若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。
本編で体調悪かったり、怪我した御子柴は書いたけど、逆ってやってなかったなぁと思ったので、風邪引きな堀先輩をペーパーで書いてみました。
SNSUP時に堀視点も追加。
初出:2015/06/17(イベントから三日遅れでUPしました……)
文字数:4323文字 裏話知りたい場合はこちら。
[御子柴Side]
政行さんと一緒に住んで、共に眠るようになってから数ヶ月。
すっかり腕枕にも慣れたし、ずっと触れ合うように寝ていれば、体温を何となく覚えている。
元々、俺よりは少し高めの体温だけど、昨夜は心持ちいつもより熱く感じたから、少し嫌な予感はしてた。
ここ数日で急に寒くなったし、政行さんは忙しそうだったしで、疲れた顔も見せていたからだ。
何となく、夕飯に消化の良さそうなメニューを選んで作っていたら、政行さんが帰って来た。
アルコールの匂いはしないのに、頬が赤みを帯びている気がする。
「お帰り」
「おう……ただいま」
「ん……っ」
いつものようにお帰りのキスをしたところで、政行さんの唇が熱く腫れぼったい状態なのに気付いた。
唇を離した後は、政行さんが俺の身体に抱き付いてきた。いや、寄りかかってきたというのが正解か。
昨夜や朝よりも、ずっと政行さんが熱い。明らかに熱がある。
「……今日は早めにベッド行って寝ろよ、政行さん。夕飯食えるか?」
「あー……少しなら。あんま食欲ねぇから。単に風邪だと思うけど……悪ぃ」
「それはいいから。とっととパジャマに着替えて来いよ。その間に飯用意しとくから」
「ああ」
俺から離れた政行さんが寝室に向かう。
しんどいのか、動作が何となくいつもに比べて緩慢だ。
飯の用意終わったら、冷却ジェルシートも出しとくか。まだ数枚あったはずだ。
あと風邪薬も。
……そういや、こんな風に政行さんが体調崩すのって珍しいな。
昔付き合っていた期間を含めても、ほとんど覚えがない。
結構、頑丈に出来てるんだよな、あの人。
だったら、それだけに心細かったりするのかも知れない。
部屋の向こうから聞こえた咳に、今日はちょっと甘やかしてやるかと思いながら、飯の用意に戻った。
***
「寒……」
夕飯食い終わった後、政行さんがベッドに入ったが寒気が酷いらしい。
冷却ジェルシートは額にだけ貼っておいて、ベッドに毛布を追加した。
枕元にビタミンC入りのスポーツドリンクを置いてから、俺もベッドに入って、政行さんの身体を抱き締めた。
抱いている身体は相変わらず熱い。
さっき、夕飯食う前に熱計ったときには38℃くらいだったけど、もしかしたら少し上がってるんじゃねぇだろうか。
抱き締めている腕に力を入れると、政行さんの方もよりくっついてきた。
少し咳き込んだところで背を撫でると、政行さんの腕も俺の背に回される。
……これ、どう考えても風邪うつるフラグだよなぁ。
いや、だからと言って身体を離そうってわけじゃねぇけど。
政行さんも近寄るなとは言わねぇし、傍に居て欲しいみたいだから。
――なぁ、他に何か欲しいものあるか? コンビニで買えそうなものなら、今行って買ってくるけど。
――いや、いらねぇ。いらねぇけど、おまえに身体抱いてて欲しい。今、凄ぇ寒いから。
そんなついさっき交わしたやりとりの時の政行さんは、あまり見た覚えがない表情をしていた。
スポーツドリンクを取りに一度キッチンに戻ろうとした時も、行かないで欲しいって感じで俺の服を引っ張ってきたし。
やっぱり、病気の時は心細くなるもんだよなぁ。
こんな一面が見られたことが嬉しいような、切ないような。
大事な相手がしんどそうにしているところを見るのは、ちょっとこっちもしんどい。
が、ふと漫画やゲームでよく風邪を引いたときの王道パターンみたいなのを思い出して、政行さんに訊いてみた。
「……なぁ。こういう時ってさ」
「ん?」
「風邪をうつしたくないから出来るだけ離れとけって言うのが基本なんじゃねぇの? いや、別に離れるつもりねぇし、うつしてくれていいんだけどさ」
「……そりゃ、離れとけって言い分も分かるけどな。正直、一緒に住んでる時点でうつるのなんか、当たり前みてぇなもんだろ。だったら、俺は傍に居て欲しい。おまえ、温かくて気持ち良いしな」
「ああ……まぁ、それもそうか」
空気感染で一緒に住んでいる相手に、ましてや同じベッドで寝ている状態でうつらないようにするのは、確かに至難の業だろう。
漫画やゲームだと、風邪をうつしたくないから、なるべく近寄るなって相手に言ってるのに対して、うつした方が治りが早いからうつせばいいって返していたりするのをよく見る気はするけど、結果としちゃ同じ事だ。
単純に政行さんが体調悪くて心細いってのもあるかも知れねぇけども。
「おまえにうつった頃にはこっちは治ってる頃合いだろうから、ちゃんと看病してやるよ。抗体ついてるしな」
「……じゃ、それ期待しとく。政行さん」
「ん?」
「…………早く良くなってくれよな。俺も何か落ち着かねぇ」
どうにも調子が狂う。
仕事の繁忙期じゃないってのもあるから、どうせならとっととこっちに風邪をうつしてくれって心境だ。
「じゃ、うつしやすいようにこうしとくか」
「ん……」
政行さんが寄せて来た唇には、素直に目を閉じて受け入れる。
腫れぼったい唇を舌でこじ開けて、口の中を撫で回すと微かに笑ったのが聞こえた。
[堀Side]
多分、転職後の会社で、初めてそこそこ責任のある仕事を任されたプレッシャーと、仕事に伴う忙しさ、さらに季節の変わり目っていう組み合わせが身体に堪えたんだろうとは思う。
昨夜辺りから調子悪ぃなとは感じていたから、今日はなるべく早めに休むつもりで、仕事もさっさと切り上げて帰宅していたが、電車の中で突っ立っているのがしんどい。
運が良ければ途中で席に座れる路線だが、こういう時に限って席の空きはない。
しかも、数ヶ月前から実琴のマンションで一緒に暮らすようになったが、あのマンションは階数が低いせいでエレベーターがない。
やっぱり、次引っ越す時は絶対エレベーターがあるマンションを選びたいところだ。
駅からマンションまでが近いのはまだ助かるんだけどな。
「風邪薬……何か家にあるよな、多分」
マンションと反対方向にドラッグストアはあるけど、そこまで歩いて行く余裕は今の俺にはない。
実琴が風邪薬の類を持っていてくれることに期待しつつ、電車から降り、どうにか残り少ない気力を振り絞って、マンションまでの道を歩く。
いつもより長く感じる部屋までの階段を登り切って、玄関を開けると夕食の匂いと一緒に実琴が出迎えてくれた。
……くそ、いつもなら食欲をそそるのに、今日はさっぱりだ。
「お帰り」
「おう……ただいま」
「ん……っ」
実琴にキスをした後は、そのまま凭れ掛かる。
実琴の方でも予想はしていたのか、結構体重預けた形になったけど、こっちの身体をちゃんと支えてくれた。
首筋に触れた実琴の指が少しひんやりとして気持ち良い。
「……今日は早めにベッド行って寝ろよ、政行さん。夕飯食えるか?」
「あー……少しなら。あんま食欲ねぇから。単に風邪だと思うけど……悪ぃ」
多分、俺の体調が悪いことを考慮してのメニューらしく、あまりくどい匂いはしないけど、いつもの量を食える気はしなかった。
昼もそういや、ほとんど食ってないんだよな。
「それはいいから。とっととパジャマに着替えて来いよ。その間に飯用意しとくから」
「ああ」
何とか実琴から離れて、重い足を引きずりつつ寝室に向かう。
このまま寝ちまいたいところだが、それを実行したら明日もっと酷いことになるだろうし、実琴もさせないだろう。
一人じゃないっていうのは、こういう時につくづく有り難い。
前にこんな体調の崩し方をしたのがいつだったか、すぐには思い出せない程度には丈夫だしな。
スーツを脱いで、パジャマに着替えていると咳も出始めてきた。
明日、会社行けるかなと思いながら、実琴が待つリビングへと戻った。
***
夕食を食い終わった後、さらに身体がしんどくなったから、早々とベッドに潜り込んだ。
「なぁ、他に何か欲しいものあるか? コンビニで買えそうなものなら、今行って買ってくるけど」
案の定、実琴は風邪薬を持っていたし、冷却ジェルシートも用意してあった。
水分補給にとスポーツドリンクも帰りがけに買ってあったらしく、欲しいと思えるようなものは他にない。
あえていうなら、実琴に傍に居て欲しいってくらいだ。
さっき、スポーツドリンクだけ持ってくるのを忘れたっつって、キッチンに戻ろうとした時にも、つい反射的に実琴を引き止めちまった。
自分でも思っている以上に弱ってるのかも知れない。
「いや、いらねぇ。いらねぇけど、おまえに身体抱いてて欲しい。今、凄ぇ寒いから」
「分かった。ちょっと待ってな。今、毛布も追加するから」
「ん……」
実琴が枕元のサイドテーブルにスポーツドリンクを置いた後、布団の上から毛布を掛けてくれ、ベッドに入ってきた。
布団がめくれて、少し冷えた外気が入って来る。
「寒……」
つい口に出してしまったからか、実琴が俺の身体を引き寄せるように抱き締めてくれた。
こっちからも実琴にもっと寄り添ったところで、少し咳き込んでしまったが、それで背を撫でてくれて少し楽になった。
俺も実琴の背に腕を回し、足も絡める。
やっぱりこうしてくっついてると安心するよなぁ。
「……なぁ。こういう時ってさ」
「ん?」
実琴の体温でうとうとしかけたところで聞こえた声に、目を開けると実琴が少し困惑気味の表情をしていた。
「風邪をうつしたくないから出来るだけ離れとけって言うのが基本なんじゃねぇの? いや、別に離れるつもりねぇし、うつしてくれていいんだけどさ」
「……そりゃ、離れとけって言い分も分かるけどな。正直、一緒に住んでる時点でうつるのなんか、当たり前みてぇなもんだろ。だったら、俺は傍に居て欲しい。おまえ、温かくて気持ち良いしな」
「ああ……まぁ、それもそうか」
ただでさえ、同じ家に住んでいる時点でもうつりやすいのに、同じベッドで寝ていたんじゃうつすなって方が無理がある。
だったら、うつすの覚悟で寄り添っていたい。
それに。
「おまえにうつった頃にはこっちは治ってる頃合いだろうから、ちゃんと看病してやるよ。抗体ついてるしな」
今度は俺が実琴を看てやれる。
二人でいるってのはそういうことだ。
「……じゃ、それ期待しとく。政行さん」
「ん?」
「…………早く良くなってくれよな。俺も何か落ち着かねぇ」
どうやら、困惑気味の表情はそんなところからも来ていたらしい。
俺、滅多にこんな風に体調崩さねぇもんな。
可愛いな、こいつ。
「じゃ、うつしやすいようにこうしとくか」
「ん……」
キスしようと顔を近づけたら、実琴が自然な動作で目を閉じる。
素直でたまんねぇよなぁ、こういうとこ。
さらに、実琴の側から舌を入れてきて、風邪でしんどくなけりゃ、このままセックスすんのになと勿体なく思いながら、俺も舌を動かした。
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