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Immorality of target 02<月刊少女野崎くん・堀みこ・R-18>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

堀にとっては計画していた再会。

初出:2015/02/19 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:14733文字 裏話知りたい場合はこちら

 

「貴方、もう起きる時……あら、もう起きていたんですか」

「おう、おはよう。飯出来てるか?」

「ええ、勿論。直ぐ用意してくるわ」

 

いつもの時間に、俺を部屋まで起こしにきた女房は、既に起きていたどころか、スーツに着替えている様子を見て、目を丸くしていた。

が、然程慌てることもなく、キッチンに戻っていく。

かつてうちの会社には、いわゆるコネ入社ってやつで勤めていた女房だが、堅実にこなしていく仕事ぶりには定評があり、結婚して家庭に入ってもそれは遺憾なく発揮されていた。

多少、窮屈に思える時もなくはないが、概ね上手くやっている夫婦だと思う。

少なくとも、表向きはそうだし、女房に対する不満は滅多に口にすることはない。

とはいえ、女房が悪いわけではないんだが、あいつ相手ではどうしたって満たされないものはあった。

キッチンで朝食を準備する音を耳で確認しながら、ひっそりと先日購入した使い切りタイプの潤滑剤のチューブをカバンの奥底に忍ばせる。

 

――俺は、周囲も自分も誤魔化してやっていけるほど、器用な人間じゃありません。『演じられる』先輩と一緒にしないで下さい。

 

かつて結婚することを告げた俺に、御子柴がそう言い、俺の前から消えてから早十数年。

女房との間に授かった一人息子が中学生になっている年月を思えば、中々長い月日が経っていた。

が、それも今日で一つの区切りがつく。

他社との間に立ち上げた、新しいプロジェクト。

御子柴もそのチームに参加しているからだ。

久しぶりにあいつに会えるかと思うと、心が浮かれる。

俺が今回のプロジェクトに関わってるって知ったら、あいつはどんな反応するかな。

朝食を摂ったらすぐに家を出るつもりで、カバンも持って、ダイニングへと向かう。

綺麗に並べられた三人分の朝食に、今夜を思うと少しだけ良心が咎めたが、こっちだって長年良い夫を演じてきた。

多少、道外したっていいだろう、なんて勝手なことを思う。

 

「コーヒーでいいわよね?」

「おう」

 

席について、女房がコーヒーをマグカップに注いだところで、勢いのいい足音が聞こえた。

 

「はよー」

「おはよう」

「おはよう。おまえ寝癖凄ぇことになってんぞ」

 

俺のクローンかって位に良く似た息子の政弥は、まだ眠そうな顔だ。

 

「んー、時間まだ余裕あるから食ったら直すって。親父、今日早いな。もう着替えてんのかよ」

「ちょっと早めに行って準備したいことがあるからな」

「ふーん」

「そういえば、五年がかりのプロジェクトが始動するんでしたっけ? この若さで他社も絡むプロジェクトの統括を務めるのは凄いって父が褒めていたわ」

「そんなこたねぇよ」

 

何気ない風を装って言葉を返しながらも、内心では溜め息だ。

相変わらずのツーカーっぷりだな、この父娘。

いくら、こいつが元社員だからって安易に情報出し過ぎなんじゃねぇの、義父さん。

 

「もしかしたら、そのプロジェクトで絡む先方の会社に、旧知の後輩がいるかも知れない。

もしそうなら、帰り遅くなるか、朝まで飲み明かしてくるから、晩飯はいらねぇよ」

「はいはい。わかりました」

 

当たり前だが、何一つ怪しむ様子はない。

あとは手頃な時間にやっぱり帰れなくなったとメッセージでも送っておけばそれで問題ない。

 

「何か、親父楽しそうだなぁ」

「ん? 今回の仕事はずっとやりたかったやつだからな。やり甲斐もあるし」

 

単純に仕事としてのやり甲斐も勿論だが、それ以上にモチベーションの維持になっているのは、御子柴の存在だ。

当然、それを家族に言うつもりはない。

 

――御子柴の連絡先なら知ってますけど、教えられません。教えるなって言われましたから。

 

十数年前、結婚することを告げたら、御子柴は俺との関わりを断つように、住所やら、電話番号やら、メアドやらの一通りの連絡手段を変えてきた。

安易に親友の鹿島だったら、知っているだろうと尋ねたが、鹿島には笑顔でバッサリと断られた。

 

――それに……大事な親友泣かす人には私としても教えたくないです。

 

あくまでも笑顔は崩さなかったが、鹿島が本気で怒ってるのは分かったし、それ以上聞く資格がないことくらいは流石に悟った。

御子柴にそうさせたのは俺だ。

だから。

それなら、もう一度会うにはどうあっても避けられない形にして、再会に漕ぎ着けるしかないと決めた。

プロジェクトを社内で立ち上げられる立場になるまで数年、立ち上げたプロジェクトを本格的に始動させるのに、さらに数年。

使える手段は使って、どうにかここまで持ってこれた。

あいつが勤務先まで変えなかったのは幸いだった。

午後には顔を見られるはずの御子柴の反応を想像しながら、今週最後の仕事へと向かった。

 

***

 

「堀部長、もうすぐ先方の会社の方々がいらっしゃるようです。今からタクシーで移動するって連絡がありました」

「わかった。八階の会議室押さえとけ。空いてたはずだ。到着したら迎えに行く」

「え、部長が行くんですか」

「ああ。ちょっと知り合いがいるかも知れないから、確認も兼ねてな」

 

一度に人が集まる場で会ったら、直ぐには気付かないふりも出来るだろうが、こっちが一人で行ったらそうもいかねぇだろうと踏んでいる。

向こうは集団だしな。

 

「分かりました。じゃあ、他のメンバーは八階の会議室に集まっておいて良いですね?」

「ああ。資料とか抜けがないように確認しとけ」

 

言いながら自分も会合用の資料を纏めていると、電話に応対していた社員に呼ばれた。

 

「堀部長。内線三番にお電話です」

「おう。……はい、堀です。……はい、到着ですか。今行きますので、先方に少々お待ち下さいと。はい、お願いします」

 

電話は社の受付からで、御子柴たちが到着したことを告げてきた。

いよいよ、だな。

一階に降りる前にトイレに寄って、軽く身だしなみだけチェックする。

心臓の鼓動が速くなっているのを自覚しながら、一階に降りると頭を下げている面々の中に御子柴を見つけて、つい口元が笑ってしまった。

やっぱり、相変わらずのイケメンだなぁ。

 

「当方までご足労頂きありがとうございます。お待ちしておりました。

八階の会議室までご案内いたします」

 

俺がそう言った瞬間に、御子柴の背がびくりと動いた。

声で俺だって気付くよな。

付き合っていた頃は、よく好きだって言ってくれた声だもんな。

 

「……やっぱり、おまえか。久しぶりだな、御子柴」

 

そうして、御子柴個人に声を掛ける。

おそるおそるといった様子で顔を上げた御子柴は、驚いた様子も露わに、微かに声を震わせた。

 

「…………堀、先輩」

「リーダーご本人がいらっしゃるとは恐れ入ります。今回はよろしくお願いします」

 

既に俺とは何度か面識のある、先方のチームリーダーの言葉に御子柴が表情を強ばらせたのが分かった。

もしかしたら、御子柴は古い知り合いかも知れないとは先方のチームリーダーには告げておいたが、そうだった場合には驚かせたいから、顔合わせの当日までは黙っておいて欲しいと言っておいたのが功を奏したようだ。

ホント、分かりやすい男だよなぁ。

 

「おい、御子柴。知り合いか?」

「あ、ああ、その……」

「高校時代の後輩です。なぁ、御子柴」

「あ、はい。そう、です。十数年振り……ですかね」

 

恐らく、何て答えるべきか迷った御子柴に助け船を出してやる。

いくら何でも、昔付き合っていた男です、なんて言わねぇっつうの。

 

「相変わらず、イケメン面してんなぁ、おまえ」

「でしょう。うちの社でも毎年バレンタイン時期にはチョコレートを一番大量に貰ってますよ」

「相変わらずモテんなぁ。あ、でもおまえ誕生日がバレンタインだっけ」

「はぁ、まぁ」

「モテる割りには女の影ないんすけどね、御子柴」

 

事前に御子柴の会社のチームリーダーからも聞いてはいたが、他のメンバーもそう言ったのにちょっとほっとする。

 

「へぇ、人見知り癖も相変わらずか」

「……悪かったっすね」

 

御子柴と知り合いだったことで、話の取っ掛かりが出来、初会合としてはまずまずの成功だ。

週末ということもあって、会合が終わった後にそのまま皆で飲み会という流れにも自然に持って行きつつも、家庭持ちが多いチームメンバーの中で、出来るだけ遅くまで残ろうっていうやつが少ないのも想定済みだった。

だから――。

 

「……何でいつの間に二人だけになってんすかね」

「そりゃ、飲みの途中でどんどん人が消えていったからな。家庭持ちはそりゃ適度な頃合い見て帰るだろうよ」

 

御子柴と二人きりになった時点で、ホテルのバーで飲むことになったのも、俺の方としては計画通りとしか言いようがない。

対して、御子柴の方は場の空気に流されて、気付いたら現状だったって感じだ。

そこについても、こっちの思惑通りだが、勿論それは御子柴には言わない。

 

「先輩は帰らなくていいんすか」

「今日は遅くなるし、もしかしたら、昔の後輩と仕事で会うかも知れないから飲みで帰らない可能性もあるって言ってきてる」

「…………俺がチームにいるって知ってたんすか」

「まぁな」

 

そもそも、そうなるように仕組んだのは俺だ。

そこまでは今言うつもりは全くないから、簡潔に話を切り上げる。

人もいなくなったことだし、普段は控え気味になっている煙草を吸おうと、懐から煙草とライターを取り出した。

喫煙者としては年々肩身が狭く感じたりする場面が増えたが、どうにも完全には止められそうにない。

けど、御子柴といると、余計昔を思い出して吸いたくなった。

 

「煙草吸って良いか? ここ喫煙問題ねぇだろ?」

「どうぞ。俺もいいっすか」

「ああ。何だ、おまえも煙草止めてなかったのか」

「止めようと思って、数回失敗したクチっすよ」

 

言いながら御子柴も懐からシガレットケースとライターを取り出す。

シガレットケースを開けた瞬間にももしやと思ったが、実際に煙草を吸うと香りですぐ分かった。

こいつ、煙草の銘柄変えてねぇ。

当時から今に至るまで、俺が吸っている煙草と同じものだ。

元々、俺たちはあんまり趣味嗜好が合わず、持ち物で共通してるのは少なかった。

しかし、御子柴の場合、煙草を俺で覚えたのもあって、煙草の銘柄は俺が吸っているのをそのまま吸っていた。

携帯もメアドも住所も一気に変えたやつが、煙草の銘柄は変えてなかったなんて、正直予想していなかった。

……少しはうぬぼれてもいいんだろうか。

 

「……何すか」

「いや。煙草変えてねぇんだなって思っただけだ」

「変えようと思ったけど、他のにどうも馴染めなかったんで。そういう先輩こそ、変えて無いっすよね?」

「まぁな」

 

俺も煙草をシガレットケースに入れてあるから、一見して銘柄は分からないようになっているが、こいつもやっぱり煙草の香りで分かったらしい。

少しだけ目頭が熱くなったのは、二人分の煙草の煙の所為だ、きっと。

眼鏡を外して、軽く目を擦る。

そういや、まだ眼鏡かけたままだったなと、今更気付いた。

 

「視力落ちたんすか」

「昔に比べりゃちょっとな。ま、これは仕事の時にしか使ってねぇけど」

 

丁度いいから、外した眼鏡は胸ポケットにしまい込む。

裸眼で困る程の視力じゃねぇし、もう仕事の時間は終わりだ。

この先には長年待ち焦がれていた、楽しい一時が待っている。

 

***

 

「先輩、家どっち方向っすか」

「ここから上りで一時間」

「…………もう終電なくないですか」

「ねぇな」

 

端っから終電に乗るつもりもなかったから、問題ない。

しかし、御子柴の方は困ったような顔をしてる。

ま、予想してねぇよな。

終電なくなるまで飲むつもりなんてなかったんだろう。

こいつの家が何処かは分からねぇけど、どっちの方向にしろ、そう状況は変わんねぇはずだ。

御子柴が何でもないように溜め息を吐いて、明るめの声で言う。

 

「しゃあないっすね。駅まで行けばタクシー拾えるでしょうから、とりあえず駅に向かいま……」

 

駅の方向に足を向けようとした御子柴の手首を強く掴んで、歩みを止めさせる。

俺を見る御子柴の表情には明らかに焦りが見えた。

 

「……何すか。離して下さい」

「このまま泊まっていかねぇか? どうせもう電車ねぇんだし」

 

さっき、御子柴がトイレで席を外した隙にホテル側に聞いてみたら、ダブルの部屋ならまだ空きがあるって言っていた。

下手に移動しなくても済むのは好都合だ。

 

「タクシーで帰れば済む話でしょう」

「明日休みなんだし、無理に帰る必要ねぇだろ」

 

ここで帰らせるつもりなんてない。

十数年振りにこいつが手の届く場所にいる。

あと、一押しだ。

 

「……別れた男に手ぇ出すほど飢えてるんすか」

「そうだって言ったら、大人しく相手してくれんのかよ」

「…………っ」

 

軽蔑するような眼差しで言われたって、痛くも痒くもない。

実際当たらずとも遠からずだ。

御子柴以外に手を出す気はないが、飢えているってのは外れちゃいない。

 

「生憎、俺は飢えてないんで。そういうのなら余所当たって下さい」

「結婚は勿論、特定の相手もいねぇって聞いたがな。

――人見知りのおまえのことだ。適当な相手と遊べるタイプじゃないし、いねぇってことは本当にいねぇんだろう?」

「く……」

 

御子柴の目元がほんのり赤くなる。

おまえんとこのリーダー、意外におしゃべりなんだよな。

プロジェクトが本格始動する前の段階で、チームの名簿見て、もしかしたら昔の後輩かも知れない、なんて言ったら、社員旅行での失敗談とか、バレンタインの時のあれやこれやを色々話してくれた。

随分、上司に可愛がられてんだなと嬉しくもあり、ちょっとばかり嫉妬もしたが、貰えた情報の数々には素直に感謝だ。

 

「それともあれか? 久々過ぎて色々意識しちまうか?」

「……十数年経ってるんすよ。今更意識なんてしやしない」

「意識してねぇんだったら、それこそ、たかが一回セックスするくらい構わねぇだろ」

 

どうせ、察しているんだろうから遠回しに言うのはやめだ。

セックスって口にした瞬間に、御子柴の眉が顰められたが、視線は外さずにじっと見つめる。

 

「妻帯者の台詞じゃないっすね。罪悪感とかないんすか」

「……おまえ相手じゃなきゃ言わねぇよ。俺だって誰でもいいわけじゃない」

 

罪悪感がないわけじゃないが、それこそ十数年、この機会を待っていた。

もう一度御子柴に会いたかった。抱きたかった。

快感でぐちゃぐちゃに乱してやりたい。

逃がしてたまるかよ。

たじろいで後ずさりした御子柴に、俺の方も踏み込んで迫る。

 

「御子柴」

 

微かに震える手首を宥めようと、指先で手首の骨を確かめるように動かしていく。

歳の割りに、妙に肌触りがいい。

手首でこれなら、身体のどこを触ってもそうなんじゃねぇかと、考えるだけで昂ぶる。

御子柴の方からも僅かに乱れた呼吸が聞こえる。

こいつに触りたい。

もっと吐息を乱して、快感に喘がせて、腕の中で泣かせたい。

 

「抱かせろ」

 

俺の言葉に御子柴の目が揺れる。

即座に否定の声が上がらなかったところで、勝ちを確信した。

本気で嫌ならとっくにこの手は振り払ってるはずだ。

腕の震えが止まって、伏せられた目。

目元が赤くなっているのはアルコールの所為だけでもねぇだろう。

それだけでも、もうキスしたくて堪らなくなった。

 

「…………一度、だけなら」

 

一度だけで終わらせるつもりはない。

抱いてしまえばこっちのものだ。

掴んだままの手首を引いて、今出てきたホテルに踵を返すと、御子柴は俺の手を振り払うこともせずに、大人しく俺の後についてきた。

 

***

 

ホテルの部屋に入るまでは、何となく双方無言だったが、部屋に入って即御子柴の背に腕を回して抱き寄せ、唇を重ねた。

我慢の限界だった。

 

「……っ」

 

ごく近くで改めて御子柴の顔を見ると、目元に少し皺はあるけど、全体的な印象としてはあんまり変わらない。

形の良い唇の感触も、記憶にあるのとほとんど違和感がない。

ホント、イケメンってのは歳食ってもイケメンだよなぁ。

舌を御子柴の口の中に突っ込んで、探ってみても、やっぱりこっちも記憶にあるのとそう変わってない。

俺が吸っているのと同じ煙草を吸っているからか、味も変わらない。

弱いだろう舌の裏側や付け根を探っていくと、触れてる御子柴の背から細かい震えが伝わる。

ちらりと視線を下に向けると、御子柴の腕が壁に寄りかかって、身体を支えているのが見えた。

どうせなら、こっちに腕を回しゃいいのに。

 

「……相変わらず色っぽい面すんなぁ、おまえ」

「……!」

 

さらに顔が赤くなったところで、より身体を引き寄せて腰をぶつける。

予想通り、御子柴のモノもスラックス越しに固くなっている。

勿論、俺の反応も御子柴には伝わっているはずだ。

こんなに興奮するのは何年ぶりかって勢いだな。

御子柴の首筋に唇と舌を這わせると、小さい声が漏れたが、直ぐさま俺のネクタイを引っ張られた感覚に思わず、唇を離した。

 

「ちょ……っと、流石に、玄関とか、勘弁して、下さいって……!」

 

そういや、靴さえ脱いでなかった。

ヤベぇ。

久々に御子柴を抱けるのが嬉しくて、自分でも考えていた以上に突っ走り過ぎてたか。

ヤリたい盛りの十代のガキじゃあるまいし。

 

「……悪い。がっつき過ぎた」

「ホントに飢えてんすか。……結婚、してんのに」

「……ま、色々あんだよ」

 

女房とは家族としては上手くいっている方だろうが、とっくに男女としての関係ではなくなっている。

レスになってから年単位だ。

特に他で解消したりなんてこともしてないから、セックスするのは結構久々なんだよな。

……こいつはどうなんだろう。

会わずにいた期間、御子柴に触れたヤツは何人位かいたりするんだろうかと、考えかけてやめた。

別に今わざわざ考えるほどのことじゃない。

今は目の前のこいつを貪ることだけに集中すればいい。

靴を脱いで部屋に上がり、カバンを床に放って、ベッドの傍まで来ると、御子柴の腕を勢い良く引っ張って、ベッドの上に倒した。

 

「……っと!」

 

御子柴が体勢を整える前に、すかさず覆い被さる。

俺を見上げてくる目には、もう困惑している様子は窺えない。

この目が快感に蕩けていくのを見られるかと思うと、気分が益々昂揚していく。

 

「ん……」

 

再び、唇を重ねながら、御子柴の耳を触る。

別れる少し前から、会社の方がうるさいからと、完全にピアスをしなくなったからか、見た目だけだともう全然分からないくらいに穴が塞がっている。

 

「……ピアス穴、完全に塞がってるんだな」

「入社して以降、しなくなりましたからね。もう穴があった場所も分かんねぇぐらいでしょう」

「場所は何となく覚えてるけどな」

 

穴があったはずの場所を触ってみると、どことなく違和感は残っていた。

 

「っ!」

 

その場所を狙って軽く歯を立てると、御子柴が少し甘い声を上げて、背を撓らせた。

ピアスしていた頃に時々責めていた場所は、まだ性感帯として有効らしい。

手触りのいいネクタイを解き、シャツのボタンも外していく。

昔と変わらず、筋肉もさほどついてないかわりに、余分な贅肉もついてないってのが分かる。

 

「身体起こせ。脱がすから」

「……っ、自分で脱げます。先輩も自分の脱いで下さい」

「……それもそうか」

 

着たままするのも嫌いじゃないが、どうせ久々にセックスするなら、全身余すところなく触れて感じたい。

さっさと着ているものを脱いでいき、あっという間に素っ裸になると、御子柴の方はまだ下着が残っていたから、それに手を掛けた。

 

「ちょ……っ、早いって先輩!」

「うるせぇ。脱がすぞ」

「く……」

 

下着を引きずり下ろして、床に放る。

お互い様なんだが、性器の反り返り方見ると歳を感じるよなぁ。

けど、相変わらず勃つと良い形してるよな、こいつ。

先っぽ弱いのも変わんねぇのかな、と御子柴のモノに口を寄せると、慌てた様子が伝わった。

 

「や……っ……シャワー、浴びてない、んだから……っ、口、はやめ……っ!」

「……相変わらず先っぽ弱ぇなぁ。形もやっぱ好きだわ、おまえの」

「ふ、あ、あっ……!」

 

そういや、シャワー浴びるなんて思考そのものが飛んでたなと思いながら、そのまま御子柴のモノをしゃぶった。

雄のにおいと汗が混じった生々しいにおいは嫌いじゃない。

どっちかっていうと、しゃぶられる方が好きだが、しゃぶった時の御子柴の反応を見るのも気分が良い。

懐かしい感触を内心で愉しみながら、弱いままらしい先っぽを重点的に舐めながら御子柴を見上げると、御子柴が俺から目を逸らした。

微かに震える腰は快感を抑え込もうとしてるのか、力が入っているのが分かってしまう。

ほんと、こういうとこ堪んねぇ。

 

「可愛いな、おまえ」

 

床に置いてあったカバンを拾って、その中から潤滑剤の小さいチューブを取り出す。

今夜は最初から御子柴を抱くつもりだったから、用意してあったが、俺が持っているものを確認した御子柴の表情が固まった。

 

「……って、何で潤滑剤なんか持っているんすか!」

「紳士としての嗜みだろ」

 

潤滑剤無しでヤッたら、おまえの方が絶対キツいから用意したってのに。

 

「ゴムは持っていない癖に、ですか」

「おまえとのセックスでゴム自体ほとんど使ったことねぇだろ。ああ、病気は持ってねぇから安心しろ」

「……俺が持ってたらどうするつもりなんすかね」

「どうせ、ねぇんだろ」

 

生じゃない方がいいってのは分かってるけど、中に出しても女みたいに妊娠したりするわけじゃないから、正直使う気になんねぇんだよな、ゴム。

大体、こいつ小心者だし、仮に何らかの心当たりがあったとして、それを放っておくタイプにも思えないから、安心感もどっかにあるし。

 

「…………いや、まぁ、ないっす、けど」

 

案の定、だ。

ふてくされたようにも聞こえた声が、どうにも可愛い。

四十近い男の反応には思えねぇよなぁ。

潤滑剤は使い切り出来る量だから、中身をほぼ指先に一気に出して、御子柴の後孔に触れた。

軽く周囲を指先で撫でてから、中に挿れていくと御子柴の声が震えた。

 

「……う、あ」

 

シーツと枕を掴んでいる御子柴の手に力が入ったのが、視界の端で確認出来る。

中の温度も以前とあんまり変わらねぇなと、熱い場所を指で弄ると、時々吐息に紛れた小さい悲鳴が聞こえる。

懐かしいような、妙に初々しいような反応が可愛い。

慣らさないとキツいのは分かってるから、指を一本だけでなく、二本に増やして、少しずつ広げるようにする。

何となくキツい感じがするのにちょっと引っかかったが、頃合いを見計らって指を抜き、すっかりガチガチに反り返った自分のモノを其処に触れさせた。

 

「御子柴、力抜け」

「ん……分かって、ます」

 

挿れる前に先っぽが触れただけでも、御子柴が少し身構えてしまってるのが伝わる。

 

――何度ヤッたって、挿れる時はどうも違和感あるっていうか……身構えちまうんすよ。一度挿れてさえしまえば、まぁ平気なんすけど。

 

そんな、昔こいつが言ってた言葉を思い出す。

日常的にヤッてたあの頃でそれなんだから、無理もねぇなとは分かってる。

軽く御子柴の内股を撫でて、汗ばんだ額にキスすると、ちょっとだけ緊張が和らいだように思えた。

すかさず、御子柴の足を抱えて、体重をかけていく。

 

「ふ…………んっ、あ、あっ……」

 

ここに来てようやくの強い違和感と言うべきなんだろうか。

拒んではいないんだが、挿入を進めても妙に狭い。

まるで、一番最初にセックスしたときみたいな印象だ。

無理させているのかと思うと、少し胸に痛みが走る。

 

「……っ、あ…………くっ……!」

 

参った。予想していた以上に、御子柴の中がキツい。

本気で苦しそうな表情に流石に先へと進めるには躊躇って、無理なく収まった部分以上には腰を進めずに止まる。

まだ半分と挿れてなかったが、止めた動きに御子柴がほっとしたのが分かった。

 

「す……みませ……ん。久々、なんで、ちょっとキツ……っ」

「何だよ、道理でキツいと思った。ご無沙汰だったのか。……前にセックスしたのいつだ?」

 

何気なく問いかけたつもりだった。

俺たちが会っていなかった年数を考えれば、その間に相手がいたって、何ら不思議はないし、それを責めるつもりもない。

が、俺の問いかけに対して、御子柴が随分とバツの悪そうな顔をする。

不審に思っていたら、ややあって、小さな呟きが聞こえた。

 

「その、先輩と別れてからは全然……」

 

……待てよ。

今、何て言った。

俺と別れてから全然?

十数年経ってんだぞ?

 

「……マジか。女とは?」

 

後ろはそうでも、前はどうなのかと続けたが、そっちにも御子柴は首を振って否定してきた。

 

――い……った、痛いって、せんぱ……っ!!

 

まだ、俺たちが学生だった時、初めてセックスした際に御子柴は随分痛がってボロボロ泣いたのを思い出す。

元々、セックスするための場所じゃないから、それも当然なんだが、しばらくの間は痛がっていたし、あれが、初めてのセックスだったって知っている。

それから数年付き合って、別れたが、その間は他の誰かとしてたわけじゃない。

けど、それで俺と別れてからは全然、なんて言うことは。

まさか。

俺しか知らないままだってのか。

だったら――キツくても仕方ない。

十数年振りじゃ、そりゃしんどいのも当たり前だ。

最初の時だって、相当時間掛けて慣らしていったんだもんな。

 

「…………御子柴」

「……ふ……んんっ」

 

そう思うと、滅茶苦茶愛しさが沸き上がる。

優しくしてやりたくて、唇をそっと重ねては離し、御子柴の身体の緊張がほぐれるようにゆっくりとキスを繰り返す。

唇から零れる吐息を確認しながら、手でも身体の線を確かめるように探る。

 

「あ……あ、はっ……」

「……っ」

「うあ……!!」

 

御子柴の身体が弛緩したのを見計らって、最奥まで挿入を進める。

付け根まで挿れられたところで息を吐いた。

御子柴の中はまだ強ばってはいるし、表情も苦しそうではあったが、止めろとは言ってこなかった。

 

「……せん、ぱ……」

「……キツいなら言え。ゆっくり動いてやっから」

 

止めてやる、なんて言えない辺りが何とも、だ。

止めてやれるほどの理性までは、今の俺にはない。

 

「そ……んな、気遣わなくて……いいっす……からっ……んっ」

「はっ……」

 

また、唇を重ねて、今度は舌も入れる。

部屋に入ったときのキスは無我夢中だったが、今度は落ち着いてじっくりと口内を確かめた。

舌の裏側や付け根、上顎なんかをゆっくり舌先で撫で回すように弄ると、弱い部分を刺激する度に、表情が蕩けていく。

身体を繋いでいる場所も、さっきほどの強ばりはなくなり始めていて、時折心地良い締め付けが来る。

……くそ、可愛いな、こいつ。

がっつり動かしたくなったのは堪えて、既に99%の確証は持っていながらも、改めてこいつの口から確認したいことを尋ねる。

 

「御子柴」

「な……んすか」

「……おまえ、結局俺しか知らねぇの?」

「っ!!」

 

聞いた瞬間に中が強く締まって、走った刺激につい呻いた。

けど、今ので確信した。

やっぱり、こいつ、俺以外は誰も知らねぇ。

快感で蕩けた顔も、感極まったときの声も――中に出した時に感じる、吸い付くようなあの熱も。

 

「……へぇ」

「ん! あ、ちょ……っと、せん、ぱ……ああ!」

 

そう思ったら、もう興奮しかしない。

大分身体が馴染んで来たのを良いことに、前と変わらず、弱いままだろう部分を責めたてると、震える声が俺を呼んだ。

手を俺には伸ばさず、シーツを掴んだままなのは、せめてものこいつの意地なのか。

 

「んんっ!」

 

だったら、いつまでその意地が持つか試してやる。

どうせ、今夜は動けなくなるまで開放させてやるつもりはない。

開放させてやれる気もしない。

 

――ホントに飢えてんすか。……結婚、してんのに。

 

飢えているに決まっている。

御子柴ほどじゃないが、俺だって数年女房とはレスが続いてる。

そうでなくとも――あいつ相手じゃ御子柴を抱いた時みたいに、満たされたりしない。

生まれた息子は可愛いが、いつからかセックスするのが億劫になっていき、その気になれないっていうのを幸いに、もうこっちからも誘いをかけない。

それで気が楽だった。

けど、今は御子柴の隅々まで欲しくて仕方ない。

あっさりイキそうな衝動に迷ったが、こいつ相手ならまだイケるなと、逆らわずに突き上げる。

 

「あ、あああ、やっ、うあああ!!」

「……っ」

 

そうやって、御子柴とほぼ同時にイッた。

……凄ぇな。久々なのに、ちゃんと同時にイケるって。

やっぱりこいつとの相性最高じゃねぇか。

けど、まだ足りない。

触れていない場所も残っている。

 

「……悪ぃ、まだ足りねぇ。続けるぞ」

「ちょ……っ、待っ……ああっ!!」

 

御子柴の背を抱き寄せて、身体を起こし、二人で向かい合う形になった。

目の前に来た胸元にある乳首に舌を這わせると、上擦った声が部屋に響く。

 

「ひ……!」

 

震える背は支えたままで、もう一方の手で背骨の形を確かめていくように触る。

小さな悲鳴が耳に届いて、やっぱりここも弱いままなのかと嬉しくなる。

俺の頭を抱えてきた御子柴の呼吸は乱れている。

密着した姿勢だから、腹で触れてる御子柴のモノの状態がダイレクトに伝わっているが、早くもガチガチだ。

ま、人の事なんて言える状態じゃねぇんだけど。

汗を含んだ赤い髪を撫でて、もう一方の乳首にキスすると、御子柴の中がまた蠢いた。

 

「……御子柴」

「なん、すか」

「……凄ぇと思わねぇ?」

「……? 何、が」

 

意味を分かってないのか、すっとぼけているのか。

ま、多分前者だな。

こいつ、誤魔化すの基本的に得意じゃねぇから、直ぐ分かる。

こんな風に身体を繋いでいる時なんて、尚のことだ。

 

「久々だってのに、ちゃんとおまえの身体、俺を覚えてるのな」

 

抱いている身体がびく、と震えた。

ごくりと喉が動いた音も聞こえる。

今ので自覚したか?

十数年、セックスどころか全く会っていなかったのが嘘のようだ。

身体だけじゃない。二人の間の空気感にしたってそうだ。

御子柴の存在は俺の中に自然と馴染んで来たし、それはきっと御子柴の方も同じように感じているはずだ。

 

「そ……んな……ん、知らな……っ」

 

声には動揺しているのがありありと出ている。

今度はすっとぼけている方だ。

ホント、分かりやすいったらねぇな。

こいつのそんなとこが――今も昔も好きな部分の一つだ。変わってねぇな。

 

「自覚してない、なんて言わせねぇ、ぞ……っ!」

「あ、あ、うあ!!」

 

乳首に軽く歯を立てながら、突き上げると甲高い声が上がる。

ベッドのスプリングを使って、身体を揺らしてやると断続的な悲鳴が、耳の奥へと降り注ぐ。

動きとしては強くはないが、御子柴の声に煽られる。

今度の限界は思っていた以上に早く訪れた。

 

「ひ、あ、あああ!!」

「……っ、く!」

 

派手な悲鳴の直後に、強烈な締め付けが来て、また二人同時にイッた。

ちょっと呼吸が落ち着いたところで、御子柴の中から抜けないように気をつけながら、御子柴の上半身をベッドにゆっくりと下ろした。

二人揃って、凄ぇ汗だな。

腹に出した御子柴の精液も拭ってないから、どこもかしこもぐちゃぐちゃだ。

 

「……流石に二回イッたら、ちょっと落ち着いた」

「……ま……だ、する気、かよ」

「そういうおまえの中も、凄ぇ吸い付き方してるけどな」

「ん!」

 

二回分の精液と潤滑剤はちょっと腰を動かしただけでも音を鳴らし、結合部からシーツへと滴り落ちる。

男二人でダブルの部屋泊まった時点で、怪しまれただろうけど、こうしてシーツまで汚したらもう言い訳なんか無理だな。

仕事で普段使うホテルじゃなくて、本当に良かったとしみじみ思う。

久々なのに――いや、久々だからか。

歳取って枯れたかと思ったのに、貪欲にもまだ欲しいって思っちまう。

だが、御子柴も拒まない。

ちょっとしんどそうではあっても、離れようとする気配はなかった。

すっかり上気してほんのり紅に染まった身体と顔。

微かに潤んだ目が見上げてくんのが、気分が良い。

やっぱり色っぽい面すんなぁと、御子柴の頬に触れたら、ふっと表情が緩みかけたが――直ぐにその端正な顔が強ばった。

どうかしたのか聞こうとした瞬間に、理由に気付いて口を噤んだ。

御子柴の視線の先にあるのは俺の左手――結婚指輪がある辺り。

頬を触ったのは左手だ。

指輪も頬に当たったんだろう。

……うかつだったとしか言いようがない。

せめて、ホテルの部屋に入った時点で外しておくべきだったと悔やんでも遅い。

こいつからしたら、見ていて気分の良いものじゃねぇだろう。

 

「……悪い、気にならないわけねぇよな」

「え、あ。…………ちょ……っと、先輩!?」

 

一旦動きを止め、左手の薬指から結婚指輪を抜いた。

若い時からあまり体型が変わっていないのが幸いし、指輪は難なく抜ける。

そういや、結婚してから外すの初めてかも知れねぇな、これ。

外した指輪はサイドテーブルに置くと、御子柴の目が驚愕に見開いて――中が吸い付くように絡みついてきた。

改めて、指輪のなくなった手で御子柴に触れると、何かを言おうとしたのか、声のないまま唇が動く。

何で、か?

裸になるのに一つ余計なもんが残っていた。

それだけの話だ。

 

「んっ! あっ、せん、ぱっ……うああ!!」

 

御子柴の肩を抱くようにしながら密接して、また快感の頂き目指して強い突き上げを繰り返す。

流石に三度目ともなれば、すっかり身体が馴染んだらしく、苦しそうな様子はない。

いや、うかつに達しないように堪えてはいる、のか?

可愛いやつだ。

タイミングなんか気にしなくても、何度だってイカせてやるのに。

同時にイケるのは確かに気持ち良いし、嬉しいが、御子柴が快感に踊らされて、イキまくるのだって見たい。

このイケメン面が喘いで乱れまくるのは、最高に興奮する。

 

「せ……んぱ……っ、先輩……っ!!」

「キツけりゃ、俺に捕まっとけ、よ……っ!」

 

シーツなんか掴んでんじゃねぇよ。

もっと俺にしがみつけ。

前はそうしてたじゃねぇか。

快感にもがいて、俺の背を爪で抉って、身体中で俺を求めただろうがよ。

シーツを掴んでいた御子柴の手を取って、俺の手に回させる。

ああ、もう指先まで熱いな。

この熱さが堪んねぇ。

 

「ダ……メです……って、痕、残しちま……あああ!」

 

付け根部分をぶつけるように突き上げると、悲鳴が上がって、御子柴の手は俺の背で爪を立てた。

強く引っ掻いたような痛みを背中で感じる。

これだ。

久しぶりに感じた痛みが心地良い。

が、御子柴の方は俺の背に爪を立てたことに後悔でもしているのか、顔が今にも泣きそうになっている。

それが無性にイラついた。

 

「いいっつってん、だろがっ……!」

 

遠慮なんかされたくねぇ。

あの頃みたいに、気遣う余裕もなくしがみつけばいい。

御子柴にそうさせているのは俺だって分かっている。

身勝手なのは俺の方だ。

それでも、こいつに心の底から求められたい。

どうせ、レスの女房には分かりゃしねぇんだ。

 

「実琴……っ」

「あ……ああ、うああーっ!!」

 

久しぶりに下の名前を呼ぶと、御子柴の中が蠢いた。

離れるなと言わんばかりのその動きに、危うくイきそうになったぐらいだ。

動揺の色を浮かべた赤い目がさっきよりも潤んでいる。

 

「……ど、して……っ」

 

涙声の問いかけは、何に掛かっている言葉なのか。

 

どうして、結婚しているのに爪を立てていいなんて言う?

どうして、優しくなんて抱いてくる?

どうして、今更、下の名前なんて呼ぶ?

 

そんな辺りだろうか。

どれを問われたとしても、俺が返せる言葉は一つしか無い。

おまえが欲しいからだ。

 

――嫉妬の一つもしないって思ってるんすか? 先輩の腕が他の人間抱くって分かってて平気なわけねぇだろ……っ!?

 

あの言葉を聞く瞬間までは、御子柴の方こそ俺との関係を割り切ったものだと捉えているって思っていた。

いや、もしかしたらお互いに本気なんだと認識してしまうのが、何処かで怖かったのかも知れない。

涙声の悲痛な叫びは、今も脳裏にこびりついて離れない。

あの直後から、御子柴とは連絡が取れなくなってしまい、すぐに追いかけなかったことを酷く後悔した。

あれ以上に後悔したことなんて、今に至るまで他にはない。

ようやく、だ。

十数年の時をかけて、再び会えるように、会うのが不自然な形にはならないように持って来ることが出来た。

仮にこいつが結婚していたり、恋人がいたりしても、全力で奪い取るつもりでいた。

けど、俺と別れてから、誰ともセックスしてなくて、身体は俺しか知らないままだ、なんて聞いて――嬉しさに踊り出したい気分になった。

こいつは人に心を開くのに時間が掛かる。

少なくとも俺と別れてから、身体を委ねようと思えるところまで心を許せる人間がいなかったことを示していた。

快感で乱れる御子柴を知っているのは俺一人。

そうだと分かったのなら、絶対に。

 

「…………離さ、ねぇ……っ」

「ひ、あ、あああ!!」

 

二度と手放してたまるかよ。

こいつは俺のものだ。

もう逃がさない。

一瞬だけ、頭ん中に浮かんだ女房と息子の顔に微かな罪悪感を抱きながら、御子柴の奥深くに新たな熱を吐き出した。

 

 

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