結婚済堀鹿←御子柴。あくまでも、堀鹿前提で御子柴からの一方通行恋慕な話です。
創作キャラが混じることが苦手な方はご注意下さい。
当方の堀鹿夫妻には長男+年子で双子(男女)の子どもたちがいます。
※足フェチDNAシリーズの子どもたちと構成は一緒ですが、世界線は異なります。
初出:2014/10/27
文字数:6527文字
[御子柴Side]
「ほんとに助かったよ、御子柴ー! 流石に三人お風呂入れるのは、一人じゃキツくってさー」
「まぁ、そりゃそうだろうなぁ」
「みこー、次はこれ読んでー」
「おう。もう寝るから、あと一冊だけな。昔々あるところに……」
鹿島が最初に風呂に入れ終っていた長男坊と、一緒にベッドに横になって、絵本を読み、寝かしつけながら、そう返す。
この長男坊に加えて、立て続けに年子で生まれた双子の男女。
上の子が生まれる前から、鹿島は仕事を辞め、家事と育児に専念しているが、流石に三人の乳幼児をみるのは、今日みたいに堀先輩が出張でいないとなると、かなりキツいらしい。
それでも、一人じゃどうにもならない、お風呂に入れてない子をただ見ていてくれるだけでもいいから、とヘルプを出されたときには躊躇した。
――おまえ、俺が家に居ないとき、一人で来るの禁止な。
――今後、あいつと二人きりになるなよ。
長男坊が生まれる少し前に、堀先輩と二人きりで酌み交わした席で、鹿島を女だというのを少しだけ認識した、と零したところ、そう堀先輩に牽制されたからだ。
――分かってる。おまえがあいつの親友で、遊にとっても親友の域を越えた存在じゃないってことぐらいは分かってる。
――それでも、俺が嫌なんだ。勝手だってのは十分承知だ。
正直、それを聞いたときは少し意外だった。
高校時代から、鹿島は先輩に対して真っ直ぐな好意を向け続けていたけど、先輩は鹿島の顔が好きだ、足が好きだと常々言ってはいたものの、そんな風に剥き出しの嫉妬を向けてくるような強い執着があったようには、その時まで思えなかったからだ。
高校時代のあのノリのまま、付き合って結婚して。
仲は凄く良くても、嫉妬のようなドロドロした感情とは無縁の関係だと思っていた。
勝手ですまん、と頭を下げられて、本当に鹿島に心底惚れてるんですねと言った時の、堀先輩の穏やかな、それでいて誇らしげな顔は忘れられない。
――他にいねぇだろ、あんな女。死ぬまで、いや死んでも手放さねぇよ。
まるで宣戦布告のようにも聞こえた言葉だった。
酒も入っていたからか、それ以降そんな言葉は聞かないが、だからこその本心でもあるんだろうと思っている。
鹿島のヘルプに応じて良いのかどうか、先輩に電話で確認したところ、かなり不本意そうなのが伝わってくる声で告げられた。
――遊から聞いてる。迷惑かけて悪いな。
――……けど、万が一にでも泊まっていったりとかはするなよ。
子どもたちがいるから二人きりではないとはいえ、本当は自分が家を空けている時に、俺を家に入れたくなかったんだろう。
鹿島に瓜二つの長男坊、堀先輩似の双子の上とこれまた鹿島にそっくりな双子の下。
俺から見ても、親戚の子のような感覚の可愛さだが、根っからの『鹿島遊フェチ』な先輩にはたまんねぇ可愛さなんだろうなぁ。
そんなところに『他人』が入り込むのは、相当気分が悪いはずだ。
「あー、そうだ御子柴。今日寝るのリビングのソファでもいい? ちょっと寝にくくて悪いんだけど――」
「待てよ、おい。俺泊まってなんかいかねぇぞ!?」
ほぼ、夢の中の世界に足を踏み入れてる長男坊を気にして、潜めた声で言ったんだろうと分かったのに、言葉の内容の衝撃につい応じる声が荒くなる。
「だって、終電なくなるよ? 明日、御子柴仕事休みなんでしょう? 見てくれたお礼に朝食ぐらいは出したいし、泊まっていきなよ。着替えだって、私のTシャツとかならサイズ合うだろうし」
「タクシーで帰るっての。……あのな、鹿島。おまえ、夫のいない家に夫以外の男泊めるとか、ちょっと考えれば、マズいのぐらいわかるだろうがよ!」
「だって、御子柴は親友じゃん。何も起こらないのぐらい、先輩だってわかるよ」
そう、『親友』。
鹿島にとって、『御子柴実琴』はあくまでも性別の域を超えた親友なのだ。
実際、俺だってずっとそう思っていたんだし、この先もそんな関係のまま過ごしていくものだと思ってた。
過去形になってしまうのは、俺にはここの長男坊が生まれた二年前のあの日から、押し殺している感情があるからだ。
仲良くしている親友夫婦に子どもが生まれた。
鹿島そっくりに生まれた長男坊に対し、かつて鹿島に対して行っていた親バカ発言を、そのまま憚ることなく向けた先輩に、相変わらずだなぁと思った次の瞬間。
鹿島がそれまで一度も見せたことのない、『母親』の顔をして、生まれたばかりの子どもと先輩に笑いかけ、先輩は先輩で凄く愛おしそうな顔で妻子を見た。
相変わらず、なんかじゃなかった。
全身で幸せを体現している二人。
お互いの存在が必然であり、何処にも他人の入り込む余地はない。
『親友』なんて存在が、とても小さなものに思えた。
入り込む余地がないことに嫉妬してしまった。
嫉妬の感情に気付きたくなかった。
自覚しなければ良かったと今でも思う。
――聞いてよ、御子柴。先輩がさー……。
――御子柴ー、先輩が酷いんだよ!。あのさー……。
そんな風に相談されるのも好きだった。
親友ならではの相談事だと思うと、仕方ねぇなと思う一方で、楽しくもあった。
けど、それは結局どこまでいっても、惚気以上の何物でもなく。
鹿島にとっての一番近い存在にはなり得ない。
何より、仮に自分が鹿島の一番近くにいたとして、あんないい顔をさせてやれないのは、自分が一番良く分かっていた。
あいつは親友だけど、堀先輩の女で、あいつが見ているのは、ずっと堀先輩ただ一人。
分かっているから、絶対に隠し通そうと決意した。
鹿島が大事な親友であるように、堀先輩も大事な先輩だ。
関係を失うようなことなんて、万が一にもしたくなかった。
だから、気付いてしまった感情には蓋をし、これまでと何も変わらない関係であるよう接している。
そんなことを、おそらくこいつは1mgとて予想しちゃいないんだろうけども。
「堀先輩は分かるかもしれないけど、ホントに泊まったら、絶対殺されるっての。……終電逃したついでに、子どもたちが寝て落ち着くまではいてやるから」
「そこまで気にしなくていいと思うけどなぁ」
悲しいくらいに全く警戒されていない。
警戒されていない証拠に、今の鹿島の格好はTシャツに短パン姿。
堀先輩曰くの極上の足を惜しみもなく曝け出している上に、よりにもよってノーブラだ。
子どもを生んだからか、胸を男に揉まれると大きくなるってのが本当だからなのかは分からないが、昔よりはふくらみがあるんだとわかってしまう胸が、直視できなくて心臓に悪い。
いくら風呂に入れてるからって、ブラぐらい着けろよ、仮にも男の前で、そりゃ無防備にも程があんだろって言葉が喉元まで出掛かっている。
でも、そんなこっちの動揺に気付かない鹿島だからこそ、俺はこいつの親友という立場を失わずに済んでいる。
こんなことを考えてるって分かったら、絶対に今まで通りではいられなくなるのが確実だ。
まず、堀先輩が俺を鹿島に近付けさせないようにするだろう。
それだけは絶対に避けたい。
「……鈍感な女」
「? 何か言った?」
「何でもねぇよ」
堀先輩。俺は先輩の居場所を奪う気なんて、これっぽちもありません。
でも、こいつの『親友』という立場も、どうしても失いたくないんです。
せめて、先輩や子どもたちの次くらいには、鹿島に近い人間でありたい。
遅くなっても、ちゃんと自分の家に帰りますから。
だから、あとちょっとだけ。
ささやかな家族ごっこを楽しむくらいは勘弁して下さい。
内心でそんな風に堀先輩に謝りつつ、いつの間にか、俺に寄り添ったまま眠りに落ちていた子どもの手をそっと握った。
[堀Side]
『政ちゃ-ん、やっぱり一人だとキツいから、御子柴を助っ人に呼んじゃってもいいー?』
一仕事終えて、出張先のホテルで着替えていたところに、遊からそんな電話がかかってきた。
まぁ、朝にも多分乳幼児三人を風呂に入れる作業はしんどいだろうとは言ってたし、俺にも予想はついていた。
良い気分はしないというのが正直なところだが、一人でこなすにはキツいことも、普段一緒に暮らしていれば十分に分かっている。
かといって、野崎たちのところや若松たちのところも小さな子どもがいる以上、とてもヘルプは頼めない。
独り身で、かつ遊の親友である御子柴という選択肢になってしまうのは、無理のない話だ。
「ああ、わかった。あんまり御子柴に迷惑かけんなよ」
「はーい。あ、ちょっと待っててね」
「うん?」
電話口で何やらがさごそ音がしたと思ったら、流れてきたのは遊じゃなく、幼い息子の声。
「おとーさーん」
「お、行弘か」
「はやく帰ってきてねー」
「おう、明日お土産買って帰るからな」
「はーい!」
一番上の息子が元気よく応じるのに、頬が緩む。
目の前にいたら、ぎゅっと抱きしめてやるとこなんだがなぁ。
今朝まではちゃんと一緒にいたのに、この腕の中に小さな温もりが抱けないってのはどうにも寂しい。
子どもたちが生まれてからの泊まりがけでの出張は、今回が初めてだ。
日帰りでの出張なら、いくらでも引き受けるが、泊まりがけでとなると、遊の負担が一気に増えちまうから、避けるようにしていた。
今回は出張に行く予定だった同僚が、急に入院してしまったから仕方なく引き受けたのだ。
再び、電話の声が行弘から遊のものに変わる。
「じゃ、明日気をつけて帰って来てね」
「ああ、そっちも戸締まりちゃんと気をつけろよ」
「はーい。じゃ、また後でね」
電話が切れて、再びホテルの部屋が静かになる。
そういえば、こうして一人で過ごすのは随分久しぶりだ。
多分、行弘が生まれる時に遊が入院していた時以来。
ホテルについて、最初は久々に静かに過ごせるなと思ったが、早くも物足りなさを感じてしまっている。
スーツを着替えて、ホテルに備え付けてある寝間着に着替えたところで、再びスマホが鳴った。
着信画面が表示していたのは御子柴。
「おう」
「あ、堀先輩ですか。御子柴です。あの、今鹿島から連絡あって、先輩が出張中だから、子ども見るの手が足りないっつってヘルプ頼まれたんすけど……行っても大丈夫ですか?」
俺の方にも、ちゃんと確認の電話を入れてくるあたりが律儀だ。
良いやつなんだよなぁ、こいつ。
「ああ、遊から聞いてる。迷惑かけて悪いな。今日の出張、どうしても断れなくてよ。家に帰れねぇんだ」
「分かりました。なら、これからちょっと家の方にお邪魔しますね」
「頼む。……けど、万が一にでも泊まっていったりとかはするなよ」
「しませんよ! いくら親友でも、そのくらい心得てますって。じゃ、失礼します」
「ああ」
用件だけを手短に述べると、御子柴との会話を終える。
軽く言ったつもりだったが、もしかしたら、泊るなと言ったあたりに棘が含まれてしまったかも知れない。
自分の器、小せぇなと思いつつ、ベッドの上に身体を投げ出した。
御子柴が良いやつなのは十分分かっているんだが、どうしても警戒してしまう面もある。
かつて、大学時代。俺と遊が付き合い始めた頃の酒の席では、
――ぶっちゃけ、よく勃ちますよね、あいつで。俺には分からないっす。
とまで言っていた御子柴だが、俺と遊が結婚し、子どもが出来た時にその印象に変化が現われた。
遊が妊娠したことで、あいつの女性の面を感じたらしく、少しは分かるようになった気がします、なんて酒の席で抜かしたのだ。
俺としては、分からないままでいて欲しかった。
遊の女らしい面なんてものを知っているのは俺一人でいい。
泣きそうな顔で、縋り付いて俺を求めてくるのも、薄い割には感度良好で、責めると切ない声を上げてくれる胸も、一対の剣と鞘のようにぴたりと俺に合わせて、優しくうねる遊の中の熱も、全て俺一人が知っていればいい。
だから、つい釘を刺してしまった。
――おまえ、俺が家に居ないとき、一人で来るの禁止な。
――今後、あいつと二人きりになるなよ。
流石にメールや電話の類まで禁じるつもりはないが、二人きりになんて絶対にしたくない。
今日だって、子どもたちがいるから了承したんであって、そうでなければ許したりなんかしなかった。
……嫌な本音を言えば、俺と遊、子どもたちの中には入って来られたくない。
遊にしてみれば、御子柴はあくまでも親友であって、それ以上の存在ではない。
それは見ていれば分かる。
あいつは御子柴を異性としては全く意識しちゃいない。が、御子柴側からしたらどうか。
御子柴本人に自覚があるのかどうかは分からないが、時折、遊を追っている目の色が昔と違う瞬間がある。
あれは親友を見る目じゃない。気になる女に対して向ける目だ。
自覚があるなら、表に出さず隠し通していて欲しいし、自覚がないなら、どうか気付かないままであって欲しい。
遊が男として認識しているのは、俺だけだというのは分かっちゃいるが、面白くない。
遊を信用してる、してないの問題ではなく、俺の独占欲が強いだけだ。
御子柴も華がある。
高校時代に少しだけ演劇の代役を頼もうとした時に、遊と並んだら凄く見栄えがした。
当時は、その華やかさに舞台を作り上げる者として血が騒いだが、今となっては邪魔な感情だ。
二人並んだ状態が様になろうが、遊の隣に在るのは俺だけでいい。
***
普段、どうやって過ごしていたものだったかと、疑問に感じてしまうくらいに就寝までの時間を持て余す。
風呂に入れば、日々のチビたちを次々と入れていく流れを思い出しては寂しくなるし、ビールを口にすれば、偶に楽しむ遊との晩酌が頭をよぎる。
今頃、あいつらどうしてるかなんて、そんなことばかりで思考が埋められていく。
たった一日だってのに、こんなに寂寥感を覚えるなんて、想像もしちゃいなかった。
「帰りてぇ……」
何処の誰だよ、出張は適度な息抜きになるとか言ったやつ。
溜め息と同時に、部屋のアラームクロックを見たら、一時を回っている。
そろそろ、向こうも一段落ついただろうかと思った、まさにその時。
タイミング良く、スマホが着信を知らせた。発信元が遊なのを確認して、電話に出る。
「もしもし? 政ちゃん、私」
「おう。子どもたちはもう寝たか?」
「うん、全員。御子柴もちょっと前に帰った。泊っていけばって言ったんだけど、断られた」
そりゃ、そうだろう。
ちょっと考えれば、夫不在の家に、夫じゃない男が泊まるとか、かなり問題あるだろうことぐらい分かりそうなもんだが、遊の中ではあくまで御子柴は『親友』であって、『男』ではないから、そんなことを言ってしまえる。
無邪気だからこそ、残酷なとこあるんだよな、こいつ。
ほんの少しだけ、御子柴に同情した。
「そっか。今度あいつに奢るか何かするわ」
「……政ちゃん」
「うん?」
「その、朝まで一緒にいたのは分かってるんだけど。こんな風に離ればなれで、夜過ごすなんてなかったから、何か寂しい。こっちには子どもたちもいるんだけども」
目の前に遊がいたら、今すぐ押し倒しているところだ。
どんな表情して今の言葉を口にしたのかまで、手に取るように分かる。
無性に触りたくなるじゃねぇか、このバカ。
「……遊」
「ん?」
「リクエスト。明日の夕食は鰻丼。で、下着は紺のガーターベルトの。セットであれ着けとけ」
電話の向こうで沈黙が続いたかと思うと、慌てたような声が少しうるさいくらいの勢いで聞こえてきた。
「………………電話口で何言ってるんですか、先輩ー!!」
「大声出すなよ、夜中だ。せっかく寝たチビたち起こす気かよ」
「……っ、先輩がそんなこと言うからでしょ!?」
「先に煽ったのはおまえだろ。帰ったら目一杯触るから覚悟しとけ」
「私が何言いました!?」
自覚がないってのは性質が悪い。
きっと、今こうして俺を呼んでいるのが昔通りの『先輩』になっていることや、敬語が混じってしまっていることも気付いてないんだろう。
遊がこんな言葉遣いになってしまうのは、狼狽えたりした時だし。まぁ、そんなところも可愛くて仕方がないと思っちゃいるんだが。
「で、リクエストは聞いてくれるのか、奥さん?」
「……もう。聞きますから、早く帰って来て」
早く帰りたいのはこっちの方だ。俺のたった一つの大事な居場所。
何処の誰だろうと渡さない。
明日の夜の楽しみを心待ちにしながら、電話を切り、眠りについた。
堀みこやほりみこかしを書いてる今(2022年現在)となってはもう書けないだろう類の話。
当て馬的な流れ、多分苦手な人は苦手なんだろうけど、私は割と好き。
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