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Immorality of target 20<月刊少女野崎くん・堀みこ>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

二人が一緒に住むようになって一年。改めてのプロポーズ(かもしれない)。本編完結です。

初出:2015/06/05 同人誌収録:2015/06/14(Immorality of target。掲載分に多少の修正等あり)

文字数:13425文字 裏話知りたい場合はこちら

 

[御子柴Side]

 

政行さんと一緒に暮らすようになってから一年。

去年のゴールデンウィークの少し前に政行さんの離婚が成立し、ゴールデンウィークに入って直ぐ、政行さんは俺の家に引っ越してきた。

俺が怪我した後から、ほぼ一緒に住んでいたようなものだけど、やっぱりいざ一緒に住み始めるとなると、色々な発見や、日々の摺り合わせが出て来て、結構知ってるつもりだった政行さんの知らなかった一面が見られて楽しい。

大学時代から、ずっと一人暮らしだったから、二人で生活していくってことに不安がなくもなかったけど、一緒に居られる嬉しさや楽しさの方が勝った。

政行さんが離婚したこと、そして、一緒に暮らしていくようになったことを鹿島に言ったら、複雑そうな顔をしつつも、政行さんの引っ越し祝いと称して、シャンパンを贈ってくれた。

 

――二人が幸せそうで何よりです。

――……っていう割りには面白くなさそうな表情だな、おまえ。

――だって、御子柴とは老後にホームで一緒に茶飲み友達やる予定だったんですもん。先輩いたんじゃお邪魔虫じゃないですかー。あ、でもそれはそれで楽しそうな気がしますね。三人で茶飲み友達やりましょう!

――おまえなぁ……。

 

でも、政行さん曰く、鹿島がくれたシャンパンは結婚祝いによく贈られるものだってことだから、きっと俺たちが一緒に過ごして行くことについても、祝福はしてくれてるんだろう。

祝福と言えば、事情を知ってるプロジェクトのチームリーダーもひっそりとしてくれた。

プロジェクトの統括が政行さんから他の人に変わる時に、何となく察したらしい。

 

――会社辞めるって割りには、堀さんさっぱりしてた様子だったし、おまえも笑ってたしな。ま、上手くいったようで何よりだ。

――すみません、ご心配とご迷惑をおかけしまして。

――いや、収まるとこに収まったようで良かった。……しかし、堀さん思ったより熱烈な人だな。

――え。

 

もしかしたら、政行さんがプロジェクトの統括変更に伴って、チームリーダーにも何か話したのかも知れない。

何を言ったのかは何となく想像つく気がしたから、改めて確認はしてないけど。

……結構、嫉妬深い人だから釘でも刺したんじゃねぇかと思ってる。

政行さんは転職した会社でも上手いことやっているようで、そのうち今の会社でも俺の会社と何かプロジェクト立ち上げるか、なんて冗談なんだか、本気なんだか分からないことを言う。

前例があるだけに、いつか本当にやりかねないのが、凄いとこだけどな。

ただ、政行さんの新しい会社からは、今の家は少し距離があるし、一、二年したら、もう少し二人の会社に近くなるような場所に、分譲マンションでも購入して移ろうかという話になっていた。

 

――俺たちも若くねぇし、バリアフリー対応の住まいとか考えた方がいいだろ。今はまだしも、先々を考えるとさ。

――それは体調崩した時に実感した。エレベーターなしって若いうちじゃないとキツいな。こういう場合、名義共有にするって感じになるのか?

――それでいいんじゃねぇかな。名義共有だと後々別れる時に揉めるケースがあるみたいだけど、別れる予定もねぇし。

 

二人で一緒に過ごして行く上での話は、時々意見の食い違いも出たりするけど、そういうのもひっくるめて一緒に生きているんだなぁって実感が湧く。

日々の生活でのことだと、平日は俺がメインで飯作ることが多いけど、土日は政行さんがメインで作るみたいな、暗黙のルールが出来たり、特にセックスしない日でも同じベッドで寄り添って寝るとか、そんな二人の間での取り決めみたいなものがあるのも嬉しい。

政行さんの息子の政弥は、俺と打ち解けるにつれて、うちに顔を出す機会が増えてきた。

最初こそ、何を話して良いのか分からなくて、ぎこちなく接していたけど、俺が持っているゲームや漫画に興味を示してからはそれを取っ掛かりに、色んな話をするようになった。

最近は俺に弟がいたら、こんな感じだったのかも知れないってちょっと思う時がある。

若い時の政行さんにそっくりだってのもあるんだろうけど、何か可愛いんだよなぁ。

 

――実琴さん。親父の高校時代の話で、こう弱みを握れるようなネタない?

――弱み!? 政行さんの弱みなぁ……うーん…………。

――聞いても無駄だぞ、政弥。俺は実琴の弱みを握れるようなネタを色々と持ってるけど、俺の弱みとなると大したネタなんかねぇよ。

――え、実琴さんの弱み? それはそれで聞きたい! 教えてくれよ、親父。

――待てよ、やめろよ。絶対ろくな話出て来ねぇだろ、それ!?

 

そんな風に政弥とも大分話せるようになったのは嬉しい。

クリスマスや正月なんかも、うちにちらっと顔を出してから自宅に帰った。

政行さんも、クリスマスプレゼントやお年玉目当てだろなんて言いながらも、やっぱり政弥が来ることはいつも嬉しそうにしている。

そういう光景を目に出来ているのが、幸せだって実感する日々だ。

まぁ、幸せばっかりじゃなくて、時に凹むことも勿論あるけど。

ついに、政行さんに続いて、老眼鏡デビューしちまったこととか、白髪が出始めていたことだとか。

そりゃ、何だかんだで一つしか歳違わねぇから、当たり前っちゃそれまでなんだけども。

 

――あーあ……いよいよ老化の始まりかよ。

――諦めろ。歳を取るのはお互い様だ。俺とお揃いだと思えば、悪くねぇだろ。

――政行さんの髪の色だと、白髪目立ちにくいからまだ良いじゃねぇか。俺の髪だと目立つんだよ。染めた方がいいのかなー。眼鏡だって政行さん似合ってるからいいけどさ。

――おまえだって十分過ぎるほど似合ってるけどな、眼鏡。……紅白ってめでたそうでいいじゃねぇか。あ、そういえばおまえが眼鏡掛けるようになったら、試したかったことがあるけどいいか?

 

しれっと抜かした『試したかったこと』が眼鏡掛けた状態での顔射だった日には呆れるしかなかった。

しかも、それが今年の姫初めだったんだからなぁ。色々酷い。

とはいえ、紅白の白ってそっちの話なのかよと思いつつも、それを許容してしまう俺も俺だ。

同じことやっていいぞって言われたけど、実際やったら三倍返しは確実だろう。

いい加減、短い付き合いじゃなくなってるから、そこら辺は熟知している。

そして、今年のゴールデンウィーク。

どちらも会社がカレンダー通りの休みだし、一年経って生活も落ち着いてきたしで、二人で花見旅行することになった。

関東は花見の季節は終わってしまっているけど、北の方だとちょうど花見に良いぐらいの場所もあるってことで、北海道に訪れている。

政弥も行きたがっていたが、政行さんが止めた。

 

――ゴールデンウィークに北海道!? いいな、俺も行きたい。

――悪い。今回はダメだ。今度別の機会に連れて行ってやるから。な?

――えー……残念。土産はよろしくな。あっ、でも噂の激マズキャラメルとかはいらねぇから!

 

まぁ、北海道とくれば美味い土産の方が絶対食いたいよなぁ。

昼過ぎに北海道について、早速美味い昼飯の恩恵にあずかりながら、しみじみと思ってた。

昼飯食った後にも、大きい公園の桜を見て回ったが、ホテルにチェックインして、日が暮れてから、改めて夜桜見物しに来ている。

ライトアップというほどではなかったが、街灯に照らされている桜は十分見応えがあった。

少し風が出ていたからか、時々桜の花びらが目の前を舞っていくのも風情がある。

 

「凄ぇ、綺麗だな! 地元で見てた桜とちょっと種類が違う? 何かこっちの桜って色濃いよな」

「みたいだな。けど、これはこれでいい。一口に桜って言っても様々だよなぁ」

 

昔、一度別れる前に政行さんと見に行った桜も綺麗だったけど、今日のも凄く綺麗だ。

こんな風に毎年、政行さんと花見出来たら良いよなぁ。

思い返せば、去年は丁度、花見の時期は政行さんの離婚話真っ只中で、桜は目には入っていたけど、それを楽しむ心の余裕までは無かったし。

今年は地元でも桜を見られたし、北海道でもさらに見られたっていうのが贅沢な気分だ。

少し、人気のまばらになった辺りまで来ると、政行さんが足を止めて俺の方を振り返った。

 

「実琴。手出せ」

 

桜の花びらでも乗せてくれるのかと、右手を出したら政行さんが首を振った。

 

「そっちじゃねぇよ。左手」

「こっち?」

「ああ。それと手のひらは下だ」

 

物を受け取るにしちゃ、不自然な形だと思っていたら、政行さんが俺の手を取り、懐から何かを取り出した。

 

「え……」

 

政行さんが手にしていたのは、シンプルな形状をした指輪。

プラチナの中にさりげなく一筋細いピンクゴールドが入っている。

いきなり取り出された指輪に驚いている間に、政行さんが俺の薬指にそれを嵌めた。

違和感もなくすんなり収まった指輪のついた自分の手を、思わずしげしげと眺めてしまう。

 

「これ……」

「良かった。サイズ問題ねぇな。で、こっちが俺のだ。つけてくれるか?」

 

政行さんがもう一つ取り出した指輪は、俺がはめている指輪と同じデザインだけど、入っているのはイエローゴールド。

政行さんにつける時に、少し指が震えてしまったけどどうにか嵌められた。

もう、かつての指輪の跡が残っていなかった政行さんの左手薬指に、俺と揃いになった新しい指輪が収まる。

まだ、どこか呆然としながら政行さんに尋ねてみた。

 

「……俺、自分の指輪サイズさえ知らねぇんだけど。いつ……」

「ん? おまえ、寝入った直後だと熟睡で何やっても簡単には起きねぇからな。その間にサイズ調べた」

「政行さん」

「あと、これも一応渡しておく」

 

今度取り出したのは、シルバーのペンダントチェーン。

小さな金属音が俺の手のひらの上で鳴る。

 

「おまえの会社、俺たちのこと知ってるヤツもいるからな。指輪を勘ぐられたくなければ、それに指輪通してつける形にしろ。……ただ、出来ればそのままつけておいてくれると、俺としては嬉しいけどな……っと」

 

政行さんの言葉を最後まで聞く前に抱き付いたら、政行さんも俺の身体に腕を回してくれた。

 

「いいのかよ。ここ外だぞ」

「構わねぇよ。……ありがとう。凄ぇ嬉しい」

 

俺も何か政行さんと揃いに出来る、二人の繋がりを示せるものが欲しいとは思っていたけど、指輪を貰えるとは予想していなかった。

 

「おまえの誕生日に渡そうかとも思ったけど、どうせなら区切りがついた辺りの日にちがいいかと思って」

「……ああ、だから、政弥に今回はダメだって言ったのか、政行さん」

 

最初から、予定してたんだな。

それにしても、いつの間にこんな準備をしていたのか。

旅行に行く前には全く素振りも見せなかったって言うのに。

 

「流石に、政弥の前で渡せるほど、神経図太く出来てねぇよ。……まぁ、どうせつけてたら会った時にバレるけどな」

「結構、ロマンチストなのな、政行さん」

「何だよ。おまえだって、嫌いじゃねぇだろ、ゲーム脳」

「うるせぇよ」

 

つい、嬉しさから笑いがこみ上げてしまうのを抑えきれない。

きっと、今の俺の顔は凄く緩んでしまっていることだろう。

政行さんの手が俺の髪をそっと撫でてきた。

 

「それと、これは今すぐじゃなくていいけど。先々はやっぱりおまえと養子縁組したい」

「政行さん」

「おまえ、一人っ子だし、名字変わるのにも抵抗あるだろうし、親父さんのこともあるから慌てない。……でも、死ぬときには他人でいたくない」

「あれは……ごめん。俺も親父があそこまで拒否するとは思ってなかった」

 

一緒に政行さんと住み始めて、少し経った頃。

政行さんが俺の親にちゃんと挨拶したいからって、親父の体調が良さそうな頃合いを見計らって一緒に実家に行ったけど、俺は結婚しない、この先はずっと政行さんと一緒に過ごして行くつもりだって言ったところで、親父が話にならないと席を立った。

正にとりつく島も無いとは、あのことで、以降、俺と政行さんが一緒に実家に行こうとしても、体調が悪いというのを理由に門前払いだし、俺が一人で行ったら行ったで、見合いをすすめてくる。

勿論、片っ端から断っているけど、親父にはどうしても受け入れ難いらしかった。

母さんは複雑そうな顔をしつつも、拒否とまでは行かないが、やっぱり政行さんに良い感情を持っていないようだ。

結局、一時期は不倫関係だったってことや、かつて奥さんに怪我させられたことまでは、今の段階ではまだ言えずにいる。

養子縁組の話となると、さらに言いにくい話題だ。

政行さんの親の方もあんまり良い反応じゃなかったけど、そっちはもうちょっと細かい事情を政行さんが言ったのと、政弥もフォローしてくれてたらしいのもあったからか、俺に対する当たりはそれほどキツくはなかった。

どっちかっていうと、政行さんの方がアレコレ言われているみたいで、一時期結構しんどそうにしていた。

本人は自業自得だからって、受け入れていたけど。

 

「いや、親父さんの反応も仕方ねぇよ。俺も一人息子の親だしな、気持ちはちょっと分かる。政弥に同じようなパターンでこられたら、冷静に受け止められる自信はねぇ。反対も出来ねぇけど」

「政行さん」

「……それでも、おまえを手放す気はないけどな」

「俺も。政行さんから離れる気はねぇよ。何があっても一緒に生きて行くって決めただろ」

「ああ」

 

抱き締めてる腕に力を籠めると、政行さんの方も腕に力を入れてきた。

凄ぇキスしたい気分だけど、ここ外だしなと周囲をそれとなく窺っていたら、政行さんの方も同じことを考えていたらしい。

 

「……今なら、人いねぇな」

「…………うん」

 

阿吽の呼吸ってこういうことなんだろうな。

確認したら、素早く行動するに限る。

キスは軽く触れ合わせるだけに留めたけど、柔らかい唇の感触が離れてもまだ残っている気がした。

 

「続きは後だ。……おまえと再会するのに十数年掛かったし、少なくとも同じくらいの年数は余裕で待てる。おまえは傍にいてくれるしな。……親父さんが納得してくれるまで慌てねぇ」

「……うん。ありがとう」

 

きっと、政行さんは親父の反対さえなければ、直ぐにでも養子縁組したいくらいなんだろうけど、俺の方の事情を考慮してそう言ってくれるのが嬉しかった。

 

「……そりゃ、こっちの台詞だ。――そろそろ、ホテル戻るか」

「ああ」

 

どちらからともなく身体を離したけど、政行さんが左手を差し出して来たから、自分の右手をそれに繋いだ。

指を絡めるようにすると、さっき嵌めた指輪が当たって、自分の左手に嵌めている指輪の存在もつい意識してしまう。

あー……ダメだ、一歩歩く毎に顔が緩んでいく。

けど、政行さんも笑っているから、おあいこだよな。

 

「……おまえ、ホント分かりやすいよなぁ、実琴」

「悪かったな。そういう政行さんだって、笑ってんじゃねぇか」

「悪いなんて言ってねぇだろ。可愛くてそういうところ好きだって言えばいいか?」

「…………それ以上は、ホテルの部屋に戻ってからにしてくれ。俺、理性持ちそうにねぇから」

 

可愛いとか、好きとか、言われるのは嬉しいけど、外で言われるのは流石に照れるし、うっかり身体が反応しちまいそうでヤバい。

そりゃ、イチイチ他人の会話なんて、そんな聞いちゃいねぇだろうし、今は上にトレンチコート羽織ってるから、多少反応したくらいじゃ他人にバレやしねぇけど。

 

きっと、ペンダントチェーンの方は使わないまま、一生終わりそうな気がする。

せっかくの指輪を外す気には、もうなれなかった。

ずっとこんな風に、二人でこの先の人生も歩いて行きたいって思いながら、桜の舞う中、政行さんと並んでホテルへの帰路についた。

 

[堀Side]

 

弥生と離婚してから早一年。

去年のゴールデンウィークを境に、正式に実琴と同棲を始めた。

実琴の方は長いこと一人暮らしだったのもあって、人と一緒に暮らすということに当初は戸惑いもあったようだが、根が寂しがり屋なのもあってか、そうしないうちに慣れたようだ。

本人がどこまで自覚してるのかは分からねぇが、テレビを一緒に見ている時に少し身体の感覚が空いていたりすると、寂しいのか近寄って来てピタリと身体を添わせてくる。

そんなところが可愛くて、ついそのまま手を出したのも、もう何度やったか覚えてない。

常にベッドで一緒に寝るのも、最初は落ち着かないなんて言うこともあったのに、夜中にふと目が覚めると、俺の身体に実琴の手や足が絡まっているっていうのもよくあった。

弥生との生活はそんなにべったりしたものではなかったが、本来好き合って一緒になった場合の新婚生活ってこんな感じなんじゃねぇかって、俺も実琴との生活を楽しんでいた。

二人の生活習慣の摺り合わせや、大分知っていたつもりで、まだ知らなかった実琴の一面を知っていくのは、心が躍る。

 

――手入れしっかりしてる効果なのかと思ったら、単にヒゲ薄いのな、おまえ。三日放置でも大して生えてこないってどういうことだよ。

――そういう体質なんだろ。三日どころか一週間放置でも変わんねぇよ。

――マジか。道理でこの家に電気シェーバーがねぇと思った。ってことは……こういうのも出来ねぇってことか。

――わっ! ちょっと、ヒゲ当たる、痛い! ジョリジョリすんのやめろ!

 

そんなちょっとした日々のやり取りも新鮮だ。

そういえば、鹿島は俺たちが一緒に住み始めた時、祝いにシャンパンを贈ってくれた。

引っ越し祝いとは言いつつも、シャンパンは結婚祝いによく贈られるもので、結構値が張る物なのは一目で分かったから、受け取るのに躊躇いはしたが、鹿島も返されても困りますと譲らなかった。

 

――いいのかよ。これ結構高かっただろ。

――お祝いですし、その点はお気になさらず! ……でも、御子柴を泣かしたりしたら、許しませんから。

――鹿島。

――今度こそ、あいつを幸せにして下さいね。そして、先輩も幸せになって下さい。

――おまえ……。

――御子柴を泣かせたことは今でも怒ってますけど。でも、私、先輩にも幸せになって欲しいって思ってますからね。

 

そういえば、幸せにとは、プロジェクトで世話になった、実琴の会社側のチームリーダーにも、俺が参加した最後の会合で言われた。

祝福の言葉は有り難く受け取りつつも、少しばかり釘も刺して置いたが。

 

――上手く収まるとこに収まったようで、おめでとうございます。どうかお幸せに。

――ありがとうございます。御子柴にも色々配慮して頂けたようで、感謝しております。……そういえば、送られた音声ファイルの内容、貴方はご存知だそうで。

――え、ああ、まぁ。聞きはしましたが、既に消去してますから、ご安心下さい。……しかし、そのケがなくても、あれはちょっと耳に残る色っぽさだっ……。

――出来れば、記憶からも消去して頂けると助かります。実琴も居たたまれないでしょうから。

――失礼。少々下世話な話でした。

 

チームリーダーの顔が引き攣っていた辺り、自分で思っていたより睨みをきかせてしまったかも知れないが、まぁその位はいいだろう。

本来、実琴の色っぽいとこなんて、俺一人が知ってれば十分なものだ。

転職した新しい会社も中々居心地は良く、日々順調だ。

昇進の話も出始めてるし、思ったより早く以前の年収に追いつけるかも知れない。

今、実琴と住んでいる家も悪くないが、やっぱり歳を取ったらしんどくなりそうだし、働き盛りの今のうちに、分譲マンションでも購入して移りたいところだ。

 

――俺もおまえも平日は日中家にいないからなぁ。二人暮らしだし、あまり大きい家にしても管理が面倒になるから、買うなら戸建よりマンションの方が向いてると思うんだよな。

――それもそうだな。けど、政行さん元々の家のローンもあるのに平気なのかよ?

――向こうは弥生の名義にしたし、おまえと共有名義にするなら、支払いも問題ねぇよ。まぁ、一、二年後くらいを目安にして貰えれば、助かるなって位で。政弥の大学で費用がどうなるか分かってからの方が予算の目処立てやすいから。

――凄ぇな、政行さん。慰謝料とかで大分貯金減ってるって言ってたのに。

――そこそこ貯めてはいたからなぁ。通帳見るか?

――げっ……俺、自分の生活少し見直すべきか、これ。

――そうだな、ゲーム買うなとは言わねぇけど、とりあえず特典目当てで幾つも同じゲーム買ったりするのは、やめた方がいいんじゃねぇの。置き場所もその分取ることになるし。

――あああ……。

 

あまり、実琴がゲームに入れ込むと俺が寂しいって本音もあるが、本人も思うところがあったのか、被っていたゲームや本の幾つかを、政弥に譲った。

そういや、その辺りから割りと実琴と政弥の仲が良くなった気がする。

 

――え、貰ってもいいの!?

――ああ、ゲームや本は同じの持ってるし、良ければ。政行さんにも話は通してる。

――親父。

――勉強疎かにならない程度で遊べよ。

――うん! ありがとう、実琴さん。

 

ゲームや本で二人に共通の趣味が出来たのと、桜谷が浪漫学園への通学の通り道なこともあって、最近は政弥がうちに寄ることが前より増えた。

あまり頻繁だと、弥生がいい顔しねぇんじゃねぇかと思うが、寄り道して帰るとは言っても、それがどうやらうちだとはあいつに言ってないようだ。

 

――友達と塾の帰りに飯食って帰るって言ってあるうちの、何回かに一回をこっちに回してるだけだから、大丈夫。母さんも仕事で帰り遅い日結構あるし、今のところ不審がっていない。

――……なぁ、政弥のあの行動ってさ……政行さんと似て……。

――それ以上言うな。……俺もちょっと思って頭抱えたくなったから。

 

実琴と政弥が仲良くなってくれるのは有り難いが、時々身につまされたり、二人がゲームや本の話題で盛り上がっていると疎外感を覚える瞬間がある。

それでも、クリスマスや正月なんかに少しでもうちに顔を出してくれるのは嬉しい。

プレゼントやお年玉目当てな部分もあるんだろうが、何だかんだで一人きりの息子だから、甘えられると悪い気はしない。

甘やかし過ぎないようにはしたいと思ってはいるんだが。

ゲームといえば、しばらく前に実琴も仕事中に老眼鏡を使うようになっていたが、ゲームする時にも裸眼だと辛くなってきたらしく、その時にも老眼鏡を使うようになっていた。

 

――こういうところで、歳取ったって実感しちまうよなぁ。

――おまえ、ゲームも結構やってるから、それを考えると寧ろ遅かったくらいじゃねぇの。そろそろゲーム卒業考えたらどうだ?

――××シリーズと〇〇シリーズと△△シリーズが完結したら考える。

――……おまえ、当分やめる気ねぇだろ。

 

まぁ、ゲーム好きなのはそれこそ昔からだから、諦めてもいる。

構って欲しい時には言えば、キリのいいところでゲームを中断して構ってくれるから、今はそれ以上望むのも贅沢かも知れない。

そして、今年のゴールデンウィークが来た。

離婚してから一年経ったし、去年は引っ越しで潰れてしまったが、今年は久し振りに実琴と旅行することにした。

北海道だとまだ桜が見られるということだったし、去年は何だかんだで花見の時期もバタバタしてたから、去年の分も楽しむつもりだ。

 

――旅行? 温泉行ったとき以来だな。どこに行く?

――北海道だとゴールデンウィークに花見出来る場所あるらしいし、その辺り行ってみねぇか? 

――いいな! 俺、北海道行くの初めてだ。楽しみだなぁ。

 

嬉しそうな顔している実琴を見ると俺も嬉しい。

旅行は久し振りだってのもあるが、俺はひっそりサプライズも用意していた。

実琴にはそのサプライズを悟られないように、あくまで表向きは普通の旅行の準備をし、旅先のホテルについてからは、いつ、そのサプライズを実行しようかと考えていた。

一応、いつでも実行できるように準備しておき、隙を見て渡すつもりだ。

ホテルからそんなに離れていない場所に、夜桜が見られる小路があるということで、二人で夜桜を見に来ている。

 

「凄ぇ、綺麗だな! 地元で見てた桜とちょっと種類が違う? 何かこっちの色濃いよな」

「みたいだな。けど、これはこれでいい。一口に桜って言っても様々だよなぁ」

 

そういや、昔東北にこいつと見に行った桜も見応えがあったけど、かなり人気の場所だったからか、人混みも凄かった。

ここも花見スポットとしての人気はあるみたいだが、夜はわざわざライトアップしていないからなのか、人の量は思ったよりも少ない。

少し道から逸れたところにある、大きい木の影周辺なんかも、人はほとんどいなかった。

……この位少なければ、サプライズを実行するのに丁度いいか。

そっちの方に向かって歩くと、実琴も黙って俺についてくる。

目星をつけた場所で立ち止まり、実琴に話し掛けた。

 

「実琴。手出せ」

 

何かを渡すと思ったのか、右手の方を出して来た。

ああ、何も言わなきゃそう取っちまうよな。

 

「そっちじゃねぇよ。左手」

「こっち?」

「ああ。それと手のひらは下だ」

 

軽く実琴が首を傾げたが、それには構わずに懐にしまってあった、指輪を取り出す。

よし、こっちが実琴の分で合ってた。

 

「え……」

 

実琴が俺の取り出した指輪を見て、目を見開く。

つい先日、注文していた品が出来上がり、受け取っておいた指輪だ。

指輪については、実琴には一切作ることを知らせていなかった。

デザインも多分、こいつの趣味からそう外れてはいないはずだ。

シンプルなプラチナの下から三分の一くらいの場所に、細く一筋のピンクゴールドが入っている。

実琴の左手を取って指輪を嵌めると、ピッタリのサイズだった指輪は、抵抗もなく根元まで収まる。

ああ、やっぱり実琴に似合うな、ピンクゴールド。

さらに桜を背景にしているから、ちょっとした一枚の絵みたいに様になっている。

イケメンはこういうの決まるよなぁ。

 

「これ……」

「良かった。サイズ問題ねぇな。で、こっちが俺のだ。つけてくれるか?」

 

実琴と色違いのデザインの、俺用の指輪を取り出して渡す。

こっちは入っているラインはイエローゴールドだ。

実琴が少し震えた指で俺に指輪を嵌めてくれる。

これも指輪のサイズは問題なく、指に綺麗に収まった。

着け心地も良くて、難なく肌に馴染む。

ひっそりと鹿島に教えて貰った店は良い仕事をしてくれた。

 

――指輪!? ……あの、それ御子柴にですか?

――他に誰がいるんだよ。……まぁ、その。前に指輪作っていたとこは避けたいし、両方男物のサイズになるから、そういうのをあまり追求しないでくれるような、かつ評判のいい店をおまえなら知ってるんじゃねぇかって思って。

――あー、なるほど。知ってますよ。芸能界は意外にいますからね、同性カップル。良いとこ紹介します。

――あと、これ実琴には……。

――言いませんって。御子柴が知ってる状態だったら、先に御子柴から話聞いていそうですもん。……先輩も中々やりますね。

 

「……俺、自分の指輪サイズさえ知らねぇんだけど。いつ……」

「ん? おまえ、寝入った直後だと熟睡で何やっても簡単には起きねぇからな。その間にサイズ調べた」

「政行さん」

「あと、これも一応渡しておく」

 

もう一つ懐から、シルバーのペンダントチェーンを取り出して、実琴の手のひらの上に乗せた。

まぁ、こっちは出来れば使って欲しくないのが本音だが。

 

「おまえの会社、俺たちのこと知ってるヤツもいるからな。指輪を勘ぐられたくなければ、それに指輪通してつける形にしろ。……ただ、出来ればそのままつけておいてくれると、俺としては嬉しいけどな……っと」

 

言い終わらないうちに、実琴が俺に抱き付いてきた。

俺も実琴の身体に腕を回しながら、一応、今の場所を口にする。

 

「いいのかよ。ここ外だぞ」

「構わねぇよ。……ありがとう。凄ぇ嬉しい」

 

実琴の声が弾んでいる。サプライズに喜んで貰えたようでほっとした。

準備した甲斐はあったらしい。

 

「おまえの誕生日に渡そうかとも思ったけど、どうせなら区切りがついた辺りの日にちがいいかと思って」

「……ああ、だから、政弥に今回はダメだって言ったのか、政行さん」

 

最初、政弥も旅行について来たがったが、今回は俺の中では新婚旅行みたいな感覚だったから断った。

離婚してから初めての旅行だったし、指輪も渡すつもりだったから、そうなるとやっぱり政弥がいる前では気が引けたし。

 

「流石に、政弥の前で渡せるほど、神経図太く出来てねぇよ。……まぁ、どうせつけてたら会った時にバレるけどな」

「結構、ロマンチストなのな、政行さん」

「何だよ。おまえだって、嫌いじゃねぇだろ、ゲーム脳」

「うるせぇよ」

 

ロマンシックなシチュエーションが好きなのは、寧ろ、俺より実琴のはずだ。

俺と同じく白髪の交じり始めた髪を撫でると、小さい笑い声が聞こえる。

 

「それと、これは今すぐじゃなくていいけど。先々はやっぱりおまえと養子縁組したい」

「政行さん」

「おまえ、一人っ子だし、名字変わるのにも抵抗あるだろうし、親父さんのこともあるから慌てない。……でも、死ぬときには他人でいたくない」

 

――なぁ、政弥。おまえ、俺が実琴と養子縁組したいって言ったら、気になるか?

――え? いや、いいんじゃねぇの。というか、そのうちするつもりなんだろうって思ってた、俺。

 

だから呼ぶなら、御子柴さんじゃなくて、実琴さんの方がいいかなって思って呼ぶようになったし、と言われたのには驚いたが、政弥の反応はそんなだったし、親の方も苦い表情しながらではあったが、実琴の存在は受け入れてくれた。俺の身内側にはさしあたって養子縁組についての問題はない。

問題があるとしたら――。

 

「あれは……ごめん。俺も親父があそこまで拒否するとは思ってなかった」

 

実琴の身内側だった。

まず、歓迎はされないだろうと覚悟もしてはいたが、実琴の親父さんの方は予想以上に難攻不落だ。

実琴と一緒に住むようになってから、やはり一度ちゃんと挨拶しておくべきだと思ったし、実琴も結婚しないことを親にきっぱりと言いたいからと、一緒に実琴の実家に行って話をしたが、話の途中で実琴の親父さんが席を立って話を切り上げてしまった。

同性がパートナーで、ずっと一緒に暮らしていくというのは、親父さんには受け入れられない話だったんだろう。

以降、何度か実琴と一緒に話の続きをと実琴の実家を訪れても、体調不良を理由に会うのを拒まれるし、実琴が一人で行ったら、見合い話をすすめられるって流れだ。

弥生との時は、当初、弥生よりも元義父の方に気に入られていて、話をすすめられたこともあり、元義父との関係は最初から最後まで概ね良好だったが、実琴の親父さんとの関係は一筋縄ではいかなさそうだった。

今の時点でこうなら、不倫関係の時期があったことや、俺の元妻に傷つけられたこと、末は養子縁組をしたいことまでは、しばらく言えそうにない。

……ただ、俺としても親父さんの心境は理解出来なくもない。

 

「いや、親父さんの反応も仕方ねぇよ。俺も一人息子の親だしな、気持ちはちょっと分かる。政弥に同じようなパターンでこられたら、冷静に受け止められる自信はねぇ。反対も出来ねぇけど」

「政行さん」

 

親としての気持ちを考えると、強引に事は進めたくない。

実琴にとっても、たった一人の親父さんだし、兄弟もいないから余計気掛かりな部分もあるだろう。

ただ。

 

「……それでも、おまえを手放す気はないけどな」

「俺も。政行さんから離れる気はねぇよ。何があっても一緒に生きて行くって決めただろ」

「ああ」

 

実琴が即答して、抱き締めた腕に力を籠めてきたから、俺も同じように返しながら、そっと周囲を探る。

いつの間にか近くに人はいなくなっていた。

遠目にはまばらにいるが……この位ならいいよな。

 

「……今なら、人いねぇな」

「…………うん」

 

実琴も同じことを考えていたようで、髪を撫でていた手を頬に持っていくと、直ぐに目を閉じてくれたから、すかさずキスを交わす。

流石に外でじっくりキスする勇気はないが、離れても唇に実琴の体温が残っている気がして、もう一度キスしたくなるのをどうにか押しとどめた。

 

「続きは後だ。……おまえと再会するのに十数年掛かったし、少なくとも同じくらいの年数は余裕で待てる。おまえは傍にいてくれるしな。……親父さんが納得してくれるまで慌てねぇ」

「……うん。ありがとう」

「……そりゃ、こっちの台詞だ。――そろそろ、ホテル戻るか」

「ああ」

 

夜桜は十分楽しめたし、無事にサプライズも済ませた。

今度は実琴が欲しい。

ホテルに戻るまでの間にも温もりが欲しくて、実琴に手を差し出したら、実琴も迷わず俺の手を掴んでくれて、指を絡めるようにして手を繋いだ。

俺の嵌めている指輪を、さりげなく実琴の指先が撫でては、実琴の顔に笑みが浮かぶ。

――くそ、つくづく可愛い反応しやがって。

 

「……おまえ、ホント分かりやすいよなぁ、実琴」

「悪かったな。そういう政行さんだって、笑ってんじゃねぇか」

「悪いなんて言ってねぇだろ。可愛くてそういうところ好きだって言えばいいか?」

「…………それ以上は、ホテルの部屋に戻ってからにしてくれ。俺、理性持ちそうにねぇから」

 

どうやら、実琴の方も俺を欲しいって思ってくれているらしい。

こういう風に二人の感覚が通じ合っているように思えることは、一緒に住み始めてから増えていっている気がする。

そうして、この先も二人で仲良く過ごして、歳を重ねて。

色んな思いを共有して生きて行きたい。

まずは、ホテルで実琴を隅々まで愉しもうと決めて、ホテルまでの道を歩いて行った。

 

End

 

 

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