞ。登れるか?」

「余裕ですよー! 私、先輩より運動神経良いと思いますし」

「うるせぇよ、一言余計だ」

 

軽く先輩が顔を顰めながらもそれ以上は言わずに、木から塀へと飛び乗り、そのまま塀の向こう側に消える。

地面に着いた足音が聞こえたところで、木に登り始めた。

 

「大丈夫だ、行けるぞ」

「はーい、行きます!」

 

直ぐに塀に飛び乗れるところまで登って、塀に飛び乗り、地面に降りた。

が、その瞬間。

じわりと身体の奥から下着に一気に温かいものが滴って、濡れてしまったのが分かった。

これって、まさか、さっきの。

思わず、バランスを取り損ねてよろけたところを、先輩の腕が支えてくれた。

腕から伝わる体温に動揺してしまう。

中に……出したんだよね、先輩が、確かに。

 

「おい、運動神経良いんじゃなかったのかよ。大丈夫か」

「……あ、いや。大丈夫……なんですけど」

「ん?」

「その、今の降りた衝撃で中から先輩のが垂れてきたのが、その」

「なっ……」

 

自分でも上手く言葉にならない。

何だか、無性に恥ずかしくて先輩の顔をまともに見られなかった。

 

「煽るんじゃねぇよ! ……帰したくなくなんだろうが」

「す、すみません」

 

肩に先輩の額が触れたのが分かって、そっと視線を向ける。

汗で軽く髪のワックスが落ちて、先輩のつむじが見えた。

撫でてしまいたくなったけど、必要以上に触ったら、余計に色々と思い出してしまいそうなので、どうにか堪える。

……先輩も恥ずかしくて顔を見られなかったりするのかな、これ。

恥ずかしいのに、触れてる部分から伝わる体温は心地良い。

ややあって、先輩が溜め息を吐きながら私から離れる。

手渡されたカバンを受け取ると、先輩がさっさと先に歩き出してしまった。

私も直ぐにその後を追って――先輩の背中を見て気がついた。

ごく、小さな染みがいくつかシャツにあることに。

 

「先輩、ここ汚れてます。これ……」

 

その染みに触ってみて気付いた。

これは血だ。

さっきの行為中に、私が先輩に縋り付いてしまっていた場所。

 

「あ。すみません。私、ですね。さっき、加減出来なくて」

 

爪を立ててしまっていたから、いくつか傷になってしまっていたらしい。

よくよく自分の指先を見てみると、指のうち三本くらいに僅かながら血がこびりついていた。

 

「あ……あー。あれな」

「ごめんなさい、お洗濯して返しま……」

「いらねーよ。大体、今これ脱げねぇだろ。気にすんな」

 

言いかけた言葉はあっさりと遮られる。

確かに、今預かっても先輩が帰るのに困るだろう。

 

「……それもそうでした。

あの、こういう汚れは重曹で擦ってから洗うと落ちやすいので、試して下さい。早いうちにやると結構落ちてくれるんで」

「へぇ、良く知ってんな」

「まぁ、女なんで血液の落とし方は……あ」

 

しまった。

女なんでって言ってしまったら、それがどういう理由からかなんて、先輩なら悟るだろう。

案の定、先輩が困ったような顔をして髪を掻き上げた。

ちょっとだけ、目元が赤くなっている。

 

「………………頼む。おまえ、もうしばらく黙っててくんねぇ?」

「……その方が良さそうですね。すみません。先輩。あの、手繋いでもいいですか?」

「おう」

 

先輩がカバンを持っていない左手を差し出してくれたので、私は左手でカバンを持って、右手で先輩の手に触れた。

言ってはみたものの、どう繋いだらいいものやら。

握手みたいに繋いだらやりやすいけど、どうせなら――。

そんな風に思っていたら、先輩が私の伸ばした手に五本の指をそれぞれ絡めるようにして繋いでくれた。

恋人繋ぎっていうアレ。

それが何だか嬉しくて、勝手に顔が笑ってしまう。

 

「鹿島」

「はい」

「今から言うのに返事だけしろ。……もし、万が一何かあっても。絶対に一人で抱えるな」

「せんぱ……」

「俺に真っ先に言うって約束しろ。出来るな?」

 

軽い口調で返そうと思ったら、先輩が私の方を真っ直ぐに見つめていた。

誤魔化すなよと言わんばかりの表情で。

何かを見抜かれているみたいで、言葉に詰まってしまう。

もしもの万が一、があったとしても。

私は先輩に負担を掛けたくなかった。

今はまだ、先輩も部活に出ているけど、引退も遠い日ではないし、数ヶ月後には受験がある。

そんな中、もしも妊娠なんてしていたのなら、私は先輩の人生をまるっと変えてしまうんじゃないかと。

正直、それが何よりも怖い。

 

「……先輩、受験生ですよ。分かってますか?」

「返事だけしろっつったろ。そういう問題じゃねぇよ。……出来ないってなら、このままおまえの家行って、親御さんに頭下げ……」

「待って下さいって! します! 約束しますから!! 落ち着いて下さいって、先輩!!」

 

告げられた言葉にぎょっとした。

いくらなんでも気が逸りすぎだ。

うちの親は割と放任主義な方だし、単純に家に彼氏を連れてきたぐらいならそんな何も言わないだろうけど、多分、先輩が言おうとしていることはそういうことじゃない。

勿論、それが嬉しくないなんて言わないけど、でもそんな急に。

 

「落ち着いてるつもりだけどな、これでも」

 

歩いていた先輩の足が止まったのにつられて、こちらも歩みを止める。

実際、先輩の声は凄く落ち着いていて、慌てた様子は何もない。

繋いだままの手からも動揺は窺えなかった。

 

「俺、多分おまえが考えているよりは、おまえのこと好きだと思う」

「……先輩」

「だから、今日みたいなのを無責任に終わらせたくもないし、おまえが他のやつの彼女のフリとかするって、全然許せる気がしない。相手がいくらおまえの親友である御子柴でもな。だから」

 

そこで一旦言葉を区切って、先輩が言ったのは。

 

「この先ずっと、俺だけの『女』でいろ。俺の全部をやるから、おまえも全部俺によこせ」

 

そんな、まるでプロポーズのような言葉。

この先ずっと、って。

繋がれた手に力が入ったことが、そうだって後押ししているように思えた。

 

「いい、んです、か……?」

 

私で。

この先ずっと、って本当に死ぬまでって解釈しちゃいますよ?

 

「いいも何も、おまえじゃなきゃ、ダメだってのがよく分かった。おまえこそ、いいのか?」

「……私だって、先輩じゃなきゃダメですよ。それこそ、ずっと前から」

 

先輩に一目惚れしたのは、私の方が間違いなく先なのだから。

 

「じゃ、先約な。……左手出せ、鹿島」

「え、はい」

 

先輩が持っていたカバンを地面に置いたので、私もそれにならって、カバンを置き、そのまま左手を先輩に差し出した。

その手を掴まれたと思ったら、そのまま先輩が私の薬指を口元に持っていって、口内に含む。

先輩の舌が指に触れたと思ったら、存外深くまで飲み込まれて、指の付け根の部分を少し強めに噛まれた。

さっき、先輩が私の胸に付けた歯形みたいに、赤い先輩の歯形がくっきりと残る。

まるで指輪のように。

これって、もしかして。

私の指から口を離した先輩が、目を細めて笑った。

 

「数年後にはちゃんとふさわしいの探してやるから、それまでここ空けとけ」

 

そんな言葉を呟きながら。

 

[堀Side]

 

いつものように鹿島が部活をサボる前に迎えに行ったら、

あいつは御子柴を始め、数人の男子と談笑していた。

今日の取り巻きはお姫様たちじゃねぇのかよと思ったところで、ふと胸が元来の大きさとは随分かけ離れたものになっていることに気付く。

つい、なにやってんだ?という言葉が口をついて出たところ、直ぐ近くにいた男子から返ってきたのは意外な内容だった。

 

――鹿島が御子柴の彼女役するって……。

 

どういう状況でそんな流れになったのかまでは分からなかったが、耳にした瞬間、無性にイラついた。

胸にパッドを突っ込むという道具を使った小手先の演技、という部分にも腹が立ったが、それよりも何で鹿島がそんなことしなけりゃならねぇんだという憤りで、気付けば教室でそのまま談笑していた中に入り込んで、鹿島の胸ぐら掴んで床に引き倒してた。

流石にそこで我に返って、持ち前の演技で粗末な演技を叱りつける風に装ったが、当の鹿島にはバレただろう。

伊達に秘密の共演者をやっているわけじゃない。

だが、こんな風に鹿島がまた誰かの彼女役なんてものを演じそうになる可能性があるのならば。

秘密なんてものは、いい加減に終わらせてしまおうと思った。

 

***

 

「っ……せ、んぱ……」

「パッド一つでどうにかしようとか、バカじゃねぇの。そんな上っ面だけの演技なんて、誰が教えたよ」

「うっ、あ、んっ!!」

 

強く胸元の肌を吸い上げると、大道具のベッドの上で、鹿島が身体を撓らせる。

俺は触るのならやっぱり足が好きだが、鹿島は胸を弄られるのにかなり弱い。

弄ったときの反応が可愛くて楽しいから、つい集中的に責めることもある。

ただ、今日みたいにこんなにキスマークや歯形を残していくのは初めてだ。

『秘密の演目』を他人に悟られないように、痕跡はなるべく残さないようにしていたからだ。

服を着ていればわからない部分とはいえ、体育での着替えには困ることになるかも知れない。

でも、それもどうでも良かった。

特定の男がちゃんといると分かれば、わざわざ男持ちの女に彼女役なんてものをやらせたりなんてしないだろう。

汗ばんで、塩気の含んだ肌を舐めては吸い上げ、跡を幾つも残していく。

時々は軽く噛んで、歯形も付けて。

 

――鹿島。おまえはちょっと残れ。……話がある。

 

部活が終わった後も、今までなら耳打ちしてこっそり『演目』の開始を告げていたのに、人が居る場所で堂々と告げた。

鹿島がそれに戸惑ったのには気付かないふりをして、まだ他の部員が残っているうちは、真面目に演技指導の話等をし、完全に二人になったのを確認後、部室と今俺たちがいる倉庫の鍵をかけ、電気も付けずにひっそりこうして交わっている。

舞台装置の照明一つだけをベッドの足下に置いて、その灯りを頼りにして。

エアコンのない倉庫は蒸し暑いが、部室のさらに奥まったところにあるここでなら、多少声を上げてしまったとしても、意外に廊下までは聞こえない。

汗を酷くかいているが、その汗の匂いと濡れた肌に抱いていることを実感できるから、俺は結構好きだ。

時々、俺から滴る汗が鹿島の肌に落ちるのを見ては、肌を触るついでとばかりに鹿島の汗と指先で混ぜ合わせて、肌に塗り込めるように滑らせる。

ヤッてるのが学校でなければ、全部服なんて脱ぎたい。

鹿島の身体には粗方触れてはいるが、万が一を考えて全裸になんてなったことはないから、こんな風にお互い汗だくだと、脱がして脱ぎたくなる衝動に駆られるが、服のあるなしでは違ってくる。

服さえ着ていれば、万が一見つかっても演技指導だと押し通せる自信はある。

 

「んっ……う、あ」

 

とはいえ、こんな風にスカートの中に手を突っ込んでるところを見られた日には、どう頑張っても言い訳のしようはないが。

もう見なくても、鹿島の性器の形は大体覚えている。

どう触ったら感じてくれるのかも。

ひだを指先で撫でて、皮に包まれているクリトリスの付け根だけをそっと刺激する。

切ない声を零しながら、溢れて指に絡みついてくるぬるついた蜜が、こっちの興奮も掻き立てる。

 

「大分濡れてきたな。感じるか?」

「聞かな……くても、分かるじゃな……んん!」

 

指を一本だけ、鹿島の中に挿れてみる。

奥までは挿れずに、手前だけを掻き回すように弄る一方で、ずっと触れていなかった乳首と乳輪を一緒に吸い上げる。

鹿島が声を上げるまいと堪えたのが、中に挿れている指が締め付けられていることで伝わる。

たまらねぇよなぁ、こういうの。

もう、一方も同じように吸い上げてやってから、指を一度抜いた。

鹿島の足の間に顔を寄せると、濡れた指を舐め、足を心持ち広げさせる。

ふわ、と女の匂いと汗の匂いが鼻をついた。

 

「ちょっ、先輩! 待って下さい、私、凄く汗かい……」

「だから、何だってんだ?」

「や、ああっ!!」

 

クリトリスを狙って、舌を乗せると悲鳴が上がった。

鹿島の声は聞きたいが、流石にこの段階で踏み込まれた日にはマズいどころの話じゃ無い。

 

「口、自分で塞いでろ。外に聞こえんだろ」

「そ……なこと、言っ……たっ……ふっ」

 

それでも、俺が言ったように鹿島が自分の両手を使って、口を塞ぐ。

基本的に素直なんだよな、こいつ。

言われたことには疑う様子もなく従ってしまうのは、可愛くもあるけど、同時に心配にもなる部分だ。

俺ならいい。

けど、御子柴に彼女のフリをして欲しいと言われて、二つ返事で引き受けたように、他の男に対してもそうだったら?

……そんなのはごめんだ。

こんな欲情に塗れた『女』の姿を、いや、ここまでではなくても『女』を意識させるような片鱗なんて、他の男に一切見せたくなんかない。

 

「今のおまえ、どっからどう見ても『女』だな」

「ん、んん……?」

「最中の蕩けるような顔なんて、鏡で見せたいくらい最高だ」

「な……ん」

 

整った顔立ちをしているだけに、どんな表情も様になる。

焦らしに焦らして、泣きそうになる寸前の顔も、突き上げて蕩けきった顔も堪らない。

こいつの『女』の部分を魅せた顔。

それらは全部俺のものであって欲しい。

どれだけ、独占欲が強いのか。

我ながら滑稽だとは思うけど。

 

「……だから、俺以外の誰にも。おまえの『女』の部分なんて、ちょっとの間の演技だろうと晒したくねぇよ、鹿島」

「んんん!」

 

舌で触れていたクリトリスを、親指で押し込むようにしながら捏ねた。

その拍子にまた鹿島の中から蜜があふれ出す。

熱く濡れた膣内は、指では奥まで挿れたことはあるが、モノは流石にゴム越しで挿れたことしかない。

そのまま挿れたら、どれだけ気持ち良いだろうか。

 

「……そろそろ、挿れても大丈夫そうだな」

 

身体を起こして、鹿島に覆い被さり、足の間にそのままモノを滑らせてみる。

濡れたひだと柔らかい肉が優しく絡みついて――ゴムを着ける気が失せた。

ヤバいと思いながらも、このまま突っ込みたいという欲望がその感情を塗り替えていく。

直接、鹿島の中を感じたい。

軽く膣口に先っぽを沈めるだけで、期待に喉が鳴る。

 

「ちょっと待って下さい、ゴム……っ」

 

鹿島が慌てたのは分かったのに、止められなかった。

 

「外に、出すっ……!」

「ん、あっ、やああ!」

 

ぬるりと然したる抵抗もなく、俺のモノが鹿島の中に沈んでいく。

濡れた熱い膣内が、先端から根元までじわじわ絡んでいくだけで、もの凄く興奮した。

ごつ、と少し周りより固めの肉にぶつかって、一番奥に辿り着いたのが分かる。

 

「…………っ」

 

初めて感じる、ゴム越しじゃない鹿島の中は、予想以上の快感だった。

少し動かすだけで、温かく濡れた膣内がざわめいたり、軽く収縮したりする。

鹿島のスカートをたくし上げて、繋がった場所を見ると、蜜で濡れた互いの性器が艶めかしい。

毛の部分まで、汗と蜜でぐちゃぐちゃだ。

ちゃんと勃って、悦楽を主張しているクリトリスを、濡れた指の腹を使って可愛がってやると、断続的な喘ぎ声が上がり、それに合わせて鹿島の中がびくびくと震える。

ぴんと固く膨らんだままの乳首は、軽く指先ではじくと入り口が締まった。

赤く染まった頬も、潤んだ目で俺を見つめる様も色っぽい。

パッドなんかわざわざつけなくたって、こいつが隅々まで『女』なんだってことは、俺が一番良く知っている。

『おっぱい』という言葉のイメージが持つ一般的な胸より、ボリュームは確かに少ないだろうが、触り心地はいいし、綺麗な色をした乳首も乳輪もかなり敏感で、反応を見るのが愉しい。

何だかんだで、しっかり『女の胸』をしている。

が、そんな鹿島は俺一人が知っていればいいことだ。

『王子様』のベールを脱ぐのが、俺の前ではない鹿島なんて冗談では無い。

ただの一時的な彼女役だろうと、分かっていても、だ。

 

「んっ……」

 

例え、親友の御子柴相手だろうと、こいつの『女』の部分を少したりとも教えてなんてやるものか。

御子柴がいいやつなのは知ってるが、それとこれとは別の話だ。

興奮で上気した肌で、全身で縋り付いてくる。

そうやって絡みついてくる熱は、俺だけのものにしておきたい。

形のいい足を抱えて、円を描くように内側を掻き回す。

腹側の方が感じる部分に触れるのか、上がる声に艶が含まれる。

 

「先輩……っ、そ、こ……っ」

「こう、か?」

「ふあっ!」

 

腹側の方を集中的に責めて、動かすようにすると抱えた足も震える。

太股を撫でると、今度は中が呼応して戦慄き、さっきよりも濡れてきているのがわかる。

シーツを濡らしているのは、多分もう汗だけじゃない。

鹿島の興奮度合いに、こっちも追い上げられていく。

隅々まで、こいつを俺のものにしたい。

俺以外を知らないこの場所に、熱を吐き出してぶちまけたい。

外に出すなんて言った癖に、本音は中に出したくてたまらない。

万が一を考えろよ、まだ学生だぞ、バカじゃねぇのという思考と、出来たらそれこそ、鹿島を完全に俺のものに出来るという思考が捻れて、自分でも混乱していく。

なのに、興奮は冷めるところを知らずに、上り詰めていく一方だ。

 

「……鹿島っ」

「は、い……?」

「中。…………ダメ、か?」

「……っ!」

 

鹿島の表情が引き攣り、繋がった場所から動揺が伝わる。

当たり前だ。

こんな時、リスクがあるのは絶対に女の鹿島の方だ。

吐き出して終われる男とは違う。

受け止めた後、次に生理がくるまで不安は継続するだろうし、こなければもっと不安にさせるのは目に見えている。

そこまで理解をしているのに、誘惑の前に膝を屈してしまいそうだ。

自分でも最低だと分かっている。

軽蔑されても当然の流れだろう。

しかし、鹿島の返事はやや躊躇う様子は見せたものの。

 

「…………いい、です、よ」

 

そんな肯定の言葉だった。

 

「おい」

「大丈夫、だと思います、か……ら」

「……っ!」

 

大丈夫ってのが、周期的な話か、それとも、もしもの事があっても覚悟が出来てるってことなのか。

思考がぐだぐだになってしまった頭では理解出来なかった。

それでも、かろうじて分かったのは、鹿島が俺を全く拒んでいないということ。

俺の腰に絡められた足は外す気配がなかった。

自分が受け入れられているという事実に抗えない。

 

「せん、ぱ……先輩……っ!!」

「……かし、ま…………!」

「あ、んっ、ふあ、ああ!」

 

鹿島の背と腰をキツく抱き、迫り上がる悦楽に任せて、鹿島の膣内をひたすら擦り上げる。

秘唇にも痣とか残ったりすんじゃねぇのかっていうぐらいに、強く叩きつけるようにして。

汗塗れになっている互いの身体と、繋がった場所から零れる水音、肉が派手にぶつかり合う音が絡まり合って、興奮をより煽っていく。

 

「…………くっ!!」

「んん! あ、せん、ぱ……っ!!」

 

鹿島の一番奥に熱を吐き出した。

射精での震えに、鹿島の身体の震えが重なって、たまらなく気持ち良い。

熱い鹿島の中が、俺の吐き出したものを吸い取るかのように蠢いたのが分かる。

そのまま溶けてしまうんじゃねぇかって錯覚に陥り、くらくらした。

快感の頂きが去ると、背中の所々に走る痛みに気付く。

多分、鹿島が爪を立てたときに傷がついたんだろう。

鹿島の腕は俺のシャツの中に入り込んで、直接触れられていたから。

ほとんど爪を伸ばしていない、鹿島の指でこれだけ痛いってことは、相当余裕がなかったってことを示している。

そんなことがたまらなく嬉しくて――愛しい。

 

「……鹿島」

 

潤んだ鹿島の目元を軽く拭いながら、初めて言う言葉を口の端に乗せた。

 

――おまえが好きだ。

 

とっくにヤることヤッてた癖に、いや、だからこそだ。

口にすると都合の良い言葉に聞こえてしまいそうで、ずっと言えなかった。

手放したくない。

傍に居て欲しい。

『秘密』なんかではない共演者でありたい。

驚愕に見開いただろう鹿島の目から、新たな涙が溢れてくる。

やがて嗚咽が聞こえ、それに紛れて聞こえた、私も好きです、先輩が好きという言葉に胸が熱くなった。

求めた相手に応えて貰える幸せを実感し、まだ泣いている鹿島にキスをする。

塩気を含んだ味は、多分この先も忘れられない気がした。

 

***

 

「行けそうか?」

「……大丈夫です、今なら」

「よし」

 

塀の直ぐ側に大きな木があるところを狙って、素早く二人で移動する。

流石に、この時間に誰かに見つかってしまうのはマズい。

俺たちの格好も暗がりだとどうにか誤魔化せても、あまりじっくり見られると色々と勘ぐられるなというような状態だから、部室の鍵は返さずにうっかり持って帰ってしまったということにし、こっそりと学校からの脱出を図る。

上手く誰にも見つからずに、目的の塀のところまで来られた。

この学校の塀が低めなのと、単純な作りで出来ていることに感謝だ。

ここなら、校舎からは木の影になって見えにくいし、よじ登るのも木の助けを借りて、比較的容易に出られる。

木によじ登って、塀の外に人が居ないことを確認し、まだ木の下にいる鹿島から二人分のカバンを受け取って、塀の外に放り出す。

 

「先に行くぞ。登れるか?」

「余裕ですよー! 私、先輩より運動神経良いと思いますし」

「うるせぇよ、一言余計だ」

 

知ってはいるが、口に出されるのもムカつく。

木から塀に飛び乗って、そのまま勢いを殺さずに地面に降りる。

カバン二つを拾い上げると、まだ塀の向こう側にいる鹿島に声を掛けた。

 

「大丈夫だ、行けるぞ」

「はーい、行きます!」

 

直ぐに木の上に鹿島が見えて、俺と同じように塀に飛び乗り、地面に降りる。

が、降りた瞬間に足がぐらついたのが見え、慌てて鹿島の身体を支える。

 

「おい、運動神経良いんじゃなかったのかよ。大丈夫か」

 

軽く茶化すように言ったが、鹿島の方は表情が固まっていた。

 

「……あ、いや。大丈夫……なんですけど」

「ん?」

「その、今の降りた衝撃で中から先輩のが垂れてきたのが、その」

「なっ……」

 

瞬時に浮かんでしまった、先程の鹿島の中の濡れた熱とうねりの感触に自分でもぎょっとする。

鹿島の顔も夜目にも分かってしまうくらいに赤い。

 

「煽るんじゃねぇよ! ……帰したくなくなんだろうが」

「す、すみません」

 

そんなやりとりをしながらも、支えた身体から伝わる体温を離せなくて、鹿島の肩に額を押しつける。

が、直ぐ目の前に見える胸に、さっき散々跡を残したことを思い出してしまって、結局下半身に熱が集まり始めてしまった。

……くそ、鹿島が気付く前に静まってくんねぇかな、これ。

必死に難しい古文の解釈とか、ややこしい数式とか、そんなものを脳内でフル回転させると、ようやく少し落ち着いた。

溜め息を吐いて、鹿島から離れ、鹿島の分のカバンを無言で手渡し、返事も聞かずに歩き出す。

俺の直ぐ後ろに、鹿島が慌てたようについてきた。

そして、歩きながら俺の背中に軽く触れる。

シャツ越しに感じる指先の体温が心地良い一方で、少し痛みが走った。

 

「先輩、ここ汚れてます。これ……あ。すみません。

私、ですね。さっき、加減出来なくて」

「あ……あー。あれな」

 

鹿島が爪を立てたときについた傷か。

シャツに染みるほど、血が出てたとは思わなかった。

しばらく跡が残るだろうかと、つい緩みそうになる頬を引き締める。

 

「ごめんなさい、お洗濯して返しま……」

「いらねーよ。大体、今これ脱げねぇだろ。気にすんな」

「……それもそうでした。あの、こういう汚れは重曹で擦ってから洗うと落ちやすいので、試して下さい。早いうちにやると結構落ちてくれるんで」

「へぇ、良く知ってんな」

「まぁ、女なんで血液の落とし方は……あ」

 

単純に感心したんだが、続いた言葉に思わず双方無言になった。

その内容が意図するところってのは、俺たちの性別の違いを明確に現わしているものなわけで。

静まっていた興奮が、また頭をもたげ始めたのに苦笑するしかない。

 

「………………頼む。おまえ、もうしばらく黙っててくんねぇ?」

「……その方が良さそうですね。すみません。

先輩。あの、手繋いでもいいですか?」

「おう」

 

その位なら、とカバンを持っていない左手を差し出すと、遠慮がちに鹿島が手を握ってきた。

その手に指を絡めて、力を入れると鹿島が嬉しそうに笑う。

……やっぱり、いい顔してるよなぁ、こいつ。

この顔、曇らせるようなことはしたくねぇな。

 

「鹿島」

「はい」

「今から言うのに返事だけしろ。……もし、万が一何かあっても。絶対に一人で抱えるな」

「せんぱ……」

「俺に真っ先に言うって約束しろ。出来るな?」

 

真っ直ぐに鹿島を見上げながら告げる。

こればかりは譲る気はない。

微かに動揺の色を目に浮かべた鹿島が、困ったような顔をしていても。

 

「……先輩、受験生ですよ。分かってますか?」

「返事だけしろっつったろ。そういう問題じゃねぇよ。……出来ないってなら、このままおまえの家行って、親御さんに頭下げ……」

「待って下さいって! します! 約束しますから!! 落ち着いて下さいって、先輩!!」

「落ち着いてるつもりだけどな、これでも」

 

歩いていた足を止めて。手は繋いだままに鹿島と向き合う。

 

「俺、多分おまえが考えているよりは、おまえのこと好きだと思う」

「……先輩」

「だから、今日みたいなのを無責任に終わらせたくもないし、おまえが他のやつの彼女のフリとかするって、全然許せる気がしない。相手がいくらおまえの親友である御子柴でもな。だから」

 

一呼吸置いて、言葉を続ける。

 

「この先ずっと、俺だけの『女』でいろ。俺の全部をやるから、おまえも全部俺によこせ」

 

ぎゅっと繋いだ手に力を籠めると、鹿島の声が震えた。

 

「いい、んです、か……?」

「いいも何も、おまえじゃなきゃ、ダメだってのがよく分かった。おまえこそ、いいのか?」

 

ダメだと言われたところで、もう手放す気なんてさらさらないが。

 

「……私だって、先輩じゃなきゃダメですよ。それこそ、ずっと前から」

 

それでも、そんな言葉が聞けたことにほっとする。

 

「じゃ、先約な。……左手出せ、鹿島」

「え、はい」

 

人目がないのをいいことに、カバンは一旦下に置いて。

迷いなく差し出された左手の薬指を口に含んで、付け根に噛みついた。

鹿島の白い指に俺の歯形がくっきりと残る。

まぁ、残ったところで精々数時間だろうけど、今はこれで十分だ。

 

「数年後にはちゃんとふさわしいの探してやるから、それまでここ空けとけ」

 

 

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