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Immorality of target 14<月刊少女野崎くん・堀みこ・R-15>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

12&13の翌朝。そして、離婚話開始から一ヶ月後。堀先輩の奥さんに御子柴が不倫相手だと知られる。

初出:2015/05/13 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:12582文字 裏話知りたい場合はこちら

 

[御子柴Side]

 

「政行さん、朝飯にピザ頼んでもいいか?」

 

とは言うものの、朝というより既に昼に近い。

俺がようやく起きられたのはそんな時間帯だったが、政行さんはとっくに起きてシャワーも浴び終わっていたところだった。

結局、昨日泊まっていった政行さんは昼には帰るって言ってたから、食っていく位していくだろうと、尋ねてみる。

 

「ん? ああ。何なら、食材あれば適当に作ってやるけ、ど……っておい」

 

うちの冷蔵庫を開けた政行さんが、軽く溜め息を吐いたのが聞こえた。

溜め息の理由は改めて聞くまでもなく、心当たりがある。

今、うちの冷蔵庫は適当に何かを作れるような食材というのがまずないからだ。

 

「……おまえ、日頃の食生活大丈夫かよ」

「…………一応、釈明させて貰えれば、昨日の夜に色々買いに行くつもりだったんだよ。平日だって偶に夕食作ってるじゃねぇか」

 

セックスしているうちに夜中になったから、見事に予定が潰れただけで、買い物し損ねてしまった理由の半分は政行さんのせいだとも言える。

 

「じゃ、今日はピザにしとくか。おまえ、いつも何処の頼んでる?」

「ピザ自体一人じゃ注文しねぇよ。小さいサイズでも持て余しちまう。だから、政行さんいるタイミングで頼もうかと」

「あー、それもそうか。……若い時に比べて、胃に重く感じるようにもなったしな。ジャンクフードの類って」

「そうそう。気付いた時は軽くショックだったなー」

「おまえ、ハンバーガーとか好きだったもんな。俺も昔みたいにはラーメン食えなくなったわ」

 

リビングに置いてあるタブレットの電源を入れて、色んな種類の宅配デリバリーを注文出来るサイトを開く。

横で見てた政行さんが、ページをスクロールしてた途中で指差してきた。

 

「あ、特に何処のっていうのがないなら、食ったとこないやつの頼んでいいか? 気になってたんだけど、中々機会もなくてな」

「いいぜ。あ、そこのは俺も食ったことない」

「じゃ、ここにするか」

 

こんな何気ない会話も嬉しい。

今日はこの後、政行さんは自宅に帰っちまうけど、そのうちこうやって一緒に過ごせるようになるのかと思うと楽しみだ。

半分ずつ自分の好みのピザを選んで注文を終わらせると、政行さんが俺の方をじっと見てたのに気がついた。

 

「何だよ」

「そりゃ、こっちの台詞だ。……実琴。おまえ、何て顔してんだよ」

「ん? 何か変な顔でもしてたか?」

「そんな風に笑ってるとキスしたくなる」

「笑っ…………ん」

 

顎を捉えられて、唇が重ねられる。

触れ合わせるだけの柔らかい感触が気持ち良いと、そのまま身を委ねてたら、政行さんの手が胸元を探り始めたから、唇を離し、焦りながら探る手を止めた。

 

「ピザ! 昨日、散々ヤッたんだから栄養補給させろよ、マジで腹減ってんだから!」

 

いくら何でも、これ以上空腹で動くような余力なんか無い。

正直なところ、まだ横になっていたい位には昨夜の行為は尾を引いている。

が、政行さんはそれが不満だったのか、ちょっと拗ねたような顔で舌打ちした。

 

「ちっ」

「ちっ、じゃねぇっての! あと、俺まだ風呂入ってねぇんだからな。今から軽くシャワー浴びるから、俺が入ってる最中にピザ来たら政行さん受け取っててくれ」

「わかったって」

 

……政行さんと一緒に過ごせるようになるのを想像すると楽しみではあるんだけど、ただでさえ絶倫なこの人が、休みの日どうなるのかが、些か不安になった。

 

***

 

ピザとサラダ、ついでにポテトも頼んでみたが、やっぱりちょっと量が多かったようで、半端に残ってしまった。

まぁ、この残りは俺の夕食に回せばいい話だ。

食後にコーヒーを淹れ、ソファに並んで座り、二人で煙草を吸って一服する。

 

「政行さん、何時頃向こうに帰る?」

「もうちょっとしたら帰る。まぁ、女房も多分実家の方からまだ戻ってねぇような気がするけど」

「……待てよ。息子さんは? 息子さんも奥さんの実家?」

 

そういえば、息子さんについては聞いてなかったことに気付いて尋ねてみる。

 

「家じゃねぇのかな。昨日、女房が外出したときには一緒に行ってねぇから」

「じゃ、息子さんは家に一人ってことか?」

 

両親が居ない家に、一晩一人きりで過ごした?

ちくりと胸の奥に針で刺したような痛みが走る。

 

「ああ、多分。まぁ、小っちゃいガキでもねぇから、大丈夫だろ」

「よくねぇって!」

「……実琴?」

 

つい、声を荒げてしまったけど、それにびっくりしたらしい政行さんが怪訝そうに俺を見てた。

 

「え、あ、ごめん。……何て言うか、俺も一人っ子だから、ちょっと親が揉めてて、それで兄弟もいなくて、一人で誰も居ない家に過ごすってなってたらキツい、かな……って」

「実琴」

 

確かに、一人で過ごしたところで自分で飯の準備とかも出来ない歳じゃないだろうけど、きっと心細い思いをしている。

政行さんと一緒に一晩過ごしていたのは俺だから、それで気が咎めたっていうのもあるけど、昔のことがふと頭をよぎった。

煙草を灰皿に押しつけて、政行さんの肩に寄りかかる。

 

「……昔さ、うちの親が共働きで日中いないこと多かったから、うちに来てセックスすること結構あっただろ? あの時期、親が家に居なかったのは共働きってのも確かに理由の一つだったけど、ちょっとうちの親が険悪ムードだったから、あまり家に帰ってこなかったってのもあったんだよな」

「……初めて聞いたぞ、それ」

「そりゃ、初めて言うし。…………今だから言うけど、当時、政行さんの誘いに乗ったのは、寂しかったから、ってのも正直あった」

 

何だかんだで、うちの親が険悪だったのは、本当にあの一時期だけで結局収まるとこに収まったらしく、今はごく普通の夫婦だけど、当時そうなった理由は未だに親に聞けていない。

当時は少し家の中が居心地悪くてしんどかった。

ノアもいたし、ゲームやら漫画やフィギュアやらで気を紛らわせたりも出来たけど、一抹の寂しさは消えてくれなくて。

そんなタイミングで、政行さんに一度経験してみたらなんて言われ、直接人の体温を感じるようなことをしたら、少しは寂しさを埋められるだろうかって思ってしまった点は否めない。

 

「おまえ……」

「ごめん。褒められた行為じゃなかったのは分かってる」

「…………そんなん言いだしたら、俺も最初の動機は不純だからな。セックスへの好奇心と興味が大きかった。謝るこたねぇよ」

 

政行さんの手が、肩に寄りかかっている俺の頭を撫でてくれるのが心地良い。

 

「……それにそりゃ昔のことで、今は俺を好きだろ?」

「うん」

「俺もだ。始まりはそうでも、今は違う。ちゃんとおまえが好きだ」

 

久々に再会した夜、必死な顔して俺を求めてきたのは忘れない。

自分の中でも政行さんが忘れられなかった存在だったってのいうのを、実感させられたし、政行さんもそうだったってのは伝わった。

 

「……分かってる。だからさ、政行さん」

 

肩から頭を起こして、政行さんに向き合う。

髪を撫でていてくれた手を取って、少し強めに握った。

 

「息子さんのことは考えてやれよ。きっと凄くキツい思いしてると思う。後にも先にもたった一人の子どもだろ?」

「実琴」

「俺がいうのはお門違いだって分かってる。余計なお世話だっていうのも。だけど……」

 

昔の自分に息子さんが重なってしまったせいだろうか。

政行さんとそっくりな息子さんに対しての罪悪感もあるかも知れない。

罪悪感という点では奥さんにもあるけど、そっちに対しては理不尽な腹立たしさもあるから、どうにも抱く感情の種類が違ってくる。

そんな俺の複雑な思いを察してくれたのかどうか。

政行さんが、俺の額に額をこつんとぶつけて来た。

 

「わかったから、そんな顔すんな。……なぁ、実琴」

「ん?」

「そうやって、何か思うとこあったりしたら、今みたいに言ってくれ。何でも聞くし、俺も言うようにするから」

「…………ああ」

 

穏やかに言ってくる声に今までよりも深く通じ合った気がして、幸せを噛みしめていた。

 

***

 

離婚話を奥さんに切り出したと聞いてから早一ヶ月。

政行さん側からの話でしか分からないけど、奥さんは全然譲るような様子がないらしい。

まともに話にならねぇ、と最近の政行さんは二言目にはそれを口にする。

今日も会社が終わった後、疲れた様子で俺の家に来た。

心なしか、離婚話以降少しずつ白髪が増えてきてる気がする。

 

「くそ……相変わらず、話が進みやしねぇ」

「奥さんにしたら、いきなり切り出された形だしな。……お疲れ」

「ん」

 

政行さんが抱き付いてきたから、俺の方からも腕を回して抱き締める。

離婚の話し合いも進めなきゃならないからと、前よりも滞在する時間は短めにしていた。

セックスも一時期ほど連日ではしていない。

勿論、したくはあったけど、お互いに何となく、ちゃんと蹴りをつけてからというのが何処かにあるからか、セックスの頻度は落ちていた。

それでも、二人の間にある絆みたいなものは前よりも実感していたし、不安が全く無いかといえば嘘にはなるが、離婚話が出る前に比べると苦しさや切なさみたいなものは大分無くなっていた。

 

「実琴」

「うん?」

「ここに俺の私物少し持ってきてもいいか?」

「俺は構わねぇけど……それで話進めるのに不利になったりとかしないのか?」

 

話し合いで解決出来そうにないなら、調停に進むことになるらしい。

けど、今回のケースでは有責となると政行さん側だから、そうなった時にどうなんだろうかと気になったけど。

 

「……最悪だと、長期間別居って形とって、生活費も払いつつ離婚するタイミングを窺ってってなるかも知れねぇ。俺としてはあいつとの関係を修復する意思はないし、長引かせたくもないんだけどな」

 

政行さんの手が俺の頬に触れてくる。

俺もその手に自分の手を重ねながら、もう一方の手で政行さんの頬に触れる。

皺も少し増えた気がしたが、どういうわけか肌触りは昔に比べて馴染む気がしていた。

 

「政行さん」

「ん?」

「……勿論、俺だって早く一緒に過ごしたいってのはあるけど。でも、慌てないからな? あんまり無茶するようなことはすんなよ」

 

大体、一度政行さんと別れて、再会するまでの年数を考えたら、今更どうってことはない。

数年待つことになったって、今はもう一人じゃないって思うだけで、心が軽くなるのが自分でも分かる。

 

「ああ。……でも、俺が早くおまえと一緒に過ごしたい」

「……うん」

 

今日は触ってもいいか、って問いには素直に応じ、寝室で束の間の行為に没頭した。

 

***

 

駅まで政行さんを見送って自宅に戻り、そういえば、今日はまだポストの中を見てなかった事に気付く。

エントランスにあるポストの鍵を開け、中に入っていた数点の封筒を取り出した。

部屋に戻ってから、封筒を確認していたが、そのうちの一つが妙に引っかかる。

 

「? 何だ、これ? サンプル品?」

 

表にそう書かれた封筒を振ったら、カシャカシャと中で何かが鳴る音がする。

何だろ、特に消印とかもねぇし、各世帯に適当に配ってるやつか?

使えるようなサンプル品だったらいいけどと、何気なく封を切って中身を手のひらに開けようと手を出した。が。

 

「……っ!?」

 

出て来たのは、カッターの剥き出しの替え刃が数点。

中身に気付いて、咄嗟に手は引っ込めたものの、それでも二、三ヶ所ほど傷つけてしまった。

テーブルの上に替え刃が散らばって、乾いた音が響く。

小さな傷口から血が滲み始めて、少し痛み出した。

 

「何……だよ、これ……」

 

とりあえず、血で他の手紙を汚さないように絆創膏だけ傷がついたところに貼って、改めて残りの中身をテーブルの上にそっと出す。

封筒から出て来たのは、まだ残っていたらしいカッターの替え刃と――他には。

 

「あ……」

 

先輩と俺が写っている写真数枚が出て来た。

早朝、ジムで会っている時のものや、駅で顔を合わせた時のもの、二人で外食している時のものと状況は様々だ。

ぱっと見ただけでは、特に疚しいようなものはない。

当たり前だ。

俺たちは家も比較的近所だし、何処で誰に見られるかは分からないから、家の中以外では付き合っていることが分かるような行動は、ほとんどしていない。

例外なんて、旅行した時くらいだ。

ただ、これらの写真は自分たちで撮った覚えが全くないものだらけだし、さらに言うなら、どの写真も俺の方の顔にだけ、カッターで抉ったような傷がついている。

明確に俺に向けられた悪意に背筋が凍り付く思いがした。

 

――初めまして。夫から話は聞いております。堀の家内です。

 

たった一度。

ショッピングモールで偶然顔を合わせた政行さんの奥さん。

柔らかい声をした、一見穏やかそうに見えた女。

他の理由となると心当たりがないし、こんな悪意を向けられても仕方がないことを実際に俺たちはしているって理解もしてる。

けど。

 

「もう知ってる、ってこと、だよな……」

 

政行さんが離婚を切り出した切欠の相手が俺だって言うことを。

細かい事情や成り行きまで知ってるかどうかは分からねぇけど、こんな写真があるってことは、興信所なり探偵なりを使って、俺たちの行動を調べたってことだろう。

同性同士とはいえ、単純に会っている頻度だけ連ねたらかなりのものだ。

不審がられても当然なのは分かる。

この封筒も直接この家のポストに投函されたのも間違いない。

ただ、あの奥さんとこの行動が上手く頭の中で結びつかなかった。

こういうことをやりそうな女には見えなかったけど、でも他に考えられない。

まるで、政行さんに手を出すなと威嚇されているように思えた。

 

「? 何だこれ、URL……?」

 

写真を確認していくと、そのうちの一枚だけ、裏側に何処かのURLが記載されていた。

下手にウイルスの類でも怖いし、こういうのは開かない方がいいんだろうって思ったけど、どうにも気になってついタブレットを立ち上げてから、そのURLに置いてあったファイルをダウンロードした。

一応、ファイルをスキャンしてみてウイルスが入っていないというのを確認してから、圧縮されたファイルの中身を見てみる。

 

「音声ファイル? 一体、何……っ!?!?」

 

何気なく再生したが、聞こえてきた音声に、冗談抜きで心臓が止まるかと思った。

 

『や……まさ、ゆきさ……! あ、あ、そこ、良い……っ!』

『っと、おまえここ弱い、よな……!』

『あっ、ちょ、あああ!!』

 

ベッドが軋む音と粘液質な水音に紛れて聞こえた、自分たちの喘ぎ声。

とてもじゃないけど、聞いてなんかいられない。

音声ファイルを再生したプレイヤーアプリを慌てて閉じた。

ここから先は聞くまでもない。

いつ、どういう形で録音したんだかは分からないが、間違いなく俺たちの情事中の声だった。

それこそ、離婚話が出てからは、全くホテルは利用していない。

セックスしているのは、ずっと、この俺の自宅でだけだ。

なのに、どうして――と思ったところで、スマホにインストールすることで、パソコンからの遠隔操作が可能で、録音も出来るようなアプリがあるってことを思い出した。

一時期、ネットでも話題になったそれは、インストールしたのが一見分からなくすることも出来たような記憶がある。

奥さんだったら政行さんのスマホに仕込むことは不可能じゃない。

俺との連絡用スマホ、そして仕事用のスマホは常時ロックしてあるって言っていたけど、プライベート用のスマホは奥さんに怪しまれないようにするためにも、一切ロックしてないって言ってた。

 

「……政行、さん」

 

分かっている。

奥さんにこういうことをさせてしまったのは、結局のところ俺たちだ。

勝手な感情だってことは十分分かっているけど、怖くて怖くて堪らなかった。

 

[堀Side]

 

「政行さん、朝飯にピザ頼んでもいいか?」

 

俺がシャワーから出て来たタイミングで、ようやく起きて来た実琴がそう言ってきた。

もう朝飯というよりは、昼飯って言った方が近い時間だ。

そういや、腹減ったなとそのままキッチンに向かって、冷蔵庫を開ける。

 

「ん? ああ。何なら、食材あれば適当に作ってやるけ、ど……っておい」

 

冷蔵庫の中は栄養ドリンクと酒、他多少の野菜はあったが、まともになにか作れる程のものは残っていなかった。

つい溜め息が出て来るような状況の冷蔵庫に、つい先日実琴がぶっ倒れたことも思い出して、心配になる。

 

「……おまえ、日頃の食生活大丈夫かよ」

「…………一応、釈明させて貰えれば、昨日の夜に色々買いに行くつもりだったんだよ。平日だって偶に夕食作ってるじゃねぇか」

 

少し拗ねたように言われると、こっちとしても気が咎めた。

確かに買い物に行く時間をセックスに費やしたのは俺のせいだ。

土曜日に実琴と俺が会うことなんてなかったからこそ、本来は買い物する予定を入れてたんだろうし。

買い物に行って、それから準備となると、確かに遅くなってしまうから、今日は大人しく実琴の提案に乗ることにした。

 

「じゃ、今日はピザにしとくか。おまえ、いつも何処の頼んでる?」

「ピザ自体一人じゃ注文しねぇよ。小さいサイズでも持て余しちまう。だから、政行さんいるタイミングで頼もうかと」

「あー、それもそうか。……若い時に比べて、胃に重く感じるようにもなったしな。ジャンクフードの類って」

「そうそう。気付いた時は軽くショックだったなー」

「おまえ、ハンバーガーとか好きだったもんな。俺も昔みたいにはラーメン食えなくなったわ」

 

実琴がテーブルの上に置いてあったタブレットの電源を入れ、ブラウザで色んな種類の宅配デリバリーを注文出来るサイトを開いた。

ページをスクロールしてる途中で、前から気になっていた店を見つけて、横から指を出す。

 

「あ、特に何処のっていうのがないなら、食ったとこないやつの頼んでいいか? 気になってたんだけど、中々機会もなくてな」

「いいぜ。あ、そこのは俺も食ったことない」

「じゃ、ここにするか」

 

家族でも偶にピザを注文することはあるが、ポイント貯めたいとか何とかで、いつも同じとこのばかりなんだよな。

それはそれで構わねぇけど、何となく別のところのを食いたい。

半分ずつ自分の食いたいピザを選び、サラダとポテトも一緒に注文した。

ふと、実琴の顔を見ると凄ぇ嬉しそうな顔して笑ってる。

そういや、旅行の時ぐらいだよなぁ、こんな時間帯に一緒に飯食うのなんて。

ピザが食えることより、それを俺と一緒に食えるっていうのが嬉しいんだろうなというのが何となく伝わって、こっちもつられて口元が笑っちまう。

その点については俺も一緒だけど、可愛いよな、こいつ。

 

「何だよ」

 

俺が笑っていたのに気付いたらしく、実琴が軽く首を傾げた。

 

「そりゃ、こっちの台詞だ。……実琴。おまえ、何て顔してんだよ」

「ん? 何か変な顔でもしてたか?」

「そんな風に笑ってるとキスしたくなる」

「笑っ…………ん」

 

顎を捉えて、唇を重ねた。

やっぱりこいつとキスするの、気持ち良いなぁ。

昨日もあちこちに一杯キスしたけど、唇同士のキスが一番いい。

つい、ムラッときてTシャツの上から実琴の胸元を触り始めたら、唇が離れて、触っていた手が掴まれ、動きを止められる。

 

「ピザ! 昨日、散々ヤッたんだから栄養補給させろよ、マジで腹減ってんだから!」

 

ピザが来るまで四十分って出てたから、ちょっとは楽しめるかと思ったのに。

照れて止めたわけじゃなく、本気で嫌がってるのが分かるから引き下がっておくけど残念だ。

 

「ちっ」

「ちっ、じゃねぇっての! あと、俺まだ風呂入ってねぇんだからな。今から軽くシャワー浴びるから、俺が入ってる最中にピザ来たら政行さん受け取っててくれ」

「わかったって」

 

それでも、実琴が俺に対して遠慮がなくなってきたように思えたことは、素直に嬉しかった。

 

***

 

初めて食った店のピザは味は悪くなかったが、生地に厚みがあったからなのか、全部は食い切れなかった。

若い時にあった食欲が懐かしい。

つい、中途半端に残ってしまったものに軽く溜め息を吐く。

残りは夕食に回すからと、実琴がサラダとポテトをそれぞれ皿に移してラップをかけ、冷蔵庫に突っ込み、コーヒーを淹れてくれた。

ソファに並んで座り、二人で煙草を吸って一服する。

……くそ、家に帰るのは気が重い。

帰らねぇってわけにはいかないけど。

 

「政行さん、何時頃向こうに帰る?」

「もうちょっとしたら帰る。まぁ、女房も多分実家の方からまだ戻ってねぇような気がするけど」

「……待てよ。息子さんは? 息子さんも奥さんの実家?」

「家じゃねぇのかな。昨日、女房が外出したときには一緒に行ってねぇから」

「じゃ、息子さんは家に一人ってことか?」

 

実琴の顔が少し曇ったような気がした。

 

「ああ、多分。まぁ、小っちゃいガキでもねぇから、大丈夫だろ」

 

これで政弥が小学生だったりしたら、流石に泊まらず昨日のうちに家に帰っていたが、もうじき高校生になるって年頃だから、そう心配はしてない。

が。

 

「よくねぇって!」

「……実琴?」

 

予想以上に声を荒げて反論した実琴に少し驚いた。

何だ、どうしたってんだ、こいつ。

 

「え、あ、ごめん。……何て言うか、俺も一人っ子だから、ちょっと親が揉めてて、それで兄弟もいなくて、一人で誰も居ない家に過ごすってなってたらキツい、かな……って」

「実琴」

 

俺がその位の歳の頃は、親が一晩出掛けて居ない、なんてなると弟と二人で羽根を伸ばしていたもんだが――そういや、兄弟がいないとなると、少し事情が変わるのか。

考えてみれば、親が居ない理由も理由だ。

実琴が吸っていた煙草を灰皿において、俺の肩に寄りかかってきた。

 

「……昔さ、うちの親が共働きで日中いないこと多かったから、うちに来てセックスすること結構あっただろ? あの時期、親が家に居なかったのは共働きってのも確かに理由の一つだったけど、ちょっとうちの親が険悪ムードだったから、あまり家に帰ってこなかったってのもあったんだよな」

「……初めて聞いたぞ、それ」

「そりゃ、初めて言うし。…………今だから言うけど、当時、政行さんの誘いに乗ったのは、寂しかったから、ってのも正直あった」

「おまえ……」

 

言われるまで考えもしなかった。

俺が最初に実琴と関係を持ったのは、性に対しての好奇心っていう面が大きかったし、多分、実琴もそういう部分があったんだろうとは思っていた。

ただ、こいつの家に行った時、両親がほぼいなかったことは、当時ラッキーだと考えこそすれど、その理由までは正直なところ、どうでも良かった、の一言に尽きる。

……当時は、そこまで興味がなかった。

 

「ごめん。褒められた行為じゃなかったのは分かってる」

「…………そんなん言いだしたら、俺も最初の動機は不純だからな。セックスへの好奇心と興味が大きかった。謝るこたねぇよ」

 

どっちかというと、実琴よりも俺の方が酷い。

事情を知らなかったとはいえ、実琴の寂しさにつけこんだような形だ。

肩にある実琴の頭に手を伸ばして撫でる。

 

「……それにそりゃ昔のことで、今は俺を好きだろ?」

「うん」

「俺もだ。始まりはそうでも、今は違う。ちゃんとおまえが好きだ」

 

十数年前に会えなくなった時の衝撃は忘れられない。

俺が自分で思っていた以上に、こいつの存在は自分の中で大きいものだったのだと気付かされて、もう一度実琴と会う為に必死に動いた。

そして、再び会えて、抱き締めて――時間を追うごとに、今までよりも好きになっていく。

 

「……分かってる。だからさ、政行さん」

 

実琴が俺の肩から頭を起こして、向き合う形になると、俺の手を取って握って来た。

 

「息子さんのことは考えてやれよ。きっと凄くキツい思いしてると思う。後にも先にもたった一人の子どもだろ?」

「実琴」

「俺がいうのはお門違いだって分かってる。余計なお世話だっていうのも。だけど……」

 

もしかしたら、当時のことと今の政弥を重ねて考えているのかも知れない。

少し辛そうな表情に、胸が軋んだ。

そうだよな、女房と離婚しても、政弥との縁は無くなるわけじゃない。

あいつが俺の息子なことには変わらない。

少し俯いている実琴の額に、自分の額を軽くぶつける。

 

「わかったから、そんな顔すんな。……なぁ、実琴」

「ん?」

「そうやって、何か思うとこあったりしたら、今みたいに言ってくれ。何でも聞くし、俺も言うようにするから」

 

相手の何もかもを理解することは不可能でも、理解しようと歩み寄ることは出来る。

相手に遠慮して何も言えなくなるよりは、多少衝突するようなことがあっても、言えるような関係でありたい。

 

「…………ああ」

 

実琴も俺の言葉に微笑んで応じてくれる。

それに満たされた思いで、俺も実琴の手を握り返した。

 

***

 

「ただいま」

「…………お帰り」

 

自宅に戻って、リビングでテレビを見ていた政弥に声を掛けると、返事があったことにほっとした。

 

「母さんは?」

「まだ帰ってきてない」

 

予想通りだ。

夜には戻ってくるかも知れないが、まだ数時間は戻って来なさそうだな。

俺も政弥を置いて外泊して来ちまってるから、エラそうなことは言えねぇけど。

 

「おまえ、昼飯、何か食ったか?」

「あー……今からカップ麺か何か作ろうかと」

「…………簡単なのでよければ、作る」

「え」

 

政弥の返事は待たずにそのままキッチンに入った。

普段は女房に一通り任せてはあるが、それでも調理器具や調味料等の場所はそれなりに把握している。

冷蔵庫の中を確認して、材料を適当に取り出し、料理を始めると政弥が俺の方をじっと見てた。

そういや、結婚してからこうやって料理するって、随分久し振りだ。

政弥はもしかしたら見たことなかったかも知れない。

大学入学から結婚するまでは一人暮らしだったから、自炊はそれなりに出来る。

何となくの記憶と勘にしては、まぁまぁの出来だと思える炒飯とスープを作り、政弥の前に出した。

俺はまだ腹一杯だから、スープだけにしておく。

政弥が驚きの表情を見せながらも、食い始めてくれた。

 

「……親父、飯作れたんだ。美味い」

「そりゃ、良かった。結婚前まで一人暮らしだったしな。今は母さんが何でもやってくれるからやらなくなったけど」

 

結婚と同時に専業主婦になった女房が、家の事は全部任せて欲しいと言ってきたから、それに甘えてやらなかった。

けど、実琴と暮らすようになったら、二人で適度に分担していかないとならないよな。

それはそれで楽しみな面もあるけども。

 

「……何でもやってくれる母さんなのにダメなんだ」

「政弥」

 

ぼそりと呟いた政弥の言葉が、微かな痛みを伴いながら胸を抉る。

 

「俺が口出すことじゃないって分かってるけど。何でダメなんだよ」

「…………すまん。母さんにも、おまえにも非があるわけじゃない」

 

けど、感情はどうしようもない。

女房はともかく、政弥のことは確かに気がかりではあるけど、それでもやっぱり俺はこの先は実琴と共にありたい。

結婚も子どもをもったこともなかったことにしたいとは思わないが、今の俺は実琴が一番大事だ。

 

「親父」

「ん?」

「その、親父が一緒になろうとしてる人との間に……子ども作ったりするのか?」

 

他に添い遂げたい相手がいることは告げても、それが実琴だというのは言っていない。

男だということもだ。

だから、そんな質問をしてきたんだろう。

考えてみたら、添い遂げたい相手が女だと仮定して、そっちに子どもが生まれたとしたら、政弥には異母兄弟にあたるから、気になったのかもしれない。

 

「それはねぇよ。俺の子はおまえ一人だ。それは今までもこの先も変わんねぇ。相手とはそもそも子どもを作れないからな。……だから、そいつと二人で生きて行こうって決めた」

「…………親父」

「理解しろ、なんて言わねぇよ。おまえや母さんが腹立つのは当たり前だって思ってる。軽蔑されるのも仕方ねぇ」

 

仕方ねぇけど、もし、女房と別れて政弥と今後一切会うなって言われたり、本人が一切会いたくないなんて言いだしたら、それだけはキツいだろうな、なんて勝手な事を思った。

……会わす顔なんてねぇことしてるのに、こうなるとやっぱり元は他人の女房と、自分の血を引いた息子ってのは違ってくるらしい。

昼飯を食い終わった後、政弥が黙って自室に戻るのを少し切ない気分で眺めた。

 

***

 

離婚話を切り出してから早一ヶ月。

実家に逃げ込むことが多くなった女房とは、全然話を進められない。

宙ぶらりんな状態も限界だ。

あまりにも現状が続くようなら、やはり別居から始めるべきか。

政弥のことを考えると気は咎めるが、こんな状態がいつまでも長引くよりはきっとましだろう。

今日も実琴の家に少し寄ってから自宅に戻った。

リビングに行くと、最近は実家か部屋に閉じ籠もっているかの状態だった女房がいる。

険しい顔に一瞬怯んだが、これはチャンスだと話し掛けた。

 

「弥生。いい加減まともに話がしたい」

「……私も貴方に話があるの。いいかしら」

「ああ」

 

素直に話に応じてくれるとは珍しい。

そろそろ、大人しく離婚の方向で考えてくれたかと思ったが、女房がダイニングテーブルの上に並べてきた数枚の写真に、思わず言葉を失う。

並べられた写真は、どれもこれも、実琴と俺が一緒に写っているものだ。

場所は朝通っているジムだったり、駅だったり、何処かの飲食店だったりと様々だが、共通しているのは自分たちでは撮った覚えが全くないものばかりということだった。

 

「……弥生」

「どれだけ調べても女の影は全く無い。でも、友人というには異常な頻度で会っている男ならいる。……そんな風に興信所の報告を受けた時は流石に耳を疑ったわ。これを聞くまで信じられなかった」

「…………っ!」

 

女房が自分のスマホで何やら操作すると、音声が流れ出した。

 

『や……まさ、ゆきさ……! あ、あ、そこ、良い……っ!』

『っと、おまえここ弱い、よな……!』

『あっ、ちょ、あああ!!』

『みこ、と……っ』

 

……いつ録られたものかまでは分からないが、明らかに実琴とのセックス中の音声だった。

背中を冷や汗が伝っていくのが分かる。

そこで音声は停止されたものの、返す言葉がない。

ようやく、話を進展させなかった真意を悟った。

証拠集めか。

俺は添い遂げたい相手がいるとは言ったが、それが実琴だとは一言も言っていなかった。

実琴は巻き込んでくれと言ってはくれたが、せめて話がもう少し固まるまではとおくびにも出さなかった。

ただでさえ、激昂してまともに話にならなかった女房に、相手は男だと告げるには躊躇われたからだ。

が、それが裏目に出た。こいつはもう全部知っているんだろう。

いや、恐らく女房だけじゃない。

義父もだ。

いつもなら、離婚話を回避させようと話かけてきていた義父が、今日は冷たい視線を向けるだけだったことを思い出す。

恐らくは、興信所の調査費用なんかも全部向こうから出ているんだろうし、報告は当たり前のようにいっているだろう。

こうなる可能性があることは、多少は予想出来ていたものの、音声まで録られているとは思っていなかった。

 

「………………貴方が私と別れた後に添い遂げたい相手って、御子柴さんなの?」

「――そうだ」

 

ここに至っては隠す意味なんかない。

全て知られていると認識すべきだ。

最近の行動は勿論、かつて、結婚前に俺たちが付き合っていたことも。

 

「……よりにもよって、相手が男だなんて……!」

 

吐き捨てるような女房の罵倒の数々を黙って聞きながら、恐らく向こうにも何らかのアクションがあったであろう、実琴の事が気がかりでならなかった。

 

 

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