若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。
離婚話が片付いての久々のいちゃいちゃ。(御子柴Side)
初出:2015/05/30 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)
文字数:10027文字 裏話知りたい場合はこちら。
「もうそろそろ帰ってくるかな」
時計を見ながら、何となくそわそわしてしまう。
ようやく奥さんが離婚に合意したってことで、政行さんは土曜日の今日、午後イチで奥さんと一緒に離婚届を提出しに行ってた。
いや、もう離婚届が受理されたら、奥さんじゃなくなるんだよな。
元々、離婚が決まらなくても奥さんと別居する予定はあったから、ゴールデンウィークに政行さんの荷物はある程度この部屋に運ぼうって話になっていたけど、正式に離婚が決まったから、ゴールデンウィークにはそのまま俺の家に引っ越して来るって形になる。
……本当に二人の生活が始まるんだな。
最近はもう一緒に暮らしていたような感覚に近いけど、やっぱり何処かドキドキする。
玄関の鍵が開いた音がして、玄関に向かうとさっぱりした表情の政行さんが扉を開けて入ってきたところだった。
その表情を見て、俺の方も何となくほっとする。
勿論、離婚するのは政行さんの希望だったし、俺も話が出てから内心待ち望んでいたことではあったけど、息子さんから政行さんを引き離すことへの罪悪感もあった。
けど。
――あいつは母親についていく事になった。ただ、俺に会いたくなったらいつでも会いに行くとも言ってくれたからな。正直、一番望んでいた形だ。
そんな流れになってくれたのが本当に良かった。
俺としても、やっぱりその点は気になっていたことだったし、政行さんにしてみても、最大の気掛かりだった点だろう。
「お帰り、政行さん」
「おう、ただいま。……ようやく、終わった」
「ん……」
頭の後ろに手を回されて、ごく自然な動作で瞼を閉じると、優しく唇が重ねられた。
行ってらっしゃいや、お帰りのキスは、最近すっかり俺たちの間でお馴染みになった。
いい歳したおっさん二人が何やってんだろうと思わなくもねぇけど、こう、恥ずかしいけど癖になってしまった感がある。
政行さんが特に優しい触れ方してくれるからってのもあるのかも知れない。
勿論、こういう優しいキスも好きだけど、もうこれからは、政行さんの奥さんって存在に気兼ねしなくて済むんだと思うと、触れてる唇を貪りたくなって、政行さんが離れようとしたところにこっちからさらに吸い付いていった。
政行さんが俺の挙動に戸惑ったのは一瞬。
直ぐにこっちの動きに応じてくれて、政行さんの方からも舌を入れてきた。
行ってらっしゃいや、お帰りのキスは、何となく唇を軽く触れ合わせるだけのキスになっていたから、こうやって深いキスをするのも久し振りだ。
丁寧に口の中を舌で探られていって、身体の中心に熱が集まり始める。
髪を撫でられ、首筋にも指が辿っていくと、どんどん抑えが効かなくなっていった。
もっと触られたい。触りたい。
「――政行さん」
「ん?」
「俺、今滅茶苦茶セックスしたい」
俺の怪我を気にしてか、政行さんとしばらくセックスしていなかったのもあって、触りたくて堪らなくなった。
今、無性にこの人が欲しい。
まだ、真っ昼間だってのも分かってるけど、夜まで我慢出来そうにねぇ。
どうせ、今日明日と休みなんだしっていうのもある。
政行さんも異論はないらしく、俺の提案にニヤリと笑うだけだった。
「……そりゃ、奇遇だな。俺もだ」
すかさず押しつけられた腰から、政行さんの熱と固さが伝わってくる。
興奮しているのはお互い様だっていうのが嬉しい。
「覚悟しとけ。多分、俺手加減してやれねぇから」
「……うん」
それこそ本望だ。
加減なんてなしに、ぐちゃぐちゃに乱して欲しいし、政行さんにも夢中になって貰いたい。
もう一度、キスを交わしてから寝室へと向かった。
***
セックスするのが久し振りだっていうこともあってか、政行さんが身体の隅々まで余すところなく触ろうとしてくれる。
特に俺の方からそうして欲しいとは言わなかったけど、何か察するものでもあったのかも知れない。
キスももう今の時点で数え切れないくらいに繰り返しされていた。
唇だけじゃなく、額や耳、頬、首筋、肩、胸元……と、とにかく身体のパーツの細かい部分まで存在を刻んでいくかのようにキスしていく。
唇が徐々に下の方へと滑り落ちていく様に堪えきれず、シックスナインを持ちかけたのは俺の方だった。
焦れてしまった結果だけど、いつもの通り、政行さんから与えられる快感に翻弄されて、俺の方はろくすっぽ動けないでいた。
俺だって、政行さんのあちこちに触りたいし、キスしたいのに。
結局、余裕無いのっていっつも俺の方なんだよな。
「ん、あ、も、少し弱く……っ」
「諦めろ。手加減してやれねぇって言ったろ」
「ひ、あ、やっ、ああ!!」
袋を指で優しく転がされるのと同時に、ちんちんの付け根を舐めて、吸われて。
まだ、本当に俺が弱い先っぽまでは弄られてないうちに、かなり追い上げられている。
内股も時々吸われたり、軽く噛まれたりしてるから、きっと後で見たら、キスマークが凄いことになっていそうだ。
政行さん、結構跡つけたがる人だし。
特に内股なんて、俺本人か政行さんぐらいしか目にしないような場所だから尚更だろう。
「ほら、口が動いてねぇぞ。いっそ、一回イカしてやろうか?」
「や……だ、まだ、イクの勿体……ねぇっ……!」
「……どうせ、一回じゃ終わらねぇのになぁ」
「んっ!!」
政行さんの指が後ろ側に回った。
挿れる場所に触れられるかなと思ったけど、そっちには触らずにケツををゆっくり撫でていく。
ケツだけじゃなく、太股の裏や膝裏にも手のひらが滑っていった。
どういう触り方をしているのか、手のひらが触れていく傍から、じわじわとその場所に甘い痺れが走る。
気持ち良いけど、妙に焦らされるような感覚はどうにもむず痒い。
膨ら脛や踝の辺りも撫でられる一方で、口の動きも全く止まらない。
ホントこういうところ器用だよな、政行さん。
「……ちょ……っと、いつまで、焦らす、んだよ……っ」
「何だよ。久々だから、あんまり早く先に進めてもって思ったのに。おまえだって、まだイクの勿体ないって言ったろ」
「ん!! あ、うあ!!」
まだ触れてなかった先っぽに、政行さんの唇が触れたかと思うと、ある程度のところまで飲み込まれる。
つい、動いてしまった足は、政行さんの手でしっかりと押さえ込まれた。
熱い濡れた口内による刺激は快感を深めていく一方、もどかしさも募らせる。
後ろの方を触られたい。
早く繋がりたい。
今、唇と指で触れている、この政行さんのモノに中を埋めて欲しい。
「や、も、先……っ」
「中、触って大丈夫そうか?」
「ああっ……、だから、早……く」
「あ、ちょっと待て。そういえば、買ってきてたのがあるんだった」
一旦ベッドから降りた政行さんが、部屋の中に置いてあったボストンバッグから、紙袋を取り出したかと思うと、その紙袋を開けてさらに中から何かボトルのようなものを取り出した。
それの正体を確認して、つい我に返って呆れた口調になってしまう。
「……準備良すぎんだろ」
政行さんが手にしていたのは、500mlのペットボトルと同じくらいの大きさをしたボトルタイプの潤滑剤だ。
再会してからはずっと使い切りタイプの潤滑剤を使っていたのに、いつの間に買っていたんだか。
ベッドに戻ってきた政行さんが笑いながら、自分の手のひらに潤滑剤を落とす。
「どうせ、しばらくガンガン使うことになるだろ。なら、こっちの方がコストかからなくていい。流石に家に置いとけなかったから、場所取らない使い切りのにしてたけどな」
「ガンガン使うってのが前提にある……っ、辺り」
話している最中に、早くも政行さんが俺の中に指を挿れてきた。
小さな水音がしたのに続いて、中で早くも指が動き始める。
モノ突っ込んだ時みたいに、中を埋められている感覚とは違うけど、器用に動く指がもたらす快感もかなりのもので、どんどん呼吸が乱されていく。
腰を動かしそうになってしまうのは、なけなしの理性で止めているけど、それもいつまでもつのか。
「……っと、まだ話、してんの、に……っ!」
「悪い。正直言うと、俺もあんまり待ってやれるほどの余裕はねぇ。おまえ、凄ぇ誘ってる顔してるし」
「は、あ……っ、まさゆ、きさ……!」
誘ってる顔って何だよと反論したいけど、それこそ口にするような余裕がもうない。
すっかり熟知しているらしい、政行さんの指が中の弱い部分を狙うようにして踊る。
確かに動きは心持ち性急な気はしたけど、それでも痛かったりとかはせず、訪れるのは気持ち良さ。
何だかんだで身体は準備出来てて、馴染んでるってことなんだよな。
って言っても、俺はそもそも政行さん以外を知らないから、当たり前かも知れねぇけど。
「酒飲んでねぇよな? 何か今日ここの吸い付きよさそうだし、柔らかい」
「飲んで……ねぇよ……っ、も、いい、から……来て、くれ……って!」
つい、政行さんの腕を掴みながら言ったら、政行さんの目が真剣さを帯びた気がした。
「――その台詞は反則だぞ、おまえ」
政行さんが喉を鳴らして、指を中から引いた。
今し方まで指が挿れてあった場所に、政行さんのモノが当たる。
政行さんもかなり興奮してんのか、それがいつもより熱く張り詰めているような気がして、俺の方も喉が鳴った。
「んっ! んん!!」
「く、あ……っ」
足を抱え込まれて、一気に深く貫かれて――堪えきれなかった。
中を埋めていく熱の気持ち良さに負けて、早くもイッてしまう。
俗に三擦り半なんて言うけど、挿れられた瞬間にそのまま出しちまうとか、流石にねぇよって思っていたら、政行さんも身体を少し震わせていた。
自分でもイッちまったからか、中に出された瞬間は分からなかったけど、より深い部分へと精液が伝っていく感触が分かった。
「……何だ、イッたの政行さんも一緒……かよ」
「うるせぇ」
俺の耳元で荒い呼吸混じりに政行さんが言ったけど、顔には笑みを浮かべている。
早すぎだろって思ったのに、こんなタイミングでも一緒にイケたってことが嬉しかった。
やっぱり波長みたいなものが合うんだろうな。
元々の相性がいいからなのか、何度も身体を重ねて来た結果なのかは分からねぇけど、絶対こんな波長が合う相手なんて他にいやしない。
「どうせ、まだ終わらせるつもりねぇしな。続けるぞ」
「んっ……うあ、そ……こっ」
抱えられた足をさらに政行さんの肩に乗せられて、より繋がりが深くなった。
袋とちんちんに政行さんの腹が当たって、動かれる度に擦られる。
俺の出した精液で多少滑るのもあって、乾いた状態で擦られるよりよっぽどくる。
が、さらに政行さんはさっきの潤滑剤のボトルを手にした。
「どうせ潤滑剤の量あるから、今日はこっちにも使ってやるよ」
「ちょっ……待てって、そ……っ!! ふ……!」
潤滑剤塗れの手が、さっき出した腹の上の精液も混ぜるような感じで袋とちんちんを滑っていった。
ヒヤッとしたのは最初だけで、直ぐに体温を移して温かくなる。
指を動かす度にぐちゃぐちゃと音を立てていくのが卑猥だ。
ついでとばかりに乳首にも手に残っていた潤滑剤を擦り付けるように塗られる。
一通り、手に合った分の潤滑剤を塗り終わったところで、政行さんが俺の右手に、自分の左手を重ねて、指を絡めて来た。
政行さんの左手の指は、もう結婚指輪の跡がかなり薄くなっている。
……そういや、再会して直ぐのセックスの時には、途中で外してくれてたんだよな。
あれ以降、政行さんは俺と会うときには予め指輪を外してくれるようになっていたから、他人の目があるプロジェクトの会合くらいでしか指輪をつけてる姿を見てなかった。
けど、最近は俺と一緒に居るとき以外にも外していたらしい。
そのうち、この跡が完全に分からなくなるような日が来るんだろう。
俺たちの関係では、どうしたって結婚っていう形は取れないけど、その頃には何か二人の繋がりをひっそりと示せるような何かがあってもいいかもな。
今、一緒にしてるのって煙草と香水ぐらいだし。
「実琴」
「……うん?」
「さっきから、おまえずっと笑ってるな」
「そう……か? ……だったら、そりゃ嬉しいからだな」
言われるまで、笑ってるなんて自覚はなかったけど、嬉しいって言うのが顔に出てたんだろう。
乱れてしまいそうになる呼吸を抑えて、政行さんの腰に足を絡め、もう一方の手も政行さんの指と絡める。
絡めている指に力を籠めたら、政行さんの指にも力が入ったのが伝わった。
「……ごめんな。本当に酷いことしてきたよな、俺」
「謝んなよ。……分かってて政行さんに応じてたのも俺なんだしさ。一緒に背負いたいって言っただろ? 今一緒に居られるから、いい……っ、んんっ!!」
政行さんが動き始めて、腹の中がどんどん熱くなっていく。
初めて身体を繋げた時には、痛みの方が勝っていた動きは、今や快感しかもたらさない。
あれから二十年近くが経過したが、政行さんの動きも体温も表情も匂いも、何もかもが俺を煽っていく一方だ。
政行さんの動きに合わせて、俺の方でも腰を小さく動かしていると、不意に強烈な衝撃が下半身に来て、思わず動きが止まった。
「っ!? うあ、ヤベ……っ、まさゆ、き、さっ……!!」
「……ホント、敏感になったよな、おまえ……っ」
「や、今、動かな、待っ……ひあっ!!」
ドライオーガズムの方に身体のスイッチが切り替わっちまったらしく、いきなり快感の度合いが大きくなった。
こんな簡単になるもんじゃなかったはずなのに。
こうなると、もう身体の感覚はまともに働かない。
四肢を絡めていても、ちゃんと絡まっているのかが不安になるし、その癖全身を巡る熱は激しい快感に直結する。
汗とさっき出した精液、そして潤滑剤に塗れた互いの身体の匂いが生々しく纏わり付く。
体温が上がったからなのか、香水の香りも強くなった。
身体の熱さと濡れた肌、動く度に響く水音が生々しい。
「待てと言われて、待てる……っ、状況かよ……!」
「ひ! あ、ああ、や、んんんっ!!」
言葉がまともに出て来ない。
喉元に食らいつくようにキスされて、それがまた興奮を高めていく。
限度の見えない悦楽は、まるで底なし沼に飲み込まれていくようで怖くもあるけど、政行さんがいるならそれでも大丈夫とも思える。
この先、政行さんがどうなろうと、俺に離れるつもりがないのと同じように、この人も俺がどうなろうと、離れたりなんかしないだろうっていう自信がある。
油断すると途切れちまいそうな意識をどうにか繋ぎ止めながら、キスをねだり唇を触れ合わせた。
激しさと優しさが共存するキス。
ああ、もう、政行さんが好きで、好きで堪んねぇ。
きっとこの先もずっと好きだ。
「離さ……ねぇ……っ」
絶対に、二度と離したりなんかしない。
政行さんの隅々まで、全部俺のものだ。
ようやく、俺のものになったこの人は死ぬまで誰にも渡さない。
「……りゃ、こっちの台詞、だって、の……!」
「あ、ああ、うああ!!」
強く突かれて、政行さんの肩に乗せていた足が滑り落ちるも、政行さんは止まらない。
激しい快感に身体が跳ね、そこで限界が訪れた。
また、唇にキスされて、包まれるような柔らかい感触が、唇だけでなく全身に広がって、意識が遠のいていく。
意識が落ちる寸前に感じたのは、繋いだままの手と絡め合った指から伝わる熱。
――人生で最上の日だって思えるくらいに、幸せを感じていた。
***
何となく身体が熱くて重いなと目を覚ますと、まだお互いに素肌で全身絡め合ったままだった。
手も繋ぎ合ったままだったから、軽く指が痺れてる。
足も開いたままだからか、繋がった場所は意外に平気なものだったけど、腰が少し痛い。
俺も限界だったけど、どうやら政行さん側も限界だったらしい。
普段だったら、俺が意識を無くしてしまった間に後始末とかしてくれてるのに、今日はそのままだし、そもそも政行さんがまだ中に収まったままだ。
もう、普通の状態に戻ってるから、少し身動きすればあっさり抜けるだろうけど、何となくそうする気にはなれずにいた。
一通り、現状を把握した辺りで、ようやく俺の上に乗っかったままの、政行さんの身体の重さを実感し始めたけど……よく、この状態で今まで眠れたもんだなと妙な感心をする。
カーテンの隙間から、夕暮れの光が差し込んでいるから、眠った時間はそう長くはないはずだけど、それにしてもだ。
まぁ、眠れたというより、意識無くしたことで強制的に眠らされたっていうのが正しいんだろうけど。
俺が怪我して以来、セックスしてなかったせいもあるけど、夢中で求めて抱き合ったもんなぁ。
身体はまだ怠さが残っていたし、後始末もしてねぇから、多分後で色々大変そうな予感もするけど、それと同時に満ち足りたあの幸福感も身体に染み渡っている。
直ぐ近くにある政行さんの表情も全部は見えないながらも、どことなく笑みを浮かべているようだった。
「…………夢じゃねぇよな」
もう、奥さんの存在を気にせず、ずっと一緒に過ごしていけるなんて、まだ実感がない。
この人が俺だけのものになってくれるなんて、それこそ数ヶ月前まで夢物語だった。
ずっと俺一人のものにしたいっていう望みが叶う日なんて、来ないって思っていたのに。
……そういえば、ちょうど一年くらい経つかな。
ショッピングモールで政行さんとその家族に偶然会ったアレから。
あの頃が心情的には一番キツかったかも知れない。
顔を知ってしまった奥さんの存在がキツくて、でも、政行さんから離れてしまうのを想像するのはもっとキツくて、どうして俺は先輩じゃなきゃダメなんだろう、何で再会なんてしちまったんだろうって思ったこともあるけど。
「忘れられるわけなかったんだよなぁ……」
俺は結局政行さんしか知らない。
別れていた十数年の間も政行さんを忘れられなかったし、他の人を相手にすることも出来なかった。
一番最初は寂しさを埋めるだけの身体から始まった関係だったのに、身体だけじゃ無くて、心も持って行かれてしまっていたのはいつだったんだろう。
無防備な自分を曝け出して、また曝け出されて。
心と身体は別物だ、なんてよく聞くけど、結局どっちも自分の一部だから、引きずられるときには引きずられるし、少なくとも俺はそんなあっさりと割り切れない性質だ。
相手に委ねて、委ねられての関係が嬉しいって思うし、心も身体も何もかも全部欲しいって思ったのは政行さんだけだ。
人に顔向け出来ない罪悪感や背徳感に塗れてもなお欲しくて、少しでも一緒にいたいと願ってしまうのを止められなかった。
そんな自分の浅ましさが嫌にもなったけど、少なくとも、今は政行さんのパートナーは俺だって言えるようになったことで、少しは許される気がしている。
政行さんの髪を撫でたくて、絡めた指を片方の手だけ外そうとしたら、手が完全に離れる寸前で掴まれた。
「……どうしたよ、どっか痛むのか?」
どうやら、起こしてしまっていたらしい。
まだ、中から抜けたくないってのは政行さんにもあるみたいで、それ以上動きはしなかったけど、声にどことなく心配そうな様子を滲ませている。
「いや、大丈夫だ。こんな絡み合った状態で寝ることなんてなかったから、ちょっと違和感で目覚めちまっただけだって。流石に全身くっついてると熱いな」
言いながらも、今俺が身体を離すつもりはないのが伝わっているのか、政行さんも離れようとはしない。
「最近、セックスしてなかったしなぁ。けど、違和感って言うほどかよ。おまえ、俺しか知らねぇのに」
どこか拗ねたような口調がおかしい。
そんな言葉一つにムキになるなんて。
「仕方ねぇだろ。政行さんがうちに泊まるようになったのだって、割りと最近なんだし、抱き合って寝ててもパジャマやTシャツは着てたんだし。違和感って言葉がそんな気に入らねぇかよ」
「気に入らねぇ」
「……子どもみてぇだな」
政行さんに掴まれたままの手をそのまま動かして、政行さんの髪を指先で撫でる。
汗ですっかりワックスが落ちた髪はまだ湿っていて、指に纏わり付いてきたし、汗とワックスの香りが入り交じったものが鼻を擽ってきたが、どちらも嫌な感覚ではなかった。
「これからはずっと一緒に過ごしていけるんだから、時間経つにつれて違和感だってなくなっていくだろ。っていうか、この状態で完全に違和感無いところまでいったら、そっちの方が凄ぇよ。……だから、拗ねんなって」
政行さん側はどうか分かんねぇけど、こっちとしては中に挿れてあるって違和感は早々無くなることはない。
だから、そう返したけど。
「拗ねてねぇよ」
「や。どう聞いても拗ねてるだろ、その口調。……理不尽だよなぁ。大体、政行さんは俺一人しか知らないってわけじゃねぇのに」
ほんの少しだけ皮肉を込めて呟いたが、触れている政行さんの身体が強ばったのが伝わった。
軽く言ったつもりだったが、重く受け止められてしまったかも知れない。
ちょっとだけ、絡めている指に力が籠められる。
「……そこ言われると返す言葉がない。悪ぃ」
「あ、いや、その。否定してるわけじゃねぇよ!? それで政弥くんだって生まれたんだし――」
沈んだ声が思ってた以上に哀しい響きを滲ませていたから慌てた。
皮肉は本音だけど、責めるつもりまではなかったのに。
「知ってる。――でも、俺はおまえが俺しか知らないってのが、聞いた時凄ぇ嬉しかったし、多分、他の誰かと関係持ってたりしたら、今頃死ぬほど嫉妬してただろうと思うから」
「過去のことだったとしてもかよ?」
「ああ。……身勝手だろ?」
「うん。…………今はそういうとこも引っくるめて好きだけど」
言った瞬間、繋がっていた場所に少し圧迫感を感じて、政行さんのスイッチを入れちまったかと思ったけど、特に動いては来なかった。
ただ、嬉しそうに小さく笑った声が聞こえてきただけだ。
「そういえばさ。……もしかして、俺と会うためにあのプロジェクト立ち上げたのか?」
聞こうと思いつつ、聞きそびれていたことを改めて尋ねてみると、少しの間を置いて、政行さんが俺の中から抜けない程度に身体を起こした。
「――仕事絡みで会ったんじゃ、おまえだって早々逃げられねぇだろ?」
予想はしていたが、やっぱりという答えが返ってくる。
「逃げられないのはともかくさ。……俺がもし結婚してたり、他に誰か相手が居た場合はどうするつもりだったんだよ」
「そん時は、どんな手を使ってでも奪うつもりだった」
「奪……」
「もう一度会えたら、今度こそ手放さねぇって思ってたからな」
しれっとそんな事を口にするが、それが心の底から本気だってのが分かるから何ともだ。
どんな手を使ってでも、っていうのは言葉通りだろう。
実際、この人は仕事を俺との再会に利用したのだから。
「……政行さん、俺のこと好き過ぎだろ」
余りにも政行さんが余裕綽々に言うから、少しでも動揺させようとしてみたが。
「あ? 好きなんてとっくに通り越してるに決まってるだろ」
――愛してるレベルだからな。
「…………っ!?」
……動揺させられたのは俺の方だった。
耳元で低く囁かれて、顔も身体も熱くなっていく。
これこそ、昔付き合っていた期間も含めて、初めて聞いた言葉だ。
愛してる、なんて。
「……スイッチ入ったな、実琴。今、中が俺に吸い付いてきた」
「……っ、先にスイッチ入ってたの、政行さん、だろ……っ!?」
言われた言葉が嬉しいのと、興奮してるのとが綯い交ぜになって、昂ぶる感情に泣いてしまいそうだ。
そんなこっちの思惑をどう受け取ったのか、政行さんが再び少しずつ動き始めた。
「あ……あっ、ちょっ……政行、さ……!」
動かれることで、まだ快感が完全には身体から引いてはいなかったってことを思い知らされる。
中に残ったままの精液と潤滑剤のせいで、動く度に淫らな音が寝室に響く。
ドライとまではいかずとも、またイケそうな感覚に声が抑え込めなくなっていった。
「……なぁ、実琴……っ」
「ん……っ? なん、だよ」
政行さんも乱れた呼吸混じりで俺を呼ぶ。
「流石に……っ、もう他を知ってるってのは、どうにも……なんねぇ、けど、おまえが最後……だか、ら……っ」
「ん、あ、政行……っ、さ……ああ!」
身体を触れ合わせている場所、全部が灼けるように熱い。
歪んだ視界の中で、政行さんの目が潤んで見えるのは気のせいだろうか。
「この先は……死ぬまでっ……おまえ、だけだから……っ! 実琴……!」
「……っ、あ、ん!! まさ、ゆきさ……耳……っ」
「ん?」
まともな言葉になってなかったが、俺の言いたいことは察してくれたらしい政行さんが、俺の口元に耳を寄せてきた。
「俺、も……っ、政行、さん、だけ……っ」
――愛し……てる。
「…………っ!!」
絡めたままの指は爪が当たるほどにキツく絡みつき、繋がったままの場所に一層強い衝撃が走る。
熱を吐き出しながら、俺も政行さんに初めて口にした言葉を告げた。
それを言えた幸福に身を委ねながら、再び襲ってきた眠気に抗うのはやめて瞼を閉じる。
俺の名前を呼んだ声が、心なしか擦れていたような気がした。
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