2015/03/07のワンライから『先輩を思うから俺はこうする』。
ちょっと普段よりも見切り発車で書いちゃったので短い。
『Immorality of target 06』後半部分の原型になります。
初出:2015/03/07
文字数:1022文字
「ダメなのかよ」
「ダメです。……奥さんに見つかったら、間違いなく言及されるじゃないっすか」
先輩に俺の自宅は教えたものの、流石に自宅の合鍵なんて奥さんに見つかったらただ事じゃ済まないだろう。
だから、合鍵を渡せないと言ったら先輩は不服そうだった。
「俺と一緒に来るとか、俺が家にいるときに来る分にはいつ来てくれたって構いませんけど、合鍵は流石にヤバいって。……先輩なら分かってねぇはずないでしょうに」
俺だって、渡せるものなら渡してしまいたい。
つい、先輩と再会後、衝動的に作ってしまった合鍵も本当は持っている。
だけど、他人の家の鍵なんて、それこそ見つかった時に言い訳のしようがない。
今はお互いの家の合鍵を気軽に交換してたあの頃と違う。
それを言ったら、俺は先輩の家の合鍵どころか、下手に家に行くわけにも行かねぇんだし。
いや、多分高校時代の後輩としてなら、家を訪れるくらいは出来るだろうけど、俺が冷静にやり過ごせる自信がない。
余計なことばかり考えちまいそうでダメだ。
「……分かってる」
「じゃあ」
「分かってるけど、分かりたくねぇ」
そうぼそりと呟きながら、先輩が俺の肩にもたれかかる。
きっと、顔を見られたくないんだろうとは思ったから、預けられた頭をそっと撫でるだけにした。
先輩が使っているワックスの香りがほんのり漂う。
セックスした後、汗や激しい動きでセットした髪が崩れるからって、持ち歩いているワックスは、さっきも軽く付け直していたところだ。
「…………俺だって支障なければ、渡したいんすからね」
「悪い、俺の所為なんだよな。……なぁ、御子柴」
「ん?」
「おまえ使ってる香水教えろ。俺も使う」
「……どういう風の吹き回しですか」
先輩と俺は、昔からあまり趣味が合わなくて、服装や持ち物は勿論、日用品に至るまでほとんど被っている物はない。
唯一の共通点は煙草だけだ。
香水なんて、そもそも先輩の趣味からしたら興味がない類のものだったはずなのに。
どうせ、煙草の香りで香水なんかつけていてもほとんど分からない、なんて昔言ってた位だし。
「表向きは加齢臭対策とでも言っておけば、そう不自然でもねぇだろう。……この香り、結構好きなんだよな。自分でもつけてれば、会ってない時でもおまえ思い出せそうだし。そんくらいいいだろ」
移り香を気にすることもなくなるしな、と続けた先輩に、拒む気にもならなかったから、ひっそりと先輩の耳元で香水の銘柄を告げる。
ようやく、先輩がちょっと笑ったのがわかった。