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冷たい指<月刊少女野崎くん・堀みこ>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

本編終了後の二人。

老後をすっ飛ばして人生の終焉絡みの死にネタになりますので、ご注意を。

2015/3/13のワンライで書いた話です。

ワンライでやる内容じゃないよなと思いつつ、他が思い浮かばなかった。

ワンライ後に堀息子視点追加&加筆修正。

初出:2015/03/13 

文字数:3907文字 裏話知りたい場合はこちら

 

[御子柴Side]

 

――先輩、こんな寒いのに手ぇあったかいっすね。

 

あれはもう、遠い昔。

冬の早朝、コンビニに買い物しに行った時だっただろうか。

寒さでコートのポケットに手を突っ込んだら、政行さんがそのコートのポケットに入れた手を握ってきた。

手袋もしてなかったのに、政行さんの手は温かくて、ホント体温高いなって感じたことを思い出す。

そんな温かい指とは、一度は十数年って期間離れはしたけど、再び会ってからはその指でそれこそ全身に数え切れないほど触れて貰った。

触れられてない場所なんか、何処にもないくらいに。

凄ぇ器用に動く指だったよなぁ。

そんな指はもうぴくりとも動かない。

俺の方はそんな指を握りながら、時折指先でなぞってみるも反応は全くない。

最後の瞬間まで握っていて、握った手の力が失われていくのも確認したのに、まだどこかで信じられないでいる。

形見として持っておく為に外しておいた政行さんの指輪は、今は俺の指に重ねて嵌めていた。

少しだけ大きさの違う対になった指輪。

俺の指より政行さんの指の方が、ほんの少し太かったんだよなぁ。

ここ数ヶ月は目でも確認出来てしまうくらいに、指が痩せ細ってしまっていたけれど。

政行さんの指輪を嵌めていない手を見るのは久し振りだ。

政行さんと再会して、関係を持ち始めた頃、政行さんは俺と会う時には結婚指輪を外してくれていたけど、離婚して一年後に俺たち二人での揃いの指輪を作った。

以降は政行さんが息を引き取るまで、一度も外していない。

指輪をしていない状態の指となるとそこまで遡る事に少し驚く。

何だかんだで人生の半分くらいは嵌めてたことになるんだな、この指輪。

 

「実琴さん」

 

声を掛けられて振り向くと、政行さんの息子の政弥が俺の隣に来て、腰を下ろした。

……こうして見るとやっぱり面差しは本当に良く似てるよなぁ、政行さんに。

身に纏う空気というか、雰囲気みたいのが全然違うから、間違ったりはしねぇけど。

 

「交代する。ここは俺がいるから少しは寝ろよ」

「いい。どうせ眠れねぇから。……少しでも長く傍にいたい」

 

体温が失われて冷たくなってしまっている政行さんの指を離せない。

もうこの指が動かないことは分かっているし、生前とは感触も違ってしまっているけど、政行さんの指であることに違いないんだ。

夜が明けたら骨だけになってしまうのなら、少しでも長く触れていたい。

 

「そっか、わかった。……俺もいていい?」

「ああ。…………ごめんな」

「うん?」

「おまえだって、しんどいのにな。気遣わせちまってる」

 

本当は政弥とも二人きりにさせてやるべきなんじゃねぇのって思うけど、動けないでいる。

こいつだって、政行さんのたった一人の実子なのに。

 

「俺は大丈夫だよ。覚悟してたし、親父と話も出来てたし。どっちかっていうと、実琴さんの方が心配」

「……悪かったな、頼りない義兄で」

 

実父が死んだ後に、政行さんと養子縁組したから、政弥とは義兄弟の関係になった。

俺は流石に政行さんを義父さんとは呼ばなかったけれど、政弥は時折義兄さんって呼んでくれる。

血の繋がりはないけど、実の親ももういない俺には、政弥が一番近い身内だ。

 

「政弥」

「何」

「俺が死んだら、俺の骨だけじゃなく、二人分の指輪も政行さんと一緒にしてくれ」

 

政弥の顔が一瞬強ばって、咎めるような口調で小さく呟いた。

 

「…………今する話かよ」

「俺だって、いつどうなったっておかしくないからな。言えるうちに言っておきたい」

 

――ちゃんと迎えに来るから、自分から追ってくるとか絶対やめろよ。

 

政行さんは俺が寂しがり屋なのを知っている。

迎えに来てくれるっていうのなら、きっとそんな遠い日じゃないはずだ。

政行さんの指からは手を離さずに、政弥の方を向いて話す。

ややあって、小さな溜め息と共に政弥が頷いた。

 

「……覚えとく」

「ありがとう」

 

そこからは、二人無言になる。

いつの間にか、外は明るくなっていた。

俺の体温を移した指と離れてしまうまであと少し。

このまま時が止まってしまえばいい、なんて何処かで思いながら、鴉の鳴く声を聞いた。

 

[政弥Side]

 

親父の通夜に訪れてくれた人たちへの対応や、葬儀社の人と話をしていたら、気付いた時には深夜を回っていた。

あれやこれやと動いている方が、哀しみが紛れるっていうのは本当だなと母親の葬式の時にも実感したが、その分気に掛かるのは実琴さんのことだ。

実琴さんは親父が息を引き取った時から、泣いてない。

小さく親父に向けて、おやすみって呟いたのは聞こえたが、取り乱しもしなければ、泣きもしない。

あれだけ感情の波が分かりやすい人がだ。

逆にそれがとても怖い。

まるで何かの覚悟を決めているように、静かに佇む姿はともすれば消えてしまいそうに見える。

 

――おまえに頼む筋じゃないのは分かってる。でも、俺がいなくなった後、実琴を頼む。

 

ちょうど、昨日の今頃。

親父が最後に俺に告げた言葉だ。

 

――おまえにも、おまえの母さんにも不誠実だったのはすまないと思っている。でも、おまえが居てくれて良かったって思っているのも本当だからな。実琴を恨まないでやってくれ。

――言われなくても、恨んだことなんかねぇよ。……本当に一度だってない。

 

ごく普通の仲だと思っていた両親に離婚話が出て、その理由を知ったときは、母さんや俺の立場って、親父にとって一体何だったのかとは思った。

けど、実琴さんは凄く良い人で恨むなんて出来っこなかった。

 

――止めて下さい、頼むから! 離婚で先輩がいなくなって、さらに母親までってなったら、お子さんどうすんですか!?

 

離婚話のいざこざで、取り乱した母さんは刃物を持ちだして、実琴さんの顔に傷をつけた。

普段はほとんど髪で隠れはするけど、今も傷痕はハッキリと残っている。

医者に事実を言って、診断書を出して貰い、ここぞとばかりに離婚の交渉材料の一つにしようとした親父を必死で止めていたのは、怪我をさせられた当の実琴さんだった。

かばったのは、もしかしたら贖罪のつもりだったのかも知れない。

けど、それで激昂していた親父が大人しく実琴さんの言うことを聞いた時、この人相手なら仕方ないって思えた。

 

――謝らなきゃならないのはこっちの方だ。お父さん取り上げてごめんな。でも、俺は……あの人じゃなきゃダメなんだ。

 

母さんの件を謝った時の俺に実琴さんはそう言って。

 

――本当に悪いと思っている。でも、俺は実琴じゃなきゃダメなんだ。あいつじゃなきゃ意味が無い。

 

離婚が決まった時の親父はそう言った。

そして、そんな二人の仲の良さはついに親父が死ぬまで変わらなかった。

二人で寄り添い合って生きていたのを知っているだけに、親父がいなくなったことで実琴さんがどうなってしまうのかが、本当に怖い。

血は繋がってないし、俺には妻子もいるから天涯孤独ってわけじゃないけど、たった一人の『義兄』だ。

立て続けに身内を失いたくなんてない。

親父の枕元にいるはずの実琴さんのところに向かうと、やっぱり実琴さんは親父の手を握ったまま、其処に座っていた。

その背中が妙に小さく見えて、不安感が胸を締め付ける。

 

「実琴さん」

 

振り向いた実琴さんは、穏やかな顔で微かに笑った。

実琴さんの右隣に腰を下ろして、ちらりと表情を窺う。

憔悴しているのがありありと分かってしまうのが痛々しい。

薄くなってきた髪の隙間から見える古い傷痕も、一層悲愴さを増している一因かもしれない。

 

「交代する。ここは俺がいるから少しは寝ろよ」

「いい。どうせ眠れねぇから。……少しでも長く傍にいたい」

 

親父の手は離さないままに、実琴さんが静かな、けど有無を言わせない口調で告げる。

だから、俺もそれ以上は寝ることを勧めなかった。

 

「そっか、わかった。……俺もいていい?」

「ああ。…………ごめんな」

「うん?」

「おまえだって、しんどいのにな。気遣わせちまってる」

「俺は大丈夫だよ。覚悟してたし、親父と話も出来てたし。どっちかっていうと、実琴さんの方が心配」

 

それは偽りのない本音だった。

今の実琴さんを一人にしておきたくない。

 

「……悪かったな、頼りない義兄で。…………政弥」

「何」

「俺が死んだら、俺の骨だけじゃなく、二人分の指輪も政行さんと一緒にしてくれ」

 

一瞬、しん、と辺りの音が何も聞こえなくなった。

義兄と言っても、実琴さんは親父と一つしか違わないし、持病もあるから、多分それはそんな遠い話ではないんだろうけど、親父がいなくなって直ぐ、考えたいことじゃなかった。

 

「…………今する話かよ」

「俺だって、いつどうなったっておかしくないからな。言えるうちに言っておきたい」

 

実琴さんは相変わらず親父の手を握ったまま、真剣な目をしていた。

今、実琴さんの右手は親父の左手を握っていて、左手の薬指には、二人分の指輪が嵌められている。

 

――俺が向こうで耐えられなくなったら、連れていく。それまで頼んだ。

 

出来ればその日はもうしばらく先であって欲しい。

あって欲しいけど、ここで頼みをきけないなんて突っぱねることも出来ない。

それこそ、親父にはっ倒されそうだ。

結局、俺に出来たのは了承したと頷くだけだった。

 

「……覚えとく」

「ありがとう」

 

そこで会話が途切れて、ただ黙って時が過ぎていくのを待つ。

ふと窓の外を見れば、夜明けの空が綺麗なグラデーションを描いていた。

晴れた一日になりそうだと思いながら、心の中でそっと親父に語りかける。

 

親父が実琴さんじゃなきゃダメなのも、実琴さんが親父じゃなきゃダメなのも分かってる。

けど、頼むから、もうしばらくの間は。

 

どうか実琴さんを連れていかないでくれ。

 

 

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