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Immorality of target 13<月刊少女野崎くん・堀みこ・R-18>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

離婚話に難航しつつも、御子柴を選んだ堀先輩。ある種のプロポーズ。

初出:2015/05/10 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:9936文字 裏話知りたい場合はこちら

 

正直、計算外だったと言って良い。

女房とは何年もレスだったし、家のことはよくやってくれていたとはいえ、悪い言い方をするならただの同居人に近い感覚だったから、向こうもそんなもんだろうって思い込んでいた。

財産と言えるものは全部譲って、政弥の養育費や学費も不自由はさせないと言えば、そう拗れずに離婚話は進むと高を括っていた部分があったのは否めない。

が、そんな何もかも譲ってでも別れて、一緒になりたい相手がいるということは、いたく女房のプライドを傷つけたらしい。

こいつにこんな激しさがあったのか、というくらいに激昂された。

 

――余所に子どもでも出来たの?

――いや。それはない。俺の子どもは政弥一人だ。今までもこれからもそこは間違いない。

――だったら。

――けど、添い遂げたい相手が居る。この先は、そいつと生きて行きたい。

 

実琴が相手だというのは伏せたが、離婚を切り出した理由は正直に言った。

 

――前触れもなしにいきなり言われて、はい、分かりました、なんて言えるわけないでしょう!? バカにしてるの!?

――バカにしてる訳じゃない。非は俺の方にあるのは十分分かっている。だから、何もかもおまえに譲るって言っている。

――……嫌よ。

――弥生。

――どうして? 上手くやってきたつもりだったわ。結婚してから家事も子育ても手なんて抜かなかった。貴方が私にとって自慢できる夫であるように、私は貴方にとって自慢できる妻でいたつもりだった。……何が不満だったのよ。

――……レスは離婚事由に相当するのは分かっているか?

――何よ、それ。今さらレスを楯にするの!?

 

全面的にこっちの非があると認めるのも逆にアレかと、レスについて持ち出したが、自分でも卑怯だとは思った。

仮に女房とレスじゃなかったとしても、俺は離婚を切り出すことになっていただろう。

結局、実琴じゃなけりゃダメだから。

が、レスについての話は火に油を注いだようだ。

女房は頑なに離婚拒否の姿勢を崩さなかった。

 

***

 

「冗談じゃないわよ! 私、絶対離婚なんかしないから!」

「おい! 話はまだ終わって……」

 

そして、今日も話し合いは途中で切り上げられる形にされた。

土曜日だし、休みだから話し合うにはうってつけだと、午後から話始めたが一向に進みやしない。

もう、離婚話を出してから十日ほど。

ずっとこんなことの繰り返しだ。

女房は席を立つと、リビングを出て、そのまま家も出て、外出していった。

多分、行き先はあいつの実家だろう。

離婚話を持ち出して直ぐに、あいつはそれを実家の親に報告した。

おかげで、義父も会社で顔を合わせるとそれとなく話題をそっちに持っていく。

話を切り出した以上、多少は覚悟していたが、義父も公私混同も大概にしてくれと言いたくなるしつこさで、どうにか離婚を回避させようという話にもっていく。

会社でも休まらない、家でも休まらないとなれば、癒やしは本当に実琴と会っている時ぐらいだ。

離婚話に片がつくまで、多少なりとも会う機会を減らすべきなのかも知れないが、そんな気にもなれなかった。

それこそ、気持ちのやり場がなくてキツい。

もう、今日は下手したら家には戻ってこないだろうと踏んで、俺も実琴のところに行くことにした。

休日も家に居ることが多いインドア派のあいつなら、かなりの確率で家にいるはずだ。

俺もリビングを出ようとしたところで、政弥がリビングに入ってきた。

 

「……出掛けるのかよ」

「ああ。母さんとの話も進まねぇからな。ちょっと出てくる」

「それ、母さんのところに行くんじゃなくて、相手の方に行くってことだろ。…………最低だな」

「……すまん」

 

吐き捨てるように言われても否定のしようがないから、それしか返せない。

自分が如何に最低な事をしてきたのかぐらい自覚はある。

しかし、女房の実家でなんてアウェイじゃ、それこそ話の続きなんか出来たもんじゃない。

それが分かっているから、女房も実家に逃げ込む。

狡いと思うが、俺にそれを責める資格はない。

 

「……ずっと、うちの親には問題なんかねぇって思ってたのに」

「おまえたちには悪いと思っている。……けど、もう無理だ」

「……親父」

「戸締まりだけ気をつけろ。……出掛けてくる」

 

傷ついたような政弥の表情から逃げるように、家を出て駅へと向かう。

電車が到着するまでの間に、実琴との連絡用のスマホを使って、実琴に電話を掛けた。

土日はお互い連絡しないようにしているから、もしかしたらこっちのスマホだと反応がないかも知れないと思ったが、留守電に切り替わりそうな手前のタイミングで、実琴が電話に出た。

 

「先輩!? どうかしたんすか?」

「あー……悪いな、急に。おまえ、今家か?」

「え、ええ。家に居ますけど……」

「今からそっち行っても大丈夫か?」

 

尋ねてはみるものの、行かないという選択肢は自分の中にはない。

今はとにかく、実琴の顔が見たくて仕方なかった。

 

「ああ、俺は大丈夫だけど……何かあったんすか?」

「……着いてから話す。あ、電車来たから切るな。十分くらいでそっち着くから」

「え、あ、ちょっ」

 

必要なことは述べたところで電車が到着したから、通話を切って電車に乗り込んだ。

席に座って何気なく辺りを見回したら、向かい側の席の端っこの方で、並んだ二人の若い男が楽しそうに何かを話しているのが見える。

最初は単に友人同士かと思ったが、少し様子を見てると何となくデキてるなってのを察した。

時折、お互いの目元が凄く優しく、相手に対して向けられている。

その様子にふと自分たちの若い頃が重なった。

……あのまま、俺が結婚しなければ今頃どうだっただろうか。

実琴のマンションがある駅について、すっかり歩き慣れた道を通り、エントランスへと入っていく。

チャイムを鳴らすと、直ぐに実琴がインターホンに出た。

 

「はい」

「おう、俺だ」

「待って下さい、今開けるから」

 

オートロックのドアが解錠され、奥にある階段を昇っていく。

実琴の部屋がある三階について、部屋に向かうと辿り着く前に玄関の扉が開いたのが見えた。

――ああ、やっぱりほっとするな、こいつの顔見られると。

 

「どうしたんすか、土曜日に珍しいっすね」

「あー……まぁな」

 

そりゃ、土曜日なんて普段会うことねぇもんな。

それも元はと言えば、俺のせいなんだが。

本来、一日ゆっくり休めるはずの休日は、気が休まらずに疲労感が抜けない。

 

「リビング行ってて下さい。今、お湯沸かしてたんでコーヒー淹れま……」

「実琴」

 

キッチンに行こうとしていた実琴を捕まえて、そのまま後ろから抱き締めた。

肩に頭を乗せると戸惑ったような声が聞こえる。

 

「ちょ……っ、先輩!?」

「政行、だろ。……コーヒーはいい。膝枕してくれ」

 

何か飲むよりも、実琴に傍に居て欲しい。

直ぐにセックスという気分でもないけど、離れたくなかった。

 

「は!?」

「膝枕」

「……いや、まぁ、いいけど。ベッドでいいっすか?」

「ああ」

 

困惑しつつも、何だかんだで要求に応じてくれるこいつが可愛い。

腕を一旦実琴から離して、二人で寝室に向かった。

 

***

 

普段のセックスはどうしても時間の都合で、終わった後にゆっくり過ごしているような余裕はない。

だから、あまり膝枕したり、してやったりというのもしてこなかったが、凄ぇ落ち着く。

やっぱり、俺の居場所はこいつの傍なんだっていう気がするんだよな。

 

「……ホント何があったんすか」

 

髪を撫でてくる手は気遣ってくれているのか、触れ方が優しい。

優しいのは手だけじゃなく声もだ。

いきなり普段は会わない日に来て、ただこうして膝枕してもらって、腰に抱き付いているだけの状態じゃ、やっぱり何があったのか気になるんだろう。

優しく接してくれる実琴に、つい甘えたくなってしまった。

――もう、言ってしまってもいいだろうか。

出来れば、離婚話にけりを付けてからなんて思っていたけど、女房との話が難航しそうだしな。

ちらっと実琴を見ると、心配そうな顔でこっちを見てる。

何かあるんだと察しただろう状態で隠しているのも、かえって余計に心配を煽るだろう。

 

「…………本当は、ちゃんと片がついてからおまえに話そうって思ったんだけどな」

「? 話?」

「女房と別れることにした」

「…………は!?」

 

変に裏返った実琴の声に動揺の大きさが伝わる。

 

「ちょっと待って下さい! 俺、先輩のとこが別れるのは望んでないって前に言いましたよね!?」

「言ったな」

 

温泉旅行の時に確かに言われた。

でも、それを言った時の実琴は泣きそうな目をしていた。

そして、今も。

あの時にしたのと同じような目をしてる。

 

「だったら、何で!」 

「俺がもう無理だからだ」

 

実琴の視線を感じながらもそっちは向かずに、実琴の腹に顔を押しつける。

腰に回した手にもつい力を入れた。

 

「無理……って、何が」

「この前、おまえが倒れたときに実感した。こんな関係続けているうちは、おまえは俺に本気で甘えて来ねぇし、頼っても来ない。そうさせているのは俺のせいだってのは分かっているけど、それがキツい」

「……甘えてねぇわけでもないし、頼ってないわけでもねぇと思う、けど」

 

言葉尻が小さくなったのは、全く自覚がないわけでもねぇんだろうけど、それを口にして訴えて来ないということが、また切ない。

俺たちが若かった頃――そう、さっき電車で見かけたやつらくらいの年の頃は、こいつはもう少し、俺に甘えることが出来ていたはずだ。

再会してからしばらくして、実琴が時々見せる哀しそうな目が気になっていたが、それが俺のせいだってのは流石にそうしないうちに気付いた。

どこか諦めたようにも見える目をさせているのは、俺だっていうのが堪えた。

 

「自覚がないとしたら、なお性質が悪い。……ぞっとした。この前は点滴で済んでも、お互い歳食ってきたし、いつまでも元気だとも限らねぇだろ。もし、大きい病気とかした時、別の家族を持っていたら、おまえの傍にいてやれるとは限らねぇって思ったら、苦しくて堪らなかった」

「待てよ。そうは言うけど、平日だったら、ほぼ毎日のように会っ……」

 

実琴が言いかけた言葉は途中で途絶える。

これは自分でも分かったんだろうな。

実琴がぶっ倒れたのは平日だが、こいつは最初どうしても外せない仕事先との飲み会がある、なんて誤魔化した。

俺に体調の悪いことを隠そうとして。

昔だったら、そんなこと絶対にしなかった。

実琴を手放せないで居るくせに、苦しい思いをさせているのも俺だ。

家庭を持ちながら、実琴も得ようなんて甘い話だった。

その結果の一つがああいう形で出たとも言える。

 

「いい歳して大した事情もねぇ癖に、いざという時に宛てに出来ない恋人なんてろくでもねぇだろ。それでいて、こっちはおまえが独り身であるところに甘えてる部分が大きいし」

「政行さん」

「確かに俺はあの時、結婚する事を自分で決めたし、子どもを生んでくれた女房には感謝している。けど、ダメなんだ。おまえといると満たされていくのとは逆に、もう女房と過ごしていくことには違和感ばかりが増していく。……とてもじゃないが、この先一緒にやっていくことは出来ない」

 

一緒に過ごしていきたい相手は実琴だと、認めるのに時間がかかった。

けど、一度認めて自覚してしまった今となっては、一刻も早く女房と別れてしまいたい。

そして、こいつと一緒にいたい。

自分勝手な感情だと分かっていても、もうどうしようもなかった。

 

「……でも、子どもは? 息子さんはどうすんだよ」

「自分で選べる歳だ。どっちについていくかは本人が選ぶだろうし、本人の意思に任せようと思ってる。ま、でも多分母親についていくんじゃねぇのかな。……浮気した父親は選ばねぇよ。最低だって詰られたしな」

 

言われて当然だとはいえ、流石に自分とそっくりの政弥に言われるのは堪えた。

あいつからしたら、他の人間と添い遂げたいなんて言いだしたのは、自分と母親への裏切り行為でしかないんだから、当たり前っちゃ、当たり前なんだが。

 

「まさか、言ったんすか!?」

「相手がおまえとまでは言ってねぇけど、離婚切り出した理由は言った。他に添い遂げたい相手がいるから、別れたいって」

「そん……」

 

実琴が髪を撫でていてくれた手はいつしか止まっていた。

二の句が告げられないままに、ややあって、溜め息交じりの声が聞こえる。

 

「どうして……言わなかったんすか」

「おまえがそんな風に自分を責めるような顔すんの、見たくなかったからな。あと、結局は俺の方の問題だし」

 

横になっていた身体を起こして、実琴の隣に座って、頬を撫でた。

突然会えなくなってしまった実琴に会いたくてたまらなくて、仕事を隠れ蓑にし、再会まで漕ぎ着けた。

それは、こいつにこんな顔をさせたかったからじゃない。

 

「けど、話し合いで揉めていて先に中々進まない。俺はもう家も貯金も向こうに一通り譲るって言ってるのに、納得しねぇんだ。……悪い。おまえ巻き込むことはしたくなかったけど、もしかしたら巻き込んじまうかも知れねぇ」

「政行……さん」

 

実琴を強く抱き締めると、ふわりと馴染んだ煙草と香水の香りがした。

この香りは俺たちの数少ない共通点。

一緒に過ごしていくことで、もっとそれを増やしたかった。

同じ時間を共有したい。

 

「人生八十年あるって考えたら、今ならまだ半分残っている。そりゃ、実際はそれより短くなるかも知れないし、逆に長くなるかも知れないけど」

「…………半分」

「……俺の残りの人生、全部やるから、おまえの残りの人生、全部が欲しい。この先は、おまえと一緒に過ごしていきたい、実琴」

 

一緒に色んな事を話したり、色んな場所に行ったりして、出来るものなら最後の瞬間はこいつが傍にいてくれたらと思う。

抱いている身体がびくりと震えた。

お互いに無言のままの時間がしばし続いて、それが妙に長く感じられた。

 

「……分かってんのかよ。俺相手だと、子ども持てねぇし、結婚って形も取れないんだぞ」

「分かってねぇわけねぇだろ。……寧ろ、今更何をって感じだな」

 

それが分かっていたから、一度は結婚する道を選んだ。

こいつともそれでもやっていけるなんて、愚かなことを考えていた。

今となっては、そんな自分のバカさ加減が情けない。

 

「息子は一人持てたし、結婚は出来なくても、養子縁組って形は取れるだろ。条例レベルでなら同性カップルを結婚に相当する関係と認めているところだってある。俺はおまえと他人のままで終わりたくない」

「政行さ……」

 

結婚だって、紙切れ一枚とはいうが、公に認められたパートナー、そして子どもの立場っていうのは強い。

今のままでは、俺たちはどこまで行っても他人にしかならない。

でも、養子縁組をするなり、条例で認められるような関係にさえなれば、他人では終わらない。

俺と実琴が他人の目から見ても、特別な関係であるって分かるようにしたかった。

 

「仕事なら、他の会社から引き抜きの話が来ている。しばらく、年収は下がるだろうし、家のローンや向こうの生活費を考えると、当分ゆとりはなくなるかも知れないが、金はまた貯められるし、少なくともおまえと暮らしていく分には問題ねぇだろ」

 

二人だったら、どうにでもなるという根拠のない自信があった。

こいつと一緒に過ごしていけさえするのなら、他の色んな問題なんて些細なものだ。

実琴の背中をあやすように軽く叩くと、抱いた身体が小さく震えだした。

 

「もう、世間体の為に自分も周りも誤魔化す真似はやめだ。……おまえさえいてくれるならいい。ずっと俺の傍にいろ、実琴」

「俺で、いいの、かよ」

 

震えた声が念を押すように尋ねてくる。

 

「おまえじゃなきゃダメだ。俺はおまえと一緒に歳を取って生きて行きたい」

「…………っ」

 

泣くのを堪えている様子が伝わった。

返事をしようにも、声が出ないのかも知れないけど、俺もちゃんと実琴の言葉を聞きたい。

 

「実琴。……返事聞いてねぇぞ」

「……ダメだ、なんて言うわけっ……ないの、ぐらい……分かんだろ……っ」

 

途切れ途切れになった涙声に続いて、肩に実琴の涙が当たり始めた。

顔を上げさせて、実琴にキスすると柔らかい感触を貪る。

塩気のある味は涙のせいだが、それを咎める気にも、唇を離す気にもならない。

ようやく唇を離したところで、既に涙でぐしゃぐしゃになってきている実琴の両頬を包むように手で挟んだ。

……嫌だと少しでも思うなら、こんな反応しねぇよな。

 

「…………そうだな。見りゃ分かるか。ずっとキツい思いさせて、ごめんな」

「う……うあ……ああっ…………!」

 

堰を切ったように、本格的に泣き始めた。

きっと、俺の知らないところでこいつを沢山泣かしただろう。

もう一度ごめん、と呟いたら、実琴の腕も俺の身体に強く回された。

 

***

 

身体と心は別物だ、なんていうけど、全く影響しないかっていうとそういうわけでもない。

再会してからは特にだが、実琴とは何となく波長みたいなものが昔から合う気がする。

俺が実琴を触って、実琴も俺を触って。

何気ない動きでも、それが滅茶苦茶気持ち良い。

おかげで、そう時間も経たないうちに挿れたくて堪らなくなったが、実琴も一瞬の躊躇いもなく、こっちの要求に応えてくれた。

この感覚がさらに興奮を煽るし――愛しさも増していく。

 

「ふ……あっ、いい……っ、政行、さ……」

「んっ……」

 

擦れた実琴の声が、甘い快感をもたらしてくれる。

繋がった場所は絶妙な締め付けで、あまり長持ちしそうになかったが、実琴も俺の感覚とそう違いがなかったらしい。

実琴の一番奥まで身体を沈めて、キスをする。

唇の合間から忍ばせた舌を少し動かし、その動きに合わせるように身体を繋いだ場所も揺らす。

唇を離すと、実琴が熱っぽい吐息混じりで言葉を紡いだ。

 

「ん……政行さん、さ」

「あ……何、だ?」

「セックスで最初、凄ぇ……っ、キス、繰り返してくるよ、なっ……」

 

動きは止められず、けどあまり早くもイキたくもなくて、小さく動きながら話を続ける。

 

「そういう……っ、おまえだって、イッた後、大体キスねだってくんじゃ、ねぇか……っ!」

「あ、ひゃっ、それ、は……んんっ!!」

「それがまた凄ぇ可愛い顔してねだるから、こっちは一回じゃ物足りなくなんだ、よ……っ」

 

あれは犯罪級の可愛さだ。

蕩けきった表情と熱を秘めた視線でキスなんてねだられたら、そりゃ収まった興奮が直ぐさま復活するに決まっている。

イッた直後のタイミングを俗に賢者タイムなんて言うが、そんなものさえ瞬時に吹き飛んでしまうくらいの勢いだ。

 

「お……れのせい、かよ、それっ……! 政行……っ、さんが絶倫なだけ、じゃ……あああ!」

 

生意気なことを言ってきた実琴の中を強めに抉る。

でも、時々は動きを加減して、汗ばんだ喉やら肩やらに、そっとキスすると、またそこで実琴が身体を震わせた。

相手が快感を感じている様がダイレクトに伝わってくるのは、至福の一瞬だ。

求めがいがあるし、こっちも強く求められている気がして堪らない。

強めに奥をついた瞬間、実琴がびくりと身体を大きく跳ねさせた。

 

「あっ!? 待っ……た、ちょっ、動かな……!!」

 

御子柴の中が細かく震えてる。

汗もさっきより掻いているように思えて、ぴんと来た。

多分、これ、ドライイキに入りそうなパターンだ。

 

「…………嫌だ」

「ま、さゆ……んんっ!!」

「明日、日曜なんだし、ドライでイッたって、どうにかなる……っ。だろ!」

「ふあ!! ひっ、や、あ!」

 

実琴の声がさっきより大きく上がる。

それに気を良くして、中を擦ってやりながら、実琴のモノを握る。

 

「うああ!」

 

多分、そこが臨界点だった。

こうなったら、実琴は些細な動きでも強い反応を返してくれる。

くそ、ホント可愛いったらねぇな。

再び、唇を寄せて軽く吸い上げただけで、繋がった場所が優しくうねる。

もっと深くに来いと引きずり込むかのようだ。

包まれた熱の熱さに、まだイカないよう気をつけながら、動く。

 

「おまえさ」

「な、に……っ」

「結構、メンタルに影響されやすいよな、身体の反応」

 

それこそ一番最初はドライでイカせられるかどうかは試行錯誤で、道具も使ってようやくって感じだったが、一度開放させてしまうと、こいつは道具なんか無くてもドライでイケるようになった。

この前の旅行でも、多分開放感が鍵となったんだろう。

ホント、分かりやすくて、無茶苦茶可愛い。

 

「……意外に、明日が休みだって日なら……っ、ドライでイケる、んじゃねぇ、の」

「ちょ、それ、キツ……っ、んん!! あ、や、ひあ!」

 

俺の身体に絡めて来ている手足からも震えが伝わる。

際限のないような快感に浸して、どこまでも感じさせてやりたい。

 

「あ、ああ、政行、さ……っ、ひあ!! やめっ、中、止まっ……」

「……っ、おまえな……っ、この状況で、無茶、言うんじゃねぇ、よ……っ」

 

だから、止まれない。止まれるわけがない。

大体、こっちだって、もう長くはもちそうにねぇ。

怖いくらいの快感だと実琴は言うけど、怖くなんかないんだと、少しでも安心させようと実琴の耳元で、傍にいるのを伝える。

 

「怖く……っ、ねぇよ……ちゃんと、いる……からっ」

「ふ、あ、離さ、ない、で……っ。まさ、ゆきさ……!!」

「っ……みこ、と……っ」

 

『離さないで』の言葉が胸を熱くする。

とうとう、持ちこたえられずにイッた。

……それこそ、死んでも離しなんかするかよ。

呼吸を整えながら、もう一度キスして、舌を絡めて、互いの味を確認するように、口内を貪り合う。

離れていた間も変えられなかったっていう、俺と同じ銘柄の煙草の味を愉しんでいると、目元も耳も赤く染めて、艶っぽい声を零した。

それだけで、収まりかけていた興奮は容易く復活する。

 

「ん、あ、ああ!」

「……っとに、色っぽい顔、しやがって……っ」

「ひっ!」

 

ピアス穴は塞がっても相変わらず性感帯のままだった場所に、少し強めに歯を立てると実琴の背が撓った。

そろそろ動けなくなるだろうかと思いきや、実琴の腰が俺の動きに合わせてうねり始めた。

自分の快感を求める意味もあるだろうが、俺を感じさせたいからってのもあるんだろう。

実琴の目が気持ち良い?と問いかけてきたかのように見えて、こっちも再び最後に向けて激しく動き始めた。

 

「可愛い、な、実琴……っ」

「ま、さゆ……き、さ……!」

 

呼ばれる名前には甘い響きが籠められている。

愛しくて愛しくて堪らない。

突き上げを強くして、ぐちゃぐちゃと激しい水音に紛れさせながら、望みを口にした。

 

「二度と……っ」

「あ、ああ、うああっ!!」

「手放さないっ……」

 

あんな愚かな真似は二度としない。

こいつが、実琴が傍にさえいてくれるなら、他の誰にどう責められたっていい。

意識を手放す瞬間、俺の言葉に実琴がふっと微笑んで……繋がった場所の力が抜け、俺も熱を吐き出した勢いのままに、実琴の身体の上に倒れ込んだ。

 

***

 

「……っと、元気だよなぁ」

 

俺がベッドに腰掛けながら煙草を吸っていると、実琴がぼそりと呟いたのが聞こえてきた。

実琴の方はと言えば、起きる気力もないらしく、ほとんど身動き一つしない。

 

「ん? そりゃ、おまえめちゃくちゃ反応良かったしな。そんなの見たら、こっちだって盛り上がっちまうに決まってんだろ」

「そんな……もんかよ」

 

ドライでイクのもしんどいんだろうなと思いつつ、あの時の実琴の反応が極上過ぎて、いざドライでイケそうだって分かってしまったら、全然加減出来る気なんかしねぇんだよな。

好きなやつが無防備で、それでいて可愛い姿をさらけ出してくれるところを我慢出来るやつなんか、いるはずねぇ。

何となく口元に視線を感じたから、煙草を一度灰皿に置いて、実琴にキスすると、実琴の表情が嬉しそうに和らいだ。

こういうとこ見ると、やっぱりこいつのことが凄く好きだって実感させられる。

実琴の笑顔一つで、こっちまで笑ってしまいそうになった。

 

「…………政行さん」

「ん?」

「俺も……巻き込んじまって下さい」

「…………実琴?」

 

セックスの疲れと、既に深夜に差し掛かった時間帯のせいか、瞼の落ちかけている実琴が、眠そうな声をしながらも会話を続ける。

 

「この先の……人生全部俺にくれるってなら、一人で背負おうとか……すんなよ。……俺も、一緒に背負いたい、か……ら」

「実琴」

 

――元はといえば、俺が愚かな選択をしたせいだってのに、そんなことを言ってくれる。

……そうだな。

俺の残りの人生を全部やるから、おまえの残った人生を全部くれって言ったのは俺だ。

そのおまえがそう言ってくれるのなら、何もかも全部、分け合って一緒に生きて行こう。

 

「……ありがとうな」

 

時間が掛かってしまったけど、ようやく全部を得られた大事な相手に礼を言いながら、赤い柔らかな髪をそっと撫でてやると、微かに口元に笑みが浮かんで、やがて寝息が聞こえ始めた。

 

 

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