若い時に付き合っていて、堀先輩の結婚を機に別れたけど、十数年ぶりに久々に再会したという流れの堀みこ。
本編終了後、分譲マンションを購入して引っ越す際に見つけた浪漫学園の制服でコスプレしようとしたけど……な話。
初出:2015/08/15(より数日後のはず)
文字数:1328文字 裏話知りたい場合はこちら。
「流石にこの歳で制服着るとは思わなかったぜ……」
政行さんと一緒に暮らし始めてから、数年。
今後のことも考えて、終の棲家にするつもりで分譲マンションを購入した。
引っ越し作業の際に高校時代の制服を見つけたら、政行さんが久し振りに制服を着てやろうなんて、言いだしたのだ。
政行さんも自分の制服を引っ張り出して来て、新居に引っ越し早々、荷物もまともに解かないうちに、まずすることがコスプレ。
いい大人がこういうのもどうなんだか。
サイズとしてはスラックスが心持ちキツいくらいで、着られないわけでもねぇけど。
あんまり体型変わってないつもりでいたけど、やっぱりちょっと腹の辺りに肉ついたって実感させられるのが切ない。
「これ以上歳取ったら、それこそ見苦しくなるだろ。お互いもう四十過ぎなんだし」
「見苦しいって思うならやめとこうぜ、政行さん」
「あー、言い方悪かったな。おまえがって意味じゃねぇよ。どっちかっていうと俺だ。まぁ、ここら辺は確かにちょっと見苦しいけど」
スラックスの上にちょっと乗っかった肉を、Tシャツごしにむにっと掴まれる。
くそ、自分が腹にほとんど肉ついてないからって、この人は!
「……まぁ、政弥が少し前まで制服姿着てたから、ついそれと比べるとな」
ちょっとした仕返しのつもりでそう言い返したら、俺の腹を摘まんでいた指が、そのまま俺の頬に移動して、頬を引っ張ってきた。
「言ってくれるなぁ、おい」
「自分から言い出してきたんじゃねぇかよ!」
ふざけてだってのは分かってるけど、意外に力入れてて少し痛い。
外してくれって意味でぽんぽんと政行さんの手を叩くと、政行さんが最後にもう一度強めに引っ張ってから、指を離した。
「って!」
「あ、悪い。ちょっと跡残った」
「跡残すぐらい引っ張んなよ! 若い時みたいにすぐ消えてくれねぇんだから」
ゴールデンウィーク使っての引っ越しで、数日会社に行かないからいいようなものの、これで会社に行ってたら事情を知っている辺りに冷やかされるのは間違いねぇってのに。
「じゃ、目立たねぇようにいっそもっとつけるか?」
「余計目立つだろ! 引っ越し早々、噂になるぞ。……何だよ、政弥の名前出しただけで拗ねるなよ。ちょっと前まで現役高校生だった上に、政行さんとそっくりなんだから、思い出しても仕方ねぇだろ」
「んなの、分かってるっての。ちょっと面白くなかっただけだ」
「それを拗ねてるっていうんじゃねぇか。……っとにもう」
どうやら、こっちが想像していた以上に機嫌を損ねていたみたいだ。
あー……そういえば、浪漫学園は制服の組み合わせが比較的自由だから、たまに昔の政行さんと同じような格好して家に来ることあったけど、面白くなさそうな顔してたっけ。
いくらそっくりでも、政行さんと政弥は違うのになぁ。
政行さんの肩に腕を回して、ぎゅっと抱き締めると、政行さんの腕も俺の背中に回された。
「……やっぱ、脱がしていいか、これ。何か気が削がれた」
「好きにしろよ。……どうせ、ずっと一緒にいるんだし、多少見苦しくなったって、他に誰が見るわけでもねぇもんな」
別の機会は幾らでもあるってことを言葉に含めると、小さな笑い声が聞こえる。
さっき頬を抓った指が今度はごく優しく触れてきて、キスを交わした。
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