2015/06/19のフリーワンライ(第51回)から『たとえ光をうしなっても』。
『Cool&Hot』の殺し屋ホリカシ設定で、バッドルート突入な死にネタ話。
任務失敗により鹿島くんが……という流れが苦手な方はスルーでお願いします。
初出:2015/06/19
文字数:2137文字
この稼業に身を置いて、二十年以上。
殺し屋なんて仕事をやっている以上、いつ自分が命を奪われる側でもおかしくないと思っていた。
だが、カシマについてはどうしてだか、その思考が綺麗さっぱりと抜け落ちてしまっていたのだ。
こいつは初仕事から、その優秀っぷりを発揮して、流石は俺のカシマと唸らせるばかりだったからだろうか。
カシマの仕事っぷりは、育て上げた俺にとっては自慢の種だった。
こいつが仕事でミスするなんて、ここ数年は考えたこともなかったし、ましてや命が脅かされるような事態になろうとは、全く予想も出来なかった。
だから、今も。
こうして、抱いているカシマの体温が下がって、腹に受けた銃創から血が流れ続けているのを、何処か別世界のように感じていた。
「あ……はは、やっぱ……り、産休って、とって……おくべき、でしたか、ね。勘……鈍っちゃった……なぁ」
「喋るな。傷に障……」
「嫌……です。今、話さな……いと、もう、話せない……っ、じゃ、ないです、か。……本当、は……ホリだって、わかって……いる、んでしょ……う?」
「……っ!」
ああ、分かってしまっている。
カシマの傷が致命傷だってことぐらい。
長年、こんな仕事をしてれば、傷が命に関わるものかどうかなんて、感覚で分かる。
間近で仕事仲間があっけなく終焉を迎えてしまうのだって、何度も見てきた。
だからこそ、直感で助からないと分かってしまう自分が恨めしい。
そして、カシマも自分で分かっているから、俺を『先輩』ではなく、『ホリ』と呼ぶんだってことも、頭の中では理解してしまっている。
恐らく、もう数分でカシマの命の灯火が消えてしまうだろう。
だが、信じたくなかった。
だって、これからだったはずだ。
俺の自慢の養子だったカシマは、少し前には自慢の妻となり、子どもを授かって。
お互い、これまで数多の命を奪ってきたけど、子どもが無事に生まれてくれたことで許された気でいたのだ。
血に塗れた腕だが、愛しい相手との子どもを抱けたことで、この世界にずっと生きて行ってもいいのだと言われた気がしていた。
許される根拠なんて、何もなかったのに。
人の命を奪い続けた代償が、こんなタイミングで支払うハメになろうとは予想してなかった。
多分、俺もしばらくぶりにカシマと一緒に仕事出来ることに浮かれてしまっていたのだ。
この先は三人で、いや、もしかしたら、もう一人ぐらい子どもを授かることだって出来たかも知れない。
殺伐とした日常の中での、ほんの些細な幸せ。そんな未来はもう望めない。
アジトで待っている生まれたばかりの我が子には、まだ理解出来ないだろう。
やはり、こいつが俺についていきたい、久し振りに一緒に仕事がしたいなんて言いだした時点で全力で止めるべきだった。
体力が回復しきっていない身体では、無理があったんだ。
くそ、あいつに何て言えばいい。
カシマが震える手で、俺の頬に手を伸ばしてきた。
ああ、こんなに冷たい手をしているやつじゃなかったのに。
カシマの手はいつだって温かく、俺に触れていたはずだった。
「泣か……ない、で……くださ……い」
「……泣いて、なんかねぇよ」
詰まってしまった声は泣いているせいなんかではない。
泣くなんて感情を俺は知らない。
「……じゃ、そういう、ことにして……おきましょう、か。こふ……っ」
カシマが咳き込んで、口の端から血を溢れさせる。
溢れた血を吸い取るように口付けて、カシマの口の中にある血を取り去る。
数え切れないほどキスを繰り返してきたが、こんな味を俺は知らない。
「……ホリは、当分……来ちゃ、ダメです、よ」
「カシマ」
「あの子を……お願い出来るの、は、ホリ……っ、しか、いない……んです、から。寂しいけど、私は……我慢、しますから……っ、おね、が……」
「分かってる。……俺が簡単にしくじるようなタマじゃねぇの、知ってんだろ。それに俺たちの子だ。育て方次第でいくらでも才覚を発揮するだろうさ」
「期待、してま……す。……ね、ホリ」
「何だ」
弱くなった声が聞き取り難くなってきたから、カシマの口元に耳を寄せる。
「あなたに……拾われて、私、は……幸せ、でした」
「カシマ」
「あの時、から……っ、ずっと私の……光は……ホリだっ……たん、で……す」
カシマがそう告げた直後、空間が静まり返った。
苦しそうだったカシマの呼吸音が消えたからだとわかっても、抱いている腕を離せない。
……血に汚れたところを除けば、ただ眠っているようにしか見えねぇのにな。
幼い時の寝顔と全然変わらないが、決定的に違うのは、もうこいつは二度と目を開かねぇってことだ。
どんな高価なサファイアよりも輝いていた目はもう見られない。
「俺が光だって言ったな」
カシマが幼い頃、真っ直ぐに俺を見つめてきたのを思い出す。
俺の誘いに全く迷わなかったな、おまえ。
「……俺にとっての光もずっとおまえだったよ、カシマ」
――先生のお友達だ。……おまえ、俺のとこ来るか?
――行く!
遠い日の出逢いが鮮烈に脳裏に甦る。
……せめて、子どもがあの時のおまえの歳ぐらいになるまでは、共に在りたかった。
「おやすみ、カシマ」
何よりも輝いていた俺の光。
せめて、いつかおまえの元に行くときには、胸を張って報告できるよう、あいつを育てていくから、見守っていてくれ。
久々のワンライで死にネタとか、ホントすみませんだったんだけど、この手の話も好きなので仕方ない……。
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