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Immorality of target 04<月刊少女野崎くん・堀みこ・R-18>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

久々の再会からの週明け、御子柴Side。後半は鹿島くんと御子柴での飲み会。

初出:2015/03/03 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:10826文字 裏話知りたい場合はこちら

 

「というわけで、この件については次回に改めて――」

 

月曜日の午後、今度はうちの会社の会議室を使って、プロジェクトの会合があった。

プロジェクトの統括っていう立場の先輩が場をそつなく取り仕切っていく。

重要な話題は聞き漏らさないようにしつつ、過度にならない程度に先輩を見ていた。

金曜に会った時も思ったけど、結構眼鏡似合うんだよな、先輩。

久し振りに会ったっていうこともあるだろうけど、先輩の眼鏡姿は妙に新鮮に映る。

出世株って聞いたが、こうして会合での説明等を耳にしていると、話は分かりやすいし、人の話を聞く姿勢も真摯に対応しているのが伝わるし、資料等を準備する手際も良い。

如何にも『出来る男』って印象だ。

出世株って言われるのにも納得するんだよなぁ。

先輩と一緒に仕事するなんてことは無かったし、そもそも、先日再会するまでは、先輩と十数年会ってもいなかったんだから、知らなかったのは当たり前なんだけど、堀先輩の意外な一面を知ったようで少し嬉しい。

惚れた欲目というか……惚れ直す、ってこういう感覚なんだろうか。

本人に言うつもりはねぇけど。

言ったら、絶対調子乗りそうだしな。

 

「では、次の議題に移ります。デザインについては――御子柴さんがメインで担当に当たると伺いましたが」

「あ、はい。弊社の方のチームでまず検討して、三種類にまで絞ってはいるのですが――」

 

危ねぇ。

余計なこと考えていたら、反応し損ねそうになって内心焦る。

ほんの一瞬だけ、先輩の目が笑った気がした。

 

***

 

「おまえ、会合の最中に俺を見過ぎだろ。俺が統括って立場だから、ある程度までなら見られてても、そんな違和感まではねぇけど」

 

会合が終わった後、会社の近くのラーメン屋で夕食を食った後、少し電車で移動してホテルに入った。

先輩がちゃっかり男同士でも泊まれる上に、休憩でも予約可能だっていうラブホテルを押さえていたことに驚く。

設備整っているし、内装は綺麗だしで、あんまりラブホってイメージじゃなくて、シティホテルっぽい感じだったからか、然程抵抗なく入れた。

 

――おまえ、結構人目気にするタイプだからなー。こういうとこだとあんま気になんねぇだろ?

 

人目を気にしなきゃなんねぇのは、寧ろ、妻子持ちの先輩の方じゃないんだろうかとは思ったが、その点については黙っておいた。

 

「そっ、そんなに見てはいな……かったと思うんす、けど」

 

語尾が小さくなってしまったのは、自分でも断言出来るほどの自信が無かったからだ。

つい、会合中に目が先輩を追ってしまっているのに気付いて、慌てて自制するってのは何度かやってしまっていた。

俺たちが学生時代に先輩と後輩の間柄だったってのは、プロジェクトのチームメンバーみんなが知っているし、うちの社のチームリーダーなんかは、今後の仕事にも繋げられるようにしとけと、先輩と仲良くすることにも賛成しているが、まさか、その仲良くがベッドの中も含めてまでは考えちゃいねぇだろう。

周囲に気取られたりするようではマズいって、頭ん中じゃ分かっているのに。

 

「ま、今のうちにちょっと軌道修正しとけ。会合の最中はともかく、他の時にまでその癖出たらマズいだろ」

「すんません、気をつけます。何か、先輩の眼鏡姿につい目が行っちゃって。眼鏡似合いますよね、先輩」

「そうか? おまえの方が絶対似合うだろ。イケメンなんだし。ちょっといいか?」

「え、あ」

 

先輩が自分の眼鏡を外して、それをそのまま俺にかけさせる。

度が合わないんじゃねぇかなと思ったけど、レンズ越しの視界は意外に見やすかったことに戸惑う。

 

「……あれ、これ度入ってますよね?」

「入ってる。キツくはないけどな。見やすいか?」

「あんま違和感ないし、思っていたより見やすい……かも」

「そうか。……なら、おまえも多分老眼始まってるぞ」

「え」

 

予想してなかった言葉に、思考が僅かの間停止する。

 

「マジすか。老眼って聞くと何かショックなんですけど」

「早いヤツだと、三十代前半でなってたりするらしいぞ。俺はここ一年くらいだけどな」

「うわ……じゃ、他人事じゃねぇってことっすか。そんな年齢なんすね」

「一度、眼科行ってみろよ。おまえも眼鏡作ったらどうだ? 老眼鏡云々は置いといても、やっぱり眼鏡似合ってるし。流石、イケメンは何でもハマるな」

 

そう先輩が笑いながら、俺が掛けていた眼鏡に手を伸ばし外すと――そのままキスしてきた。

ことり、と眼鏡をどこかに置いたような音が聞こえる。

 

「ん……」

 

髪を触られながら、唇を重ねていただけのキスが深いものへと変わる。

入り込んで来た煙草の味のする舌に、こっちからも舌を絡めると、先輩が笑った気配が感じられた。

まぁ、ホテルの部屋で会う以上は、多分セックスもするんだろうなとは思ったし、キス一つでしっかり反応もしといて何だけど。

 

「……金曜日散々やったのに、今日もするんすか」

「ホテルに入った時点で何を今更って感じだな。したくねぇのかよ」

「や、そういうわけじゃないすけど。元気っすね、先輩」

 

正直なところ、こっちは土曜日はほぼ一日ぐったり疲れて、ろくすっぽ使い物にならなかったぐらいだったのに、先輩の方は見た感じじゃけろっとしてる。

……ああ、でもそういや、先輩は昔から絶倫だったな。

それこそ、学生時代とか容赦なかった気がする。

 

「おまえの方が俺よりちょっと若いのに、何言ってんだか」

「……っ」

 

ネクタイを外され、シャツのボタンを外されて、広げられた襟元に先輩の唇が触れる。

肌を吸われた感触に痕を残す気なんだなと理解したけど、見えない場所だと分かったから、止めるつもりにはならなかった。

 

「あとな」

「ん?」

「必ずしも、会った時に出来る時間の余裕があるとも限んねぇって思えば、機会あらばしたくなるだろ、そりゃ」

「……あ、んっ!!」

 

スラックスの上から、形を確かめるようにちんちんを触られて、つい変な声を上げながら、身体をびくつかせてしまった。

布越しに伝わる先輩の手の温度は既に熱い。

 

「今日は俺がおまえの服脱がす。俺、服脱がせていく時におまえの表情変わっていくの見るの好きなんだよな。久々に見たい」

「う……」

 

ホテルの休憩が終わった後、俺はちゃんと家まで帰れるのかと、早くも不安が過ぎってしまった。

 

***

 

「……っ、ん……」

 

この前はこっちが口でやって貰ったんだし、出来れば口で一度先輩をイカせておいて、こっちの体力を少しでも温存したいという意図から、口で先輩のモノを舐めていた。

いくら気持ち良くても、この前みたいに三回なんてイカされた日には、週末までもたせる自信が無い。

ベッドに腰掛けてる先輩の足元に座ってやってるけど、思いの外気持ち良さそうで、顔を歪めながら吐息を零してる。

奥さんとレスだって言ってたから、多分、フェラされるのは久し振りのはずだ。

……ああ、だからキてんのかな。

カリのところを舌先で辿ると、先輩の手が俺の髪を撫でてきた。

指先が微かに震えている。

昔、フェラした時は、もう少し余裕があったような気がする。

 

「先輩にしちゃ、そんな反応すんの珍しいっすね。勿論、こっちは嬉しいっすけど」

 

ちゅ、と先っぽに溜まってる先走りを吸い取るように、キスしたら先輩の腹がびくりと震えたのが見えた。

 

「……レスだってのもあるけどな。女房、口でしたがんねぇヤツだから。フェラ専用のゴムあるの知ってるか? アレ使っても片手で数えるくらいしかされてねぇ」

 

フェラ専用のを知ってるかも何も、先輩は俺に対しては昔からゴム自体ほとんど使ってない癖に聞くのかよと、ツッコミかけたところでふと気付く。

 

「……ってことは、奥さんは直接口でやったことないってことっすか」

「そうなる、な」

「…………へぇ」

 

そう聞くと気分が良い。

こんな反応する先輩を知らねぇってことだよな。

挿れられてる時はこっちも余裕なくなるから、快感を受け止めるので手一杯になっちまうけど、そうでない時に先輩が余裕を無くすようなところなんて、早々見られないのに。

一度、先っぽから口を離して、玉を舐め、裏筋を付け根の方から舐め上げながら、先っぽを指で弄ると、髪を撫でていた手がちょっと止まった。

ちらっと見上げて先輩の様子を窺うと、髪に触れていた指が俺の耳に移動する。

 

「っ、御子柴。ベッドの上に来て横になれ。おまえにもしてやる」

「いいっす。先輩にあんま動かれると、俺が動けなくな……うわっ」

「来いっつってんだろ」

 

俺の返事も聞かずに、勢い良くこっちの腕を引っ張って来た。

バランスを崩して、あっさりと俺がベッドの上に転がる形になる。

移動する間もなく、先輩が俺の身体に対して、逆向きになる形で覆い被さってきた。

シックスナインは確かにお互いがお互いの性器を口で弄れるけど、俺たちがやる場合は、大抵俺の方が先に余裕を無くしてしまうから、結局一方的な形になりがちだった。

あれから年数経っているとはいえ、どうにも嫌な予感がする。

 

「んっ!!」

 

そして、やっぱり昔と変わらず、だ。

ざらついた舌の感触が先っぽに絡みついて、一気に下腹部に快感が走る。

逃げようとしても、腰をがっちり押さえつけられていて、足の先を動かすくらいで精一杯だ。

俺が先っぽの方が弱いのを知ってて、先輩はそっちばかり集中的に狙う。

鈴口に舌先が入り込んできて、変な声を上げてしまいそうになったのをどうにか噛み殺す。

 

「ちょ……っと、先輩、待っ……う、あ」

「さっきまでの勢いはどうしたよ?」

 

笑いを含んだ声が楽しそうに煽ってくる。

どんな表情をしているかは想像がついた。

目の前には先輩のモノがあるけど、指と舌で触れるのでギリギリだ。

下手に咥えると歯で傷つけそうだし、咥えられたところで、まともに動かせる気もしない。

 

「だ、から、動けなくなる……って、言った、のに……っ!!」

「聞いたけど、動けなくなるまでが早いな」

「ひ……! あっああ、せん、ぱ、あっ……!」

 

先輩の指が後ろ側に回って、孔の周囲をそっと撫でていく。

微かに水音が聞こえて、そこに何かを塗られていった。

潤滑剤だと直ぐに察したけど、しっかり、潤滑剤を手元に置いていたんだなと思ったタイミングで、指がそっと中に入って来た。

内側からの指による刺激と、ちんちんを口で弄られている刺激とで、次第に追い上げられていく。

 

「…………っ、あ、はっ……」

「挿れても大丈夫そうか?」

「多分、大丈夫、です……」

「後ろから挿れる。うつ伏せになって、腰少し上げろ」

 

先輩の口が離れたところで、言われた通りにうつ伏せになって腰を上げる。

身体を起こした先輩が、俺の腰を片手で支えながら、ゆっくり中に挿れてきた。

 

「ふ……っ、あ、く……んんっ」

「…………はっ」

 

体勢の所為もありそうだけど、この前に比べれば、大分スムーズに入ってきた感じだ。

背中を覆うように先輩の体温が重なって来たのも気持ち良い。

先輩の方でも感覚が違うのか、心なしか吐息に安堵が混じっていたように思える。

 

「キツくねぇか?」

「ん……平気です」

「動くぞ」

「ん……っ」

 

背中に一度キスしてくれた後、先輩が身体を起こして、少しずつ動き始める。

金曜日みたいなキツさはなく、緩やかな律動は素直に快感へと繋がっていく。

ふと、軽く顔を上げるとベッドの頭のところにゴムが見えた。

そういや、ここラブホだったんだよな。

今週始まったばかりだし、ゴムがあるなら使った方が体調管理には無難だ。

土曜日、頻繁にトイレ通いするハメになったのはキツかったしな。

手に取ろうとしたけど届かなかったから、先輩に声を掛ける。

 

「ちょっ……と、待った、せんぱ……っ」

「ん?」

「週の頭から、中に、出されるのは……っ、身体の方が、キツい……んで、ゴム使って貰いたい、んですけど、も」

「後始末だったら、やってるだろ?」

「そ……いう、問題じゃ、なく、て……っ! も、若くねぇから、中に出すと、ダメージ残る……んですっ……って、あ、ああ!!」

 

人が話し掛けてるのに、先輩は動きを止めないもんだから、言葉が途切れてしまう。

繋がった場所に感じる強い衝撃に、どんどん余裕を失っていってしまう。

動くなと口にする代わりに、腰に回されている先輩の腕に手を絡めて動きを押さえ込もうとするも、逆にねだっているようにも取れそうだ。

そして、多分先輩は俺のそんな意図を全部理解した上で、俺の耳元で囁きを落とした。

 

「ダメージなんて言われると、余計残してやりたくなるよなぁ」

 

――そうだ、こういう人だった。

言葉の選択のうかつさを内心呪いながら、抗議のつもりで掴んだ腕に軽く爪を立てる。

 

「大体、中に出されるのがキツいなら、挿れる前に言……ああ、そうだ。俺も着けるのあんま好きじゃねぇけど、おまえもゴムだと感覚おかしいっつってあんま好きじゃなかったよな」

「ん!!」

「……っと」

 

つい、動揺で締め付けてしまって、先輩と同時に声を上げた。

確かに昔、ゴムを試しに使ってみたときに、どうも変に擦れて痛かったのと、感覚が生の時と違って違和感あるってぼやいたことはあったけど。

……何で、そういうのまで覚えちまっているかな、この人は。

大体、そういう感覚にしたのは、昔、初っ端からゴム無しでやって、生の感覚に慣れさせた先輩の所為じゃねぇかよ。

俺の腰を支えていた先輩の手が前に回されて、俺の腹をすっと撫でていく。

 

「おまえ、何だかんだで中に出されるの好きだろ?」

「や……ちょ……っと、腹触り、ながら……言わないで、くださ……っ!」

 

好きだってのは否定しない。

体調の面さえ考慮しなければ、セックスした痕跡が残ることは正直嬉しいが、だからこそ、それに溺れてしまいそうになるのが怖い。

いい大人が日常生活に差し障り出るほどに、セックスに溺れていいもんじゃねぇ。

先輩が奥さんとは数年レスだ、なんて言ってたりしたから、なおさら誘惑に負けてしまったらと怖くなる。

さっきのフェラでも思ったけど、先輩の熱を直接感じているのは、今は俺だけ、先輩のちんちん舐めたのは俺だけ、なんて考えてしまっている段階で、色々くるものがあるっていうのに。

 

「最初に言わなかった時点でおまえが悪い。せめて、後始末は丁寧にしてやるって」

「ん、あ、そういう、問題、じゃっ……ああ!」

 

さらに律動を速くされて、声が抑えられなくなっていく。

ただでさえ追い上げられているところに、腹を触っていた手がちんちんを握ってきたところで、限界が訪れた。

 

「うあ、あっ、ダメっ……あああ!」

「っ!」

 

堪えきれずに俺が出したのと、先輩が俺の中に出したのは多分同時だった。

……この前もだけど、セックスするようになったのが久々なのに、同時にイケるってのが自分でもちょっとした驚きだ。

昔だって、毎回なんて頻度で同時イキなんて出来なかったのに。

イク時のタイミングがずれてたって十分気持ち良いけど、同時だと何かタイミングずれた時に比べて深いっていうか、全部先輩に持っていかれるような感覚すんだよな。

そこが堪んねぇ反面、怖くもあるんだけど。

 

「……御子柴」

「ん……?」

「おまえ、土曜日はずっと俺のこと思い出したりしてたのか?」

「っ!」

 

まだ少し乱れた吐息混じりで言いながら、俺の腹を撫でていく先輩の手のひらの感覚に、たった今、奥に吐き出された熱と先日のセックスを重ねて考えてしまって、ただでさえ火照っている身体が余計に熱くなる。

くそ、答え言ってるようなもんだよな、これって。

返す言葉が出て来なくて黙っていたら、先輩の唇が俺の肩に触れた。

まだ、快感の余韻が引いていない身体はそれだけでも気持ち良くて、つい身体がびくりと跳ねる。

 

「……悪い。もう一度したくなった」

「っ! だから、今日は週の頭だって……うあ……あ!」

「おまえが煽ってん、だろ……っ」

 

中で再び、先輩が固さを取り戻したのが分かってしまった時には遅かった。

力の入らない身体はあっさりとひっくり返されて、熱の籠もった先輩の視線と俺の視線がぶつかる。

さっきも散々擦られてるのに、また弱い場所を切っ先で擦られ始めて、俺の方もあっけなく再び固くなってしまった。

 

「それに、今週はもうプロジェクトの会合がねぇし、な……っ」

「ふ……あ、やっ、だか、らっ……て!」

 

ここぞとばかりにガッツリやろうとするのもどうなんだよ、とは続けられなかった。

いや、続ける余裕が無かったっていう方が正しい。

スケジュールからして、来週までは会おうにも会えないのは確かだ。

……体調管理が出来ないのは、社会人としちゃ失格だろう。

いくら、後始末したところで腹の調子はやっぱりちょっとおかしくなったりするのは分かっているんだから、それを回避する方向に持っていけばいい。

そう、頭で分かってはいるのに、先輩とセックスした痕跡が残るのかと思うと、止められない。

今だって、一度は中に出されてるなら、二度に増えたところで変わんねぇだろ、なんて何処かで思っちまってる。

 

「せん、ぱ、い……っ!」

 

呼んだら、返事の代わりに来たのは強烈な衝撃だ。

身体の奥を埋めている先輩の存在感が、この前よりも自分の中で大きくなっているような気がした。

もしかしたら、次はもっとかも知れない。

何だかんだで先輩に溺れ始めてしまっている。

思えば、昔もそうだった。

危険だと感情のどこかが警鐘を鳴らしているのに、それを止められる気がしない。

俺の顔の近くに来ていた先輩の左手に触れると、先輩が俺の指にそれぞれ自分の指を絡めるように手を重ねて来た。

恋人繋ぎって言うんだっけか、これ。

ホテルに入る前に予め外されていた指輪に微かな罪悪感と、優越感を感じながら俺も絡められた指に力を籠める。

その拍子に先輩の目元が緩んで、深い部分がどくりと脈打ったような気がした。

再び、限界が見え始めて、つい腰が動いてしまう。

 

「あ、あ、ヤベ……イキそ……っ!」

「イケよ、多分、タイミング合う、から……っ!」

「ひあ! あっ、あ、やっ……あああ!!」

「んっ!!」

 

絡めた指に力が入って、繋がった部分が溶けてしまったような錯覚に陥る。

 

「…………ヤベぇ、溶けそ……」

 

微かに聞こえた先輩の呟きからすると、先輩も似たような感覚でいるのかも知れない。

重ねられた唇が熱くて、身体を離して帰宅するのが惜しいなんて思ってしまった。

そんなわけにはいかねぇのに。

 

***

 

「すみません。予約していた御子柴と言いますが――」

「はい、ご予約ありがとうございます。お待ちしておりました。お連れ様はもうお部屋においでです」

「あ、ありがとうございます」

 

先輩と再会してから一週間近く経った、木曜日。

ちょっと品の良い、個室のある居酒屋で俺は鹿島と待ち合わせをしていた。

ここは鹿島に教えて貰ってから、鹿島と会うときによく使っているお気に入りの場所だ。

個室だから落ち着いた雰囲気で飲めるし、料理も酒も美味い。

かといって、クオリティの割りに高くもないっていうのが有り難い。

仕事が押してしまって、俺の方は予定より十分近く遅れてしまったが、店員に案内されて、個室に通されると恐らく予定通りの時間に来ていただろう鹿島がいた。

 

「や、久しぶり」

「おう。悪いな、ちょっと遅れて」

「平気平気。あ、適当に食べるの頼んじゃっているけど、いいよね?

あと、連れが来たタイミングで生中二つ持ってきて下さいって言ってある」

「サンキュ。それで問題ねぇよ」

 

鹿島の向かいに座って、ジャケットを脱いだところで、ちょうど店員が生二つと、いくつかの料理を持ってきた。

店員が品を一通りテーブルに並べて、個室から出て行くと、鹿島が被っていたロングウイッグと眼鏡を外し、昔ながらの馴染んだ姿になる。

大学卒業後、鹿島はテレビ局に入社し、今は平日の朝と夕方にニュースを読み上げていた。

今や、ちょっとした人気のニュースキャスターとなっていて、時々はバラエティ番組でも見かけることがある。

特に奥様方に人気があるらしいって辺りが相変わらずだ。

若手のアナウンサーも多い中、女性が好きな女子アナ一位をここ数年は不動の地位としている。

そんな立場なんで、時々俺と会ったりする時も軽く変装していることがほとんどだ。

こうして、個室で二人で会っている分にはいつも通りの姿に戻るけど。

まぁ、見つかったらどうなるかなんて、高校の時を考えれば想像もつく。

三十後半でその状態っていうのも改めて考えると凄いものがあるが。

 

「それじゃ、半年ぶりの再会を祝して」

「かんぱーい!」

 

カチンとジョッキを合わせて、一気にジョッキの半分程までビールを飲み干す。

ほろ苦い炭酸が、仕事が終わった後の渇いた喉を潤していく、最初の一口は何度味わっても堪んねぇ。

 

「あー、美味ぇ。今週はあと仕事は一日だと思うとどうにか頑張ろうって気になるよなぁ!」

「ふふふ、私はようやく明日から夏休み! ホント、休みを纏めて取れるまで長かったぁ」

「十月じゃもう夏休みって言わねぇだろ。大変だよなぁ」

「交代じゃないと休むわけに行かないからね。ま、私は独り身だし、時期がいつになっても休ませてさえくれればいいかなって」

 

鹿島も俺と同じく結婚してない。

こうやって時々二人で飲むのも、親友なのに加えて、独り身同士ならではの気安さもある。

仕事が楽しくてふと気付いたら、とは本人の談だ。

まぁ、男からしたら何でもこなせる鹿島はちょっと高嶺の花みたいな感じにもなっちまうんだろう。

でも、こいつのことだからある日いきなり結婚することにした、って言ってきても然程驚かねぇ気がする。

 

「今度の土日、予定入ってないなら遊ばねぇ?」

「いいねぇ。土曜日はちょっと都合合わないけど、日曜日ならいいよ! どこ行く?」

「この前、浪漫学園近くにあったあのアミューズメントパークがリニューアルしたらしいぜ。久々にちょっと見に行ってみねぇ?」

「あそこ!? うわ、懐かしい、行く行く!」

 

高校時代、鹿島とよく一緒に遊びに行った場所を挙げると、鹿島もすぐに乗っかってくれる。

この歳だと、流石にああいう場所に一人じゃ行き難いし、昔ほど行きたいとも思わねぇけど、何となく懐かしくてふらっと行きたくなった。

先輩と久々に会った所為だろうか。

何となくシャツの襟の上から、先日セックスした時に付けられたキスマークに触れてしまう。

月曜日の名残は、案の定尾を引いていて、腹は昨日までちょっと調子が悪かったし、身体の怠さが上手く解消されないうちに仕事の疲れも出てしまっていて、少ししんどい。

おかげで火、水曜と仕事から帰ったら、即寝るなんて状態になっていたし、今日飲むのも程々にしとかねぇとって体調にはなっているけど、ふとした時に先輩を思い出せるのは嫌な感じはしなかった。

少し前までは、先輩を何かの拍子に思い出したりすると胸が苦しかったのにだ。

自分でも単純だなって笑っちまう。

 

「御子柴」

「ん?」

「何か、良いことあったの? 妙にテンション高いっていうか、嬉しそうだね?」

「あ、んー、まぁ……そうなるの、かな」

 

どうやら、表情に出ていたらしい。

俺としてはやっぱり堀先輩との再会は複雑な心境を抱えつつも、嬉しかったし、『良いこと』に相当するものだが、今の関係は世間一般的にあんまり諸手を挙げて賛成されるようなことではないのも確かだ。

つい、言い淀んでしまったのを、鹿島が不審そうな視線を向ける。

 

「……堀先輩と久々に会った」

「…………御子柴」

「仕事で他社との新しいプロジェクトが始まったんだけど、それの統括が堀先輩だったんだ。流石にびっくりした。あの人出世株なんだってな」

 

出来るだけ、さりげなさを装って言ってはみたが、親友は誤魔化されてはくれず、少し厳しい視線を俺に寄越した。

 

「で、寝たの?」

「……っ」

 

直接的な問いかけに二の句が継げない。

当然、そんな俺の反応で大方察したらしい鹿島が溜め息を吐いた。

 

「御子柴、それ……」

「悪い。褒められた行為じゃねぇってのは分かってる。……ちゃんと分かってるんだ」

 

ダメだって分かっているし、だからこそ十数年前に別れを決めたはずだったのに、一度会ってしまって、セックスしてしまっただけでこれだ。

呆れられるのは当たり前だろう。

 

「既婚者と関係持つのは、男だろうと女だろうと不倫には違いないよ」

「……知ってる」

 

『不倫』という単語が、重くのし掛かってくる。

俺は独り身だけど、堀先輩はそうじゃない。

十数年前とは状況が全然違うのも理解はしていたはずだけど、人の口からその単語を突きつけられると、改めて自分のバカさ加減に嫌気が差す。

 

「……しんどくなるのは目に見えてるのに」

「それも分かってる。……ごめん、鹿島。おまえにも、昔その件で迷惑かけてんのにバカだよな」

 

十数年前、先輩と別れる時に引っ越しの手伝い等してくれた上に、恐らく連絡の取れなくなった俺について、鹿島は先輩にアレコレ言われたはずだ。

当時から今に至るまで、鹿島はそれについてほとんど口には出さないけど、相当言われただろう事は想像に難くない。

 

「全くだよ。……もう、本当にバカだね、御子柴」

「……返す言葉もねぇ」

 

残っていたビールを一気に飲み干して、ジョッキをテーブルに置く。

ごつ、とジョッキがテーブルに当たった音が、妙に個室の中に響き渡る。

しばしの沈黙の後、鹿島が溜め息と共に言葉を発した。

 

「御子柴は先輩とどうしたいの?」

「どう……って」

「例えば、奥さんと別れて、自分一人をパートナーにして欲しいとかさ」

「……別れて欲しい、とは全く思わないかって言われたら嘘になんだけど。

でも、向こうには子どもだっているんだし。横槍入れてんのこっちだからな」

 

元々は先輩と付き合っていたのはこっちなのに、という思いがないわけじゃないけど、どうしたって先輩の『家族』って相手に土足で踏み込んでなんて行けない。

公的なパートナーである『妻』。先輩の血を引く『息子』。

さらに言うなら、先輩の奥さんは確か会社の上司の娘さんだったはずだ。

だったら、今の会社にいる限り、下手にもめ事を起こしたら会社自体にも居づらくなるだろう。

 

「だから、今のままで良いってこと?」

「…………ああ」

 

先輩が家庭を持っていて、俺一人のものじゃないってことが苦しくはあるけど、今は先輩から離れてしまう方がより苦しくなるって知ってしまった。

中に出されたところで妊娠するわけでもない、性欲を解消するには都合のいい相手なんだろうなって思うけど、それでもいい。

求められているのが、それだけの理由でないのも伝わってしまっているし、何より俺が先輩から離れたくない。

かつてのように、一度に先輩との繋がりを断ち切る真似はもう出来そうになかった。

あれは、若さもあったんだろうな。

 

「……全く、もう。泣きたくなったら、泣いてもいいけど、賛成はしないからね」

「悪い、ありがとうな」

「…………どうして、先輩じゃなきゃダメなんだろうね、御子柴は」

「……俺も、俺に聞きてぇよ」

 

再会した先輩とセックスして、長いこと押し込めていた感情に気付いてしまったことを後悔しながらも、あの人が愛しくて堪らなかった。

 

 

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