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Immorality of target 12<月刊少女野崎くん・堀みこ・R-18>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

堀先輩が離婚を決めたことを知った御子柴。ある種のプロポーズ。

初出:2015/05/08 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:9022文字 裏話知りたい場合はこちら

 

どうも、俺が体調を崩した後から、先輩の様子が少しおかしい。

最初、体調悪いから甘やかしてくれてんのかと思ってたけど、あれからかれこれ十日近く。

すっかり体調は回復したし、新人の指導の方も一区切りついて、俺の方は日常の落ち着きを取り戻したが、今度は先輩が少し疲れたような顔を見せることが多くなった。

それでいて、俺への接し方は随分甘くなった気がする。

 

――最近、仕事忙しいのか? 人に無茶苦茶やると身体もたねぇっつったんだから、政行さんも無理はすんなよ。

――んー……ああ、まぁ、仕事は大丈夫だ。おまえが心配することじゃねぇよ。

 

仕事『は』って言い方をしたのがどうにも引っかかる。

仕事じゃないなら、家の方で何かあったのかも知れねぇけど、そこに踏み込むのは躊躇われた。

息子さんは浪漫学園に合格してるってのは聞いたから、何か別の事情なんだろうとは思うけど、正直、積極的に自分から聞きたい話でもない。

ただ、先日、俺を病院に連れて行ってくれて、そのまま泊まっていった件がもし絡んでいるんだとしたら、やっぱり気付かないふりで流すのもアレだし。

世話になった詫びと礼を兼ねて、お菓子の詰め合わせは贈っておいたけど、逆にそれで勘ぐられてたりしてないだろうか。

 

「どうしたもんかなぁ……」

 

気になるぐらいなら、直接聞いてみろって話だが、生憎今日は土曜日。

基本的に先輩とは土日は連絡を取らないようにしている。

聞くんだとしても、月曜日だ。

よし、月曜日も先輩の様子がおかしければ、そこで一度問い質してみることにするか。

せっかくの休日だし晴れてもいるから、布団でも干そうと、昼前から干していた布団を取り込んで、寝室に持っていったところで――ベッドの枕元に置いてあった、先輩との連絡用のスマホが着信を知らせてた。

 

「へっ!?」

 

思いがけず、妙な声が出ちまう。

土日はこっちのスマホに電話は勿論、メールやメッセージなんかまず来ない。

第一、電話する時にしたって、先にメッセージで電話しても大丈夫かどうかの状況を尋ねてからっていうのが、お互いの間での暗黙の了解だ。

それが、いきなり電話かけて寄越すとか……マジで何かあったんじゃねぇだろうな。

 

「先輩!? どうかしたんすか?」

「あー……悪いな、急に。おまえ、今家か?」

「え、ええ。家に居ますけど……」

「今からそっち行っても大丈夫か?」

 

さらに驚いた。

土曜日に先輩が来るって、しかも今!?

 

「ああ、俺は大丈夫だけど……何かあったんすか?」

「……着いてから話す。あ、電車来たから切るな。十分くらいでそっち着くから」

「え、あ、ちょっ」

 

返事をする前に通話が切れた。

いや、相手は先輩だし、特に今日は外出予定もなかったから、十分くらいで来るつっても、そんな困んねぇけど。

 

「…………着いてから、なぁ」

 

でも、月曜日に聞こうかと思っていたことを聞くのにもちょうどいいかも知れない。

とりあえず、電気ケトルのスイッチだけ入れて、コーヒーでも淹れる準備するか。

あと、お茶請け……今、何があったっけ。

確か、先日同僚が旅行土産でくれたクッキーがまだ残ってたはずだ。

戸棚にしまいこんでたクッキーの缶を取り出して、電気ケトルのお湯が沸いたタイミングで、部屋にエントランスからのチャイムの音が響いた。

インターホンから確認してみると、やっぱりエントランスにいたのは先輩。

 

「はい」

「おう、俺だ」

「待って下さい、今開けるから」

 

オートロック解錠の操作をし、インターホンを切ると玄関の方に向かって、鍵を開ける。

廊下で足音が聞こえ始めたタイミングで、玄関の扉を開けて先輩を迎えた。

 

「どうしたんすか、土曜日に珍しいっすね」

「あー……まぁな」

 

玄関で靴を脱ぎながら、俺に応じた先輩は既に疲労感を漂わせている。

それもここ数日の少し疲れたような感じじゃなく、もっとしんどそうに見えた。

……マジで珍しいな。

 

「リビング行ってて下さい。今、お湯沸かしてたんでコーヒー淹れま……」

「実琴」

 

先輩に背を向けて、キッチンに行こうとした瞬間、後ろから抱き締められた。

両腕毎抱き締められて、身動きが取れなくなる。

肩にこつ、と先輩の頭が当たったのが伝わった。

 

「ちょ……っ、先輩!?」

「政行、だろ。……コーヒーはいい。膝枕してくれ」

「は!?」

「膝枕」

「……いや、まぁ、いいけど。ベッドでいいっすか?」

「ああ」

 

調子が狂う。

出合い頭にいきなり膝枕なんて、それこそ今までにした覚えねぇぞ。

先輩が腕を俺から離したところで、一緒に寝室に向かった。

 

***

 

「……ホント何があったんすか」

 

ベッドの上に座って、膝枕の体勢になると、先輩は顔を俺の腹の方に向けて、腰に腕を回し、抱き付くような体勢になった。

こんなんだと、いつもならあちこち撫で回したりしそうなのに、そういう気分じゃないらしい。

本当にただ抱き付いているだけだ。

甘えているっていうよりは、凹んでるっていうか……弱ってるなって印象だった。

何というか、普段の先輩の覇気がない。

先輩の髪を撫でていると、少し前まではなかったはずの白髪まで何本か見つけてしまった。

そりゃ、そろそろ年齢考えたら白髪が出始めてもおかしくないけど、どうも何かが引っかかる。

先輩が一瞬だけ俺の方に視線を向けて、溜め息を吐く。

 

「…………本当は、ちゃんと片がついてからおまえに話そうって思ったんだけどな」

「? 話?」

「女房と別れることにした」

「…………は!?」

 

いきなり切り出された爆弾発言に、思わず声が裏返る。

 

「ちょっと待って下さい! 俺、先輩のとこが別れるのは望んでないって前に言いましたよね!?」

「言ったな」

 

全く望んでいないかと言えば嘘になる。

が、いざ別れるとなると色々問題があった。

先輩の奥さんは先輩の上司の娘さんで、奥さん本人は結婚時に会社を辞めてるとは言っても、その父親である上司は今も会社にいるのに加えて、結構上の立場に居る人だ。

別れるなんてなったら、いくら先輩が出世株でも、人間関係に支障が出ないわけがない。

それに、息子さんだって高校受験が終わりはしたけど、まだ先には大学受験だってあるだろうし――先輩にとってはたった一人の息子さんを結構可愛がっているってのを知っている。

だからこそ、別れるまでは望んでないって言ったのに。

……これ以上は望むまいって思っていたのに。

 

「だったら、何で!」 

「俺がもう無理だからだ」

 

先輩の顔が俺の腹に押しつけられた。

腰に回されている腕にも力が入る。

 

「無理……って、何が」

「この前、おまえが倒れたときに実感した。こんな関係続けているうちは、おまえは俺に本気で甘えて来ねぇし、頼っても来ない。そうさせているのは俺のせいだってのは分かっているけど、それがキツい」

「……甘えてねぇわけでもないし、頼ってないわけでもねぇと思う、けど」

 

ちょっと言葉がつかえてしまったのは、心当たりが全く無かったわけでもないからだ。

けど、それはお互いいい歳だってのもあるし、先輩が既婚者だからっていう理由だけでもない。

 

「自覚がないとしたら、なお性質が悪い。……ぞっとした。この前は点滴で済んでも、お互い歳食ってきたし、いつまでも元気だとも限らねぇだろ。もし、大きい病気とかした時、別の家族を持っていたら、おまえの傍にいてやれるとは限らねぇって思ったら、苦しくて堪らなかった」

「待てよ。そうは言うけど、平日だったら、ほぼ毎日のように会っ……」

 

自分でも言いかけて気付いた。

俺がぶっ倒れたのが土日だったら、確かに先輩はうちに来られなかっただろうし、平日でも、実際、俺は前日の晩に理由をつけて、先輩に体調を崩したのを悟られまいとして嘘を吐いた。

…………一晩休めばどうにかなるだろうから、家庭のある先輩に頼っちゃいけないって。

 

「いい歳して大した事情もねぇ癖に、いざという時に宛てに出来ない恋人なんてろくでもねぇだろ。それでいて、こっちはおまえが独り身であるところに甘えてる部分が大きいし」

「政行さん」

「確かに俺はあの時、結婚する事を自分で決めたし、子どもを生んでくれた女房には感謝している。けど、ダメなんだ。おまえといると満たされていくのとは逆に、もう女房と過ごしていくことには違和感ばかりが増していく。……とてもじゃないが、この先一緒にやっていくことは出来ない」

「……でも、子どもは? 息子さんはどうすんだよ」

 

先輩のとこは子どもは一人きりだ。

どうしたって、どちらかを選ばなくちゃならなくなる。

 

「自分で選べる歳だ。どっちについていくかは本人が選ぶだろうし、本人の意思に任せようと思ってる。ま、でも多分母親についていくんじゃねぇのかな。……浮気した父親は選ばねぇよ。最低だって詰られたしな」

「まさか、言ったんすか!?」

「相手がおまえとまでは言ってねぇけど、離婚切り出した理由は言った。他に添い遂げたい相手がいるから、別れたいって」

「そん……」

 

そこまで既に話を進めてしまってるなんて、予想以上だった。

しんどそうにしてた訳だ。

会社では義父がいるから恐らくはそっちからも言われるんだろうし、家に帰れば妻子から言われる。

いくら、離婚話を切り出したのが先輩側だっていっても、たまったもんじゃないだろう。

そりゃ、疲れた顔にもなるし、白髪だって増えるわけだ。

 

「どうして……言わなかったんすか」

 

先輩は俺が甘えて来ない、頼って来ないって言ったけど、自分だってそうなんじゃねぇか。

 

「おまえがそんな風に自分を責めるような顔すんの、見たくなかったからな。あと、結局は俺の方の問題だし」

 

先輩が身体を起こして、俺の直ぐ横に座り、頬を撫でてくる。

……責めるような顔って何だよ。どんな表情してんだ、俺。

 

「けど、話し合いで揉めていて先に中々進まない。俺はもう家も貯金も向こうに一通り譲るって言ってるのに、納得しねぇんだ。……悪い。おまえ巻き込むことはしたくなかったけど、もしかしたら巻き込んじまうかも知れねぇ」

「政行……さん」

 

先輩が俺を抱き締めて、身体に回っている腕に力が入った。

 

「人生八十年あるって考えたら、今ならまだ半分残っている。そりゃ、実際はそれより短くなるかも知れないし、逆に長くなるかも知れないけど」

「…………半分」

「……俺の残りの人生、全部やるから、おまえの残りの人生、全部が欲しい。この先は、おまえと一緒に過ごしていきたい、実琴」

 

――衝撃に言葉が出てこない。

夢じゃねぇよな?

一緒に過ごしていきたいって、そう、聞こえた。

俺の人生全部が欲しいって。

まるで、プロポーズみたいな、そんな。

本気なんだろうか。

 

「……分かってんのかよ。俺相手だと、子ども持てねぇし、結婚って形も取れないんだぞ」

「分かってねぇわけねぇだろ」

 

寧ろ、今更何をって感じだな。と笑いさえ含んだ声が言う。

 

「息子は一人持てたし、結婚は出来なくても、養子縁組って形は取れるだろ。条例レベルでなら同性カップルを結婚に相当する関係と認めているところだってある。俺はおまえと他人のままで終わりたくない」

「政行さ……」

「仕事なら、他の会社から引き抜きの話が来ている。しばらく、年収は下がるだろうし、家のローンや向こうの生活費を考えると、当分ゆとりはなくなるかも知れないが、金はまた貯められるし、少なくともおまえと暮らしていく分には問題ねぇだろ」

 

心配するなとでも言うかのように、子どもをあやすように背中をぽんぽんと叩かれた。

 

「もう、世間体の為に自分も周りも誤魔化す真似はやめだ。……おまえさえいてくれるならいい。ずっと俺の傍にいろ、実琴」

 

柔らかい響きの声が、胸の奥を温かいもので満たしていく。

 

「俺で、いいの、かよ」

「おまえじゃなきゃダメだ。俺はおまえと一緒に歳を取って生きて行きたい」

「…………っ」

 

この抱いてくれている腕も、伝わる温もりも、馴染んだ匂いも……自分勝手で強引なところがある癖に、ふとした時に見せる優しさや気遣いが好きだ。

俺一人にそれが向けられたらって、再会してから何度思っただろう。

顔も知らなかった奥さんに嫉妬したし、顔を知ったら、なお、その感情は胸を酷く焦がした。

苦しいのに、先輩から離れることを考えるのはもっと苦しくて、何度も泣いた。

先輩が本当に俺一人のものになってくれるなんて嘘みたいだ。

視界が滲んでぼやけ始め、何か言葉を返そうとしても上手く出て来ない。

 

「実琴。……返事聞いてねぇぞ」

「……ダメだ、なんて言うわけっ……ないの、ぐらい……分かんだろ……っ」

 

止めようにも止まらない涙がぼろぼろと溢れ出してくる。

嬉しいのと申し訳ないのとがぐちゃぐちゃになって、自分でもどうしたらいいのか分からない。

先輩が重ねて来た唇が、妙にしょっぱいのは、俺が泣いてるせいだってのは分かったけど、だからといって唇を離す気にもなれなかった。

しばらく、貪るように口付けた後、先輩の手が俺の両頬を挟んで、優しい顔して笑いかけてくる。

 

「…………そうだな。見りゃ分かるか。ずっとキツい思いさせて、ごめんな」

「う……うあ……ああっ…………!」

 

――ずっと一緒にいたかったのは俺だ。

このまま家に帰したくなんかないって、いつも去って行く先輩の背中を見ながら思って。

直ぐにまた会えるって分かっていても、離れていくのが寂しくて堪らなかった。

俺だって、ずっと先輩の――政行さんの全部が欲しかった。

 

***

 

元々、政行さんとの身体の相性はいいって思ってたけど、今日はまた格別だ。

些細な指の動きや、肌に触れてくる唇や吐息が、いとも簡単に快感を追い上げていく。

前戯もそこそこに政行さんが欲しくなったら、政行さんも同じだったらしく、早々に挿れたいって言ってきた。

こういう風に求めるタイミングが合うって、やっぱり相性いいってことだよな。

 

「ふ……あっ、いい……っ、政行、さ……」

「んっ……」

 

熱が溶け込むように中に押し入ってくるけど、いつもより挿入時の違和感が少なくて、初っ端からかなり気持ち良い。

政行さんの方もあまり余裕がないのは、表情で伝わる。

そのまま奥深くまで繋がると、政行さんが唇を寄せてきたから、それを受け止めた。

入って来る舌の動きに連動して、繋いだ場所も小さく動いているのが、じわじわとさらに気持ち良さを押し上げていく。

 

「ん……政行さん、さ」

「あ……何、だ?」

「セックスで最初、凄ぇ……っ、キス、繰り返してくるよ、なっ……」

 

政行さんが動くのを止めないから、どうしても言葉が途切れ途切れになってしまう。

けど、動くのを止めたら止めたで、多分こっちも物足りなくなるのが目に見えているから、黙って動きに任せた。

 

「そういう……っ、おまえだって、イッた後、大体キスねだってくんじゃ、ねぇか……っ!」

「あ、ひゃっ、それ、は……んんっ!!」

 

政行さんが吐き出した後、中に感じる熱は勿論気持ち良いけど、無性にキスしたくなるんだよな、あのイッた直後のタイミングって。

 

「それがまた凄ぇ可愛い顔してねだるから、こっちは一回じゃ物足りなくなんだ、よ……っ」

「お……れのせい、かよ、それっ……! 政行……っ、さんが絶倫なだけ、じゃ……あああ!」

 

うっかり本音で返した言葉には行動で返される。

中を抉ってくる政行さんの動きは激しいのに、喉や肩に触れてくる唇は壊れ物でも扱うかのように優しい。

そのアンバランスさが作用しているのか、ぞわりと背筋を駆け上がった快感に身体が跳ねた。

ヤバい、これ、多分、ドライになりそうな感覚な気がする。

 

「あっ!? 待っ……た、ちょっ、動かな……!!」

「…………嫌だ」

「ま、さゆ……んんっ!!」

「明日、日曜なんだし、ドライでイッたって、どうにかなる……っ。だろ!」

「ふあ!! ひっ、や、あ!」

 

政行さんの方でも、俺がドライの方でイキそうなのが分かったらしい。

責める手を緩めてくれる気はなさそうだ。

それどころか、中に収まっている政行さんのモノが容量を増した気さえする。

 

「うああ!」

 

俺のモノを握られて、軽く擦られた時点で、持ちこたえられなかった。

かちり、とスイッチでも入ってしまったみたいに、身体全体の感度が変わる。

軽く重ねて来た唇でさえ、甘ったるい痺れが走って、腹の奥にまでその気持ち良さが広がっていく。

別に今日、特別なことなんてしてないのに。

何で、こんな。

 

「おまえさ」

「な、に……っ」

「結構、メンタルに影響されやすいよな、身体の反応」

 

言われてみれば、旅行中にドライでイッたときも、別に道具とか使っていたわけじゃない。

 

「……意外に、明日が休みだって日なら……っ、ドライでイケる、んじゃねぇ、の」

「ちょ、それ、キツ……っ、んん!! あ、や、ひあ!」

 

いくら何でも、毎週こんなんなってしまっていたら、絶対身体がもたない。

頭ん中ではそう本気で思ってるのに、身体の方は言うことをきいてくれない。

気持ち良すぎて、身体が崩れてしまいそうな位に思えるのが怖い一方で、どうなっても受け止めてくれる政行さんがいるって思ってしまっているからなのか。

快感が収まる気配が全く無い。

今、政行さんの身体に絡めているはずの手や足も、微かな動きで爪の先まで悦楽が走って行くから、本当に絡めていられているのかどうかさえ、自分の感覚ではあやふやだ。

 

「あ、ああ、政行、さ……っ、ひあ!! やめっ、中、止まっ……」

「……っ、おまえな……っ、この状況で、無茶、言うんじゃねぇ、よ……っ」

 

どうにか、目を開けて政行さんの顔を見ると、政行さんの表情も全然余裕がなかった。

そんな余裕のない顔が近づいて来て、耳元で低く囁きを落とす。

 

「怖く……っ、ねぇよ……ちゃんと、いる……からっ」

「ふ、あ、離さ、ない、で……っ。まさ、ゆきさ……!!」

「っ……みこ、と……っ」

 

再び唇を重ねて、舌を絡め合い、唾液を交換するかのように、ぐちゃぐちゃに動かす。

そういや、政行さんが煙草吸い始めた頃、このキスする時に煙草の味がしてくるのが嫌でぼやいたら、おまえも吸ってみたら意外と悪くないかも知れねぇぞって言われて……吸い始めたんだよな。

そして、結局そのまま俺も煙草をやめられなくなった。

多分、あれは数少ない共通点をもてたことも、やめられなくなった原因の一つだろう。

政行さんと別れた後も、やめようとしては失敗して、今に至る。

今となってはこうしてキスしてると、同じ煙草の味がするところが堪んねぇってくらいなのになと、懐かしい事が頭をよぎった。

同じ煙草と同じ香水。

セックスしてる時は、特に匂いでそれを意識させられる。

 

「ん、あ、ああ!」

「……っとに、色っぽい顔、しやがって……っ」

「ひっ!」

 

昔、ピアス穴を開けていた辺りに歯が立てられて、快感に背が仰け反った。

会社が五月蠅くて、就職後はピアスをしなくなったから、穴が閉じてから大分経つけど、まだ感じる場所だったってのも、政行さんとのセックスで自覚させられたんだよな。

いや、そもそもここが感じる場所だっていうのも政行さんに知らされたし、他の場所も全部、だ。

――愛しい。やっぱり、俺もこの人じゃなきゃダメだ。

歯を立ててきた場所に、政行さんも懐かしい事でも思い出してたんだろうか、なんて考えたら、それこそ堪らなくなって、こっちからも腰を動かした。

強い快感を貪っていくように動くと、目の前の顔がめちゃくちゃ嬉しそうになった。

 

「可愛い、な、実琴……っ」

「ま、さゆ……き、さ……!」

 

律動がより激しくなった。

擦れる度に繋がった場所から奏でられる淫らな音が、さっきよりも大きく部屋に響き渡る。

 

「二度と……っ」

「あ、ああ、うああっ!!」

 

――手放さないっ……。

 

強すぎる快感がついに臨界点を突破し、遠のいていく意識の中で、そんな政行さんの言葉が聞こえた気がした。

 

***

 

「……っと、元気だよなぁ」

 

つくづく明日が日曜だったことに感謝するほかない。

文字通り、足腰立たない状態にされてしまった。

いや、足腰どころか指一つ動かすのさえ、既におっくうだ。

この様子だと月曜日まで引きずりそうなのが、少しばかり恐ろしい。

ドライでイクと凄ぇ気持ち良いけど、このしばらく後引く感じだけ、どうにかなんねぇもんかなぁ。

ふとした瞬間に、政行さんの存在を感じられると思えば悪くはねぇけど。

それにしても。

政行さんの方はドライでイッたわけじゃないっつっても、あれだけ激しく動いて数回はイッてたはずだっていうのに、すっきりした表情さえ見せながら一服している。

何だ、この余裕っぷりは。

俺の一つ上だってのに、どこからこの精力が沸いて出るのかは、昔から疑問に思うところの一つだ。

結構本気で問い質したい。

 

「ん? そりゃ、おまえめちゃくちゃ反応良かったしな。そんなの見たら、こっちだって盛り上がっちまうに決まってんだろ」

「そんな……もんかよ」

 

盛り上がったままに動けるのが、もう何か違うと思うけどな。

俺のせいにされているような言われ方がイマイチ釈然としない。

俺だって、動けるならもっと、と思わなくもねぇけど、如何せん身体が言うことを効かなくなってくる。

今だって、俺も煙草を吸いたいけど、その為に身体起こすのがしんどい状況だ。

そんな風に思っていたら何かが伝わったのか、政行さんが吸っていた煙草を一度灰皿に置いて、俺にキスしてくれる。

口の中で馴染んだ煙草の味が広がって、煙草吸いたかった欲求とキスしたかった欲求が一気に満たされた。

ただ、そのせいなのか、気持ち良くて眠くなり始めた。

結局、夕方から飯も食わずにセックスして、気付いたら夜中になっちまったって状況なのに、食い気より眠気が勝る。

……まぁ、今日政行さん帰らねぇって言ってるし、いいよな、このまま寝ちまっても。

 

「…………政行さん」

「ん?」

「俺も……巻き込んじまって下さい」

「…………実琴?」

 

抗いがたい眠気で意識が飛びそうになりながらも、寝てしまう前にこれだけはと言葉にする。

 

「この先の……人生全部俺にくれるってなら、一人で背負おうとか……すんなよ。……俺も、一緒に背負いたい、か……ら」

「実琴」

 

二人で生きて行くなら、楽しいことや嬉しいことだけじゃなく、哀しいことも辛いことも分け合いたい。

きっと、喜びは倍に、哀しいことは半分になってくれる気がする。

政行さんが結婚してるって分かっていて、関係を持ってたのは俺だ。

政行さんだけが悪いわけじゃない。

俺にも背負わせて欲しかった。

甘えるし、頼るから、政行さんもそうして欲しい。

眠気で意識が霞んでいく中、微かにありがとうな、って声が耳に届いて、髪がそっと撫でられるのを感じた。

 

 

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