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Immorality of target 10<月刊少女野崎くん・堀みこ・R-18>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

ラブラブモードでの温泉旅行話、堀Side。嵐の前の静けさ。

初出:2015/04/26 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:15414文字 裏話知りたい場合はこちら

 

「おまえ、再来週の金曜日って休み取れるか?」

「は?」

 

妙に間の抜けた声で俺に応じた御子柴は、多分こっちの意図に気付いていないんだろう。

 

「まぁ……多分、申請出したら通ると思いますが……どうしたんすか?」

「俺、再来週の木、金曜って京都に出張入ったんだよな。で、金曜の午前中で仕事終わるから、休み取れるなら向こうで午後に落ち合って小旅行しねぇか。日曜の夜にこっち戻ってくるようにしてさ」

「…………大丈夫なんすか、それ」

 

御子柴の表情が少し曇る。

そりゃ、どうしたって気になるよな。

俺達が再会してから一年近く経つけど、再会して以降、遠出はおろか、旅行に誘うのは初めてだ。

こいつとの旅行なんて、それこそ十数年前に付き合ってた時にまで遡る。

 

「女房には京都に住んでいる友人のとこ寄りたいから、出張がてらに泊まってくるって、もう言ってある」

「……先輩」

 

ついでに言うなら、とっくに合同プロジェクトで時折顔を合わせている、御子柴の会社側のチームリーダーにも確認済だ。

こいつの会社が繁忙期じゃないことと、有給に恐らく余裕があるだろうってことは。

俺としては会社が繁忙期かどうかだけ尋ねるつもりだったが、世間話のついでに御子柴が有給をそんなに使うタイプじゃないことまで教えてくれた。

 

――幸い、うちのリーダーは今後の仕事に繋げろって、先輩と仲良くするのに賛成してますからね。プロジェクト会合の都度、飲みに行ってることは今のところ不審がられてないっす。

 

御子柴もそんなことを言っていただけあって、向こうのチームリーダーは御子柴の事に関しては口が滑りがちだ。

俺が直接見られない御子柴の一面を知ってることに、苛立ちを全く感じないかと言えば嘘になるが、情報としては単純に有り難い。

 

「偶には二人で温泉でも入って、のんびりしてくんのもいいだろ。嫌か?」

「そんなわけねぇでしょう。俺は勿論嬉しいからいいですけど……ホントにそれで大丈夫だっていうんなら」

 

表情には出さないようにしつつ、内心断られなかったことにほっとした。

宿のキャンセル代等は払わずに済むようだ。

ちょっと今回は奮発したから、キャンセル代が出るようなことになってたらバカになんねぇし、何より自分の中では既に御子柴と一緒に過ごすつもりでいたから、それがふいになってしまったのだったとしたら切ない。

数ヶ月前、御子柴と偶然ショッピングモールで会って以降、ずっと気になっていた。

再び、こいつと付き合えるようにはなったものの、二人で何処かに旅行したり、遠出したりなんてことはない。

精々、夕食を一緒に食うのとセックスするのとで手一杯だ。

勿論、それには俺の方の家庭事情が背景にあるからだが、その分寂しい思いをさせている気がしてならなかった。

そもそも、御子柴は一人っ子だってのもあるんだろうが、結構寂しがりの一面がある。

けど、昔付き合っていた時に比べて、それを表に出さないようにしているように感じていた。

大人になった、というのもあるかも知れないが、きっとそれだけでもない。

我慢させてしまっている。

そんなところを、もう少しぶつけて欲しい。甘えて欲しい。

昔みたいに甘えさせてやれてないのは、俺のせいなのも分かっているが、もっと近い存在でありたい。

もう一皮剥けるには、状況の打破が必要だ。

この旅行がそれに繋がればいい。

俺は内心そう考えていた。

 

***

 

下手にミスなんか出して、御子柴との待ち合わせに遅れたりなんかしたら堪らないと、仕事に精を出した甲斐はあり、約束の時間には余裕を持たせることが出来た。

が。待ち合わせ場所には約束の時間よりも早く御子柴がいた。

こいつも待ちかねていた結果、早くに来ていたんだとしたら嬉しい。

後ろ側から近寄って、ぽんと肩を叩く。

 

「待たせたな」

「あ、いや、まだそんな待ってなかったから大丈…………外でその格好って珍しいっすね」

 

出張ついでの俺とは違って、御子柴の方はある程度ラフな格好で来るだろうと、スーツは軽く着崩して来たからだろう。

普段は仕事中には掛けっぱなしの眼鏡も外してるし、前髪も下ろしてる。

仕事関係の相手に不用意に見咎められないようにという目的もあったが、考えてみればベッドの上の格好に近いな。

こいつが、少し動揺して見えるのはその所為か。

可愛いヤツだ。

 

「ま、仕事は終わったからな。まずはコインロッカーに荷物預けてから、そのまま昼飯行こうぜ。さっき、お好み焼きの美味い店聞いてきた。おまえがそれで良ければ、行ってみねぇか?」

「行きます!」

 

即答で返してきた御子柴を促して、自分もさっき荷物を預けたコインロッカーに向かう。

確か、煙草吸える店だったよなと頭の中で確認しながら。

 

***

 

「俺、旅行すんの自体、かなり久し振りですよ」

「おまえ、趣味が基本インドアだもんなぁ。何年振りだよ」

「えーと…………」

 

幸いにも味は外していなかったお好み焼きを食いながら、旅行の話をすると御子柴が少し黙った後、小さくあ、と声を上げた。

 

「うん?」

「……昔、先輩と付き合ってた時、東北に桜見に行ったことあるじゃないっすか。あの時以来です」

 

俺が予想していた以上に旅行とは縁遠かったらしい。

御子柴が言っているのは、ざっと十五年は前の話だ。

そりゃ、旅行が趣味の一つな俺と違って、こいつがインドア派なのは分かってはいたつもりだが。

 

「マジかよ。あれ、かなり前の話じゃねぇか。鹿島とは旅行行ったりはしてないのか?」

「日帰りできるような近場なら、そこそこ行きますけど、あいつ忙しい上に、下手に泊まりなんかになったら、週刊誌に載ったりしかねないじゃないっすか」

「……だったな。そういや、おまえ一度鹿島といるとこ撮られたよな」

 

確か、十年くらい前だったが、俺も覚えている。

週刊誌に御子柴の顔は出なかったが、紙面から直ぐに御子柴だと分かった。

鹿島のファンである女房が、結構騒いでいたのもある。

鹿島本人も直ぐに高校時代からの親友で恋愛関係にはありません、と否定したのもあって、騒ぎは直ぐに収まってはいたが。

 

「しばらく、どこから聞いたんだかスカウトが何人か来ましたよ……。あれは正直うんざりでした」

「おまえ、イケメンだからなぁ。堂々としてりゃ、テレビ映えしそうだし」

 

やっぱり、来るもんなんだな、スカウトって。

御子柴ぐらいのイケメンなら、その手の話はいくら上がってもおかしくない。

 

「勘弁して下さいよ。そういうのに俺が向いてないの、先輩よく知ってるじゃないっすか」

「度胸さえあれば、そっち方面の仕事も出来そうなのに勿体ねぇよな。

ま、おかげでこうやっておまえとゆっくり旅を楽しんだり出来るから、俺としては良かったけど」

 

高校時代に、一度演劇部で骨折してしまった役者の代理を頼んだことを思い出す。

イケメンなだけあって、舞台映えしたし、慣れたら演技もそう悪くねぇなって思ったのに、翌日には元来の人見知りが発揮されてしまって、台無しになってたんだよなぁ。

だから、代役についてはそこで諦めたが、何となく交流するようになり、そこから身体の関係も持つようになって、と懐かしい事を思い出す。

最初は、ちょっとした悪戯心だった。

 

――おまえ、モテそうだよなぁ。女の一人や二人、モノにしてんじゃねぇの。

――え、いや、その……モテるのはモテるんでしょうけど、あー、いや、何でもねぇっす。

 

言葉を濁した理由は直ぐに分かった。

こいつはモテはしたし、ぱっと見あしらいも出来てるように見えたが、その一歩先に踏み込むのは人見知りが邪魔をして、意外に深い付き合いの交友関係となると少なかったのだ。

 

――俺もどうにかしたいとは思ってはいるんすけど。何かふっきる切欠みたいのないっすかね?

――いっそ、一度経験しちまった方が気が楽なんじゃねぇの?

――せん、ぱい?

 

性に対しての青臭い興味と気まぐれ。

そんなところからずるずる関係が始まった。

お互い、他の相手なんて作らなかったが、男同士の関係なんて一時の戯れだ、本気じゃないなんて思いたかったし、こいつにのめり込んでいる自分を誤魔化すように、女房との結婚話にも乗った。

 

――嫉妬の一つもしないって思ってるんすか? 先輩の腕が他の人間抱くって分かってて平気なわけねぇだろ……っ!?

 

御子柴の方も俺との関係を割り切ったものだと捉えているって思っていた、いや思いたかったのは、違っていたのだと気付いた時には遅かった。

どうにか再び逢えてから一年。

間に十数年の空白期間はあれど、かれこれ、最初の出逢いからは二十年経つんだよなぁ。

人生の半分くらい経っているのかと思うと、中々感慨深いものがある。

そんなことを考えながら、ふと、御子柴をみると笑みを浮かべていた。

 

「……何だ」

「ん? 何がっすか?」

「何か、おまえ笑ってるから」

「楽しいからですって。旅行久し振りだって言ったじゃないっすか」

 

多分、旅行が久し振りってだけが理由じゃない。

こいつも今、俺と一緒に居るのを楽しいって思ってくれたんだろうな。

旅行が久し振りってことは、時間が出来ても積極的に行こうとしなかったぐらいの興味なんだろうから、旅行自体への思い入れより、俺と一緒に居られることに笑ってくれてるんだろう。

それを思うと胸の奥が温かくなる。

 

「……そっか」

 

けど、そこまでは口には出さずに、御子柴の髪に手を伸ばして撫でた。

相変わらず触り心地の良い髪してんなぁ。

普段だと、こんな真っ昼間の外で触ろうとは思わないし、多分触ってもこいつも止めてくるだろうけど、旅先だからこその開放感があるからなのか、御子柴も特に俺の手を止めたりはしてこなかった。

それを良いことに遠慮無しに触る。

 

「一服したら、少し観光しようぜ。おまえ、何処か行きたいとこあるか?」

「紅葉綺麗なとこ見たいっすね。今、こっち丁度シーズンでしょ?」

「そうだな。タイミングもいいし、行ってみるか。今のうちに煙草吸っとけ。主な観光名所は大抵禁煙だぞ」

 

だからこそ、昼飯は煙草が吸えるという条件つきで美味い店を聞いた。

俺が吸うのは日に一箱半くらいだから、ヘビースモーカーって程の域ではないだろうが、それでもしばらくの時間吸えないのは意外にキツい。

すっかり、生活の中に煙草の存在が溶け込んでしまっている。

 

「そんなん、分かってますって。喫煙者はどんどん肩身狭くなりますよね」

「だなぁ。まぁ、かといって煙草止められる気もしねぇから、仕方ねぇけど」

 

そういや、こいつが煙草吸うようになったのって俺のせいだったな。

あの頃はまだ御子柴の耳にピアスもついていたことを思い出しながら、髪を撫でていた手で、少しだけ耳に触れて離れる。

御子柴の目元が少しだけ赤くなった。

 

***

 

日が暮れた辺りで観光を切り上げ、予約していた宿を訪れた。

一瞬だけ、御子柴が息を飲んだ音が聞こえたが、それには構わず宿泊の手続きを取って、部屋まで黙って案内される。

が、やっぱり気になっていたのか、案内してくれた仲居が部屋を去って行った時点で、御子柴が神妙な顔で聞いてきた。

 

「……先輩」

「あ? 何だ?」

「ここ、一泊幾らぐらいするんすか?」

「さぁな。まぁ、俺もこういうとこ泊まるのは初めてだけど」

 

宿泊金額はそれなりだが、御子柴に教えてやる気はなかった。

今回、旅行に誘ったのは俺の方だし、御子柴には有給使ってまでこっちに来て貰っているのだから、宿泊代は俺が出すと言ってある。

女房や政弥ともこんなレベルの宿には泊まったことはないが、偶には贅沢したって罰は当たらねぇだろう。

時間を問わずに入れる露天風呂がついている部屋は、色々と有効活用出来そうだ。

 

「ちょっ……! 金出しますから、幾らか教えて下さいって!」

「いらねぇよ。数年分の誕生日祝いとでも思っとけ」

「いやいやいや、そんな訳いかねぇでしょ!?」

「いいんだよ」

 

押し切ろうとしたが、気になるのか御子柴がスマホを手にして、何やら操作し始めたところでそれを取り上げる。

……こいつ、宿の値段調べるつもりだったな。

 

「ちょっと、先輩! 勝手に人のスマホ取らないで下さいよ!」

「おまえが調べようとするからだろ。……いいから、今回は大人しく受け取っておけっての」

「いくら何でも気が引けますよ! どう考えたって高いじゃないっすか、この宿」

 

確かに高いが、言ったように数年分の誕生日祝いとでも考えればどうってことはない値段だ。

大体、金なんてのはまた貯めればいい話だが、御子柴とこういう機会を作れるチャンスはそんなに多くはない。

 

「なら、今日明日、外で移動する時の交通費とか昼飯代とかはおまえが出せ。それならいいだろ?」

「う……まぁ」

 

渋りつつも、御子柴がどうにか納得して引き下がる。

妥協案を出したのは正解だったようだ。

 

「分かりました。じゃ、その辺りは俺出しますんで。だから、スマホ返して下さい」

「俺と一緒にいるんだし、しばらくいらねぇだろ、これ」

「はぁ!? ちょっと、仕事のメールとか来る可能性だってあるんすけど!」

 

俺が今持っている御子柴のスマホは、俺との連絡用のヤツじゃない。

こいつが元々持っている個人のものだ。

だから、仕事のメールが来る可能性ってのも分からなくはないが、何となくせっかくの楽しみに横槍を入れられる感じがして癪だ。

 

「宿の値段調べたりしねぇか?」

「しませんって!」

「……じゃ、明日返してやる。どうせ、おまえ夜に仕事のメール入ることなんかほとんどねぇだろ。普段、俺と会ってる時、メールチェックしてんの見たことねぇし」

「あ、それは、いや、その」

 

図星だったらしく、御子柴が言い淀む。

実際、平日の夜に御子柴と会っている時には、こいつはほとんど自分のスマホを見てさえいない。

それをもう少し長い時間保っていて欲しいだけだ。

 

「少しの間くらい、余計なこと考えんなよ。俺のことだけ考えてりゃいいだろ」

「…………何すか、その極論」

 

御子柴の口調は明らかに呆れていたが、俺が顔を近づけると、素直に目を閉じる。

ホント、可愛いよなぁ、こういうところ。

御子柴にキスしながら、手にしていた御子柴のスマホの電源を落とした。

 

***

 

大浴場での温泉と、部屋での露天風呂に引いてある温泉は質が違うって聞いたから、夕食前にまず二人で大浴場の温泉に浸かりに行った。

流石に、人前でいちゃつく真似は出来ないが、温泉の温度は丁度良く、十分に楽しめたところで、部屋に戻ると夕食の準備がされていた。

御子柴が夕食の膳を見て、ごくりと喉を鳴らす。

 

「……凄ぇ。宿も豪勢なら、飯も豪勢だ」

「偶には悪くねぇ贅沢だろ」

 

料理も美味いと評判の宿だけあって、本当にどの料理も一品だった。

飯で腹が満たされたところで、別に頼んでいた日本酒も来る。

俺は日本酒には明るくないが、かなり美味いと聞いたし、せっかくだから雰囲気に合わせて、たまにはこういうのも悪くねぇだろうと頼んでみた。

 

「おまえ、日本酒はいけるか?」

「ああ、まぁ、ちょっとなら」

「ちょっといけるなら十分だ。どのみち、そんなに飲ませねぇよ。おまえ、下手に飲み過ぎると後々面倒くさいし」

「う」

 

御子柴のぐい飲みに酒を注ぎながら言うと、御子柴が居心地悪そうに黙り込む。

こいつ、酒が入りすぎると勃ちにくくなるのに、中は疼くらしく結構セックスしたくなる面がある。

そりゃ、こいつは受け入れる方だから、勃ってなくても、セックス出来るのは出来るが、俺は一人でイクのがあまり好きじゃないから、イク時のタイミングがずれるとあんまり面白くない。

昔よりは酒に慣れたのか、以前に比べて飲めるようになったとは思うけど、日本酒は普段飲むことの多いビールに比べると、アルコール度数が高いから飲ませる量には気をつけたいところだ。

 

「あ、俺注ぎます」

「ああ」

 

御子柴のぐい飲みに注ぎ終わったところで、今度は御子柴が俺のぐい飲みに注いでくれる。

品の良い柔らかく鼻腔をくすぐってくる香りは期待するに十分だ。

 

「先輩、これ飲んだことあるんすか?」

「いや。美味いって聞いたことはあるけど、飲むのは初めてだな。ま、飲んでみようぜ」

 

軽くぐい飲み同士を触れ合わせて、小さく音を鳴らすとそれぞれ日本酒を口に含む。

予想以上に口当たりが良くて、喉越しが爽やかだ。

香りを残しながら、するりと身体の奥に取り込まれていく感覚が心地良い。

かなり美味い酒だった。

 

「……美味ぇ」

「ああ、これは美味いな。凄ぇ飲みやすい」

 

しかし、飲みやすいだけに危ねぇな、これ。

案の定、御子柴がそのまま勢い良くぐい飲みの中身を飲み干し、二杯目を注ごうとしたから、慌ててその手を止める。

 

「ダメだ。それ以上飲むな」

「えええ、一杯だけとか酷くないっすか!? 生殺しですって、これじゃ」

「それ以上飲まれると、生殺しにされるのはこっちだっつうの。……後でちゃんと続き飲ませてやるから」

 

御子柴の浴衣の襟元に手を突っ込んで、肌を触っていく。

普段より滑らかで感触が心地良い。

そのまま、手を滑らせて胸まで触り、乳首を指先で軽く撫でると小さな声が上がる。

何だかんだで触り始めるとちゃんと感じてくれるんだよなぁ、こいつ。

 

「温泉効果か。いつもより肌触りいいな、おまえ」

「お互い様ですって。先輩の肌も触ってて気持ち良……ん」

 

御子柴も俺の首筋に手を回してきたから、背を抱いて口付ける。

一度唇を離したところで、既に敷いてあった布団を指し示すと、大人しく移動した。

布団の上に移動したところで、もう一度キスすると、乱れた吐息が迎えてくる。

さっきの温泉で火照っていたのも色っぽかったが、アルコールで少し赤みを増した今の顔も色っぽい。

 

「……浴衣着たままって、やったことねぇよな、そういえば」

「そりゃ、浴衣着る機会自体がそんなないですし」

「じゃ、せっかくだからこのままやってみるか」

「あ……」

 

御子柴が浴衣の上に羽織っていた、茶羽織だけを脱がすと、下の方に手を伸ばして裾を割った。

ちらりと覗く素足が妙に艶めかしい。

内股をゆっくり探っていくと、声が零れた。

 

「ふ……」

「下着脱がしていいよな?」

「……ダメって言ったところで止めるつもりもねぇ癖に」

「何か言ったか」

「何でもないっす」

 

まぁ、実際止めるつもりなんてさらさらない。

問い返しても、それ以上は言ってこなかったのを良いことに、下着に手を掛けた。

既に勃ち上がりかけていたちんちんに軽く引っかかったのを外して、足から下着を抜き取る。

浴衣もさっき触れた段階で少し乱れていたから、そこから少し広げて、右肩を出すと其処に噛みついた。

再び、聞こえた小さな声と吐息。

びくりと震えた足を広げて、その間に自分の身体を滑り込ませた。

 

「ん……」

 

そして、ちんちんを触ってやると直ぐに固さを増す。

俺も自分の下着を脱いで、そのまま御子柴のモノの付け根に自分のちんちんの先っぽをくっつける。

付け根から先っぽへと沿わせると、こっちも光景と刺激で興奮してかなり固くなった。

御子柴のモノから伝わる熱が滅茶苦茶気持ち良い。

 

「うあ、せん、ぱ……」

「ん……」

 

自分の先走りで御子柴のモノを根元から濡らしていきながら、指を突き出して御子柴に舐めさせる。

大人しく、御子柴が俺の指に舌を這わせて唾液塗れにしていくのを、気分良く眺めた。

妙にやらしい絵面だよなぁ、これ。

ちんちん舐めさせるのも気持ち良いけど、指も中々くるものがある。

適度に舐めさせたところで指を引いて、御子柴の膝を軽く濡れてない手のひらの部分を使って叩いた。

 

「腰、少し上げて、足を俺の太股の上に乗せろ」

「んっ……あ、あ、そ……こっ……!」

 

御子柴が腰を上げたところで、濡れた指で身体を繋ぐ場所を撫でる。

酒が入ったからなのか、何となく触れている場所が柔らかい。

孔の周囲に沿って軽く指で突くと、御子柴が引き攣れたような声をあげたが、直ぐに歯を食いしばって、それを抑え込もうとする。

その様子が何とも可愛くて、つい笑っちまう。

 

「多少声上げたって聞こえねぇよ。他の部屋と離れてんの、さっき大浴場行ったとき確認したじゃねぇか」

「や、でも……人通りかからねぇとも限んねぇ、し」

「通んねぇよ。……日本酒載せた膳、引き取るのは明日の朝だ。声上げたって、俺しか聞こえねぇっての……っ」

「ああ、あ!」

 

話しながら、手元に置いてあった潤滑剤で指先を濡らし、その指で御子柴の中に触れていく。

比較的手前の方だけを撫でるように触っていくと、御子柴の表情が切なげなものになっていく。

良い感じに焦らせているらしい。

 

「せ……んぱっ……中、奥……っ」

「指じゃ足りねぇって?」

「指じゃダメなのは、先輩、だって一緒……だろ……っ!?」

 

御子柴の手が俺のモノに伸ばされ、根元から擦り上げるように触ってきた。

その手が気持ち良くて、ついこっちも声を上げそうになる。

確かに否定のしようがない。

御子柴の中に挿れたくて堪らないのは、こっちも同じだ。

 

「……ま、そりゃそうだ。力抜け。もういいよな?」

 

御子柴が頷いたところで、指を中から抜き、すかさず先っぽを其処に宛がう。

力が抜けたのを確認して、ゆっくりと身体を中に進めていった。

 

「あ、は……あ、うあっ……!」

 

酒が入ったからか、いつもより少し柔らかくて熱い内部が優しく絡みついてくる。

凄ぇ良い感触だ。

 

「やっぱ、一杯で止めといて正解だな。ちゃんと勃ってるし、中も適度に柔らかくて熱いしで丁度いい」

「ん、あ、せん、ぱ……」

 

御子柴の方から顔を寄せてきたが、唇が、触れ合う前にそれを指で遮るように止める。

 

「…………政行」

「え」

 

御子柴の唇に触れた指先に吐息が当たる。

困惑した様子の御子柴の唇を軽く指先で撫でた。

 

「いい加減、付き合いも長いんだし、今更、俺の下の名前を知らないわけでもねぇだろ。俺がおまえの先輩だったのは、それこそ二十年も前の話だぞ」

「ん!」

 

御子柴のモノを少し強めに握ると、布団に手をついていた方の手に爪を立てられた。

微かな痛みには構わず、そのまま話を続ける。

 

「何、すか、いきな……りっ」

「いきなりでもねぇよ。……俺は時々、おまえの名前呼んでんのに、おまえはいつまで経っても先輩だし、敬語も抜けきらねぇし」

「なっ……だ……って、今更呼びずら……んっ、やあっ、ああ!!」

 

後輩ゆえの遠慮もまだ残っているんだろうとは察しはついている。

けど、いい加減待ちくたびれてもいた。

何かきっかけがないと、中々呼び方なんて変わらない。

だったら、そのきっかけを作るくらいしてもいいような気がした。

少しでも今の関係から進めるには、名前で呼ぶのは効果的だろう。

中を抉るように突き上げつつ、様子を見ながら動きを止める。

本当なら、このまま気持ち良さに任せてガンガン突き上げたいところだが、どうしても俺を名前で呼ぶのを聞いてみたかった。

 

「じゃ、ずっとそうやって、俺のこと名前で呼ばねぇつもりかよ」

「え、あ、いや、それは――」

「実琴」

 

御子柴の――実琴の目を真っ直ぐに見ながら告げる。

実琴も俺から目を逸らしはしなかった。

 

「名前言えよ。減るもんでもねぇだろ」

「……それは、そうです、けど」

 

まだ、迷いがあるのは見て取れたが、俺としても譲る気はない。

動きたい衝動を全力で抑えながら、実琴が口を開くのを待つ。

 

「……政行、さん」

「…………聞こえねぇよ。もう一度」

 

小さすぎる声は、かろうじて聞こえたが、もう少し大きい声で聞きたい。

だから、もう一度と請う。

恥ずかしいのか、実琴が視線をあちこちに彷徨わせたが、最終的には、俺を上目遣いでちらりと見上げながら、もう一度呼んでくれた。

 

「政行さ……あっ、ああ、ちょ、待っ……うあ!」

 

明確に名前を呼ばれて、さっきよりも繋がった場所に熱を感じる。

キツくなった締め付けに、こっちまでつられて声を上げそうになったのを飲み込んだ。

 

「ちょ、なん……で、そんな、大きく、してんす、か」

「あ? そんなの、嬉しいからに決まってん、だろっ……!」

「ん、あ、やっ、ああ、そこ……あ!!」

 

感じているのが分かったから、遠慮無く突き始めたが、何となくいつもと中の感触が違う。

温泉の効果って中にも影響すんのかと思いながら、そのまま動いていたら、実琴が泣きそうな目で訴えてきた。

 

「ちょ……っと、待っ……動かな……んん!」

「……何だ、どうした」

「ひあっ!」

 

実琴の耳元で囁くついでとばかりに、軽く噛み、舌で撫で上げる。

派手に身体がびくりと撓って、予想していた以上の反応に驚いた。

繋いだ場所がびくびくと断続的に震えている。

 

「怖……っ、何か、く……ああ、やっ!!」

 

繋がった場所だけでなく、実琴の身体全体が震えている。

……待てよ、これ、もしかして。

 

「…………ドライイキ出来そう、なのか?」

 

再会してからは、こいつをドライでイカせてやったことはない。

少なくとも、平日にあまり無茶をすると後でキツいのも分かるから、過去にドライでイカせてやった時みたいに、わざわざ道具を使ってのプレイをしていないってのもある。

それは今日も同じはずだが、状況が違うせいなのか、どうもいつもと勝手が違う。

……でも、ドライだとしても明日仕事あるわけじゃねぇし、観光に多少差し支えはあるかも知れないが、こんなチャンスもない。

弱い部分を狙って、突いて、抽挿を徐々に速くしていく。

 

「何が、怖いことなんて、あるんだ、よっ」

「やだ、抑えられ、な……っ」

「っ……いいだろ、それ、で……っ!」

 

抑えろなんて、誰が言った。

余さず全部見たいと願っても、抑えて欲しいなんて思わない。

増して、こんないつもより長く二人きりでいられる時間なら尚更だ。

 

「ああ、あああ!! ダメ、動かな……っ」

「無茶、言うんじゃねぇ……よ!」

「ひっ! あ、せん、ああ」

 

実琴の声が、俺の方の興奮も煽っていく。

焦点の合わなくなって来た目は既に潤んでいて、今にも涙が溢れてきそうだ。

 

「や、あ、ほん、と、怖……怖ぇって……! 動かな…………あっ、ああ、ひあ!」

「断る。……大体、何が怖いってんだよ。俺、おまえの一番近くに居て、抱いてんだろ、が。どうなったって構わねぇよ」

 

俺の傍にいて怖いなんて思うな。

どうなったって傍に居る。

 

「全部、曝け出せよ。受け止めて、やる、から……っ」

 

くだらない遠慮なんかされたくない。

何もかも見せて、俺に委ねてしまえばいい。

 

「あ、あ、ああっ、い、あ、ああああ!!」

「実琴……っ!」

 

俺の身体の下で実琴が、激しく身体を震わせて叫ぶ。

一際強い締め付けにはこっちももう耐えられなかった。

実琴の中に堪えていた熱を吐き出す。

自分の身体を支えているのもキツいくらいの脱力感に、つい実琴の身体の上にのし掛かるが、荒い呼吸が聞こえるだけで、それ以上の反応はない。

 

「…………実琴?」

 

……ああ、そういや、久々過ぎて忘れてた。

ドライでイクと快感が強すぎるからか、こいつまともにイッた直後に意識保ててた試しなかったんだったよな。

流石に鼓動も呼吸もまだ速いけど、大丈夫だろうと判断して、俺も少しだけ休憩することにした。

 

***

 

少し休んだ後、まだ意識を手放したままの実琴の汗ばんだ身体を、一通りぬるま湯で絞ったタオルで拭い、乱れた浴衣を戻し、実琴の中に放った精液も掻き出せる範囲で処理を済ませた。

流石に浴衣は皺になってしまっているし、多少汚してしまってもいたが、高い宿っていうのはスタッフの対応も一流だ。

内心の思惑はどうであれ、それを客に悟らせるような真似はしないだろう。

自分の身体の汗も軽く拭ったところで、実琴の顔の方はまだ拭いてやってなかったのに気付く。

今度は冷たい水でタオルを絞って、それで実琴の額をそっと拭ったところで実琴が目を開けた。

 

「……気がついたか」

「え……あ、俺……」

「ちょっとの間気失ってた。寝てる間に軽く後始末はしといたけど、身体平気か?」

 

実琴がゆっくり身体を起こして、軽くあちこち動かしている。

 

「……大丈夫っす」

 

大丈夫だろうとは思っていたけど、本人の口からそれを聞けて、ようやく本当に安心した。

息を吐いて、実琴の背に腕を回して抱き締める。

良かった、せっかくの旅先でヤバいことにならなくて。

 

「……久々じゃねぇの、ドライでイクなんて」

「俺もびっくりした。……尿道の方刺激してねぇのに」

「ま、相性合うってことなんだろ。普段と違う場所とシチュエーションだったしな。……実琴」

「ん……」

 

唇を重ねると、実琴の身体が小さく震えた。

まだ、ドライでイッた影響が残ってるのか、絡めて来た舌が微かに震えてる。

くそ、可愛いな、こいつ。

 

「せんぱ……」

「政行」

 

けど、先輩呼びになりそうだったところで、ついストップをかけた。

 

「……そんなに名前呼ばせたい……のかよ」

 

敬語になりかけたのも、意識的に止めたのは伝わったが、それについては言及しない。

 

「やっと聞けたんだぞ。そりゃ、呼んで欲しいに決まってる。大体、おまえだって俺が名前呼んだら、締め付けてくんだろが」

「締め……や、だって、そりゃ、興奮……する、し」

「だろ? ……俺だって、そうなんだよ。好きな相手にならいくらだって名前呼ばれたいに決まってる」

 

繋がってる時に名前で呼ぶと、実琴は締め付けてくるし、表情も綻ぶ。

その反応が嬉しくて、名前で呼ぶところもあるが、やっぱり好きな相手には名前の方で呼んで欲しい。

その方が求められているっていう実感も出来る。

 

「政行、さん」

「ん」

「政行さん……」

「おう。呼べ呼べ。……そして、とっとと慣れちまえ」

 

照れながらも、優しい響きで呼んでくれるなぁ、こいつ。

何か、それが無性に嬉しい。

 

「おまえのそういうとこ、ホント可愛くて好きだぜ、実琴」

「…………っ」

 

一層顔を赤くした実琴が、俺の肩に顔を押しつけて来た。

顔を見られるのが恥ずかしいのかも知れないが、何を今更って感じだ。

とっくに身体中のあちこちに触ったり、見たりしてるのに。

 

「……何だよ、その反応」

「や、だって、あんまり、その……好き、なんて言ってくれねぇ、から」

「…………おまえだって、滅多に言わねぇだろ」

 

それこそ、再会してからほとんど聞いた覚えがない。

態度や様子からは分かりやすくはあるけど。

 

「言っ……言って…………あ」

「ねぇだろ?」

「ねぇ、かな……」

 

本人も気付いた部分があるらしく、小声になっている。

俺の浴衣をぎゅっと掴んできた感触に、実琴の顔を両方から捉えて上げさせる。

戸惑いを隠せない表情で、俺を見つめてる。

 

「実琴」

「……何すか」

「俺のこと好きか?」

 

頷いたタイミングは即座のものだったが、言葉が聞きたい。

まだ、何処か一枚隔ててしまっている部分があるように思う。

それを表に出して欲しい。

 

「だったら言葉にしろよ。……聞かせろよ」

「………………好き、です。けど」

「けど?」

 

その『けど』と言ったのが気にかかったが、実琴も上手く言葉に出せないのか、それとも言いたくない部分なのか。

 

「……や、やっぱり何でもね……んっ!」

 

結局、言葉を中断してしまった。

それがどうにも癪で、無理矢理唇を奪う。

強めに吸って、舌を実琴の口の中に入れると、手で押さえている頭が震え始める。

……ちゃんと反応はしてくれるんだよな、こいつ。

 

「う、あ、ちょ……っと、また……っ」

「悪ぃ。我慢出来る気がしねぇ」

「ふっ……」

 

そう思うと、無理させずに我慢しようなんて感情は簡単に吹き飛ぶ。

再び、実琴のモノに触れていく。

幹を根元から擦り上げて、袋も撫でるように触って。

それぞれの感覚を愉しんでから、さっきまで身体を繋げていた場所にも指を伸ばす。

快感で潤んだ目が恨めしそうに俺を見るが、止めてやることなんか出来ない。

益々、実琴を抱きたくなるだけだ。

 

「……っと、狡、ぃ」

「……知って、る……っ」

 

潤滑剤を塗っていないにも関わらず、触れた場所は大した抵抗もなく、指は容易に入っていった。

 

「あ、は、ああ!」

 

弱い部分を軽く擦ってやるだけで、中がびくりと反応して、さっき吐き出した精液の残滓が指先に纏わり付いた。

それを手前の方に塗りたくるように指を動かす。

 

「せん……ぱ……」

「政行だって言ってん、だろ、が」

 

抜いた指の代わりに、再び勃ち上がっていたモノを突っ込んだ。

 

「あ、ああっ、まさ、ゆ、あーっ!!」

 

声を抑える余裕のないらしい実琴の叫びが、こっちの余裕も一瞬で失わせる。

震えた足に軽く口付けて、もう一度悦楽の頂きを目指して動き始めた。

 

***

 

「せっかくの京都なのに、一日でかなり疲れたんすけど……」

 

弾んだ呼吸に紛れて、実琴がぼやいた言葉に後ろを振り向いた。

しんどそうだから、昼過ぎまでは行動せずにゆっくり待ってやったってのに、階段を昇る様子は随分と辛そうに見える。

まぁ、舗装されていない石畳の階段は、確かに負担がかかるだろうけど、昨夜ドライでイッちまったのもあるのかも知れない。

手を出してやると、手すりに掴まっていなかった左手が俺の手に大人しく掴まってきた。

 

「おまえ、体力ねぇよな」

「せ……政行さんがありすぎなんだろ」

 

実琴はそう返してきたが、俺だって特に体力があるという程ではないはずだ。

大学までやっていた演劇部は文化部の中ではそこそこ身体を動かすし、ハードな部類になるだろうが、それでも運動部には敵わない。

一応、社会人になってからは運動不足にはならないように、時折早朝に軽く走ったり、駅一つ分歩いて行ったりはするが……そうか。

そういえば、ジムを使うって手もあるな。

 

「おまえ、ちょっとジムで鍛えるとかしてみればいいんじゃねぇの。いつまでも腹出ないからって油断してると、そのうち一気に来るぞ」

「あー……考えときます」

 

せっかく誘ったのに、実琴は全く乗り気じゃないらしく、俺から目を逸らす。

この、インドア野郎が。

こっちの気も知らないで、とつい溜め息を吐く。

 

「考えとく、じゃなくて実行しろよ。……早朝同じジムに通うようにすれば、また会う口実が増えると思えば悪くもねぇだろ」

 

回りくどく言うから伝わらないのかと、分かりやすく誘う。

そこで実琴の表情が変わったから、ようやく察したんだろうけど、次の瞬間には戸惑うように眉を顰められた。

 

「それは……そう考えたら悪くねぇけど。政行さん」

「ん?」

「本当に大丈夫なのかよ?」

 

『大丈夫』の意味は伝わったが、そうやって気を回されるのも逆にキツい。

実琴に気遣わせているのは、俺のせいだって分かっちゃいるが、その気遣いがもどかしい。

我ながら勝手な感情だ。

 

「……いい加減、バレちまった方が楽な気もしてるんだよな」

 

だから、ついそんな言葉が口をついて出てしまったが。

 

「…………今、なんて」

 

実琴にも聞こえてしまっていたらしい。

 

「何でもねぇよ」

 

誤魔化そうとそのまま階段を上がろうとしたが、実琴は動かない。

 

「待った! 何でもなくねぇだろ!? 言っとくけど! 俺、奥さんと別れて欲しいとか思ってねぇからな!?」

「……実琴」

 

泣きそうな目をしながらの訴えに、微かに胸が軋んだ。

……本心は多分、別のところにあると思うのに、それは押し込めるつもりなのか、震える声が言葉を続ける。

 

「息子さん、今受験生じゃねぇか。奥さんのお父さんだって、会社の上司なんだろ? 万が一にもバレたらとんでもねぇことになるのは、政行さんの方が分かってんじゃねぇのかよ……」

 

言われるまでもない。

確かに『今』は時期じゃない。

政弥が多感な思春期に加えて、受験も控えてるって今、直ぐに行動に移そうって訳じゃないが、色んな目処がついたら、いつか。

政弥が成人した辺りぐらいまでには、この関係に一区切りつけたい。

実琴が掴んでいる俺の手に力を籠めてきたから、俺も安心させてやるように握り返してやる。

 

「……そうだな。分かってる。少なくとも『今』はマズいって、ちゃんと分かってるから、心配すんな」

 

話を切り上げるつもりで、再び階段を上り始める。

実琴が、何か言いたそうにしている空気は読み取れたが、気付かないふりをした。

 

***

 

「あー……本気で帰りたくねぇ……」

 

新幹線のシートに身を沈めながら、実琴が呟いたのが聞こえた。

その言葉には同意だ。

一昨日の晩もこいつは可愛かったが、昨夜もたまんなかった。

部屋の露天風呂に酒を持ち込んで、軽く飲みつつ、単純に露天風呂から見られる景色と風呂を楽しむだけのつもりだったが、あんまりにもこいつが色っぽかったから、つい手出しちまったんだよな。

 

――政行さん……凄ぇ熱い。

 

実琴は昔から酒が入るとセックスしたがるというか、積極的になってくれて可愛いんだよなぁ。

酒の量には気をつけないと、勃たなくなるっていうおまけつきだが、適量だとかなり愉しめる。

結果、今日も観光は十分に出来たとは言いがたかったが、それでも二人で過ごす時間としては相当充実していた。

明日の夜も会うけど、それはそれとして、旅の終わりが近づいていることに寂寥感を覚える。

もっと、こいつと一緒にいられたらいいのに。

一日使って観光してもいいし、逆に一日中部屋の中でひたすら繋がってるってのも――なんて、考えていたら、実琴の中の熱を思い出してしまう。

ヤリたい盛りの中高生じゃあるまいし。

誤魔化そうと、ブランケットを右手に持ちつつ。

 

「同感だな。……実琴、ちょっと手貸せ」

「え、ちょ……」

 

返事も聞かずに、実琴の手を取って繋ぎ、手ごと覆うように二人の腰にブランケットを掛けた。

これで、手を繋いでいることも、うっかり軽く勃ってしまったことも一見分からない。

繋いだ手から伝わる温度が心地良く、邪な興奮は徐々に落ち着き始めた。

軽く息を吐くと、実琴が繋いだ手に少し力を入れてきた。

 

「政行さん」

「ん?」

「……旅行、凄ぇ楽しかった。ありがとう」

 

柔らかく微笑んだ実琴に、俺の方もつい笑みが零れる。

 

「俺もだ。……また何処か旅行しような」

「ん……」

 

どちらからともなく、繋いだ手の指を絡めると、実琴が目を閉じて眠る体勢に入った。

……やっぱり、大分疲れたんだろうなぁ。

ただでさえ、ドライでイクと結構後々まで影響残るって言ってたのに、ついその後のセックスも、昨夜も加減なんて出来なかった。

長い時間一緒に過ごせるとなると、とにかく触れていたいし、話していたい。

傍に居たいって思うのは、やっぱりこいつなんだよな。

十数年、離れていた分を取り戻すにはまだまだ足りない。

間もなく、実琴の寝息が聞こえてきて、少し首が傾き始めた。

こいつは寝入りばなは、結構眠りが深いのか起きないことが多いから、そっと自分の肩に実琴の頭を乗せる。

やっぱりイケメンは寝ててもイケメンだな。

キスしたくなりそうな衝動を抑えて、俺も少し眠ることにして、目を閉じた。

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