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笹舟が行き着く先&愛は言葉と態度の両方で示せ<月刊少女野崎くん・堀みこ>

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若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。

本編終了後から数年、七夕にちなんだ話。

2015/07/03のワンライで書いた話です。タイトル二つ利用。

ワンライ後に御子柴視点追加。

初出:2015/07/03 

文字数:6419文字 裏話知りたい場合はこちら

 

[堀Side]

 

「あー、そういえば、もうすぐ七夕なんだな」

 

せっかくの週末だし、今日の夕飯は外で食おうと、会社帰りに実琴と待ち合わせて、二人でビルの屋上にあるビアガーデンまで来ていた。

そこに飾ってあった笹に幾つもの短冊や七夕飾りが吊されている。

幾つかの短冊は、幼い子どもが書いた物だろうという字で願い事が書かれていて、ふと政弥の小さい時を思い出した。

 

「そういや、政弥が小さい時は家でも七夕やって飾ってたな。小っちゃい笹だったけど、結構楽しみだったみたいで、何だかんだであいつが中学校入るくらいまではやってた」

「へぇ! 俺、学校行事以外でやったことねぇよ、七夕。家でもやったりするのって、ゲームの中の話かと思ってた。政弥、どんな願い事書いたりしてたんだ?」

「ガキの願い事だからなぁ。何のおもちゃが欲しい、とかそんなんばっかだった気がする」

 

ビールを飲みながら、風にそよいでいる笹の葉や短冊を見てると、懐かしい気分になる。

 

「あれ、短冊とかは普通に捨てるのか? 何となく気が引けそうだけど」

「うちは写真撮った後は神社で炊きあげ頼んでたな。で、笹は可燃ゴミ。ああ、でも俺が小さい時は親の田舎行って、笹の葉で舟作って川に流すっていうのもやった気がする」

「笹の葉で舟なんて作れるんだ」

「それもやったことねぇのか、おまえ」

 

一緒に暮らし始めて気付いたが、実琴は実生活で季節のイベントをやった経験は少ないらしい。

クリスマスや正月、誕生日くらいはやっていたみたいだが、こどもの日なんかだと、ほとんどイベントらしいことはやらなかったと聞いた。

多分、実琴の親御さんが二人とも働いていて忙しかったからなんだろうけども。

そのせいなのか、実琴は時々ゲームだけじゃなく、実際にイベントを色々やる家もあるんだなと、どこか羨むような感じで言うことがあった。

もしかしたら、そんなイベントごとに憧れもあるのかも知れない。

 

「……ここのビルの花屋、遅くまでやってたよな。ちょっと帰りに寄るか」

「ん? 花屋で何買うんだ」

「笹」

「え!?」

 

***

 

「……まさか、この歳になって七夕やるとは思わなかったぜ、俺。おっさん二人で七夕飾り作るとか予想外だ」

 

夕飯をビアガーデンで済ませた後、ビル内の花屋と文房具屋に寄って、笹と飾り付けや短冊に使う折り紙を買って帰ってきた。

マンションの狭いベランダでも置けるくらいの小さい笹だが、これまで笹に触ったこともほとんどないという実琴は、時々珍しそうに笹に触っている。

 

「偶にはいいだろ。マンションの外からベランダの笹が見えたとこで、誰が飾ってるかなんて分かんねぇんだし。おまえ、作る飾りの色合い良いな。流石、デザイナー」

「そ、そうか!? そう言われると何か嬉しいな」

 

おっさん二人が、と口では言いつつも、実琴はずっと笑みを浮かべながら作業していた。

飾りを作っている時も、短冊に願いを書いている時も楽しげだ。

本人にははしゃいでる自覚がなさそうだけど、可愛いよなぁ、こういうところ。

笹の大きさに見合うだけの飾りや短冊を作って、一通り括り付けると、倒れたりしないように気をつけながらベランダに置く。

今日は晴れているから、星も結構出ていて、中々良い感じに絵になっていた。

実琴がその状態をスマホで写すと、何やらメッセージを打っている。

 

「何だ、誰かに送るのか?」

「ああ。鹿島や野崎たちのとこや、政弥に。よし、送信……っと。あ、あと笹の舟ってどう作るんだ?」

「ああ。ちょっと葉っぱ一枚取るな。こうやって、折って、切れ込み二箇所入れるだろ? で、ここの部分にこっちの端っこを通して……」

「お」

 

実琴に見せながら、葉っぱの片方の縁をくるりと纏める。

その状態で実琴に笹の葉を手渡した。

 

「ほれ。もう一方も同じ要領だから、おまえやってみろ」

「ああ。……っと、こう、だったよな」

「そうそう、葉を破かねぇよう気をつけろよ」

 

しかし、意外に覚えてたもんだな。

俺だって笹舟なんて作ったのは、相当昔だったんだが。

 

「お、出来た! なるほど、舟っぽいな。ちょっとしたものなら乗りそうだ」

「見た目は乗りそうに見えても、何か乗せたらすぐ沈むぞ、多分。ただでさえ、そんなに長くは浮かばねぇから」

「へぇ、後で風呂に浮かべてみてもいいか?」

「好きにしろ」

 

やっぱり、はしゃいでんなぁ、こいつ。

俺としても、こんな風に実琴が喜んでいるところをみられるのは、悪い気はしない。

笹買って来て正解だったな、なんて思っていたら、俺のスマホの方に政弥から電話が掛かってきた。

さっき、実琴が送った画像についての反応だろうかと、そのまま電話に出る。

 

「何だ」

「ずるい! 俺も短冊に願い事書いて飾りたい!」

「おまえ……」

 

挨拶もそっちのけにいきなりそれだ。

一瞬、おまえ幾つだと問い返しそうになったが、自分たちこそそれを言える歳じゃなかったことに気付いて、言葉を飲み込む。

 

「明日、土曜日なんだからうち来りゃいいだろ。短冊でも飾りでも好きにつけて構わねぇから」

「そうする! 俺飾る分のスペース空けといて! じゃ、明日」

「ああ、おやすみ」

 

電話を切ると、実琴が今の政弥か?と問いかけてきたから頷く。

 

「明日来るとさ。あいつも飾りたいって」

「あ、なるほど。考えてみりゃやりたくなるよな。昔やってたってんならなおさら」

「まぁ、短冊に願い事書くのは、楽しかった覚えあるしな、俺も。……大人になってからは、実際に書かないまでも、何となく笹を飾った時に願い事はしてたし」

 

指先でさっき書いた短冊を弄びながら、かつて、ひっそりと家族でやっていた七夕の度に願っていたことを思い出した。

 

「へぇ、どんな願い事してたんだよ?」

「もう一度、おまえに会えますように、ってな。流石に短冊には書けやしなかったけど」

「え……」

 

驚きで表情の固まった実琴を、そのまま抱き寄せる。

当時は短冊に書くわけにも口に出すわけにもいかなかった願い事だが、もし、願い事が本当に叶うならと何処かで思ってしまっていたのは事実だ。

 

「ま、何だかんだで願いが叶ったんだから、バカに出来ねぇよな、七夕の願い事って」

「…………狡ぃな、政行さん。そんな風に言われたら、俺返す言葉ねぇよ」

「別に言葉で返さなくても構わねぇよ。……おまえ分かりやすいから」

 

特にベッドの上じゃな、と付け加えると、夜目にも実琴の顔が赤くなったのがわかる。

こいつの場合、返す言葉がねぇ、なんて言っても、最中にぼろっと出て来ることも多い。

快感に溺れて、俺に夢中で縋り始める位になったら、態度でも言葉でもこれ以上はないって程に分かりやすく伝わる。

 

「……ここベランダだぞ。余所の家に聞こえたらどうすんだよ」

 

ぼやきながらも、実琴だって俺の身体に腕を回したまま、外そうとはしない。

 

「だったら、聞こえないように部屋に戻ろうぜ。風呂は後でもいいよな?」

「…………ああ」

 

寝室に誘うと素直に頷いたから、部屋に入る前に軽くキスして、明日政弥が家に来るまでは楽しむことに決めた。

 

[御子柴Side]

 

「あー、そういえば、もうすぐ七夕なんだな」

 

ボーナスも出たし、週末だしと、今日は政行さんと待ち合わせて、ビアガーデンで夕飯を食っていた。

席の直ぐ近くで揺れていた笹の葉に、小学校の頃に学校でやった七夕を思い出す。

飾っていくことで、少しずつ華やかになる笹の葉は見ていて楽しかった。

 

「そういや、政弥が小さい時は家でも七夕やって飾ってたな。小っちゃい笹だったけど、結構楽しみだったみたいで、何だかんだであいつが中学校入るくらいまではやってた」

「へぇ! 俺、学校行事以外でやったことねぇよ、七夕。家でもやったりするのって、ゲームの中の話かと思ってた。政弥、どんな願い事書いたりしてたんだ?」

 

話を聞く限りでは、結構、政行さんの実家が色んなイベントごとをこなすタイプだったらしく、その影響で結婚していた時の政行さんも色々とやっていたらしい。

それを取り上げてしまったのは自分だという申し訳なさはあったが、俺の家の方は、逆にそういうイベントごとをあまりやってこなかったっていうのもあって、政行さんの話は新鮮味もあって面白い。

違う環境で育ってきた人間が一緒に過ごしていくって、こういうことなんだよなぁって、しみじみと感じる。

 

「ガキの願い事だからなぁ。何のおもちゃが欲しい、とかそんなんばっかだった気がする」

 

それに、政弥の話でこうやって顔を綻ばせる政行さんを見るのは結構好きだ。

やっぱり、優しい表情してんだよなぁ、こういう時。

政行さん本人が気付いているのかどうかまでは分からねぇけども。

 

「あれ、短冊とかは普通に捨てるのか? 何となく気が引けそうだけど」

「うちは写真撮った後は神社で炊きあげ頼んでたな。で、笹は可燃ゴミ。ああ、でも俺が小さい時は親の田舎行って、笹の葉で舟作って川に流すっていうのもやった気がする」

「笹の葉で舟なんて作れるんだ」

「それもやったことねぇのか、おまえ」

 

うちは親父もお袋も地元で、田舎と言えるような場所はないから、余計にその手の経験が少ないのかも知れない。

実際は、ゲームみたいなイベントがあれこれあるわけじゃないっていうのは、それこそ高校時代とかでも、意外に祭りで浴衣を着ることって少ないとか、そんな辺りで分かってはいたけども、家によってはやってたんだなと、ちょっとだけ羨ましくもある。

余所は余所ってわかっちゃいるし、今更改めてどうこうってわけでもねぇんだけど。

 

「……ここのビルの花屋、遅くまでやってたよな。ちょっと帰りに寄るか」

「ん? 花屋で何買うんだ」

 

男二人暮らしだってのもあって、イマイチ面倒を見切れないから、俺たちの家に花は飾ったりしていない。

花を見る分には単純に好きだけど、綺麗に状態を保ってやるだけの手間は掛けてやれないから、花は買わないし、自然と花屋に用事が出来ることもない。

だから、疑問に思って尋ねたけど、政行さんからは即返事が来た。

 

「笹」

「え!?」

 

***

 

「……まさか、この歳になって七夕やるとは思わなかったぜ、俺。おっさん二人で七夕飾り作るとか予想外だ」

 

結局、ビアガーデンで夕飯を食った後、まだ開いていたビル内の花屋と文房具屋で、笹、そして飾り付けや短冊に使う折り紙を買って帰ってきた。

マンションのベランダでも置けるような、小さい笹のサイズがあったことにまず正直驚いたし、学校の行事でも笹に触ったこともほとんどなかったから、つい飾りや短冊を作りながら、笹に触ってしまう。

艶々とした緑の葉に、これで舟も作れるんだなと妙な感心をする。

 

「偶にはいいだろ。マンションの外からベランダの笹が見えたとこで、誰が飾ってるかなんて分かんねぇんだし。おまえ、作る飾りの色合い良いな。流石、デザイナー」

「そ、そうか!? そう言われると何か嬉しいな」

 

飾りはタブレットで検索して作ってはいたけど、特に色は意識してなかった。

それでも、そんな風に褒められるのは嬉しい。

笹が折れないくらいの量の飾りや短冊が出来て、それぞれ糸を通しつつ、吊していく。

一通り、飾り終わったところでベランダに出して、風で倒れたりしないよう支えて置くと、小さいながらも中々良い感じに出来ていた。

今夜は星も結構出てるし、空と一緒に写したら綺麗だろうと、スマホを取り出して数点写してみた。

その中で特に綺麗に写っていた画像を選んで、仲のいいやつらに自慢する意味も含めて送ることにする。

 

「何だ、誰かに送るのか?」

「ああ。鹿島や野崎たちのとこや、政弥に。よし、送信……っと」

 

送りたいところに送った直後に、そういえばと思い出す。

 

「あ、あと笹の舟ってどう作るんだ?」

「ああ。ちょっと葉っぱ一枚取るな」

 

政行さんが飾りをつけていない部分の葉っぱを一枚取って、葉っぱの端っこを折った。

 

「こうやって、折って、切れ込み二箇所入れるだろ? で、ここの部分にこっちの端っこを通して……」

「お」

 

切れ込みを入れた部分を使って、上手く葉っぱの縁がくるっと盛り上がった。

なるほど、こうやって作るのか。

俺も葉っぱを一枚取ろうかと思ったら、政行さんがその作りかけの葉っぱを渡してくれた。

 

「ほれ。もう一方も同じ要領だから、おまえやってみろ」

「ああ。……っと、こう、だったよな」

「そうそう、葉を破かねぇよう気をつけろよ」

「お、出来た! なるほど、舟っぽいな。ちょっとしたものなら乗りそうだ」

 

爪楊枝とかなら、乗るんじゃねぇかなと思ったけど、政行さんが苦笑いしながら首を振った。

 

「見た目は乗りそうに見えても、何か乗せたらすぐ沈むぞ、多分。ただでさえ、そんなに長くは浮かばねぇから」

「へぇ、後で風呂に浮かべてみてもいいか?」

「好きにしろ」

 

そんなに長く浮かばないってのは残念な気はするけど、それならどれだけ浮かんでいるか試してみたい。

出来た笹舟を壊さないように気をつけながら、指先で弄っていると、政行さんのスマホに電話が掛かってきた。

着信音からすると政弥のはずだ。

さっき、送った画像の話かな。

俺の方には短くメッセージだけで『いいなー!』って来てるし。

 

「何だ…………おまえ……」

 

呆れたような表情になった政行さんが、そのまま政弥との会話を続ける。

 

「明日、土曜日なんだからうち来りゃいいだろ。短冊でも飾りでも好きにつけて構わねぇから。………………ああ、おやすみ」

「今の政弥か?」

「明日来るとさ。あいつも飾りたいって」

「あ、なるほど。考えてみりゃやりたくなるよな。昔やってたってんならなおさら」

 

子どもの時はおもちゃが欲しい、みたいなことを書いていたらしいが、今の政弥ならどんな願い事をするんだろうか。

 

「まぁ、短冊に願い事書くのは、楽しかった覚えあるしな、俺も。……大人になってからは、実際に書かないまでも、何となく笹を飾った時に願い事はしてたし」

 

政行さんの口から願い事、なんて聞いたのは少し意外だ。

 

「へぇ、どんな願い事してたんだよ?」

 

願い事の内容によっては、ちょっと茶化してみようかなんて思って、軽い気持ちで聞いてみたら。

 

「もう一度、おまえに会えますように、ってな。流石に短冊には書けやしなかったけど」

「え……」

 

真剣な目でそんなことを言われて、咄嗟に切り返しが出来なかった。

抱き寄せられても、何て言っていいものか。

微かな間の後、政行さんが小さく笑ったのが聞こえた。

 

「ま、何だかんだで願いが叶ったんだから、バカに出来ねぇよな、七夕の願い事って」

「…………狡ぃな、政行さん。そんな風に言われたら、俺返す言葉ねぇよ」

 

――俺はずっとおまえに会いたかった。あの時――おまえを直ぐに追いかけなかったことは今でも人生で一番後悔している。

 

政行さんと十数年振りに再会した時に言われた言葉が頭をよぎる。

この人がもう一度会いたいと思って、動いてくれたから、今俺たちはこうしてここにいる。

政行さんがただ願うだけでなく、それを叶えようとしてくれた結果だ。

…………敵わねぇよなぁ、こういうところ。

 

「別に言葉で返さなくても構わねぇよ。……おまえ分かりやすいから。特にベッドの上じゃな」

「…………っ」

 

そして、ようやく政行さんが本当の意味で手に入ったことが嬉しくて、顔や態度に出している自覚は確かにある。

触れる熱も、色気を含んだ低い囁きも、同じ香水と煙草のせいで心地良く感じる匂いも、全部愛しい。

……ああ、もう。

そんなこと考え始めると、つい身体の芯まで熱くなってきちまう。

 

「……ここベランダだぞ。余所の家に聞こえたらどうすんだよ」

「だったら、聞こえないように部屋に戻ろうぜ。風呂は後でもいいよな?」

「…………ああ」

 

言葉に含めた意味は聞き返すまでもない。

軽く交わしたキスもさらに煽るだけだ。

今夜は禄に寝かせて貰えなさそうな予感に覚悟を決めながら、部屋に戻った。

 

 

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