若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。
御子柴が堀の配偶者&息子と遭遇してしまうターンの堀Side。
ショッピングモールのトイレで兜合わせからの挿入。微妙に鬱展開。
初出:2015/04/12 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)
文字数:9605文字 裏話知りたい場合はこちら。
「あ、俺、問題集ちょっと見てきたい」
「ん? 入試対策のか?」
ショッピングモールに家族揃って訪れ、服や靴を見て回っていたら、政弥が数十メートル先にある本屋を見ながらそんなことを言いだした。
この春で受験生になった政弥は、既に受験したい高校の目星をつけていて、自主的に問題集を探したり、講習に申し込んだりしている。
我が息子ながら、中々真面目だ。
「そうそう。本屋寄っていい?」
「ああ」
「あ、私ちょっと化粧水買いたいから、その後そっちに行くわ」
「わかった」
女房がそう言って、俺たちから離れ、化粧品コーナーに向かっていった。
よくある家族の休日の光景だろうし、これまで特に違和感なく過ごしてきた光景の一つだ。
が、その一方頭の中では、今頃御子柴はどうしているだろうかと考える。
予想していたよりも御子柴の家が自宅と近かったこともあって、平日はかなり顔を合わせられるようになったが、土日は流石に難しい。
土日しっかり休みが貰えるのは有り難いが、休日出勤にかこつけて御子柴のところに行けることはほとんど無い。
偶に接待ゴルフみたいなものはあるが、それには義父が同行していることも多いから、やはり御子柴のところに寄るわけにはいかない。
土日の過ごし方は再会前と変わりがないといえばそれまでだが、時折虚しくなる瞬間があった。
平日に顔を合わせられても、時間は限られる。
おのずとすることは食事とセックスくらいとなってしまうが、あいつともう少しゆっくりと時間を過ごしたい。
かつてしていたように、他愛ない話をしたり、映画でも見に行ったり、一緒に買い物をしたりして過ごしたい。
それらが、俺の方の都合で出来ないのは分かっちゃいるんだが。
「じゃ、ちょっと問題集見てくる」
「おう」
政弥と並んで本屋に入って、政弥が問題集のコーナーに行ったところで、なんとはなしに新刊コーナーに目をやる。
積み上げられていた本の中に、覚えのある作家の名前を見つけた。
そういや御子柴がこの作家の本を昔買っていたなと思い出す。
今も読んでいるんだろうか。
手に取って買おうかどうしようか迷ったが、御子柴が持っていたら借りればいいかと結局は戻した。
本を借りるくらいなら、特に怪しまれたりもしねぇだろうし、一定の親しさを演出するのにも丁度良い。
新刊コーナーをそのまま離れて、問題集のコーナーに向かい、本棚の影から政弥を見つけて声を掛ける。
「おう、政弥。問題集は見つかっ…………御子柴!?」
「堀、先輩……」
「親父。え? あれ?」
本棚の影で見えなかったが、政弥の直ぐ傍に御子柴が居た。
こいつも来ていたのか。
考えてみれば、ショッピングモールとくれば、御子柴の家からも、俺の家からも、ここが一番近い。
いくらショッピングモールが広いとはいえ、お互いが買い物に来ていたのなら会う可能性は十分にあった。
予想外に顔を見られたのは嬉しいが、それが息子の前となると御子柴に対しても、家族に対しても言いようのない後ろめたい感情が襲ってくる。
「知り合い?」
政弥の声で我に返った。
御子柴も少し動揺しているように思えたが、ここで変に勘ぐられるわけにはいかない。
「あ、ああ。今、仕事で昔の後輩もいるプロジェクトやってるって言ったろ? こいつがその後輩だ。――御子柴。こいつ、うちの息子。政弥っていう」
「初めまして。父がお世話になってます」
政弥が御子柴に軽く頭を下げたのに応じて、御子柴も会釈した。
「初めまして。お父さんの仕事仲間で昔の後輩の御子柴実琴です。こちらこそ、お世話になっていまして。……いや、びっくりしました。ホント、先輩にそっくりですね。昔の先輩を見てるみたいだ」
「だろ? 生まれた時からそっくりだったが、年々笑っちまうくらいに似てくる」
政弥が持っているのが、浪漫学園の過去入試問題集だから、余計に懐かしいことを思い出す。
御子柴ともあの学校で会ったんだよなぁ。
浪漫学園、制服ほとんど変わってないから、政弥が一年後に受かっていたら、それこそぱっと見は当時の俺みたいになるかも知れない。
「俺としては、御子柴さんくらいの背が欲しいところだけどな。もうちょっと背が伸びて欲しい」
「……こういう生意気な口も叩くようになってきたけどな」
親としては背を追い越されるのは嬉しいような、複雑なような。
笑いながら政弥の頭を軽く叩くと、御子柴も笑った。
「まだ学生……今、中三でしたっけか? なら、まだ背伸びるんじゃないっすかね。浪漫学園過去入試問題集ってことは、息子さんは浪漫学園受けるんですか?」
「ああ。去年あそこの学園祭に連れて行ったら、受験したいって言ってな。今のところ本命らしい」
しかも、嬉しいのは演劇部の演目を見て面白そうだと思ったから、なんてこいつが言ったことだ。
さらに演目の内容も、昔俺が野崎に書いて貰った台本の一つで、王子役を演じていた学生は鹿島ほどの華やかさこそなかったものの、かなり演技が上手かった。
何となく、自分の現役時代と重なることがやっぱり親としては嬉しい面がある。
「へぇ。いい学校でしたもんね、あそこ」
「ああ。政弥、御子柴も浪漫学園出身だ。こいつ、そこでの後輩」
「そうだったんですか! 親父、高校の時どんなでした?」
「演劇部の部長やってて、日々サボろうとする演劇部のヒーローを捕まえてはしばいてた」
懐かしい光景を思い出して、思わず苦笑いだ。
そういや、こいつ鹿島と同じクラスだったし、親友だしで、直接知り合う前から顔合わす機会だけは結構あったんだよな。
直接知り合うようになってからは――いや、やめておこう。
今、下手に昔のことを思い出すと態度に出そうだ。
「思い出すのまずそれかよ」
「いや、そりゃそうなるでしょう! 放課後の恒例でしたし」
御子柴の話したエピソードも、俺と似たような思いからなのかも知れない。
考えたら、高校での後輩って言っても、部活で直接顔合わせてたわけでもないから、あまり深いところまで話を持っていくと、その割りには親しいって流れにもなりかねない。
疑われるような要素は避けるが賢明だ。
「演劇部のヒーローって、鹿島さん?」
「あれ、鹿島知ってるんだ」
「うん、うちの母さんが凄いファンで。ニュースとかで出てるのを見ては騒いで――」
「貴方、政弥。買い物終わったの?」
――しまった。
声を掛けられるまで、女房も一緒に買い物に来ていたことを忘れていた。
御子柴の表情が、端から見ても分かるくらいに強ばった。
「母さん」
「ん? あら、お知り合い?」
かと言って、紹介しないわけにも行かない。
何とかやり過ごしてくれと思いながら、御子柴を女房に紹介した。
「……ああ。御子柴。うちの女房の弥生だ。こっちは御子柴。前にプロジェクトで昔の後輩と一緒にやってるって言ったことあったろ?」
「ああ! イケメンの後輩さんね! 初めまして。夫から話は聞いております。堀の家内です」
屈託なく挨拶する女房に、胸に鈍い痛みが走る。
何も知らない女房に対しても罪悪感はあるが、きっと今、御子柴に凄ぇキツい思いをさせている。
御子柴が俺の息子について尋ねてくることはあったが、女房については何一つ尋ねてきたことはない。
わざわざ訊きたくもないことだろうし、こっちからも話題を出すこともしない。
なのに、前触れ無しにばったり会ったなんてのは、居心地悪いどころじゃねぇだろう。
「香水も貴方の影響でつけるようになったとか。ごめんなさいね、何か同じ香水にしてしまったみたいで。いくら影響受けたからって、香り被らせるのも失礼じゃないのって言ったんですけど、どうしてもあれがいいってきかなくて」
「あ、いえ。初めまして、御子柴です。その、先輩にはいつもお世話になっておりまして」
御子柴がまだぎこちなさを見せつつも、女房に挨拶を返す。
こいつが人見知りする性質だってのは、女房に知らせてあるし、この位なら、どうにかこの場はやり過ごせるか?
「話には聞いていたけど、本当に惚れ惚れするようなイケメンねぇ……。鹿島さんも素敵だけど、御子柴さんもかなりモテるんでしょう。親友同士なんですって?」
「こいつと鹿島が並ぶと、凄ぇ華やかだったぞ。……御子柴、こいつ鹿島のファンなんだわ。ニュースは勿論、バラエティに出るかどうかよくチェックしてる」
「あー。あいつ、奥様方に人気あるみたいですもんね。なるほど、その一人がここにもって訳ですか」
「ふふふ、だって素敵なんですもの、鹿島さん。あれで同世代の女性だなんて信じられない」
御子柴が何気ないようにやりとりに応じてはいるものの、時折表情が暗くなる。
……キツいよな、そりゃ。
俺もこの状況が落ち着かないが、御子柴はもっとだろう。
ある程度なら、時間取れるなと判断して、御子柴をここから連れ出す算段を始めた。
「母さん、政弥。買い物終わったら、先に車に戻っていてくれないか? 普段、どうしても仕事の話しかしねぇから、偶にはこいつと茶でも飲みながら少し昔話でもしたい。……いいよな、御子柴?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
強めの口調で言ったからか、御子柴も逆らわずに俺の言葉にそのまま頷く。
これでいい。
「はいはい、分かったわ。あ、車のキーだけちょうだい」
「おう」
車のキーだけさっさと女房に渡すと、御子柴の背を叩いて促した。
服越しに触れただけなのに、微かに伝わる体温が早くももどかしい。
「行くぞ、御子柴」
「あ、はい」
「今度、家にも遊びにいらしてね」
「……機会がありましたら、是非」
流石に家には来にくいだろうし、こっちも呼びずれぇよと、そんな内心の思惑は隠して、御子柴と並んで歩き始めた。
***
「先輩、どこ行くつも……」
「いいから、黙ってついてこい」
確か、今は何の催事もやっていなかったから、こっち方面には人はそんなに来ないはずだ。
出来れば、誰もいないでくれよと思いながら、そのまま奥の方にあるトイレに足を進める。
……よし、誰も中にいねぇな。
ここに来る途中でも、ほとんど人はいないくらいだったから、短時間ならどうにかなるだろ。
「ちょ、うわ……っ」
奥の個室に御子柴を連れ込んで、鍵を掛け、御子柴の身体を引き寄せる。
もう、我慢の限界だった。
「ん……!」
衝動のままに唇を重ねて、吸い付く。
柔らかい温かさが堪らなく気持ち良くて、夢中で吸っては離し、また吸ってと繰り返す。
煙草の味が混じる御子柴の口の中が心地良い。
唇を離したら、御子柴の目が潤んでいた。
扇情的な表情に、ますます堪えることが出来なくなった。
「せん、ぱ……」
「潤滑剤持ってきてねぇから、挿入まではしないけどおまえに触りたい。ダメか?」
流石に潤滑剤なしではキツいだろうけど、せめて触りたい。
少しでも御子柴の熱を感じたい。
女房と顔合わせた直後に、こんな場所でセックスするのも酷いと分かってはいても、抑えきれない。
どうしようもないくらいに御子柴が欲しい。
「――いいっすよ。……俺も先輩に触りたかったんで」
御子柴が俺の身体に腕を回して、抱き締めてきてくれたことに安堵する。
ただ、ほんの一瞬。
御子柴の顔が泣きそうに見えた気がした。
***
「……っ、あ……」
御子柴が俺の足の上に座って、向かい合うような状態になり、それぞれの性器をくっつけ、擦り合わせる。
兜合わせ、なんて名前ついてんだよな、この行為。
裏筋同士を重ねて扱く、これをやるのは随分久し振りだ。
御子柴と身体の関係を持ち始めた位には結構やってた。
「なぁ、覚えてるか? 一番最初にセックスした時、おまえ凄ぇ泣いて痛がったから、結局中から抜いて、こうやって裏筋擦り合わせてイッたよな」
御子柴の耳元で低く囁くと、熱い吐息に紛れながら御子柴も囁いた。
「忘れ……るわけ、ねぇ、でしょ……うっ」
触れてる御子柴のモノがびくりと震える。
あの時はお互い経験なんか無い中での試行錯誤だった。
――い……った、痛いって、せんぱ……っ!!
いきなり突っ込むんじゃやっぱりキツかったのかと、中から抜いてこうしてちんちん擦り合わせる方にシフトチェンジした。
性器同士を触れ合わせるダイレクトな刺激は思いの外気持ち良くて、これでもいいんじゃないかとは思ったけど、でもやっぱり身体を繋げたいっていう欲求には勝てなくて。
少しずつ時間を掛けてほぐして慣らしていった。
何回目かのチャレンジで、ようやく付け根まで挿入出来た時は、感動さえ覚えたな。
御子柴もそうだったらしく、まだ痛そうではあったけど、今日はこのまま抜くなって言ってきて、それがまた可愛くて……どうにか、最後まで続けられた。
こんなんで大丈夫かと思ったもんだが、慣れってのは怖いもんで、御子柴も徐々に気持ち良くはなったらしく、数ヶ月もしないうちに自分から腰を動かすようにもなった。
十代のヤリたい盛りだったのもあって、色々試したよなぁ。
あんな日々が懐かしい。
「ん……んんっ」
「は……」
勃った時の御子柴のちんちんの形は、立派っていうのとも違うが、造形が整っていて結構好きだ。
こんな風にこいつの触ってるのは俺だけなんだよなぁと思うと、興奮する。
カリの部分を指先で擦ると、小さい悲鳴が上がる。
一応、時々耳を澄ませて、人が来ないかを確認するけど、来る様子がなさそうなのが幸いだ。
この場所を選んだのは正解だったらしい。
荒くなっている呼吸がトイレに響くが、それを抑える余裕まではもうない。
快感の頂点が見え始めていた。
そして、それは御子柴も同じらしく、触れているモノが震えているのが伝わる。
「あ、あ、せん、ぱ……っ、イキ、そっ……」
「服、汚さないように……っ、手、離す、な……!」
「ん、あ、んんっ!!」
「んっ……!」
足の上に乗っている御子柴の身体がびくりと反応したのと、俺が弾けたのとは同時だった。
先っぽを包んでいた手に二人分の生温かい精液がかかる。
……これ、潤滑剤代わりになるんじゃねぇかな。
熱を吐き出した御子柴が、俺の手の上に重ねていた自分の手を離して、トイレットペーパーで拭っていたけど、俺はまだ手を離せずにいた。
イッた気持ち良さはあっても、まだ足りねぇって思っちまう。
直接、中の熱を感じたい。
「……実琴。中、挿れたい。ダメ、か?」
自分の声が擦れてるのが分かる。
俺の言葉に御子柴が喉が鳴らして、目を伏せた。
まだ、ちんちんに触ったままの手に、こっちがどうするつもりなのかは分かったんだろう。
少し考え込んだようだが、結局は頷いた。
「下……脱ぐから、少し待って下さい」
俺の肩を支えにして、御子柴が一度立つと、濡れてない方の手でスラックスと下着を纏めて引きずり下ろす。
ふわりと香水の香りが漂って、一度出したことで萎えかけていたモノが再び固くなるのを自覚した。
御子柴がそれらを足から抜いて、タンクの上に重ねて置き、もう一度俺と向かい合わせになったところで、御子柴の後ろ側に濡れた手を回して探った。
「ふ……っ、うあ……んん」
色っぽい声と表情に、直ぐにでも挿れたくなる。
……最初の頃、あれだけ痛がっていたのに、今じゃこんな反応だ。
そうなるように俺がしてきた。
拒まずに受け入れてくれるこいつが可愛くて堪んねぇ。
――正直あんまりセックス好きじゃないのよね。一人は子ども出来たんだし……まだしなきゃダメ?
政弥が生まれて、二年後くらいから二人目をと考えて、セックスしたはいいものの中々二人目が出来なくて、そう言ってきたのは女房だ。
まぁ、こっちとしてもそんなに女房相手にするのは気が進まなくなっていたこともあって、そのままレスになって何年経っただろうか。
一人でする方が気楽だなんて思っていたけど、御子柴はいくらでも欲しくなる。
指についていた精液を其処に塗り込めて、指を離すと御子柴が腰を自分から下ろしていって、俺のモノに触れた。
自分から挿れようとする光景に、さらに興奮を煽られる。
繋がろうとしている場所から目が離せない。
「…………っ、ん」
「…………ん」
やがて、御子柴の中に俺のモノが飲まれていき――熱い熱が纏わり付いていく。
精液はちゃんと潤滑剤の役割を果たして、そうキツさはない。
「ん、あ……っく」
御子柴が声を抑えつつも、腰をそっと揺らしてくる。
気持ち良さに声が出そうなのは堪えて、こっちからも動き始めた。
中の熱がいつもより熱い。
上半身は服を着たままだから熱が籠もってんのか。
……やっぱり、堪んねぇな。こいつの身体。
女房と別れないまま、こうして求める卑怯さに後ろめたさはあっても手放せない。
ちょっとした反応から、イクタイミングまで、セックスに関しての御子柴は何から何まで全部、俺の挙動に影響されたものだ。
「ん、んん、あっ、せん、ぱ……!」
相変わらず人気がないトイレに、御子柴の声が響く。
本人は抑えているつもりなんだろうが、抑え切れてない。
が、人なんて来ねぇだろうと、いや、今更来たところで構いやしないと俺も止めずにそのままだ。
御子柴が動く度に、香水の香りも漂って、それがまた余計に色っぽい。
――ごめんなさいね、何か同じ香水にしてしまったみたいで。
女房は俺と御子柴が同じ香水にした理由を当然知らない。
知らないからこそのあの発言とはいえ、こいつからしたら気分は良くねぇだろう。
謝られる筋合いなんてないって、俺が御子柴の立場だったとしても思う。
「みこ、と……っ」
本当はこのまま全身触りたい。
こいつ、乳首も弱いし、背骨だって弱い。
が、流石にここでそこまで触るのは無謀なのは分かる。
明日の夜のお楽しみに回せばいいじゃないかと、自分自身に必死に言い聞かせながら、突き上げる。
まだ、終わりたくないという思いと、時間に余裕がないという事情がせめぎ合う。
握った御子柴のモノも、再びイキそうだっていうのが伝わってきた。
……多分、女房よりも、御子柴の身体の方が俺は分かってる。
手放したくない。一緒に居たい。
顔を合わせることが多くなるのにつれて、こいつの傍にいたいという欲求は大きくなっている。
御子柴と会った後、このまま帰らずにいられたら、なんて思うこともしばしばだ。
今もそうだ。
このセックスが終わった後に戻ることを考えると、どうにも憂鬱だ。
自分で選んでもった家族だって言うのに。
――独占欲にも程がありますよ、先輩。
御子柴と再会して間もなく、鹿島に言われた言葉がふと頭をよぎる。
そんなことは分かっている。
自分の身勝手さなんて、十分過ぎるほど理解はしているが、十数年振りに手に入れられたこいつをどうしても手放せない。
そのことで御子柴に辛い思いをさせてるのだって分かっているのに。
「……っ、く、あ、も、ダメ……っ!!」
「…………っ!」
こうして、セックスするのをやめられそうにはないし、それを抜きにしたとしても、御子柴と会うことをやめられそうにもない。
いっそ、バレた方が全部吹っ切れて、楽なんじゃねぇのって気もし始めている。
実際にバレたら身の破滅だって理解しているし、現実的じゃないけれども。
一緒に吐き出した熱の心地良さに浮かれて、御子柴にキスしようとしたところで、胸元にしまってあったスマホが震えた。
これはメッセージの着信を知らせるものだ。
…………多分、女房だな。結構あれから時間経っちまってるし。
つい、御子柴と顔を見合わせると、御子柴が離れようとしたから、反射的に腕を掴んだ。
「悪い、もうちょっとだけそのままでいろ」
「ん……」
御子柴が俺の肩に頭を預けたところで、濡れてない方の手でスマホを取りだして確認する。
やはり、メッセージは女房からで、夕食の準備もあるからそろそろ戻って欲しいという内容だった。
とりあえず、もう少ししたら戻るとだけ返信はしたものの、つい溜め息を吐いてしまった。
タイミングが悪すぎる。
せめて、もう数分後だったらと思わずにはいられない。
寂しそうな表情を見せた御子柴がぼそりと呟いた。
「……そろそろ、戻らなきゃですね」
「……悪い」
「ん……」
現実なんて儚いもんだ。
御子柴が自分から身体を離したところで、トイレットペーパーを適度に取る。
手にしたトイレットペーパーで御子柴の出した精液も拭いながら、そのまま、後始末しようと思ったからだが、当の御子柴がそれを止めた。
「自分で出来ます。……だから、奥さんのところに戻って下さい」
「けど」
「こっちは大丈夫ですから。……先輩」
また、ほんの一瞬だけさっきのような泣きそうな顔になったが、それ以上何かを言うことも出来なかった。
御子柴にこんな言葉を言わせているのは、他ならぬ俺だ。
手にしたトイレットペーパーで濡れていた自分のモノを拭いてしまい、少し乱れた衣服を直すが、御子柴はそのままだ。
多分、俺が行った後に後始末をするつもりなんだろうと察しはするが、どうにも気が咎める。
「本当にいいのか?」
「大丈夫ですって。……ここから駐車場まで結構距離あるんすから、早く行った方がいいですよ」
御子柴の言うとおりで、ここは駐車場からはそこそこ離れているから、確かに移動だけでも時間は掛かる。
こいつを一人残していくのも気にかかるが、かといって、御子柴の気遣いを無駄にも出来ない。
後ろ髪を引かれる思いで、戻ることにした。
「……明日、また仕事終わったら連絡入れる」
「ん、わかりました。また明日」
「…………ごめんな」
俺の勝手な事情で御子柴を振り回していることが、こんな一言で済むわけないけど、今の俺にはそれ以上何も言えない。
軽く、御子柴の額にキスだけして、扉を開け、洗面台で手を洗ってからトイレを出た。
周辺に人がいないことにほっとしながら、駐車場のところまで早足気味で戻る。
自分の車に戻ると、政弥は問題集に目を通し、女房はスマホで何やら見ていた。
「お帰りなさい」
「お帰り、親父」
「おう、悪かったな。待たせて。じゃ、帰るとするか」
運転席に乗り込み、車のエンジンをかけ、自宅への帰路につく。
休日の混んだショッピングモールの駐車場からは、中々出られずに少し進んでは止まりを繰り返し、道路に出るまで待たされた。
……そういや、御子柴はここまで車で来たのか、電車で来たのか、どっちだろう。
それさえ、聞かなかったな。
電車だったら、結構しっかり後始末しないと、中から出たら服を汚しそうマズいよな。
潤滑剤代わりにその前に出した二人分の精液も中にほぼ塗りたくったし。
…………くそ、やっぱり後始末くらいはしてやるんだった。
今頃、あいつがどんな気分でいるかを想像すると気が沈む。
「……親父」
「ん?」
助手席に座っている政弥が、ふいに俺に話し掛けてきた。
「さっきの人と何かあったのか? 機嫌悪そうだな」
「……そんなんじゃねぇよ。あいつは関係ない。ちょっとあいつとの共通の知人でバカなやつの話を聞いちまったからな。心配すんな」
表情に出したなんて、うかつにも程がある。
万が一にもこいつらに御子柴との関係を悟られるわけにはいかねぇってのに。
全部バレたら楽かも知れないが、女房は元社員で、義父は会社の役員なんて状況だ。
自分で蒔いた種とはいえ、事が明るみに出たら、ただ事じゃ済まない現実は残酷にも程がある。
……何で、会社の上司の娘なんてやっかいな相手を女房にしちまったかな、俺も。
でも、今更御子柴を手放すことなんて出来ない。
会えずにいた十数年も、気付けばあいつのことばかり考えていた。
愛情なのか、ただの執着なのかは、今でも分からずにいる。
それでも、全身で求めて欲しいって思うのは御子柴だし、全部欲しいって思うのもあいつに対してだけ。
その点だけは確実だ。
女房も息子も、俺がそんなことを考えてるなんて想像もしてねぇだろうけどな。
表向きはあくまでもいい旦那で、いい父親をやっている自信はある。
少なくとも今は。
いつまで、それが持続できるかは分からねぇけども。
御子柴と家族に対して抱いた罪悪感を誤魔化すように、政弥の頭を撫でながら、明日御子柴に会ったら出来るだけ優しくしてやろうなんて、どこか打算的に考える自分はつくづく酷い男だと思った。
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